貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第43話:大食いチビ助廣目惟の生態/アリアは変化球を投げれない

 

「廣目、一緒に飯食わないか?部員集めのこととか廣目と作戦練りたくてさ」

「構いませんが、私はいつも食堂ですのでそれで良ければ」

 

 昼休みに入ってすぐ、俺は弁当を持って廣目の席にいった。

 俺と廣目は同じクラスだ。

 授業中の廣目といったらとにかく真面目でとにかく賢い。さすがは飛び級してきただけあって頭が凄くいい。

 先生に当てられても答えられない時はないし、テストだってクラスで……いや、学年で1番だと思う。まさしくレベルが違う。

 と、まあそんなことは置いといて。

 財布を取り出す廣目に俺は了承の意味でサムズアップした。

 

「大丈夫だ。食堂に弁当持っていけばいいだけだし」

「お弁当……確か津川先輩は一人暮らししていてご自分で作ってるんですよね?」

「うん。って言ってもほぼ冷凍食品詰め込んでるだけだけどね」

 

 食堂に向かいながら俺と廣目は会話する。

 俺は廣目に尋ねた。

 

「誘っといてなんだけど、友達と一緒には食べないのか?」

「……はい。まあ」

「いや、ごめん。いつも昼休みになると1人でどっか行くからさ。食堂行ってんだな。でも、不思議だ。廣目って編入してきたのに友達すぐ作っちゃって結構人望あるのに……なんで昼休みは1人なんだ?」

 

 俺が聞くと、廣目は話をすり替えた。

 

「そういう津川先輩はもう入学して2ヶ月なのにお友達がいないんですね」

「……言うな。気にしてるから」

「はい。知ってます」

 

 ニヤニヤする廣目

 こいつ……わざとかよ。

 入学してから野球部でのやらかしやらがあって、反省してたり野球部に申し訳ない気持ちでいっぱいいっぱいだったりで、友達作りどころじゃなかったんだよな。

 まあ、自業自得だな。

 

「安心してください、津川先輩。私は津川先輩の友達になりますよ」

「ありがとう。凄く染みるよ……」

「い、意外と重症だったんですね」

 

 俺が涙ちょちょ切れるくらい喜ぶと、廣目はドン引きした様子だった。

 そんな廣目と食堂に辿り着き、彼女だけが列に並ぶ。

 俺は弁当だし、何も注文しないから席でも取りに行くか。そう思って廣目と一旦離れようとしたが……。

 

「津川先輩。できるだけ大きい机を確保してください。あと席を取ったら私の食事を運ぶの手伝ってください」

「あ、あぁ。……?わかった」

 

 廣目が俺の背中に声をかけて、なんか違和感のある指示が俺に飛んできたが、人混みが凄かったのでとりあえず頷いておいた。

 ……いや、やっぱおかしいよな。

 食事を運ぶのを手伝ってください?食堂で頼んだものをおぼんに載せて運ぶことに手伝いっているか?複数人の分ならともかく1人分だろ?

 やっぱなんか変だろ。

 

「……嫌な予感がする」

 

 この違和感はなんか無視しちゃいけない気がする。

 そう思いながら6人席を確保して、食堂の注文口に向かうと……なんか人だかりできてるんですけどぉ……?

 もちろんその人だかりの中心は―――。

 

「あ、津川先輩。こっちです、こっち。手伝ってください」

「まあお前だよな……」

 

 小さい廣目が道行く人の視線を奪いながらぴょんぴょんと飛び跳ねて俺に居場所をアピールしている。

 人混みを掻い潜って、俺は彼女の元へ向かった。

 ……んで、凄いものを見た。

 

「お前、これ……」

「はい。ラーメン3杯。うどん2杯。丼3杯。おかず3品。白米3合。それからデザートにカレー5皿です」

「頼みすぎだろ!!誰がこんなに食うんだ!?てかカレーはデザートにならねえしデザートだとしたら多すぎだろ!?てかカレー頼んだら白米いらねえだろ!」

「私が全部食います。あとカレーは飲み物ですし、カレーと白米は別腹です。運んでください」

 

 俺の衝撃をよそに淡々と告げる廣目。

 いや、平然としてるのおかしいだろ!おぼん8つあるんですけど!?一人で食べるって言ったよな?おぼん8つ分の食事が一人前であってたまるか……ッ!!

