貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第37話:速球破壊姫

 

「やった!勝った!未来(みく)が勝ったよ!津川……!」

「は、はい……!やりました!」

 

 長門先輩がアリアを打ち砕き、アリアと都熾(とし)さんが膝から崩れ落ちた。

 原田先輩ははしゃぎにはしゃいでピョンピョン飛び跳ねながら俺とハイタッチする。

 俺は、原田先輩と何度も手を合わせながら、横目でグラウンドを見た。

 

 アリアと都熾(とし)さん。

 そして、長門先輩。

 敗者と勝者がいる場所を。

 

「……私、勝った。だ、だから……その……」

「……っ!……っ」

 

 アリアの元まで行って、彼女を見下ろす長門先輩。

 対するアリアは、俯きながら長門先輩には顔を見せない形で、目を見開いた。

 長門先輩は、事前に決めた勝利報酬を、対価を権利として求めている。

 アリアはそれを理解したんだ。彼女はプライドが高い。いや……高くあろうとしている。だから、唇を噛み締めてワナワナと震えている。

 それでも。

 

 それでも、アリア・オイゲンは。

 潔い人だと。俺は、彼女が都熾(とし)さんに向ける友愛からなんとなくそう思っている。思っていたいのかもしれない。

 だって、彼女もこれから獅ノ宮(しのみや)の、良い人ばかりいるあの野球部に入ってくる人なのだから。

 彼女も良い人であって欲しい。俺の勝手な願望だ。

 

「……わかった」

「……!」

「アリア……」

 

 アリアが暫く動かなくなった後、ゆっくりと立ち上がった。

 それを長門先輩が目を見開いて視線で追って、都熾(とし)さんがようやく顔を上げて彼女の名を呟いた。

 そして、アリアは俺達の前まで来て、頭を下げる。

 

「フユカ。スズカ。カズヤ。来てない奴も、獅ノ宮を悪く言って……すまなかった」

「……っ!アリア、貴女……」

 

 丁寧に腰を折るアリアに成城先輩が瞠目する。

 そして、グラウンドを見た。

 そこに立つ長門先輩と、立ち上がる都熾(とし)さんを。

 

「……これで、アリアも仲間だね。冬華(ふゆか)

「えぇ。そうね。仲間想いの貴女が想う、新しい仲間よ。未来(みく)

 

 謝罪するアリアの姿を見て、微笑み合う成城先輩と長門先輩。

 そこに動揺しながら成城先輩に、都熾(とし)さんが近寄る。

 

「ね、ねえ……。なんで……?なんで、アリアは打たれたの……?」

都熾(とし)さん……」

 

 無敵だと思っていた親友が、規格外の才能を持っているから離れなければいけないと思っていた幼なじみが、簡単に打たれた。

 都熾(とし)さんは今、これまで強豪達に受けてきた弱いだの下手くそだのという罵詈雑言よりも、ショックを受けている。

 彼女にとって、自分の事よりもアリアに対する自信の方が圧倒的に大きかったんだ。

 だから、勝負の内容にだって、挑発的な態度まで見せてアリアを指名した。

 彼女をこの世の何よりも信じていたから。

 そんな都熾(とし)さんの心境を察する成城先輩は、穏やかな口調と声音で、長門先輩について説明する。

 

「未来は、速球に強いの。それも異常に。アリアの速球は世界記録をも更新したまさに天才の領域だけれど……未来もまた、パワーと速球対応力の天才なのよ」

「……っ!それ、って……」

 

 目を見開く都熾(とし)さん。

 長門先輩を一瞥する。長門先輩は見られて、一瞬ビクッと肩をならした。

 成城先輩が都熾(とし)さんの考てることを頷き肯定することで、正解だと告げる。

 

「そう。長門(ながと) 未来(みく)は、速球破壊姫よ」

「……だから、『戦艦の長門』を連れてきた。最初から、こうなることがわかってて……っ。アリアが、両投で動画よりも速く投げれることも予測してた……。そ、そうなんでしょ?」

「えぇ」

「……っ!?」

 

 自分で考察を口にしつつもまだ信じられない様子の都熾(とし)さんに、成城先輩は敢えて簡単に頷く。

 都熾(とし)さんは衝撃を受け、無意識に後退りするほど慄いた。

 岩手に遠征に来る前からこの展開全てを計算していた『完璧の成城』に。

 原田先輩を連れてきたのは、アリアの球を捕れる人が獅ノ宮にいると証明するため。長門先輩を連れてきたのは、吹っかけられるであろう勝負に勝つ為と獅ノ宮にいるアリア級の天才は『完璧』と『悪魔』だけではないと証明する為。

 全て、全て俺からアリアと鴎坂(かもめざか)のことを聞いた瞬間から、一瞬で頭の中で組み立てた成城先輩の先手打ち。

 展開の先読み能力、そしてそれに対する対応力、全て完璧。

 

 成城(なりしろ) 冬華(ふゆか)獅ノ宮(しのみや)野球部にあり。

 彼女が部長ということが大人がいようと強豪だろうと他校より獅ノ宮が優れている絶対的要因である。

 成城冬華がいる。ただそれだけで全ての説明がつく。

 

