貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第38話:思春期女子は思春期男児

 

 岩手遠征の翌週、アリア・オイゲンは獅ノ宮(しのみや)学院高校に転入した。そして、勿論野球部に入部。

 たった今入部届を提出したアリアが職員室から退室して俺はそんな彼女を迎えた。

 放課後に入ってすぐのことだ。彼女は一学年上なので俺は終礼が終わるとすぐに彼女を迎えに行った。

 

「悪いな、カズヤ。何から何まで付き添ってもらって」

「いえ!全然。オイゲンさんに獅ノ宮に来て欲しいと言い出したのは俺なので、これくらいは当然です」

 

 職員室からでてきたアリアが俺に会釈する。俺は笑みを返して首を横に振った。

 あらゆる事務的な手続きから学校内を案内するのも俺が担った。

 でも、全然苦じゃない。アリアが獅ノ宮級の天才、つまり男子野球レベルのプレイヤーなのは成城先輩のお墨付きもあるし間違いない。

 そんな彼女を、都熾さんの計らいがあった上で、ということは忘れてはいけないが、獅ノ宮(ウチ)に引入れることが出来た。

 その嬉しさがあればアリアの為に少し動くくらいへっちゃらだ。

 

「そういえばカズヤ。お前の制服姿見たの初めてだな」

「えっ?あぁ……そうですね。確かに」

 

 言われて初めて気付いた。

 鴎坂に行った時は部活着だったし、確かにアリアの前で制服を着たのは初めてだな。

 でも、なんでそんなこと気にしたんだ?と思ってたらアリアがジロジロと俺の足元から頭までうーん……!と唸りながら見定めた。えっ。何?

 

「ふん。中々似合うな」

「あぁ……ありがとうございます?」

 

 急になんの褒めだ?と思いつつもとりあえず疑問符を浮かべながら軽く頭だけ下げておく。

 アリアはその後も俺の事を品定めするようにジロジロと見る。

 

「カズヤ。お前、野球部の誰と付き合ってるんだ?」

「えっ!?いや、誰とも付き合ってませんけど!?」

「マジか。まさかフリーなんてことはないよな。クラスの奴と付き合ってるとかか?」

「いやいや。全然彼女とかいませんけど……」

 

 自分で言ってて悲しい。

 えっ、なんで俺彼女いないこと告白させられてんの?未だに彼女歴なし童貞だけどなんか悪いか?

 アリアが何を考えて俺の恋人事情を効いてるのかわからないが……俺に恋人がいないとわかると、アリアは「おっ。マジでフリー?やりぃ~」とヒールな笑みを浮かべながら指パッチンした。

 

「カズヤ、フリーならこの私と付き会おうぜ。私に目をつけたお前のことは割と気に入ってんだ。暫く男いなかったからな。久々に男作るとすることにした。んでお前を選んでやる。有難く思え!」

「……は?えっ?はぁ!?」

 

 ビシッと俺を指さして不敵に笑うアリア。

 俺は呆気にとられた後、とんでもない事が今起きてることをやっと理解した。

 俺にとっては大きな出来事だ。だって、交際歴なしな上に告白された経験もない俺に、今ようやく初めて告白?イベントが起きたんだぞ!

 なんかめっちゃ上から目線だけど!!

 

「えっ。あっ……マジか。えっ。いや、どうしよ」

「ん?あれは……」

 

 俺がテンパってる間にアリアの興味は他に映った。

 窓の外に視線を移して訝しむ。

 対する俺は、必死に頭を回転させていた。これは初めての恋人をゲットするチャンスだ。突然訪れてテンパってるが、アリアの気が変わるうちにOKしたい。

 そしたら人生初めての彼女ゲットだ!

 最初に恋愛より野球とは言ったが、別に俺だって恋愛に全く興味が無い訳じゃない。あくまで優先度が野球より低いだけだ。

 だから、そういう展開になったらなったで嬉しいし、是非了承したい!