 そら注目集めるわ。俺だって横切ったら見る。

 

「……廣目。お前、身長いくつだっけ」

「129cmです」

「その身体のどこにこれだけの量が収まるんだ……本当に食い切れるんだよな?」

「余裕です。寧ろ今日は少なめです。朝弁したので」

「は?これだけ食う前にさらに食ったの?……ちなみにどんくらい朝に食ったんだ?」

「コンビニ弁当×10ですね」

「×10!?!?!?」

 

 席におぼんを運ぶのを手伝いながら廣目の食事量の話を聞いたけど、卒倒しそうだった。

 意味がわからない。そんなに食って人って死なないもんなんだな……。

 思い返せば確かに休み時間の度になんか食ってたな、廣目。

 

「な、なんでそんな燃費悪い身体なの?」

「……さぁ。なんででしょうね」

 

 全部運び終えたのと同時に尋ねたら、廣目は視線を落としてはぐらかした。なんか間があったし、遺伝とかじゃないのか……?

 何か違和感を抱きながらも俺は廣目と席に着く。

 そこに、見覚えのあるアメリカ人が横切った。

 

「お、アリア!お前も食堂で食べてるんだな」

「ここはパーティ会場か?」

「あぁ。うん。そらスルーできないよな。わかる」

 

 アリアも机に並んだ大量の食事を見て絶句してる。

 しかも廣目は「いただきます」と呟くと爆速で食い始めた。

 口に放り込むと同時に、ごくっ!ごくっ!と喉を鳴らす。

 

「おい。こいつ、噛んでるか?」

「廣目……ちゃんと噛んで食わないと身体に悪いぞ」

「ほふぇふぇ。ふぁいふぉうふへふほ」

「何言ってんのかわからん……」

 

 アリアの廣目を見る目が変わった。ドン引きの軽蔑と畏怖だ。

 そして、そのままドカって長椅子に座った。何故か俺の隣の方に。

 

「えっ。なんで座ったの?飯は?」

「もう食った。んで暇。付き合え」

「いや、俺は今から食うとこなんだけど……」

「アリア様が優先だ!飯なんて食うな!」

「王様かよ……」

 

 親指で自分自身を指さして主張するアリア。ふんぞり返ったと思ったら豪快に足を組んで、俺の背もたれに肘を置き、寛ぎ始める。

 マジで自由じゃん。横暴ここに極まれりみたいな奴だな……。まあいいけど。

 

「あれ?なんか集まってんじゃん」

「濃いメンツだな……」

「原田先輩、霧島先輩!こんにちは!」

 

 おぼんを持って、今から食事といった様子の原田先輩と霧島先輩も俺たちの席を横切って、声をかけてきた。

 俺は先輩である彼女たちにキチンと挨拶をしたが、二人はテーブルの上に視線を奪われると、「は?」って顔でそっちに思考を奪われた。そらそう。

 

「なにこれ。パーティでもしてんの?」

「いえ。全部廣目の分です。これが普通らしいです」

「今日は少なめです」

「なんでそこそんな拘ってんだよ……」

 

 さっきまで無言で食うのに集中してたくせに、急に顔を上げて訂正を入れてきた廣目。

 この程度しか食えないと思われるのが嫌らしい。いや、この程度って。

 ていうかなんでそんな大食いのプライドみたいなの持ってるんだ、こいつ。

 まあ廣目のことは置いとこう。

 

「ところで、原田先輩達も食堂派なんですね!」

「いや。普段は教室で食うんだけど……今日は涼香が寝坊して弁当作ってこなかったってだけだぜ」

 

