貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第39話:私が来た。ただそれだけで、全てが上手くいく。

 

 ウチの制服を着ている……ということは既に編入済み。

 俺は目の前にいる小さすぎる同級生に、息を呑む。

 俺より歳下で、とても小さい。なのに、彼女には食えない雰囲気がある。

 成城先輩のバッテリーだと聞いたあとだからだろうか。

 身長は……130cmあるか?これ。微妙なとこだな。

 そんなこの()が……。

 

廣目(ひろめ) (ゆい)……成城先輩のバッテリー……っ!」

「はい。成城先輩の正捕手です。そして、今より、この獅ノ宮(しのみや)野球部の正捕手を務めさせて頂きます。よろしくお願いします」

「何だと……?」

 

 廣目さんの挨拶にアリアが食いつく。

 小さな彼女を睨みつけた。

 

「おい、チビ。そんなナリで正捕手だと?てことはこの獅ノ宮(しのみや)のエース、アリア様のバッテリーになるってことだぞ。―――お前に、私の球が捕れるのか?」

「……っ!」

 

 俺は、アリアの言葉に目を見開く。

 確かに、廣目さんの体格ではアリアの左の最速150km/hと右の最速160km/hを捕れるようにはまるで見えない。

 だが、アリアの言葉を受けて、廣目さんはフッと口角を上げた。

 

「捕れますよ。()()()()()()()()()

「……っ!お前……!私の名前も……!」

「編入する前から私は獅ノ宮野球部の一員としての意識を高く持っていました。なので、最新情報は全て頭に入れています。捕手として、必要だと思ったので」

 

 自身の頭をつつく廣目さん。

 やはり、彼女は食えないタイプだ。

 

「それと、一つ訂正させてください。私は確かにチビですが、最強のチビです。忘れないでください」

「……!」

 

 廣目さんが不敵に笑い、アリアが少し面食らう。

 すごい自信だ。

 このエゴイズム、飛び級してきたという情報と理知的な丁寧口調とは裏腹に、ちゃんと天才がもっているべき自尊心がある。

 才能を有することにおいて、謙遜などクソ喰らえだ。そんなものは無価値。美山優希がそうであるように。謙遜は美徳では無い。

 廣目さんもこれまでの獅ノ宮メンバーと同じ、間違いなく同様の人種だ。

 

「久しぶりね、廣目(ひろめ)さん。急に連絡もなしに来たから驚いたわ。もう試験の結果は出ていたのね。いつ編入してきたの?」

「はい。お久しぶりです。成城先輩。編入は今日です。我慢できず初日に入部届を提出してここに来ました。それと、原田先輩もお久しぶりで。霧島先輩、長門先輩ははじめまして。私が廣目です」

「あ、あぁ……うん。久しぶり……」

「すげぇ行動力だなこいつ……」

「ち、ちっちゃい……可愛い……」

 

 成城先輩との再会を端的に済ませ、廣目さんが3人に挨拶。それぞれがそれぞれの返事や感想を返して、1人だけ挨拶されなかった美山先輩と廣目さんが目を合わせる。

 

「あれ~?優希には挨拶なしぃ?」

「まさか。獅ノ宮……いえ、プロも含め、国内最強の美山先輩はまとめないでおこうと思っただけですよ」

「ふーん……ならいいけどぉ?」

 

 廣目さんが美山先輩の元まで近づき、二人は片方が見上げ、片方が見下げる。

 その視線のやり取りはまるでこれから仲間になる二人には見えない。

 が、廣目さんの方があっさり見合うのをやめて、振り返り、成城先輩に話しかける。

 

「成城先輩。さっそくですが、今副部長(キャプテン)のポジションの座は空いてますよね?」

「……えぇ、まあ。空いてるけれど、貴女まさか……」

「はい。そのまさか。私に譲ってください。今日から私が副部長(キャプテン)です」

『なっ……!?』

 

 廣目さんの発言に皆が驚く。

 このムーヴには美山先輩も黙ってなかった。

 

「あは~っ。別に良いけど~?初日から随分飛ばすね~?……廣目ちゃん」

「はい。時間がありませんので」

 

 口では良いといいつつも美山先輩の目は笑ってない。

 彼女は自分が最強であるという絶対的な自信と、自分が1番目立ちたいという欲求がある。

 だから、出る杭は当然嫌いだ。

 とはいえ、美山先輩は兼部の助っ人扱いなのは今も変わらない。

 彼女は廣目さんにとやかく言える立場では無いのは本人もわかっている。だから、口では何も反対しなかったのだろう。

 そして、廣目さんもまた、サラッと流したが、美山先輩の目を一瞥はしていた。わかってて流したんだ。

 

「では、今日から副部長をさせていただきます。廣目です。よろしくお願いします……と、いう訳で今この瞬間からじゃんじゃんこの部の問題に取り組まさせていただきます」

「……!廣目、あんた問題って……」

 

