貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第47話:涼香と秋奈

 

「中宮先輩ってやっぱり陸部に必要不可欠な凄い選手なんですか?」

「えっ?いや、それは……」

「えっ」

 

 俺はてっきり中宮先輩は陸上選手として凄い人なのかと思っていた。

 素人目の俺でさえ彼女の描く放物線に惹かれたんだ。だから、きっと見る人が見れば凄まじい将来性が秘められている違いない。そう睨んだ。

 だが、陸上部の部長さんに話を聞くとどうも反応が渋い。

 

 部長さんは言っていた。

 中宮 秋奈にやり投げ、砲丸投げの才能はない。

 言葉を選ばずに言えば下手の横好きだと。

 

 それでも、やはり俺にとっては彼女は魅力的な素材型だった。

 決して遠くへ飛んでいる訳ではないが。あの放物線は、芸術的だ。

 

 陸上競技。種目、やり投げ。

 その採点基準は飛距離。だから、今見た放物線は決して目を見張るようなパフォーマンスだった訳じゃない。

 でも、もし芸術性での採点もあったら、俺が今見た放物線は世界中から褒め称えられていただろう。

 それくらい綺麗だった。

 

 陸上競技のやり投げとしては何とでもないかもしれない。それでも、間違いない。

 彼女は強肩外野手の逸材だ……!

 

「中宮先輩!野球部の津川です!またお話いいですか?」

「良くない。しつこい。もう来るな」

「あっ……」

 

 昼休み。2年生の教室まで行って彼女に声をかけたが、弁当を持って去ってしまった。

 まあ行きすぎな行動だったから当然の反応だ。

 でも、もっとぐいぐい行きたい。

 例え彼女に嫌われてでも、野球部に入って欲しい。ベストナインに加わって欲しい!きっと、野球部の為になるから……!

 

「ちょっと。津川、あんた変な噂になってるから2年生の教室に来るのはやめときなよ」

「は、原田先輩……」

 

 意気込んですぐ、中宮先輩を追いかけようとした俺を原田先輩が後ろから肩を叩いて止めた。

 振り向くと中宮先輩と同じ教室に原田先輩はいた。奥に霧島先輩も席に座って肘をついて苦笑いしながら俺を見てる。

 原田先輩と霧島先輩、どうやら2人は中宮先輩と同じクラスっぽい。

 俺を制止した原田先輩は周りをチラッと見ながら俺に耳打ちする。

 

「ほら。みんなの視線ヤバいから」

「えっ。あっ……」

 

 原田先輩に言われて周囲を見渡すと、原田先輩のクラスの人たちが教室の中でヒソヒソと話しながら俺を見ている。

 どうやら中宮先輩のことに夢中になりすぎて周りの変な注目を集めてしまったようだ。

 

「あのさ。あんたが追いかけてるの、中宮さんだよね?あの()が何。野球部に誘ってんの?」

「は、はい。肩が強そうで補殺の才能がある外野手候補だと思うんです……!」

「へぇ。あの()が?……ん?ていうか誰でもいいから部員集めろって話じゃなかったっけ?才能って……冬華が言ってたベストナインの件じゃないの?」

「はい。なんか、部員集めの時に見つけちゃって……」

「ふーん。アリアの時といい……よく見つけるね、津川。でも、もうちょっと穏便にやりなよ?あんた、今傍から見たらヤバい奴だから」

「す、すみません。気をつけます……」

 

 原田先輩に注意を受けて、苦い感情になる。

 そんな俺を見て、原田先輩は目線を泳がせた後、咳払いを挟んで上目遣いで俺を見る。

 

「な、なんか苦戦してるようだったら私、手伝おうか……?」

「えっ。いいんですか?あっ、でも廣目は俺に一任して原田先輩たちは……」

「何もしなくていいとは言われたけど、するなとは言われてないでしょ。大体、廣目やアリアはともかく私達はメンバー集まるまでやることないし。手伝わせてよ」

「……!」

 

 嬉しい申し出だ。

 正直中宮先輩に対しては猛アタックくらいしかもう打つ手がなかった。

 ここに野球歴の長い原田先輩が加われば、野球について中宮先輩にもっと知ってもらって、興味を持ってもらえるかもしれない。

 なら、返事は決まりだ。

 

