貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第44話:ベストナインを中断して部員集め、しかして現れる8人目

 

 部員集めの為に獅ノ宮の生徒に向けた募集をSNSで発信した。

 廣目の発案で、廣目が実行した。

 

 で、部員集めに尽力するよう任命された俺はというと、兼部目的の新入生探しを任された。要するに、運動部を中心とした他の部で野球部にも入ってくれる人を探すという役割だ。

 

 暫くは野球部には顔を出さずに放課後の部活動の時間をそれに充てることになった。

 あとは1年生への声掛け。これは俺と廣目の2人で行うが、俺が他の部へ訪問してる間は廣目が1人で行っている。

 

 これで、部員集め対策は、成城先輩の去年のメンバーを再編するのを含めて4通り。

 成城、廣目、津川の布陣による3並行勧誘作戦だ。

 

 夏の大会まであと1ヶ月と少し。余裕はない。複数の策を考えて、同時並行で進めていかなければ間に合わない、という廣目の考えに俺達は従った。

 が、そう簡単に上手くいくわけもなく……。

 

「悪いんだけど、ウチの部で兼部してもいいよって()は一人も出てこなかったや。ごめんね!皆に声掛けて聞いてみたんだけど」

「い、いえ!寧ろ失礼な提案をしたのに、部員に聞いてくれただけでも有難いです!こちらこそすみません、ありがとうございました!」

「野球部も大変なんだねー。ま、頑張ってね!同じ学校なんだし、皆、お互いに応援はしてると思うからさ!」

「はい!ありがとうございます!失礼しました」

 

 早速テニス部の部長さんには協力してもらったものの、結果は芳しく、丁重にお断りされた。

 肩が強そうなテニス部、身体能力が高そうなバスケ部とバレーボール部に声をかけて回ったが、まあそう簡単にはいかなかった。

 当然、運動部と運動部を兼部するなんて負担大きいことを容認してくれるような人はいない。それに、当然だが皆今やってるスポーツに夢中になってる訳で、野球に興味を持ってそうな人も持ってくれそうな人もいなかった。

 各部活動の部長に丁寧に対応してもらった上で断られ、俺は次の部に顔を出す。

 

「次は……陸上部か。これも厳しそうだな……」

 

 足の速い人が欲しいなと思ってリストアップしたが、ここまでの流れを鑑みるにまあ運動部は例外なく絶望的だろうな。

 この後の(女子)サッカー部も、体力がありそうで魅力的だが、試合に出れない人達でもやはり競技そのものを代えるという選択肢はないようだ。

 野球部(ウチ)が勝負できるのは出場機会その1点だが……さすがに競技が違って、尚且つそんなプロの移籍みたいなこと、高校生でやるのは無理があるかもしれない……。

 

「あの!事前に連絡した野球部なんですけど……!」

「あぁ。野球部?そっか、今日だっけ。大変だね、野球部も」

 

 広大なトラックを有するグラウンドで、練習する陸上部の女子たち。

 練習を見ていた顧問に声をかけると、部長の3年生もやってきて、俺に謝った。

 

「ごめんね~。陸部も兼部してもいいって()いないみたいでさぁ」

「い、いえ!お手数おかけしてすみませんでした!」

「野球部も大変だねぇ。去年なんか色々あったみたいだけど……私は応援してるよ」

「……っ!ありがとうございます……!」

 

 陸上部部長の短髪女子先輩は期待には応えられないと言ったが、エールは送ってくれた。

 ここまで色んな部を巡ってきたけど、3年生の部長が口を揃えて言うのは「大変だね」「応援してる」「頑張って」という言葉。

 去年部内でボイコットが起きた野球部だが、3年生からの評判は悪くない。

 問題は2年生だ。特に去年、ボイコットを起こしたのは2年生。故に、2年生では悪評が広がっている。

 

『野球部は、最悪な天才達の巣窟だ』という悪評が。

 

 だから、兼部してもいいという人が出てこないのは、2年生が乗ってこないというのが割と影響している気がする。

 と、なるとやはり人数不足を補う1番の頼りは、去年の夏の事を何も知らない1年生の女子ということになる。

 うーん……兼部してくれる人を探すのは当たって砕けろ前提の策だし、この調子だとささっと全部回って、1年生を勧誘してる廣目に合流した方が良さそうだなぁ……。

 そうと決まればさっさと次行くか。

 

