貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第40話:全て異なる投手で完全試合4回ノーノー15回 『超眼(ちょうがん)の廣目』

 

「あはっ。随分自信過剰なんだね、廣目ちゃん」

「過剰ではありません。根拠のある自信です。証明してもいいですよ」

「そんなの乗ると思ってるの~?証明なんてしなくても、優希は最強だよ。だから、誰も優希の邪魔なんてできない。優希が目立って気持ちよくなる。それは……誰にも止められない」

 

 美山先輩と廣目さんの間でバチバチと走る火花。

 どちらも口は笑っているが、目は笑ってない。

 

「止められますよ。私なら」

「……ふーん。めんどくさいね、廣目ちゃん。いいよ。じゃあやってあげる。どうせ優希に適わないけど後で気持ちよくなってる時に相手するのも面倒だしぃ?ここで打ちのめしておいてあげる」

「……さぁ、どうでしょう」

 

 廣目さんと美山先輩が勝負することになってしまった。

 アリアの時といい、連続でこの展開か……。天才を集めるって結局こうなるのか?

 などと思っていたら廣目さんがぐるんと首を回してまさかの俺を見る。なんか嫌な予感する~。

 

「津川先輩。手伝ってください。津川先輩が投げて、打席の美山先輩から一度でもストライクが取れたら私が勝ちということで」

「は!?いやいやいや!!俺、野球見る専だし……全然だぞ!?」

「大丈夫です。ストライクゾーンにさえ投げ込んでくれればどんな球でも構いません。それに全然な津川先輩でストライクを取れたらそれは完全に私の実力ということになりませんか?」

「なっ……」

 

 つまり、廣目さんは俺が野球できないことを逆手に取って自分の有用性を証明し、その実力が美山先輩に通用することを示したいんだ。

 いや、だとしても相手はあの美山先輩。俺が投げて勝てるわけがない……!

 

「か、考え直した方がいいって……!」

「あは~っ!いいね~面白そう。やろうよ、廣目ちゃん」

「はい。やりましょう」

「えぇ……俺の意思は無視?」

 

 なぜか二人の間だけで話が進んでしまった。

 これにて勝負の内容は決定。

 廣目さんは防具とマスクとミットを身につけて、美山先輩はバットとメットを装着した。

 二人がホームベースへと向かう前に俺は廣目さんに声をかけた。

 

「廣目さん……!さすがに無理だって!負けても俺、責任負えないよ……!」

「大丈夫です。勝てたら私の実力ということは、負ければそれも私の実力です」

「い、いやでも!」

「……津川先輩は優秀な捕手といえばどんな選手を思い浮かべますか?」

「は?なんだよ、急に」

 

 やぶからぼうに聞く廣目さんに俺は困惑する。

 彼女は俺の目を一瞥する。

 俺は、とりあえず答えることにした。

 

「えっと……強肩強打、とか?」

「なるほど。確かに捕手の代表的な能力ですね。ですが、私はその真逆です。肩は弱く盗塁は必ず許します。そして、殆ど打てません。しかし、リードとキャッチング・ブロッキング。特にリードには自信があります。なぜなら―――」

 

 彼女は、言葉を切り、マスクを被る。

 ホームベースへと向かう足を動かし始め、振り返り気味に俺に言い残して行く。

 

「私は、全て異なる投手で完全試合4回ノーノー15回へ導いた、『超眼(ちょうがん)』の廣目ですから。投手は未経験でも何でも構いません。私がリードすれば、誰でもサイ・ヤングです」

「は!?」

 

 言い切ると同時にマスクを装着し終え、廣目さんは守備位置に着く。

 俺は、彼女の実績を聞いて耳を疑った。

 そして、成城先輩の方を見ると、彼女は頷いた。ということは……嘘じゃない!!マジか!

 

「あは~っ!リードがどうとか聞こえたけどぉ?優希、どこに投げられても打てるよ~?優希に打てないコースなんてないも~ん!」

「えぇ。わかってますよ」

「……!」

 

 美山先輩の能力を見誤ってる訳ではない。彼女に『打てない』は『ない』ということもきちんと認識しているようだ。

 その上で勝てると断言する廣目さんに、美山先輩はムッとした。

 が、多分頭の中ではじゃあ何の考えがあってこんなことをいいだしてるのか、廣目さんの作戦を考察している。

 明らかに何か根拠がないと廣目さんの自信は説明できないとみたんだろう。

 俺も同様に思う。廣目さんの態度は何か裏が取れてないと辻褄が合わないくらい、確信的な自信だ。最初に美山先輩が指摘したような過剰なものには見えない。そんな見誤りをしてるようなら、美山先輩にリード能力が通用しないと分かっていないはずだし、通用しないという指摘に動揺するはずだからだ。

 

「じゃあ、始めよっか」

「えぇ。いつでもどうぞ。津川先輩!お願いします」

「……はいはい」

 