「アリアも皆と同じ天才だよね……?アリア、ちゃんとワールドスターになれるよね?皆んなが凄すぎて、霞んだりしないよね?」

「えぇ。大丈夫よ。未来がアリアに特攻性を持っていただけで、両投げで球速の世界記録を持つアリアは充分に私達と同じ領域にいるわ」

「……!そ、そっか……うん。よかった……」

 

 アリアがただ負けただけでなく、完膚無きまでに負けたが故に都熾(とし)さんは不安を抱えた。

 でも、成城先輩が微笑みかけ、安堵の表情を見せた。

 そして、彼女は決心したように顔を上げる。

 

「貴女達が来てくれてよかった。獅ノ宮野球部の皆さん、アリアを見つけてくれてありがとう。どんな強豪校にいるよりも、同じ天才達といることがきっとアリアの為になるって……根拠は無いけど私はそう思う」

 

 都熾(とし)さんは強豪3校よりも獅ノ宮を選んだ。

 アリア・オイゲンを最も愛し、知る彼女が信じることがきっと正解だ。少なくとも、俺達には正解にしなければいけない義務がある。

 

「だから、約束通り、勝負に負けたから……アリアは獅ノ宮(しのみや)に転校する。アリアのこと……よろしくお願いします」

 

 俺達に頭を下げる都熾(とし)さん。

 そんな彼女に成城先輩は告げる。

 

都熾(とし)さん。貴女が勝負の約束を守ってくれたから、私も新しく約束するわ」

「えっ?」

 

 成城先輩の言葉に顔を上げて瞠目する都熾(とし)さん。

 成城先輩は、彼女の眼差しから一切目を逸らさず、誓う。

 

「……必ず、必ず。アリアの夢が叶うよう、このチームを再起させて甲子園で優勝する。そして、アリアを多くの人の目に止まらせるわ。必ず……!」

「……っ。うん……約束だよ。信じてる、成城さん……」

 

 念を込めるように、幾度か重ねてアリアの大成の約束を口にする成城先輩。

 自ら逃げ場を無くすその言動に覚悟を感じ、都熾(とし)さんは目を見開き、涙を拭いながら唇をキュッと締めた。

 そんな都熾(とし)さんに微笑む成城先輩。

 それは会釈になり、すぐに表情を戻した彼女は俺を見た。

 

「それと、アリアを見つけたのは津川くんよ。だから、見つけてくれたことに対する礼は彼に」

「あぁ……そっか。そうだったね」

「えっ!?いや、いいですよ!俺は」

 

 まさか俺に矢先が飛ぶとは思ってなくて、俺は慌てて身振り手振りを加えて遠慮する。

 が、都熾(とし)さんにとって、アリアはこの世で1番大切な人。だからこそ、彼女は俺の前まで来て、俺を真剣な眼差しで見つめた。

 

「津川くん」

「……っ」

 

 この世界に来てから女の子に見つめられる機会は確実に増えた。

 でも、俺がこの世界で出会った女の子は皆、野球というものに真剣で、大切な誰かに真剣で。だから、異性として意識してドギマギするということはなくなった。

 彼女の、都熾(とし)さんの目を見て、俺は彼女と真剣に向き合う。

 

「津川くん。アリアを見つけてくれてありがとう。絶対、アリアを甲子園に連れて行ってね?」

「……はい。信じてください。俺も信じてます、獅ノ宮野球部を。ウチの野球部は凄い人ばっかりなんで……!」

 

 俺の言葉に都熾(とし)さんは目を見開く。

 そして、彼女の視線は成城先輩や原田先輩、長門先輩……最後に、アリアに。

 獅ノ宮野球部のメンバーを見て、彼女は頬を緩めた。

 

「ははっ!そうだね。私もそう思う。……うん。獅ノ宮なら、きっと大丈夫。ここに居たって、アリアの才能は沈むだけ。」

『……!』

 

 獅ノ宮のメンバーを見たあとにこれまでの、自身らと比較する都熾(とし)さん。

 俺たちは目を見開いて、成城先輩だけが彼女に落ち着いて語りかける。

 

「……そのことなのだけれど、都熾(とし)さん。アリア自身は鴎坂(かもめざか)にいることで、自分の才能が沈むとは思ってなかったんじゃないかしら」

「えっ?」

「貴女のSNSで見たわ。8回目の練習試合。延長15回155球。それでもアリアが降板しなかったのは、なぜかしら」

「……?そ、それは記録がかかってたから……」

 

 成城先輩の言葉に首を傾げる都熾(とし)さん。

 彼女には、成城先輩の言いたいことがまだわからないようだ。

 成城先輩はそんな彼女にどうしても伝える必要があると思った為、さらに続ける。

 

「私はピッチャーでもあるから、アリアの気持ちが少しわかると言えると思うの。例えいつも0点に抑えることが出来ていたって、必ず勝てる訳じゃない。私達の仕事は、チームが負けないようにすることであって、勝たせることではないもの」

