貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
「中宮ってやり投げも砲丸投げもぶっちゃけ才能ないよね」
「いや、そもそも記録どうでもいいって話じゃん!遠くへ飛ばすより、どれだけ綺麗に投げるかに拘ってるんでしょ。理解できないわ~」
「記録残してなんぼでしょ。県体出たくないのかな?あの
『ね~!』
「……」
ある日、更衣室に入ろうとしたら部員のそんな声が聞こえた。私は、扉の前に突っ立って、地面と見つめあっていた。
……別に、どうでもいい。
何をどう言われたって、誰に何を言われたって、私にとっては美しい軌道を描くことが全てで。ただ綺麗に投げたいだけ。
遠くへどれだけ伸ばすかなんて、そんなのどうだっていい。
それに拘って仲間ができないならそれでもいい。
別に私は、仲良しこよしがしたくて陸上をやってる訳じゃない。
陸上が好きだからやってる。
やり投げと砲丸投げが好きだからやってる。
そして、私の拘りは美しさ。
全部、それでいい。
「秋奈。部活動、いつまで続けるんだ?なんだか才能ないって話じゃないか。……だったら続けてても無駄なんじゃないか」
「うるさい。ほっといて。お父さんには関係ない」
「関係ないことないだろう。誰がやり投げだの砲丸投げだのの練習用具買ってあげてると思ってるんだ、母さんだろう。大体陸上競技なんてお金ばっかりかかって……」
「他の競技よりマシなのにそのくらいで音を上げるんだ。情けないね」
「……っ!親に向かってなんて口の利き方だ……!お金をなんだと思って……!」
「まあまあ。お父さん。落ち着いて。いいじゃない、まだ2年生なんだし。秋奈の好きにさせてあげても……」
「もう2年生だろ!?お母さん、そればっかり!もう受験期近いんだぞ!キー!」
「……」
地獄みたいなやり取り。
私に働いたお金を使ってくれてるお母さんは理解があって、家で家事してる専業主夫のお父さんは私に教育方針を押し付けてくる。
くだらない。うるさい。何もかも、雑音だ。
私は、ただ美しく、あの軌道を描きたいだけなのに。
それが私の―――全てなのに。
「……何が才能だ。……何が記録だ。誰と争ってんだ。私は……」
暗い部屋の中で親に買ってもらった用具に涙を与える。
邦楽を聴きながら、周りの人みんな芸術家だったらいいのに、なんて。
私の拘りを理解してれる人だけに囲まれて生きたい。
そんな人、いるのかな。