 美山先輩がバッターボックスに、廣目さんが守備位置に、俺がマウンドにつく。

 他の部員は見学となり、俺と廣目さんは投球練習を終えて、俺も廣目さわの導き(リード)とアドバイスによって、何とかストライクゾーンに安定して投げ込むことが出来た。

 とはいえ球速80km/h未満くらいしか出てないけど……。

 ストライクゾーンに投げ込めるのは廣目さんの構える位置に投げれば、なんだか異様に制球良く投じてる気がした。

 

「それじゃあ、行きます!」

『はーい!』

 

 俺がマウンド上で合図を送ると二人は絶賛バチバチの仲なのになぜかわざと息を合わせて元気よく返事する。

 俺はなんじゃそりゃ……と思いながら廣目さんが構えたところを目掛けてボールを投げた。

 ……あぁ、ダメだこりゃ。

 

「あはっ!絶好球だね~」

「うっ。そりゃそうでしょ……」

 

 俺が投げたのは彼女達からしてみたらスローボール、高め。

 右打者の美山先輩から見たら高め外だ。完全に打ってくださいといった感じの軌道をゆっくりと描いてストライクゾーンにボールは向かっていく。

 美山先輩はそれを舌なめずりをして待ち、完璧なミートタイミングを見計らって、バットを振った。

 素人の超スローボール、しかも高め。完全にホームランご馳走様コースだ。

 はい、終わった。

 美山先輩はスイングを披露し、ボールを完璧に捉える……その瞬間、目を見開いて、さっきまで上げていた口角を下げた。

 打席が終わる。

 

 当然、結果は……打球が空を切り、弧を描いて外野を超え―――てない。というか、打球が『飛んでない』……!!

 ボールは完全に、キャッチャーミットに収まり、バットは空を切った。

 

『打てない』は『ない』。『打てない』ではなく『打たない』。

 それが美山優希。

 だが、今回は確実に『打ちにいって』、空振った。

 

 空振った。

 あの、美山優希が……!?

 

「なっ……。はぁ!?」

「……マジかよ」

「う、嘘……優希が……負けた?」

「ふん」

 

 アリアを除く、先輩達が驚く。

 無理もない。美山優希は野球を始めてから、『打てなかった』のはこれが始めてだからだ。

 つまり、1年もの間、無敗を誇っていた美山先輩に廣目さんが負け1をつけた。たった今。この瞬間。

 

「……」

「あはっ!なるほどね~!そういうやり方なら確かに優希には有効だね。あはっ。あははっ!そっかそっか。なるほどね~!」

 

 一人だけ何が起きたのか理解している成城先輩は黙って勝負の後を見ていた。

 一方、人生で初めて本気で負けた美山先輩はバットを地面に突いて、腰を折りながら耐えられないといった様子で笑い、身体を揺らしていた。

 彼女の髪が重力に引かれて全部落ちてるせいで彼女の表情は見えない。唯一見える口元だけが大きく開かれて盛大な笑い声を挙げているが……やがて、それも潰えた。

 口元から感情が消え、美山先輩は身を起こして天を見上げる。そのままぐるんと首だけ曲げて廣目さんを見た。

 

「あはっ。廣目ちゃん。廣目ちゃんか~!廣目ちゃん……廣目ちゃん!あはっ。あははっ!よく考えたねぇ!……いひっ。廣目……廣目ぇ……っ!!」

「おや。そんな顔もできたんですね」

 

 鬼の形相で廣目さんを睨めつける美山先輩。

 廣目さんはマスクを外して余裕の笑み。

 完全に格付けが済んだ瞬間だ。

 

「ちょ、一体何が起きたの!?」

「説明します」

 

 去年の夏から散々苦労して苦しめられた美山優希があっさり攻略されて、動揺する先輩たちに廣目さんは立ち上がりながら解説を始める。

 

「私は決して美山先輩の能力を上回った訳ではありません。野球だけで美山先輩に勝つのは不可能です。なので、『野球をしながら他の事に意識を逸らす』ことで勝たせてもらいました」

 

 廣目さんがまず告げたのは概要。1拍置いて具体性を上げる。

 

「実際に行った作戦は、美山先輩がスイングする軌道の中で、金属バットの反射を利用し日射しの入射角なども計算に入れ、美山先輩の顔がバットに映り込みそれを美山先輩が目にするよう仕向けました。あのコース、間違いなく美山先輩は自分の顔を確認することになる」

 

 廣目さんが作戦の内容を教えてくれるが、それだけでは皆首を傾げていた。

 当然だ。この作戦の肝は作戦そのものではない。1番は、美山先輩の性格を利用した、という点だ。

 

「美山先輩は自己愛が強い。自分の顔も好きなはずです。それは、片手間にやっていて、ただ欲求を得るためだけにやってる野球よりも。だから、目の前の球より自分を見ると思っていました。さすがの美山先輩も他に意識が取られながらでは、打てない。これが私の―――【美山優希攻略方程式】です」