 よし。決めた。落ち着いた。

 アリアに対する答えは……勿論YESだ!

 

「あっ、あっ……ぜ、是非お願いしま……っ!」

「うおおおおお!!あれを見ろ、カズヤ!!」

「は?」

 

 俺が頭を下げて交際をお願いしようとしたが、アリアはもう全く俺の方を見てない。

 代わりに、彼女は窓の外の空を指さして、叫んだ。

 俺もそっちを見るが、青空と雲以外何も無い。が、彼女が指さしていたのは雲だった。

 そして、彼女の口は今からめちゃくちゃ下品になる。

 

「すげぇーー!!チンコみてぇな雲だ!!ほら、見ろよカズヤ!チンコだ、チンコ!!」

「うわっ」

 

 思わず引いてしまった。

 アリアはそんな俺の態度に全く気づかず大興奮してチンコチンコと何度も叫んで嬉しそうにしてる。

 この瞬間、俺はここが貞操逆転世界であることを思い出した。そして、この世界の女子は貞操が逆転し、中身が男子であることも。

 なるほど。そうか。そうだよな。そら『そういうタイプ』の女子もいるよな。逆転してるもんな。うん。

 

 アリアへの瞬間的な気持ちは一気に冷めた。

 間違いない。アリアは、元の世界でいう『思春期男子』だ……!!

 下ネタ大好き。知能の低いはしゃぎ方をするタイプ。

 うわぁ。そっかぁ。思春期男子と同じ行動を異性としてみるとこんなに酷いものなのか。それを実感した。

 いや、でもまあそうだよな。あれ同性から見ててもキツイ時あるもんなぁ。そら異性になったらもっときつい。

 普通の貞操観念を持ってる男子の俺から見て、女子が男子の思春期に至ってるのは、エロさがあると実際に目にするまでは思っていた。

 でも、これはないわ。誰が見てるかわからない学校内で「チンコ!チンコ!」と叫ぶ女。

 無いわぁ……。絶対彼女にしたくない。自分の彼女がチンコチンコ叫びながらはしゃいでたらめっちゃ嫌だわ。

 うん。

 

「おっと。話が逸れたな。どうだ?カズヤ。私と付き合うか?」

「付き合う訳ねえだろ。小学生男児」

 

 と、いう訳でキッパリお断りした。

 原田先輩の童貞ムーヴが可愛く見える。知りたくなかったものを見たわ。

 気を取り直してアリアを案内しよう。うん、そうしよう。なかった事にしよう。

 部活動の時間になったし、あとは野球部に彼女を連れていくだけだ。

 だが、道中のアリアも思春期男子ムーヴが止まらない止まらない。

 

「おい!!あれを見ろ、和哉……っ!!」

「イッ○Qかよ。今度は何?」

 

 部室練に向かうため、外に出たらアリアは素直についてこず、わんぱく少年のように突然走り出して木に向かって指さした。

 

「カブトムシだ!カブトムシがいるぞ、凄ぇ!ははっ、初めて見た。カッケェ!!」

「小学生男児かよ。いいからはよ戻ってこい海育ちのエセアメリカ人」

「うおっ。メスもいるぞ、カズヤ。交尾するんじゃないか、これ!ほら、見ろよカズヤ!」

「見ねえよ!あと声デカいって……!」

 

 女子がチンコだの交尾だの叫んでるのを目の前にすると羞恥が凄い。

 アリアはそんな俺の反応を見てニヤニヤしてる。

 クソ、こういう異性の反応が見たくてやるのも思春期男子だこいつ……!!

