貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第48話:境遇の共通、そしてあと1人

 

「で、どういう作戦でいくわけ?」

「それはですね……」

 

 原田先輩のおかげで中宮先輩との時間を設けてもらった。

 そして、約束の時間は陸上部が休みとなっている木曜日の放課後。

 俺は昼休みに原田先輩と同席して、作戦を聞かれた。

 なんかもう原田先輩は中宮先輩と仲良しになって、完全に彼女の味方と化してるので下手な作戦を提示しようものなら約束前に却下するらしい。

 寧ろ、原田先輩の目利きを通してからっていうのはありがたい。

 原田先輩がGOサインを出してくれるなら、確証を持って交渉に挑めるってもんだ。

 

「陸上部の部長さんに聞いたんですけど、中宮先輩って親が厳しいらしくて……やり投げというか陸上そのものを辞めるように言われてるんらしいんですよ」

「―――っ!!」

 

 食事をしていた原田先輩が箸を止める。

 目を見開いて、凄い顔で俺を見た。

 えっ。何……!?なんか俺変なこと言った……?

 

「あっ。ご、ごめん。続けて」

「えぇ……いや、なんか今只事じゃない感じでしたよね?どうしたんですか?」

「……なんでもないから。気にしないで。お願い」

「……!す、すみません……わかりました」

 

 原田先輩が前髪を弄って目元を隠し、何でもないと何度も手振りするので、俺も追求は避けた。

 彼女に言われた通り、中断していた話を再開する。

 

「えっと……そういう家庭事情なんで、なんか私物の練習用具とかも没収されたりし始めてるらしいんですよ」

「……っ。……同じだ」

「えっ?」

 

 ボソッと呟いた一言が気にかかった。

 でも、「ごめん。続けて」と言う原田先輩の手前、根掘り葉掘り聞くに聞けない。

 さっきから原田先輩の反応にはなんとなくその内情を察するものがあるが……今は流すしかない。

 本人が話したくなさそうなのだから。

 それを掘り起こすなんで嫌だ。

 

「……えっと。だから、こっちで用具用意して野球もやりつつ陸上もできる環境を作るっていうのを考えてるんですけど……」

「……!用意するって……買うの?」

「まあ、はい」

 

 驚いたように俺を見る原田先輩。

 ここまで聞くに徹していたが、彼女は俺の作戦内容に介入してきた。

 

「いやいやいや。そこまでする?結構するでしょ、そういうのって。誰が買うの?誰がそのお金払うの?」

「それは……俺の自費で」

「は!?」

 

 思わず身を乗り出す原田先輩。

 ……まあなんとなく食いつかれるかなとは思ってたけど。

 成城先輩の時もそうだったし。

 

「いや、おかしいって。そこまでする?あんた、熱量おかしいよ。いくら才能がありそうだからってあんたには秋奈がどう見えてるわけ?」

「……っ。言いたいことはわかりますけど、でもこっちで買ったものならさすがに中宮先輩の親も手は出せないですし、保管とか管理も野球部ですれば……中宮先輩も自由に使えるじゃないですか」

「そりゃそうだけど!~~~~~っ!」

 

 俺の言い分を聞いて眉間を抑えてうーん……!と天を仰ぐ原田先輩。

 暫くウンウン唸ると、急に落ち着いてまた席に着いた。

 

「……待って。一旦落ち着いて考える」

「は、はい」

 

 原田先輩の言いつけ通り少し待つ。

 ……何考えてるんだろう。そう思いながら彼女が集中してるのをいい事に、こっそり彼女の顔を眺めた。横目で。

 数分くらい考えた後、原田先輩は覚悟を決めたように顔を上げる。

 

「……わかった。あんたの作戦乗る。ただし、私もお金出す」

「えっ!?」

 

 衝撃の展開になった。

 いやいやいや、原田先輩が身銭を切る義理なんてどこにも……!

 

「いや、悪いですよ!」

「……っ!悪くないでしょ!部のために秋奈を勧誘するのに、その為の出費があんたの自費負担って……アリアの時もそうだけど、あんたのその自己犠牲みたいなの、全然嬉しくないからね……っ!!」

「……っ!」

 

 原田先輩の叱責を受けて、自分を見つめ直す。

 確かに。俺のやり方は彼女達に負い目を感じさせてしまう良くないやり方かもしれない。

 原田先輩の言う通りだ。

 

「……す、すみません」

「いや。ごめん。言い過ぎた。でも、気持ちは変わらないかも。罪悪感からの自己犠牲とかもうほんとやめて。何回も言わせないで。もう……そもそも罪悪感とか要らないってずっと言ってるじゃん」

「別に罪悪感からって訳じゃなくて、必要経費だと思っただけなんですけど……でも、気をつけます。もうしません」

「んっ。そう。絶対だよ。約束」

「……はい」

 

 原田先輩に上目遣いで念押されて、俺はドキッとしながらも承諾した。

 これで、これからは同じやり方はしないと思う。

 なんだか、彼女とする約束は絶対に守りたいと思うから。

 ただ、金銭面での問題が新たに出てきたな……これで。

 

「えっと。じゃあ……部費とか出るんですかね?」

「あー……どうだろ。確かに部の活動の為の経費だけど、さすがに全額は無理じゃない?大体部費だってそんないっぱいある訳じゃないし」

「そうですよね……」

 

 俺と原田先輩がどうしたもんかウンウン唸る。

 そこに、完全に意識外から話の中心になってる人の声が飛び込んできた。

 

「ねえ。別にそこまでしなくていいから」

『……っ!』

 

 1番聞かれてはいけない人が俺たちの席を見下ろしていた。

 いつからいたんだ!?え、どこから聞かれた……?

