貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第42話:「津川って独占欲強いんだね」「はい?」

 

「では、アリア先輩。投球お願いします」

「……本当に取れるのか?まだ信じちゃいないぜ、私は」

 

 放課後、廣目がミットを構えて、アリアが不安げにマウンドに立つ。

 彼女は顔を顰めた。

 

(……捕れなくて、怪我されても責任取れないんだよな。まずは逸らして、様子見るか)

 

 そう決めて、アリアは投球に入る。

 その瞬間、彼女が足を地面から離した時にはもう、廣目はマスクの下で目を見開いて、次に何が起こるのか先読みした。

 

「オラ!(はず)……っ!」

「……っ!!」

 

 アリアが投げたコースは廣目がミットを構えた場所とは全く違う。ストライクゾーンにすら入っていない。廣目の頭上だった。

 だが、廣目は後逸しなかった。アリアが球を放った時には、立ち上がって、既にミットを伸ばしていた。

 そして、廣目のミットに右投げ155km/hの豪速球が収まる。

 アリアは、廣目が見せた超反応に驚いたが、もっと驚いたのは、今のは反射神経で捕った訳ではなく。上に外れると最初からわかって、事前に動いたことだ。

 

「お前……!本当に相手の動きが予測できるのか!?」

「……はい。ていうか、言う事はそれですか?」

 

 驚愕するアリアに、目を細める廣目。

 廣目は既に、自分の才能と能力についてみんなに説明済みだ。

 最初は聞いた時に誰もが信じられなかったが、成城先輩と原田先輩は既知だったようで、「最初はそういう反応になるよね」と頷き、その反応が「なんかマウント取られてるみたいでムカつくな」という形で他の面々が無理やり納得した。

 だが、それでもアリアは廣目を試した。そのことが廣目にとって不服だったようだ。

 しかして14歳とは思えぬ対応を見せる。溜息をついて文句を飲み込んだ。

 

「まあいいです。とりあえず、私が150km/h台を捕れることは分かりましたよね?」

「……あぁ。分かったよ。悪かったな」

「いえ」

 

 アリアの謝罪を受けて、廣目が簡潔に返す。

 そこに、原田先輩が近付いてきた。

 廣目の練習を見て、何か感じたのか……あぁ、いやなんかめっちゃ目を輝かせてる。

 あの目、あれだ。見覚えがある。岩手遠征の時に俺と野球雑談した時の目だ。

 多分今から話すのは練習に実りのある会話じゃない。

 俺はマネがやるようなボール磨きをしながら、原田先輩が廣目に話しかける前に、何となく予想がついて、苦笑いした。

 

「ねっ!廣目。あんたってミット構える時、腰っていうかお尻かなり浮かしてるよね?地面と太ももが平行って感じ。あと膝もつかないどころか完全に立ててるし……もしかしてバファローズの捕手とか参考にしてる?」

 

 ほら、やっぱり。

 原田先輩は廣目のプレイスタイルを見て、見たことある構え……!これは同志の予感!と野球ファンセンサーを働かせてウキウキで近寄ったんだ。

 廣目はボールをアリアに返球して、ついでに立ち上がって、休憩を挟む。

 マスクを外して原田先輩に返答した。

 

「はい。あとマリーンズの方も少し」

「あっ!大天使様!?やっば。あんた、わかってるじゃん!」

「……原田先輩みたいに趣味でみてる訳ではありませんが。まあでも参考にさせてもらってます。ブロッキングにおいてあのおふた方から得られるものは多かったので」

 

 淡々と理屈で話す廣目。

 暗に原田先輩の気持ちには応えられないと予防線を張ってるのだが、残念ながらオタク女、原田涼香は全然気付いてない。

 完全に廣目もプロ野球に詳しいものだと決めつけてぐいぐい迫る。

 あぁ、もう完全にダメなやつだ!嫌な予感がする!これ、オタクがやりがちなダメな展開がくるぞ……!

 

「えっ、じゃあさじゃあさ。キャッチングは誰から吸収してるわけ?やっぱホークス?それともタイガース……いや、あれはフレーミングか。そういえば廣目の武器はリードだよね。リードっていったらやっぱりライオンズの―――」

「ま、待ってください!待ってください!私はほんと、必要な部分しか観てないので!そんな一気に話されても分からないです……!」

 

 熱く語り始めた原田先輩に廣目が身振り手振りを加えて必死に後ずさる。

 うわぁ……助けてあげるか。

 

「は、原田先輩……俺と話しましょ!俺と!」

「えっ?なんで?別にいいけど……」

「別にいいなら良いですよね!?俺、ちゃんとあれから勉強してきたんで……ね!?」

「あぁ、うん。じゃあ津川も混じって―――」

「俺と!!俺とだけ!!話しましょう!!」

「……えっ?」

 

 とにかく廣目から引き剥がさないと……!

 ていうか廣目嫌がってるのなんでわからないんだ。なんで俺が入ってもじゃあ3人でってなるんだ!オタクの視野の狭さ、凄い!

 原田先輩はキョトンとした顔をしていたが、俺が腕を掴んでグイグイと廣目から引き剥がすことに成功した。

 

「……っ!あんた……!」

「ほら、向こうで話しましょうね~向こうでね~。廣目、俺が相手しとくから練習再開していいぞ!」

「……はい。ありがとうございます。でも、そのやり方……」

 

 俺が原田先輩を連れて廣目から離れると、廣目は去っていく俺達を目で追いながら、お礼を言った。なぜか微妙な顔をしていたが。

 とりあえず廣目の邪魔になってる野球ファンをなんとかしたので……まあ適当に話の続きをしよう、と俺は球磨きを中断して連れ出した原田先輩と改めて話そうと振り返り、彼女を顔を見る。

 が、振り返ったら、原田先輩は自分の腕を掴む俺の手をジッとビビるくらいの熱視線で凝視していた。

 そして、彼女の表情は、さっきまでの楽しそうな感じとは全く違い、顔を真っ赤にしていて、俺に見られてるのを感知して目線をあげる。

 彼女の上目遣いに、俺は思わず目を見開いた。

 

「もう……何?私に野球ファン仲間ができるのそんなに嫌だったの?私と話す為だけに勉強してきたって……必死すぎ。嫉妬しちゃった?津川って意外と独占欲強いんだね」

「はい?」

 

 耳まで真っ赤にして上目遣いで尋ねる原田先輩に、俺は耳を疑った。

 何言ってんだ?この人、という気持ちしかない。え、ホントに何言ってんの?

 凄い、まるで意思疎通ができてない。これが暴走オタクか……!

 

「あー……まあ、もうそれでいいんで。練習の邪魔しないようにしましょう。原田先輩や霧島先輩は暫くやることないんですから。俺とボール磨きしながら話しましょう」

「うん。いいよ。津川に独占されてあげるっ!」

「……っ」

 

 なるほど。廣目は俺が原田先輩の腕を引っ張った時からこうなることを予測していたのか。

 さすが打者の筋肉の動きを透視することでカンニングリードを得意とする、『超眼』の廣目さん。

 できれば今度からもっと早く言ってくれませんかね。

 この日の部活動は、殆ど原田先輩とボールを磨きながら野球雑談をした。

 バファローズの捕手は盗塁阻止率4割後半で神らしい。なんか聞いたことある話だな……。

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