 

「もう部活始まるんで。早く行きますよ、オイゲンさん!」

「おい。前から思ってたがそのオイゲンさんって呼ぶのやめろ。ドイツ性だから好きじゃないんだよ。私のことはアリアって呼べ。呼び捨てでいいしあと敬語もいらん!タメ口でいい」

「えっ。でも、1学年上ですし……」

「返事はYESかはいだ!このアリア様の言うことが聞けないのか!」

「……はいはい」

 

 思春期な上に俺様か。属性てんこ盛りだな。

 霧島先輩と口調は変わらないが性格は真逆だ。霧島先輩って元不良だけど意外と落ち着きあるし感情的にならないし大人だからなぁ。

 逆にアリアは子供だ。男児でしかない。

 そんなアリアを部室練から更衣室と案内して、グラウンドに連れていく。いや、そこまで行くのにめっちゃ大変だった。やれ犬のフンが落ちてるだのエロ本が落ちてるだのもう寄り道寄り道下ネタ下ネタ……1時間かけてやっとグラウンドに到着。疲れた。

 そして、皆とようやく顔合わせができたと思ったら最初の挨拶がこれ。

 

「ふん。喜べ、有象無象。この『両刀』のアリア様が来たからには大船……いや!クルーズ船に乗った気持ちでドンと任せな。廃部寸前の泥船野球部をこのアリア様が救ってやる!泣いて喚いて喜びひれ伏し称え崇拝するんだなっ!!」

「……こいつ勝負に負けたからウチに来たんだよな?私の聞いた話間違ってたか?」

 

 挨拶と呼ぶには上から目線すぎるそれに、霧島先輩が顔を顰めた。

 彼女の疑問に成城先輩と原田先輩が補足する。

 

「いえ、完膚なきまでにボコボコにこれ以上ないほどに未来に負けたわ」

「しかも初球で打たれた。あと駄々こねて2球目投げてそれも打たれた」

「じゃあ、なんでこんな態度でかいんだよ……」

 

 霧島先輩が本気で困惑してる。

 対するアリアは未だに自信たっぷりで胸を張っている。

 

「も、もう一度打ちのめした方がいいかな?」

「さらっと印象とは真逆の物言いしますね長門先輩……」

「こういうタイプは立ち直れなくなるからやめといた方がいいんじゃない」

 

 アリアの態度を見ておずおずとバットを持ち出してきた長門先輩。原田先輩の言葉で彼女は結局バットをしまったが、意外と脳筋な人だったんだな……。

 てっきりプレイスタイルだけかと思ってた。大人しい性格で、思考はパワータイプらしい。

 

「あは~!自信過剰な人が来たね~!」

「……!」

 

 今日は新メンバー加入の挨拶ということもあって美山先輩もグラウンドに来ている。そんな彼女が、笑顔ながらもさらっと棘のあることを言って、アリアを逆撫でした。

 アリアは、ここに来て初めてマトモに美山先輩と対峙する。

 

「……お前が『悪魔』か。ハッ。仲間すら呑んじまうだの何だの……このアリア様まで呑めると思うなよ」

「あはっ。まあ……口では何とでも言えるよね」

「何だと?てめぇ」

 

 美山先輩を睨むアリア。

 そんなアリアに対して余裕の笑みの美山先輩。

 新たに現れた天才アリアが、現絶対的tear1の美山先輩を越えられるか否か。二人の火蓋は今切られた。

 

「大体、私は過剰じゃない。本物だ!いいか?よく聞け!私はいずれ大舞台メジャーで一番のベースボールプレイヤーになるアメリカンホープだ。そんじょそこらの奴とは格が違う……っ!!」

 

 グッ……!と握り拳を作って力説するアリアの、これもまた大袈裟な物言いが出て、全員が呆れる。

 

「てことは未来(みく)ってそんじょそこらの奴じゃなかったのか」

「えへへ。私、実は神奈川出身……」

「おぉ~、県2つ跨いだわ。そりゃ確かにそんじょそこらじゃない」

「だーーーーっ!!違う!!んな近所の話してないっての!関東すら出てない!」

 

 地団駄を踏むアリア。

 もう既に完全に遊ばれてるなぁ……。

 

「ふん。まあいい。とにかく私が来た。ただそれだけで万事上手くいくぜ!喜びな」

「それでダメだったからウチに来たんじゃないの……?」

 