 秒で仕切り始める廣目さんに腰に片手をついて静観していた原田先輩が反応する。

 それに廣目さんも頷いた。

 

「はい。皆さんも周知してらっしゃるようにこの獅ノ宮の廃部寸前問題です。そして、成城先輩が取った対策が『獅ノ宮ベストナイン集め』。それにより再起する。そこに、私も協力させていただきます。いいですよね?成城先輩」

「えぇ」

 

 廣目さんに問われて頷く成城先輩。

 廣目さんは改めて確認できて、さらに続ける。

 そして、彼女は現れてそうそう仕切り始めた理由を、反感を買わないように全員の目を見て論理的に説明する。

 

「私は世間でいう部活動の意識でここに来た訳ではありません。真剣にこの部を救う為にちゃんと対策を考えて、この部を救済する意思でわざわざ飛び級までして来ました。なので、偉そうなことを言ったり14歳の癖に生意気に色々手を打ちますが、どうかご理解ください」

 

 一気に話す廣目。

 彼女は真剣だ。真剣に、この獅ノ宮野球部を救う為に、この野球部のことを思って行動を起こしている。

 そして、夏の大会まで時間が無い中で、自らがヘイトを買うことを理解しながらも自己のことなど気にせず献身してくれている。

 そんな彼女が14歳だから。今日現れた新参者だから。

 そんな理由で嫌悪するものがここにいるだろうか?

 そんな器の小さい者が、廣目さんの行動の意味を理解できない愚か者はが、果たして天才と呼ばれるだろうか?

 答えは否。

 皆のためにこんなに熱弁してくれる人を、拒絶する人なんて……この部にはいない。

 だって、もうこの部は既に生意気な男を1人容認してくれたのだから。

 

「廣目。あんたの気持ちはわかった。そして、私も……いや、私達も今理解した。だから、ここからもうそういうの気にしなくていいよ」

「おう!廣目。副部長でも何でもなりゃいいしお前が言うことには従うぜ?」

「惟が……あっ、惟って呼ぶね!惟が良い人なのは冬華から聞いてるから大丈夫だよ……!」

「そうね。廣目さん。貴女の有能さは私が知ってるし、優しさは皆が知ってるわ」

「先輩……ありがとうございます」

 

 美山先輩を除く古参組が廣目さんを容認して、廣目さんが頭を下げる。

 俺は勿論受け入れるし、美山先輩は本音を隠してるが認めてる。

 あとはアリアだが。

 

「ふん。私のバッテリーってのはまだ気に食わないが……この部をどうこうみたいな話は元からここにいたヤツらにしか決定権はない。好きにしろ」

「ありがとうございます。アリア先輩。もちろん、アリア先輩の夢の実現にも協力させていただきます。それが鴎坂(かもめざか)高校野球部の都熾(とし)さんとの約束ですよね?」

「……!お前、そんなことまで……」

 

 廣目さんの認知の広さにアリアが驚く。

 そんなアリアに微笑む廣目さん。そこには仲間に向ける思い遣りしかない。

 廣目さんは、成城先輩が背負った都熾さんとの約束も着手すると公言した。

 今日初めてアリアと会った彼女が、アリアと都熾さんの夢を支援する。

 それだけでアリアは廣目さんに対する意識が変わる。

 

「廣目、お前の言うことが本当ならお前を正捕手として認めてもいい。ただし、私の球が捕れないならそれは哉宵から変えた意味がない。だから、解消させてもらう。いいか?」

「はい。それで構いません。よろしくお願いします」

 

 アリアが廣目さんを認め、バッテリーが成立した。

 恐ろしい懐柔の速度。

 なんてキャッチャーだ。これが、成城冬華のバッテリー、廣目惟……!

 

「では、話を戻して……問題の解決、再起に向けてですが。まず、成城先輩の『ベストナイン集め』はやめませんか?」

『……!?』

「なんですって……?」

 

 廣目さんが切り出したことに、全員が動揺し、あの成城先輩も顔を顰める。

 だが、廣目さんは揺るがない。

 

「『ベストナイン集め』の目的は、『美山優希への対抗』ですよね?なら、私が来た時点でそれは達成です」

「……っ!廣目さん、貴女……!」

 

 成城先輩は廣目さんが何を言いたいのか大体察しがついて目を見開く。

 廣目さんは不敵に笑う。

 

「この部の問題は全て解決します。私1人で。私が来た。ただそれだけで全てが上手くいく。美山優希の対抗馬に何も天才を8人用意する必要はありません。私です。私ただ1人がいれば……充分です」

「―――あはっ。なんか調子に乗ってる奴がいる~!」

 

 大口を叩いて、美山先輩を見る廣目 惟。

 対する美山 優希は、廣目を指さして笑顔を浮かべる。ただし、頬をひくつかせながら。

 

 ……完全に、怒ってらっしゃる。

 

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