貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

45 / 148
第45話:ダウナー系一匹狼男子(逆転ver)は、強肩外野手

 

「野球部が私に用事って……部員不足で兼部募集してたやつでしょ。それが何。何の用?私もう断ったはずなんだけど」

「あ、あははっ……まあそうなんですけど。中宮先輩すごく野球向いてそうだなと思ったので、直接交渉に来ました」

「……は?」

 

 険悪な雰囲気で迎えられたので、少し笑顔も作りながら説明したが、余計に険しい表情になってしまった。

 

 中宮(ちゅうぐう) 秋奈(あきな)先輩。

 獅ノ宮(しのみや)学院高校、陸上競技部やり投げ・砲丸投げ選手。2年生。17歳。170cm。

 そして、俺様キャラの逆転であるアリア、天然男の逆転である廣目に続き、男子並みの天才達で構成される『獅ノ宮ベストナイン』候補の8人目。

 

 彼女の第1印象は、ダウナー系一匹狼男子。その逆転ver。

 特にそれを際立たせる属性ピッタリのウルフカットの彼女は、前髪をかきあげて、俺を睨みつける。

 

「迷惑なんだけど。野球とか、やる気ないし」

「そ、そこをなんとか……!」

「ウザ」

「えっ」

 

 悪態を吐き捨てて、中宮先輩は練習用のやりを手に俺から離れていく。俺は、その背中をボーッと眺めていた。

 ……いや、眺めてる場合じゃない!つい女子からの蔑みにクリティカルヒットを食らってしまった。

 落ち着け。ここは逆転世界。俺はこの世界では女子。大丈夫……大丈夫。多少強引にアプローチしても、嫌がられはするだろうが問題にはならない。

 ……はず!

 

「あ、あの!そう言わずに、話だけでも聞いてくれませんか!?中宮先輩、本当にセンスありそうで……!あ、野球に守備ってあるの知ってます?」

「……知らない。どうでもいい。ついてこないで」

「……っ!ポ、ポジション別に失点を守る時があるんですけど……その中でも中宮先輩は外野適性がありそうなんですよ!いや、ほんと、『天才』ってくらい……!」

「―――えっ?」

「えっ」

 

 初めて。初めて、俺の話に彼女は振り返った。

 俺のどの言葉に反応したのかはわからないが、とにかく初めて俺の話に反応を示した。

 なんだ?なんで急に無視せずに振り返ってくれたんだ?わからない。わからないけど……!このチャンスを逃す訳にはいかない。

 口を止めるな!!

 

「あっ。えっと、外野っていうのは簡単に言えば、相手が打った球が遠くに飛んだ時にそれを捕る人のことなんですけど……!」

「……なんで私がその……外野?ってやつ、上手いと思ったの?」

「えっ。あっ。そ、それは」

 

 まさか向こうから質問が飛んでくるとは思わなくて戸惑った。

 中宮先輩は用具を回収しながら俺に話しかけてくれた。

 彼女は俺に背中を向けつつも、チラッと目線だけで俺を見る。

 

「……っ!えっと……センスあるだろうなって思った理由は、ボールを捕った後、ベース上……じゃなくてフィールド上を走ってる相手選手がいるんですけど。その人達が次の場所へ走るのを、ボールを投げて防ぐ時、その次の場所でアウトにする時があるんです。『補殺』って言うんですけど」

「……?よくわかんないんだけど。遠くに飛んできたボールを捕る人が、またボールを投げるの……?」

「あ、あはは……難しいですよね……」

 

 中宮先輩が興味を持ってくれたのはいいが、俺の説明が悪いのか、彼女は理解出来ず首を傾げてしまった。

 んー……どういったらいいかなぁ。野球のルールを根底から全く知らない人に話すには、野球のルールって複雑すぎるんだよなぁ。

 とにかく、『補殺』のセンスがあるって伝えたいだけなんだけど……。

 

「……要するに、私に、遠くへボールを投げるのが上手そうって言いたいの?」

「そ、そうです!それです!理解早くて凄い……!」

「いや。別にそんなんじゃ……」

 

 俺が褒めると、中宮先輩は恥ずかしそうに赤面してそっぽを向いた。

 意外とシャイなんだろうか。なんかちょっと原田先輩っぽい性格な気がする。

 

「……」

「あれ?えっと、どうしました?」

 

 急に黙り込んでしまった中宮先輩。

 一体どうしたというんだろう。

 そう思って彼女の顔を覗き込んだら、彼女もまた、俺を見た。ただし、暗い表情で。

 

「悪いけど。私がやり投げとかしてるから、()()へ投げるのが得意って思ってるなら……それはお門違い。他を当たって欲しい」

「えっ。いや、そういう訳じゃ……!なんでそういう……!」

 

 彼女は急に乗り気じゃなくなると、荷物を纏めてグランドから出る方へ歩き始めてしまった。

 俺の呼び声には、彼女も足を止めて、背中を向けながら少しだけ振り返る。

 

「私は……()()()()()()()()()じゃ()()()()()

「えっ―――」

 

 意味深なことを言い残して、中宮先輩は去ってしまった。

 取り残された俺はただ、彼女の後ろ姿を見つめることしかできない。

 それでも俺は、彼女の背中に声を掛け続けた。

 

「中宮先輩!絶対、絶対先輩には『補殺』の『()()』があると思わんです……!だから……。だから……!」

「……っ」

 

 俺の言葉を聞いて、一瞬だけ足を止めて反応した中宮先輩。

 でも。それは本当に一瞬で。すぐにまた歩みを再開してグランドを後にしてしまった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。