貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第49話:とある日の獅ノ宮練習風景

 

 中宮 秋奈が獅ノ宮野球部に入って、初めての練習参加日。

 部員との顔合せもほとんど終えて、さっそく廣目にその才能の適性を"視"てもらっていた。

 

「なるほど。送球の精度は確かに素晴らしいですね。天性のモノ……というよりはやり投げや砲丸投げに真剣に向き合って、飛距離ではなく芸術性を求めたが故に送球に適している」

「……!遠くに投げるのが大事じゃないの……?」

「はい。寧ろ速さとかの方が大事ですね。投げるまでの早さ、球自体の速さ。遠くへ飛ばすよりバウンドを挟んででもいいからできるだけ早く正確にランナーを刺す。それが外野手の送球に望まれる能力です」

 

 廣目は身振り手振りを加えながら淡々と説明していく。

 中宮はグラブを手に、腰に手をつきながら真剣に聞いていた。

 

「中宮先輩の送球動作には無駄がないですね。捕球やハンドリングはまだ改善の余地ありですが、投げる動作に入ってからが素晴らしいです」

「……近く、二塁とか三塁……だっけ。そこに投げる時は砲丸投げの要領で、あんたがいるとこに投げる時はやり投げの要領で投げてる、かな」

「内野を刺す時はノーバンに、ホームを刺す時は速く鋭く、そしてどちらもコントロールは正確。という訳ですね」

「……ほんとに私に才能があったっていうわけ?」

「はい。津川先輩の目利きは確かです。私も驚きました。彼は何か、素材を見抜く能力に優れているようですね」

「……そう」

「ただ、才能だけではないと思います」

「……!」

 

 廣目の言葉に中宮が目を見開く。

 彼女は、中宮に向かって柔らかく笑みを作り、秋奈の愛するものに対して敬意を払う。

 

「中宮先輩が、やり投げと砲丸投げに真摯に向き合ってきたからこその産物です」

「……あんた、良い奴だね」

 

 まだ14歳の少女とは思えない気遣いの良さ。

 中宮は感嘆した。

 そこに、対称的なアメリカ人が乱入する。

 

「おい!このアリア様の方が良い奴だぞ!」

「うわっ」

 

 ズカズカとグランドを歩いてきて、口を開くや否やガキ大将の如くでかい態度で突っかかってきたアリア。

 そんな彼女に中宮は顔を顰める。

 初対面で初手から嫌な顔をされたアリアは、訝しむ。

 

「なんだ今のうわって」

「……別に。めんどくさそうだなって思っただけ」

「なんだとぉ!?いいか?よく聞け!私は神だ!!崇めろ!!」

「うわっ」

 

 改めてドン引きする中宮。

 関わりたくないタイプだと思いつつもこれからはチームを組んでいかなければならない。

 嫌だな……と内心思うが、やると決めたことを曲げる方が嫌だ。

 だから、彼女とも時間をかけてやっていこうと重い腰を上げることにした。

 でも、野球部にいるのは何もアリアのような人ばかりではない。

 常識人も後から会話の輪に入ってきた。

 

「おいおい。ウザ絡みすんなっての。アリア、あたしとバッティング練習しようぜ」

「ハッハー!馬鹿が!このアリア様から打てる奴なんていねえぞ!」

「……いや、お前も打つ側の練習だし、未来(みく)に打たれてんだろ。何回やるんだこのやり取り。大体先発投手なんだから試合でバッターボックス立つの忘れてねえよな?」

 

 バカなアリアに呆れたように顔を顰める霧島 紗永(さえ)

 バットを肩に置く彼女の姿を見て、中宮は思い立つ。

 

「あっ。ねえ、私もバッティングやってもいい?」

「あ?マジか。どうする?廣目」

「ふむ。まあ野手ですので、バッティングも見ておきましょうか」

 

 中宮の申し出に、副部長兼教育係の廣目に一旦確認を取る霧島。

 承認を得たので「オッケ~。じゃあ、準備するぜ」とその場を後にした。

 そんな一同のやり取りを聞いた原田がアップを終えて部活動に参加してくる。

 

「おっ?バッティング練習?」

「はい」

「津川~!バッティングだって」

「はい!球拾いでも何でもやります!」

「監督やりてぇとか言ってたヤツが今じゃめちゃくちゃ献身的なマネになってんじゃねえか……」

 

 霧島が準備をしながら津川の変貌に苦笑いする。

 入部してきた頃とはえらい違いだと。

 本人も、そんなこと忘れたかのように、もうマネージャーのような仕事だってノリノリだ。

 