 ていうか約束の放課後を待たずして昼休みに全部知られてしまったぞ……!

 

「ちゅ、中宮先輩……いつから……」

「近くの席にたまたまいて、ずっと聞いてた。別に盗み聞きするつもりじゃなくて、涼香と一緒に食べようと思ってたんだけど……声かけるタイミングなくて」

「あ、あぁ……ごめん。全然気付かなかったや」

「ううん。大丈夫。それは全然」

 

 謝る原田先輩に中宮先輩が首を横に振るう。

 そして、俺は恐る恐る彼女に声をかける。

 

「あ、あの中宮先輩……」

「入るよ。野球部」

「えっ?」

 

 は?えっ。今なんて?

 ヤキュウブハイル?野球部入る!?入る、野球部!?なんで!?

 

「えっ!?いいんですか!?ていうか、なんで……!」

「……別に。さっきも言ったけど用具買うとかそういうのいいから。そんなお金とか使われたら断れないでしょ。買収だよ、それじゃあ」

「……っ!すみません……あれ?だったら、どうして……」

 

 俺がなぜ入部を承諾してくれたのか理解できず、尋ねると。

 彼女は目線を落として告げる。

 

「言っとくけど、兼部だから。陸上はやめない。兼部を決めたのは……あんたが馬鹿だから」

「えっ」

「んふっ!」

 

 キッパリと言い捨てる中宮先輩に、口元を隠して俺から顔を逸らして堪え切れない笑いを漏らしてしまった原田先輩。

 いや、意味がわからないんだけど。

 俺が馬鹿だから入部を受け入れてくれた……?どういうことだ!?

 ていうか原田先輩はなんで笑ってんだよ!!

 

「えっ!?なんで原田先輩笑ってるんですか!?ていうか俺が馬鹿だから兼部してくれるって意味が……」

「私に野球部入って欲しいからって用具買おうとするとか馬鹿でしょ。ほんと、何その熱意。意味わかんない。いくらするか本当にわかってる?」

「いや。それはまだ調べてないですけど……」

「はぁ……そんなことだろうと思った」

 

 俺に呆れたというように溜息をつく中宮先輩。

 彼女は半ば伏せた目と素っ気ない態度でそっぽを向きながら、髪を耳にかける。

 

「用具買うとか、要らないから。ただ、あんたがそこまでするほど野球に夢中なのはわかった。あんたが……野球バカだから、真剣に私を誘ってるのわかったから、勧誘は受けてあげる」

「……っ!」

 

 聞き間違いじゃない。

 確実に承諾した。

 予定とは違ったが、中宮先輩が野球部に入ってくれる……!よっしゃ!

 謎は多いがそれ自体は喜ばしいことだ!

 俺は思わず席を立ち上がって彼女に感謝する。

 

「ありがとうございます!あ、あの練習とか……嫌だったら週1とかでもいいんで!外野守備だけ先輩達に教わってもらえれば……!」

「は?そんな中途半端、嫌。練習はできるだけ出るし、やるからにはちゃんと向き合って本気でやる。本気でやらないなんて……本気でやってる人に失礼でしょ」

「あー。優希の耳元で永遠に聞かせてあげたいわ。それ」

「優希……?あぁ、2組の美山さん?そういえば野球部のエース?なんだっけ。なんか去年全校集会で表彰されてたよね」

「そっ。才能も実力もマジ神だけど練習しないしやる気ないし、性格悪いし。最悪」

「……チームワーク大丈夫なの?それ。野球ってチーム競技だよね?」

「まあ……はい。なんとかやってます……」

 

 中宮先輩が訝しんだ表情になってしまった。

 美山先輩の話はまずいな。

 中宮先輩みたいなアスリート志向な人は、彼女のことを知ると意思が変わってしまうかもしれない。

 とりあえず今は誤魔化しておこう。

 

「秋奈!ねっ、私が言った通りだったでしょ?秋奈が陸上好きな気持ち、ちゃんと大切にしてくれるって」

「……まあ。ちょっとやりすぎだったけどね」

「あはっ!確かに~!」

「うっ……すみません」

 

 原田先輩がはしゃぐ。

 ご機嫌といった感じでちょっとイタズラっぽい笑みで俺を指さしてからかう。

 入部した時の最低な俺じゃ絶対に拝めなかった原田先輩の本当の姿だ。とても可愛らしい。

 原田先輩はハイテンションのまま、中宮先輩のてを取った。

 

「秋奈、これからもっとよろしくね!一緒に野球できるの、すごく嬉しい!私、何でも教えるから……!」

「うん。頼りにしてる。涼香」

 

 手を取り合う2人。

 原田先輩はとても嬉しそうだった。

 

 中宮先輩の境遇と自分を重ねていたから。

 彼女が愛するやり投げと砲丸投げを大事にしつつ、野球部にも入ってきてくれる。

 その形に落とし込めたのが心底、自分の事のように嬉しいんだ。

 

 俺は、まだその事を知らない。

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