 話を変えて、尋ねるとノーを食らった。

 確かに霧島先輩はお弁当を持っている。おぼんを持ってるのは原田先輩だけだ。

 どうやら原田先輩も一人暮らしでいつもは自分で用意したお弁当を持ってくるらしい。

 

「良かったら2人も一緒に食べませんか?」

「おっ。いいのか?じゃあお邪魔して……」

「来るな!ここはアリア様の席だ!」

「いや、三人席だろ!なんでお前1人で2人分陣取ってんだよ」

「私が、私様だからに決まってんだろ。何言ってんだ」

「お前が何言ってんだよ……。じゃあ、もういいわ。悪い、廣目。詰めてくれ」

「ほふぇふぇ!ふほへほへ!」

「こっちも何言ってんのかわかんないんだけど……この席、言葉通じる()いないの?つか廣目のおぼん多すぎて私のおぼんの置き場所ないんだけど」

「ははは……」

 

 みんなでワイワイ食べたら楽しいかと思って原田先輩と霧島先輩も同じテーブルに呼んだが、なんか揉めてしまった。

 主に我儘王女と大食娘のせいで。

 もう苦笑いするしかない。

 結局、廣目が爆速で平らげた分の食器やおぼんを片付けることでなんとか全員で食べれるように机が多少スッキリした。

 成城先輩と美山先輩、長門先輩を除く野球部が集まり、昼飯をつつく。その中で、人の飯をつまみ食いして揉めるアリアに、原田先輩が気になってたことを尋ねる。

 

「そういえば、アリア。あんたって変化球何持ってんの?」

 

 原田先輩が尋ねて、全員がアリアを見る。

 確かに気になることだったからだ。

 アリアに視線が集まったが、当の本人はというと……爪楊枝で歯茎をつつついたまま、固まっていた。

 そして、暫く沈黙が続いた後、アリアは爪楊枝を落とす。

 

「変……化球……?」

「初めて聞いた日本語かよ」

 

 アリアがまるで知らない言葉に対する反応のように唖然とする中、霧島先輩がツッコミを入れる。

 ていうかこの反応から見るに、もしかしてアリアって……変化球が投げれない?

 

「アリア。あんたもしかして変化球投げれないの?」

「はぁ~!?んなわけねえだろ。このアリア様を舐めるんじゃねえ!!」

 

 原田先輩も俺と同じことを思ってたらしくまさか、といった感じで尋ねると、アリアはムキになって立ち上がり、反論する。

 

「ハッ!この大天才、いずれワールドスターになって全てを制す最強のアリア様に投げれねえモンなんてある訳がないだろ!」

「じゃあどんな変化球持ってんのか教えろよ」

「いいぜ?聞いて驚くなよ。……まずストレートだろ?あとは直球・真っ直ぐ・速球・豪速球・一直線だ!!全部で7球種!」

「いや、6球種だし。てか全部同じだし。要するに投げられないってことでしょ……?」

 

 指を一つ一つ折りながら数えて間違えたアリアに、もうどこからツッコめばいいのか分からない状態になって、原田先輩が顔を顰める。

 大袈裟に主張したアリアは空振り。

 案の定、変化球を持たないことが発覚したことに一同渋い顔をする。

 

「何となく嫌な予感がして聞いたけど……やっぱりね。あれだけの豪速球を持ってても変化球がないんじゃ、球種はモロバレ。まあスタミナはあるし、高校生で世界最速だから簡単には打たれないだろうけど……」

「別に何も心配する必要はねーんじゃねえの?変化球なんて、これから覚えればいいだろ」

「それは無理だと思います」

『えっ?』

 

 思わぬところから否定が入って、みんなで廣目を見る。

 食事を終えた廣目は大量の器を前に「ゲエッ」とゲップを挟んでから口元を拭き、説明に入った。

 

「あれだけの豪速球を、それも高校生の時点で投げているとなるとその出力の高さに、普通なら故障します。ですが、アリア先輩は怪我をしない。と、いうことは恐らく……アリア先輩の身体は年月をかけて豪速球を投げる為だけの身体に作り上げられてきたんだと思います」