「へへっ。雑用は雑用でも、練習に参加するタイプの球拾いとか守備とかめっちゃ好きです!先輩達と野球できるの楽しい!」

『……!』

 

 津川がとにかく楽しくて仕方ないと無邪気な笑みを浮かべながら、霧島の作業の手伝いに参加し始め、津川の明るく屈託ない表情に女性陣一同は胸を打たれた。

 特に原田にクリティカルヒットして両手を合わせながら悶える。

 

「やだ。可愛い!健気な後輩になっちゃって……!津川、私のグラブ貸したげる!」

「マジすか!?やったー!『名手』の原田のグラブだ!すげー!」

「……アイツらなんか秋奈の件で協力してから一段と仲良く……つーかイチャつき出してねえか?」

「おや。知らないんですか?あの2人、結構仲良いですよ。野球ファン同志らしくて結構話し合うみたいで」

「マジか」

 

 霧島が参加してなかった岩手遠征での道中のこともあって津川と原田は最近仲が良くなってきている。

 霧島は原田と仲もよくクラスメイトでもあるが、津川とのことは完全には把握していない。

 2人がよく部活中に雑談しているのをよく見るようになった程度だ。

 が、逆に廣目はよく見ている。

 居合わせた場面は少なくとも、少ない情報から的確に分析できるのだ。

 "視"ているから。

 

「中宮先輩、バッチコーイ!」

「……よし」

 

 準備を終えて、原田がマウンドに立ち、津川が二塁付近で球拾いに徹する。

 バッターボックスに立つのは中宮。

 メットを被り、真剣な表情で原田の投じる球をよく見た。

 そして、100km/hくらいの低めストレートを上手くすくい上げる。

 

「うおっ!?いい打球!すげ!」

 

 しっかりバットを振り切った中宮の打球が津川の頭を超えて、津川がはしゃぐ。

 彼の反応がいいのと同様に、廣目達から見ても目を見張るものがあった。

 

「おぉ!結構センス良いなぁ」

「はい。成城先輩や長門先輩みたいに異次元の才があるという訳ではないですが、並の球児くらいの能力はありそうですね。初心者なのに凄いです。コンタクトが上手いですし反射神経に運動神経、動体視力と申し分ないですね」

 

 あくまで初心者にしては良いセンスというだけだが、それでもこれから磨けばいいものになる素材を感じた。

 獅ノ宮の弱点は打線。以前、鴎坂高校の都熾(とし) 哉宵(やよい)に言われた事だ。

 美山、成城、長門という"点"として捉えた時の"打力"はあっても、"線"で捉えた時の"繋がり"がない。

 後から聞いた廣目も確かに的を射た意見だと思った。

 その中で、強肩外野手の適性がある上に打撃センスもそれなりにありそうな中宮はかなり有り難い存在。

 正しく、育てがいがあると言える。

 改めて、廣目は彼女を見つけた津川に唸り、彼に視線を向ける。

 彼は多分そんなことは考えていない。自分に人を見つける才があるなど、微塵も気づいてないだろう。

 今も楽しそうに後逸したボールを追いかけている。

 そして、アリアが打たれた原田を指さしてバカにする。

 

「ハッハッ!初心者に打たれてやんの!やーい、凡P!ざーこざーこ」

「ちょ……っ!秋奈、早くアリアに打席代わって!絶対抑える……!」

「おい、アキナ。一生立ってていいぞ。あの凡P降ろしちまえ!」

「……いや、打たせる練習じゃないの?」

 

 アリアの挑発に秒で乗る原田に、中宮が呆れて微妙な顔をする。

 そこに、また遅れて参加してきた部員がグランドに入る。

 

「ご、ごめん!ホームルーム長引いて遅れちゃった……!」

「おっ。未来、ようやく来たか」

 

 長身の長門が練習ウェア姿で部活に顔を出し、そのまま準備をして走り出す。

 

「アップしてきまーす……っ!」

「あの人が唯一の3年生って人?」

「はい。長門先輩です。ウチの長距離砲、ホームランバッターです」

「ま、ホームランか三振か。極端女だけどな」

「……癖強い人しかいないの?」

 