『なっ……!?』

 

 廣目さんの考えの全貌をようやく掴んだみんなが衝撃を受ける。

 だが、みんなはまだ気づいてない。

 俺は登板前に廣目さんに「フォークを投げてください」とお願いされた。まあ俺のフォークなんてほぼ握りだけで大して落ちないが、それでも球種をフォークにしたのは大正解だった。

 

 改めて、美山 優希は恐ろしい。

 マウンドに立って、彼女と対峙することで、ようやく彼女と戦う羽目になった女子球児達の気持ちがわかった。

 だって、意識を野球以外に逸らされても尚、直球なら打たれていた。

 そう。美山先輩は、よそ見をしながらでもある程度ミートできるんだ。

 

 あぁ、確かに化け物だ。神に思うわけだ。美山 優希は野球の神だ。

 それでも、野球への熱量の低さを廣目さんに手玉に取られた。

 まさか野球以外で勝負して、野球にその結果を持ち込むなんて。着()点が凄い。

 

 

 ―――廣目(ひろめ) (ゆい)は、神殺しとなった。

 

 

「成城ちゃん。廣目ちゃんもこれから毎日練習に参加するんだよね?」

「え?……えぇ、まあそりゃ。そうなるわね」

「あはっ。そっかそっか」

 

 メットを抜いで、バットをクルクルと回す美山先輩。

 やがてバットをピタッと止めて、頭の部分を廣目さんに向けた。

 

「じゃあ優希もこれからは練習に参加する。優希、優希が気持ちよくなるのを邪魔しそうな存在って許せないんだよね~。だ・か・ら。いつでも油断しちゃダメだよ?廣目ちゃ~~~ん」

「……ばっちこいです。味方といえど競え合えるというのは大事なこと。寧ろよろしくお願いします」

「あは~!ムカつく~~~~~!!」

 

 美山先輩は見たことないくらい笑った。でも、青筋が立ってる。めちゃくちゃキレてる。

 対する廣目さんは不敵に笑う。余裕の笑みだ。

 かくして、美山先輩の練習参加が決まり、廣目さんによって『美山個人軍』問題が解決した。

 

 廣目 惟。彼女一人で獅ノ宮は美山先輩だけのチームではない、と証明された。なぜなら美山先輩は無敗の最強ではなくなったのだから。

 

 美山先輩が練習に来るなんてことが未だに信じられない先輩達が唖然とする。

 

「う、嘘でしょ……?優希が練習に来るの?」

「マジか。1年間1回も来なかったんだぜ。本当かよ」

「あ、明日雪降りそう……」

 

 廣目さんの加入で、チームは変わるのだと誰もが実感できた。

 成城先輩が再建を宣言しても、俺がアリアを見つけてきても、アリアが圧倒的な才能を見せても野球部の未来は暗いまま。切り開けなかったのに。

 廣目さんは、誰もができなかった美山先輩を倒すという行為をすることで、俺達にもわかりやすいように自身の有能さを証明し、さらに美山先輩の意識を変えた。

 あの美山先輩、と誰もが認識している。そこに最初に着手した手腕が、廣目さんへの期待に繋がる。

 本当に廣目さんがいれば、全て上手くいく。廣目さんが全てを変えるそう思えた。

 そんな彼女が、俺達に暗黒期の終わりを告げる。

 

「さぁ。一気に変革していきましょう。再建の目処は立っています。全て、この頭の中に解決策を入れてきました。私は廣目 惟。獅ノ宮を……皆さんを救いに来た。天才でありながら、天才を救う女です」

 

 天才を救う天才、廣目 惟。

 1年生。14歳。身長129cm。ポジションはキャッチャー。

 獅ノ宮野球部副部長(キャプテン)

 

 中学時代。

 全て異なる投手で完全試合4回ノーノー15回を導いたスタメンマスク。

 

 才能は、視力。

 

 曰く、視力は4.0以上。

 

 曰く、人の筋肉の動きが読める。その能力によって相手が次に起こす行動を予測できる。

 

 曰く、その能力で相手の得意コース、打てるコース、待ち球、次に起こす行動等あらゆる打者の情報を捕手ポジションに就きながらリアルタイムで盗み見ることができる。

 

 曰く、彼女と組めば投手の不調はイニング中に直る。

 

 曰く、彼女は努力も惜しまない。視力という身体機能の才能を得た彼女は、何の役にも立たないその才能の価値を作る為に、勉学に励み知能をつけた。そして、野球に才能を使うことを決め、ブロッキングとキャッチングを磨いた。それにて、肩以外の守備能力、知能と眼力を組み合わせたリード技術の二つで捕手別防御率に価値をつけた。

 

 曰く、捕逸は一度もない。

 

 曰く、リードミスは一度もない。なぜならカンニングができるので。

 

 

 彼女は。

 

 

 ―――人呼んで、『超眼(ちょうがん)廣目(ひろめ)』。

 

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