「是非お願いします!」

「お、よっしゃ。私達の問題でもあるのに津川の負担が大きいの、気になってたんだよね。これからはじゃんじゃん手伝うからね。いいよね?」

「はい……!ていうか、俺の事そんなに気にかけてくれてたんですね!原田先輩やっぱり優しい!」

「なっ……そ、そんなんじゃないから!私が気にしいなだけだから!義理と人情だから!」

「それ、ヤクザじゃないですか」

 

 テンパりすぎた原田先輩にツッコミを入れて、改めて原田先輩には手伝いをお願いした。

 

 そして、早速放課後。

 終礼後に素早く2年生の教室に向かった俺は、陰ながら原田先輩が中宮先輩に接触するのを見守る。

 

(よし。行くよ!)

(はい!頑張ってください!)

 

 教室の外にいる俺とアイコンタクトを取る原田先輩。

 霧島先輩が「大丈夫か……?」と傍目に見守る中、原田先輩は教室の隅っこに座る中宮先輩の前の席に座った。

 

「中宮さん。ちょっといい?」

「……誰」

 

 一瞬、二人の間に沈黙が流れる。

 原田先輩が中宮先輩を二度見した。

 

「えっ。嘘でしょ。同じクラスになってもう2ヶ月経つんだけど」

「……冗談。原田さんでしょ。野球部の。関わりたくなかっただけ」

「結構ハッキリ言うんだ。ねっ、どうしても野球やるの嫌?」

「嫌。……嫌っていうか私の時間は全部やり投げと砲丸投げに使いたいから。他のことはやりたくない」

「そっか。いいね。好きなんだ、やり投げと砲丸投げ」

「……う、うん。えっ」

 

 俺があんなにも会話すらさせてくれなかった中宮先輩と、あっという間に言葉を沢山交わし合う原田先輩。

 あまりにもすんなりとスムーズに話を通すの、凄い。

 それに、中宮先輩の"好き"に肯定で返した原田先輩。

 そんな彼女の返しに中宮先輩は面食らって、目を見開いている。

 中宮先輩の机に肘をついて、手のひらに顎を乗せる原田先輩は、中宮先輩の反応に、「ん?」と微笑みながら可愛らしく小首を傾げた。

 

「ねっ。やり投げと砲丸投げってどう楽しいの?私、他の競技あんま見ないけど興味はあるんだよね。ねっ、教えてよ!」

「……っ!あっ……えっと、じゃあ……私の好きな選手の動画とか、見る?」

「えっ、マジで!?見たい見たい!見せてよ」

「う、うん……」

 

 あっという間に打ち解ける原田先輩。

 身を乗り出して中宮先輩のスマホを覗き込む。

 中宮先輩は慌てて動画を検索して、スマホ画面を原田先輩に向けた。

「えっ、一緒に観ようよ!」と笑う原田先輩に、中宮先輩は「……っ!うん」とちょっと表情が柔らかくなって、スマホを横画面にして2人で顔を並べて覗き込む。

 仲睦まじくなって大変関係は良好だが……原田先輩、趣旨忘れてないか?

 

「……俺も行った方がいいかな?」

「いや。ありゃ良い感じだからお前は行かない方がいいと思うぜ」

「あ、霧島先輩」

 

 俺が教室に入ろうとしたら霧島先輩が出入口まで来て止めた。

 隠れてる俺に、教室の端で壁にもたれる彼女は腰を折って、俺にコソコソ話しかける。

 ちょうど俺と霧島先輩が、中宮先輩と原田先輩の対角線上にいる位置取りだ。

 

「涼香はオタクだからな。まずはああやってスポーツ好き同士仲良くなるところから始めんのが定石じゃねえの?」

「な、なるほど……まずは関係性を築くんですね」

「お前は強引だったからなぁ~」

「うっ……」

 

 確かに霧島先輩の言う通りだ。

 まずは関係性。これは部員集めの活動の中でも主軸にしていくべきことだな。

 とりあえず、今回は原田先輩に一任して静観しよう。霧島先輩の言う通り、今のところいい感じだし!