 アリアの物言いに原田先輩が顔を顰める。

 まあ、都熾さんがそれを理由に転校させた訳だからその通りだ。

 だが、アリア自身にはその意識がないようだ。今指摘されたのも完全に無視して話を変える。

 

「おい。ところでキャッチャーはどうするんだ。この私が来てやったのにいつまでも不在なんて許さねえぞ。それともスズカをコンバートするのか?」

「いえ。キャッチャーなら……もうすぐ入部するわ」

 

 アリアの疑問に成城先輩が答える。だが、どこか虚しさがあるように視線を落としながらだ。

 成城先輩の言葉を聞いて、原田先輩が反応する。

 

「あぁ、そっか。もうそんな時期か。完全に忘れてたわ」

「んあ?……あぁ、あたしも今思い出したわ。そういやそんな話もあったな」

「そ、そうだった……!私も忘れてた……」

「あは~!皆忘れてたね~!優希は覚えてたよ~」

「えっと……皆、何の話してるんですか?」

 

 俺とアリアを覗く獅ノ宮野球部古参組だけの間で何か話が通じあってるが、具体的なことを何も言ってくれないので俺とアリアは疑問符を浮かべるしかない。

 そんな俺たちに原田先輩が説明してくれた。

 

「去年の夏終わりから今年のこの時期にウチに転入して、入部してくれるって言ってた中学生キャッチャーがいたって話。んで、そのキャッチャーは冬華と同じ中学で、冬華のバッテリーなんだよね」

「えっ。成城先輩と組んでたキャッチャー!?そんな人が来るんですか!?」

「そっ。去年は冬華と組んでた3年生の捕手がいたんだけど卒業しちゃったしね。代わりにその()が来てくれるってわけ。結構前からそんな話があったんだよね」

「そ、そうなんですね……」

 

 まさかそんな話があったなんて。

 成城先輩がベストナイン集めの時、捕手はもうアテがあると言っていたがこの事だったのか。

 しかもベストナインに成城先輩が含んでいるということは、彼女と組んでいたというのも含んで、恐そらく『天才』だ。

 男子野球レベルのキャッチャー、それが……もうすぐウチの野球部に来る。

 ん?でも、この時期って……もう5月末だぞ?なんでこんな中途半端な時期に入部してくるんだ?俺と同じ新入生じゃないのか?

 

「あの、なんで今頃来るんですか?ウチの生徒なんですよね?」

「あぁ。そっか。そっから説明しなきゃいけないのか。えっとね、その()まだ中学生なんだよね」

「……えっ?」

 

 原田先輩の言葉に俺は固まる。

 えっ。いや、意味がわからない。

 まだ中学生?でも、そろそろ入部してくる?どういうこと?

 

「えっと……だから、飛び級で入学してくるの。でも、ウチの飛び級試験ってちょっと時期がズレてて、合格発表が今月なんだよね。つまり、編入してくるのは多分今週か、来月かもね」

「えっ!?飛び級って……」

 

 つまり、それってめっちゃ頭良いってことじゃ……!?

 知能が高くて、成城先輩の異常な数の変化球、それも速球から大きな変化量まで扱えて……それだけでも凄いキャッチャーだぞ!?

 

「め、めちゃくちゃ凄いキャッチャーなんじゃ……そんな人が本当にウチに来るんですか!?」

「はい。来ますよ。そして、もう来ました」

「……っ!?」

 

 俺の背後から知らない、どこか幼い声が聞こえた。

 俺は慌てて振り返る。

 すると、そこには……誰もいなかった。

 は?あれ?

 頭がバグったが、俺の視界の下の方に頭が見えたのでまさかと思って見下ろす。

 それでようやく、視認できた。

 

 恐ろしく背が低く、それでいてお人形さんのような顔立ちの少女が。

 

「はじめまして。()()()()()()。私は廣目(ひろめ) (ゆい)。14歳です」

 

 知的そうな落ち着いた声音。

 小さく可愛らしいその少女は、廣目と名乗った。

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