「……」

「え、えっと、何が言いたいの?」

 

 まだ困惑している都熾(とし)さんが他に理解出来ている人がいないかキョロキョロと周りを見渡す。

 だが、そんなことをしても、答えがあるとすれば顔を逸らし都熾(とし)さんに表情を見せないようにしたアリアくらいだ。

 

「0点に抑えたって勝つ訳じゃない。無理して投げて報われるとは限らない。それでも、私達は投げる。それは……なぜだと思う?」

「そりゃあ……次の回に味方に点が入るかもしれな……い……し。……っ!」

 

 ようやく気づいた。

 彼女は、ハッとアリアを見るが、もうアリアは自分の気持ちが見られないようにしている。

 でも。もう成城先輩が暴露したから時間の問題だ。そして、それはアリアが鴎坂(かもめざか)を旅立つ前に、分かりあってて欲しかった。それが成城先輩の気持ち。

 都熾(とし)さんは、顔を見せてくれないアリアの後ろ姿を目にしながら、想起する。

 

『私を信じろ。私も……何でもない』

 

 8回目の完全試合。

 俺も、SNSの動画で見た。アリアのあの言葉。

 あれは、きっと。アリアが伏せた、アリアの行間に隠された、呑み込んだ言葉は。

 

 きっと。

 

「アリアは、信じていたのよ。抑えさえすれば、皆が、貴女達が勝たせてくれるって。きっと打ってくれるって」

「……っ!……ぁ、……っ!?あ、あぁ……!あ……っ!」

 

 成城先輩がハッキリと口にして都熾(とし)さんが口元を抑えて震える。彼女の頬には涙が伝い、暫くすると鼻をすする音が聞こえた。

 そして、アリアの後ろ姿に、彼女はゆっくりと歩みを寄せていく。

 

「こんなに弱いのに……っ!役に立たないのに……っ!一回も捕れなかったのに!そんな頼りない仲間を、私を……なんで……!アリアぁ……っ!!」

「……っ」

 

 泣きじゃくってアリアに抱きつく都熾(とし)さんに、アリアがようやく反応して、背中に張り付く彼女を見た。

 そして、俯いて色々考えた後、アリアは身体の向きを変えて都熾さんを正面から抱きしめた。

 都熾さんは一瞬顔を上げた後、抱き寄せてくるアリアに身を委ねる。彼女の胸に顔をうずめた。

 

「バカぁ!私達みたいな弱っちぃのなんか信じてぇ……!肩壊れちゃうよぉ……バカぁ……!」

「……うるせぇな。鴎坂(かもめざか)は弱くないんだよ。弱いって言いやがって。許してないからな。甲子園も諦めんなよ」

「ごめぇ~ん……!ごめんねぇ……アリアぁ……!私達が絶対打つって、私達がアリアを勝利投手にするって……責任感じてたのに……っ!気付いてたなんてぇ……!」

「えっ。いや、全然気付いてない。そうだったのか……。でも、お前たちが私を勝たせてくれるっていうのは、ただただ信じてたよ」

「アリアぁ~!」

「あー。うぜえ。泣き虫め!」

 

 アリアが都熾さんの頭をぐちゃぐちゃに撫で回す。

 都熾さんは号泣しながら笑顔も見せた。

 二人は見つめ合う。

 

「アリア……私達頑張るよ。甲子園諦めないよ。もう私みたいな……なんて言わない。鴎坂(かもめざか)が弱いなんて言わない」

「そうか」

「でも、アリアは転校して。アリアなんかいなくたって、私達だけでやれるってとこ見せてやるんだから……っ!」

「……あぁ。その意気だ。頑張れ。私も頑張る。甲子園で会おう」

「うん……っ!」

 

 二人はまた、約束を増やした。

 今度は嘘じゃない。

 叶えようとしてる約束だ。

 

 次に会う時は、甲子園で。

 それは、何もアリアと都熾さんだけの誓いじゃない。

 俺達、獅ノ宮学院高校野球部と鴎坂高校野球部の間でも結ばれている。

 

 こうして、アリア・オイゲンの転校が決まった。

 獅ノ宮野球部、アリア・オイゲン。

 元鴎坂高校野球部。

 彼女が鴎坂に所属していたのには理由がある。

 

 岩手には、東北には沢山の強豪校がある。

 しかし、試験が難しいところが多く、一般入試で入ることはほぼ不可能。故に、球児達は推薦で入学するが、アリアはそれをクリア出来ても都熾(とし)さんは厳しかった。

 だから、アリアは推薦を蹴って鴎坂に入った。

 アリアが才能を無駄にしない為には、もうアリア自身の意思にその才能を委ねないことということを、都熾さんはその時理解したとSNSで独り言のように綴っていた。

 つまり、自分がアリアを突き放さなければならないと。でないと、アリアは都熾さんから離れない。そして、都熾さんの傍にいればアリアの才能は死ぬ。

 そうして、都熾さんは練習試合で連続完全試合を計画するに至った。全ては、アリアの為に、アリアの依存を断ち切る為に。

 

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