 

「別に有名な選手じゃないんだけど、投げ方が好きな選手がいて……」

「うわ。わかるわ。そういう選手いるよね~!ちなみにどの辺がいいの?教えて!」

「……っ!えっと、凄く綺麗に投げるっていうか……私の理想で……」

「あー、フォームが好き的な?あるある!野球でもあるよ。そういうの」

「そうなの?へぇ、意外と共通点あるんだ」

 

 中宮先輩がボソッと零した一言に、原田先輩は穏やかな表情で、でも真剣に告げる。

 

「うん。あるよ。きっとある」

「……っ!」

 

 真剣な原田先輩と向き合って、中宮先輩は瞠目する。

 中宮先輩にも、原田先輩の本質が理解出来た。

 彼女は信じてるんだということを。スポーツをやる者同士、きっと通ずるものがあるって。

 本気で。本気だから、中宮先輩にも響く。

 そんな原田先輩は、一転して不安げにしどろもどろになりながら中宮先輩を上目遣いで見る。

 

「だから、さ……。ほんとしつこくてごめんなんだけど、津川の話もう1回だけでいいからちゃんと聞いてあげてくれない?私も同席するからさ」

「……原田さん」

「涼香でいいよ。秋奈って呼んでもいい?」

「……それは」

「ダメ?」

「……」

 

 中宮先輩が視線を落とす。

 やり投げ選手の動画が垂れ流しになったスマホは、そっちのけで横たわってる。

 中宮先輩の手を原田先輩が取った。

 

「一緒に、津川の話聞こ。大丈夫。津川もきっと無理やり野球押し付けたりなんてしない。中宮さんのやり投げと砲丸投げが好きな気持ち、ちゃんと大切にしてくれる。私はそう信じてる」

「……!」

 

 微笑む原田先輩に、中宮先輩が目を見開いて顔を上げる。

 原田先輩の言葉に、隠れて聞いていた俺もその信頼がとても嬉しかった。

 

「……っ。原田先輩……」

「こりゃ下手は打てねえな、津川」

「……はい」

 

 霧島先輩がニヤつきながら言って、俺はちょっと泣きそうになりながら頷く。

 俺と原田先輩の関係性は俺のせいで最初最悪だったのに、こんなにも彼女は俺を信じてくれている。

 俺も、彼女の信頼に……応えたい。

 

「どうかな、中宮さん」

「……秋奈」

「ん?」

 

 尋ねた原田先輩に、中宮先輩がボソリと呟く。

 聞き取れなかった原田先輩は小首を傾げた。

 その様子を見て、中宮先輩は少し顔を赤くしながら肘をついて、そこに顔を乗せて口元を隠す。

 

「秋奈でいい。……涼香」

「……!」

 

 中宮先輩の言葉をようやく聞けて、目を見開く原田先輩。

 彼女は嬉しそうに身を乗り出してはしゃぐ。

 

「ほんとに?秋奈って呼んでいいの?マジ!?」

「大袈裟すぎ」

「だって嬉しいじゃん!やった。よろしく、秋奈!」

「……うん。よろしく、涼香」

 

 2人は友達になった。

 笑顔の原田先輩と、素っ気なさそうでちゃんと口元を緩めている中宮先輩。

 なんだか、2人には通ずるものがあったようだ。

 

「せっかく同じクラスなんだしこれから仲良くしようよ」

「はいはい」

「お、それは好感触のやつでしょ。なんか分かってきた!」

「~~~っ!……うるさ」

 

 原田先輩がイタズラっぽく弄ると、中宮先輩は恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 仲睦まじくなったところで、原田先輩は改めて、優しく尋ねる。

 

「……私達の話、聞いてくれる?」

「……」

 

 真剣な表情でしっかりと中宮先輩を見てる原田先輩。

 対する中宮先輩は、横目でチラッと原田先輩を見た後、一度俯いて、また原田先輩を見る。

 

「……聞く」

「ほんと!?」

「言っとくけど。1回だけだから」

「うん。わかってる!ありがとっ、秋奈」

「……涼香も絶対一緒だから」

「わかってるって!絶対付き添うから!ねっ」

 

 原田先輩が交渉の場を掴み取ってくれた。

 凄い、大手柄だ!

 

「な?任せといてよかったろ?」

「……はい。原田先輩、さすがです」

 

 霧島先輩に小突かれて、俺は認めざる負えないことを受け入れた。

 彼女の制止を聞いてよかった。原田先輩というワンクッションを置くことはすごく大事だった。

 それに、"欲しい"と思った選手に対するアプローチの仕方も原田先輩から学んだ。

 それに、わかったぞ。中宮先輩の攻略の糸口が……!

 

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