「えっと……それってつまり、豪速球を投げることに特化した身体だから、変化球は今覚えてないから投げれないって訳じゃなくて、そもそも理論的に投げれないってこと?」

「はい。そうなりますね」

『なっ……』

 

 衝撃的なことを割と冷静に告げる廣目。

 肉体を透視することができる目を持つ彼女が、アリアの身体を見てそう言うのだから信憑性は高い。

 そこで思い出した。成城先輩は、獅ノ宮の天才達は常識を外れた規格外の能力を持ってるが、必ず『欠落』も抱えていると言っていたことを。

 

 つまり、アリアの欠落は、『変化球が投げれないこと』。

 

 それも肉体の構造的に投げれないとなると、これから変化球を覚えることも叶わない。アリアはストレートだけで勝負していかなければならないということだ。

 それだけ、女子の身体で左右投げで150km/h・160km/hを投げるというのはオーバースペックなんだ。

 アリアが野球を初めて数年、それだけの歳月をかけて肉体を『豪速球専用』に作りあげていかないと、実現できない。

 これが、男女の決定的な差。例え男と同じ能力を得れたとしても、それ以外を犠牲にするくらいしないといけないんだ。

 惨い、とても惨い現実だ。

 彼女達貞操逆転世界の住人が、その事実を認知してないことが唯一の救いと言えるだろう。

 ……そんなこと言うの、なんか凄く悔しいな。皆、本当に凄いのに。結局身体能力の差で勝てないのか。クソ。

 

 

「ハッ。くだらねえ」

「……っ!」

 

 

 俺の嫌な思考を振り払うように、背もたれに腰を下ろして足もかけ、行儀悪く膝に手をつくアリアが低い声と鋭い目で、男女の理不尽など鼻で笑うように気迫を見せた。

 

「変化球が投げれねえからなんだ。私のストレートは速いだけじゃねえ。球威も最強だ。私は、球が速いから連続完全試合できたんじゃない。―――マウンドに私がいる。だから、できたんだ。私がアリア・オイゲン様であることが、最強の証明なんだよ」

 

 ハッキリと言い切るアリア。

 彼女の言葉に、廣目も口角を上げて乗る。

 

「奇遇ですね。私がリードすれば、誰でもサイ・ヤングです。私が廣目 惟であることが完全試合やノーノーを導いた要因です。そして、そんな私達が組めば―――」

「あぁ。誰にも負けない」

 

 廣目の言葉をアリアが繋ぐ。

 そして、アリアは俺を見下ろした。

 

「だから、カズヤ。不安な顔するんじゃねえ。最強のピッチャー、このアリア様と最強のチビ、廣目が組むんだ。どんな相手がいたって無敵だろ?」

「……っ!!」

 

 アリアの言葉に、俺は目を見開く。

 彼女は俺が暗い顔をしていたのを見ていたんだ。そして、それは廣目も。

 彼女たちは俺の世界のことを知らない。だから、俺がそんな顔をしていた理由まではわからないだろう。

 それでも、仲間が視線を落とした時、彼女たちは強く輝く才能で顔を上げろと言ってくる。

 何より、絶対的な自信を誇る彼女たちはカッコよくて、頼りになる。

 俺も皆を見てると、誇らしくなる。この人達なら男子野球にだって、負けないかもしれない。そう思えるんだ。

 だって、男子野球に匹敵する能力を持つのが、獅ノ宮における天才の定義だ。

 きっと彼女たちなら戦える……!

 そう思わせてくれたアリアを俺は噛み締めるように見つめる。

 

「アリア……ありがとう。励ましてくれて。でも、行儀が悪いからちゃんと座わろうな」

「何だと!私に指図するな!私がルールだぞ……!」

「いや。マジで座れよ。こっちはまだ食ってんだよ」

 

 霧島先輩にも怒られてアリアがギャーギャー反論する。

 が、最終的に食堂のおじさんに注意されてぐぬぬ……!と唇を噛みながら座った。

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