「じゃあ俺はこれで。陸上部の皆さん、お時間取らせてすみませんでした」

「ううん。全然大丈夫!部員集まって夏の大会に間に合うといいね」

「はい!ありがとうござ……いま……―――」

 

 陸上部の部長に頭を下げようとしたその時。

 俺は、視界の端に映る放物線に目を奪われた。

 

 あれは―――"やり"だ。

 

 青い空に、芝が生い茂るグラウンドの間を綺麗な孤を描いて、俺の視界を横切っていく。

 俺は、その放物線を……美しいと思った。凄く、綺麗で、それで……。

 

 突然。本当に突然のことだった。

 俺の中で何か電流でも走るような感覚に襲われた。

 そして、俺の直感が告げていた。

 

 アリアの投球を初めて見た時と同じ感覚だ。

 間違いない、あれは。あの放物線には。

 

 

 あの放物線には―――『規格外』が隠されている。外野手の『補殺』能力が……。

 

 

「あ、あの……!」

「ん?何?どうしたの。まだ何か用事?」

 

 練習に戻ろうとした陸上部の部長を思わず呼び止める。

 俺は、トラックに囲まれたグラウンド中央、芝生エリアで転がっている練習用のやりを回収する……1人の女子を指さした。

 

「あの人……あの人!あの人誰ですか!?」

「えっ。あの人って……あぁ、中宮(ちゅうぐう)?今やり投げしてた()でしょ?」

「はい!」

「だったら中宮だね。中宮(ちゅうぐう) 秋奈(あきな)。2年生だよ」

「……!」

 

 

 ―――中宮(ちゅうぐう) 秋奈(あきな)

 

 俺は、その中宮という名の2年生の先輩、ウルフカットの170cmはありそうな女子に惹かれた。

 アリアの時と同じ、俺は思った。

 

 あの人が、欲しい……っ!と。

 

「あの!あの中宮さんって人と直接話してもいいですか!?どうしても野球部に欲し……じゃなくて、野球部に入って欲しいんですけど!」

「えっ?」

 

 俺の主張に陸上部の部長さんは困惑した。

 そして、暫くうーん……と悩んだあと、顧問と相談して俺に返答してくれる。

 

「まあいいんだけど。さっきも言ったように兼部してもいいって言ってくれた()は一人もいないから、当然あの()も首を横に振った訳で……。多分断れると思うけどそれでもいいなら……」

「だから、直接話すんです!俺と話したら気が変わるかもしれないじゃないですか……!」

「あ、ちょっと……!」

 

 俺は、部長さんの制止を無視して勢いのまま中宮さんの元へ駆け出した。

 そんな俺の背中にボソッと呟く部長さんの言葉が耳に入る。

 

「すっごい自信……なんかスカウトマンみたい……」

 

 そんなことないけどな、とは思ったけどでも部長さんから離れてなんだか恥ずかしさが込み上げてきた。

 ちょっと興奮しすぎたかな。

 そう思うと中宮さんへ向かう足取りも、彼女と早く話したいからというより部長さんから早く離れたいから、という早さに変わった気がする。

 まあでも興奮する気持ちは、仕方ないと自分でも思う。

 

 正直部員集めの、それも望みのなさそうな作戦の中でベストナイン集めの収穫がありそうなのは思わぬぼた餅だった。

 廣目はもうベストナインは中止、天才は集めなくていいと言って、成城先輩は渋々了承したが。正直俺は、成城先輩の目標を途絶えさせるのは勿体ないと思っていた。

 理屈じゃない。

 だって、見たいだろ。男子野球に匹敵するナインを、この世界で……!

 

 だから、俺は彼女に声をかけた。

 

「中宮先輩!あの、野球部の津川です!お話いいですか?部長さんには許可取りました……!」

「……っ」

 

 練習用のやりを回収して汗を拭う中宮(ちゅうぐう) 秋奈(あきな)先輩。

 俺に呼ばれて、彼女が俺に初めて見せた表情は……。

 

「は?何?」

 

 物凄い顰め面だった。

 

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