 獅ノ宮野球部の天才は、実際はこの世界の常識を超えた規格外。

 男子野球並の性能を兼ね備えたメンバー。

 しかし、全員が高い能力と引き換えに欠陥を抱える。

 中宮が不安を感じるのも仕方ない。

 とはいえ、彼女にもあるだろう。彼女もまた、同じ人種なのだから。

 強肩で打撃センスもあるが、まだ初心者で送球以外の守備はまだまだ。

 ただ、彼女の欠落は経験値ゆえのものが多い。

 ここに来て、かなり平均値の高い天才が入ってきたと言える。

 逆に言えば、他ほど得意分野が突出していない可能性はあるが。

 そんなことを知る由もなく、今日のグランドでは野球を始めてまだ初日の中宮は、長門の情報を聞いただけで彼女に感嘆するしかない。

 

「でも、凄いね。ホームランってあの柵越えなきゃいけないんでしょ?私はちょっと無理かも……」

「そんなことはないと思いますよ。練習を重ねれば、中宮先輩ならいけると思います。まあ、無理に目指す必要もありませんが。中距離砲もチームには必要な存在です」

「そうなんだ。奥が深いね、野球って」

 

 廣目の捕捉を受けて、中々野球とは複雑そうだと感じる中宮。

 一方で、中宮の打席が終わったあと、アリアの番となりそのアリアを原田が完璧に抑えていた。

 

「よっしゃ!三振!ざーこざーこ、雑魚アリア!」

「ぬ、ぬおぉぉぉ……!ふざけんな、乱闘だ!乱闘!」

「おっ。アリア、今のバット投げ上手(うめ)ぇ!すげぇ、やり方教えてくれー!」

「良いとこ目つけてんじゃねえか、カズヤ~!おー、ヨシヨシ!」

「あっ!ちょ、無視すんな、アリア!てか爆速で機嫌直るじゃん!」

 

 わちゃわちゃするダイヤモンド内の3人。

 津川とはしゃぐアリアに、原田がちょっかいを入れて、練習中とは思えないそんな光景を前に霧島が微妙な顔をする。

 

「何やってんだあいつら……」

「まあ、今のうちは緩くやればいいと思います。部員が集まったら夏の大会に向けて、そうはいかなくなってくるので。フッ。全員死ぬまで練習させてやりますよ。私の考える超的確トレーニングメニューで」

「サラッと怖いこと言うな、お前……」

「そっか。もうすぐ夏か。確かに……大会の季節だね」

 

 廣目の言葉に、中宮が暑い日差しを見上げる。

 空も青い。

 感じる。

 もうすぐ、夏が来る。

 

「あれ?そういえば、部員って9人って言ってなかったっけ。1人は美山さんとしても、部長は……1組の成城さんでしょ。あの()は今日来ないの?」

 

 ふと、空を見上げている時に思い出したことを顔を戻して尋ねる中宮。

 美山は今日兼部している部活動の方に行っていないのは聞いていたが、成城の方は知らなかった。

 問われた廣目と霧島は互いに顔を見合せ、ちょっと気まづそうにする。

 

「……はい。成城先輩は、今日は来ません。病院に行ってるので」

「病院って……どこか悪いの?」

「まあ、肘がちょっとな」

「今週末に手術です。今日はその前検診です」

「そ、そう。大会……間に合うの?」

「……」

 

 黙り込む廣目。

 霧島がそんな彼女を横目で見る。

 そこに、はしゃぎ終えた原田が声を張って、手を振る。

 

「秋奈!約束通り、外野守備教えたげるっ!一緒に外野行こっ。未来、アップ終わったら付き合って!外野にいっぱい打って欲しいから」

「う、うん。任せて……!」

 

 原田に頼まれてアップ中の長門も頷く。

 呼ばれて中宮はそっちを見るが、気になっていることの答えをまだ聞けてないので廣目をまた見る。

 だが、この時の彼女は目を合わせてくれなかった。

 

「行ってきてください。原田先輩は基本内野手ですが、外野も上手いです。それに野球歴も長く知識も豊富なので学べることは沢山あると思います」

「あ、あぁ……うん。わかった」

 

 なんとなくはぐらかされたのは分かっていても雰囲気から追求できず、廣目の指示に従う中宮。

 中宮が去った後、霧島は廣目を肘でつつく。

 

「わざと遠ざけたろ?」

「……まあ。悲観させる必要もなかったので。とはいえ、大会まで1ヶ月を過ぎました。部員をもっと集めなければなりません」

「そうだな。んで、進捗はどんなもんなんだよ。アテはあんのか?」

「……はい」

 

 廣目は頷き、さっきの中宮のように空を見上げる。

 もう時間がない。

 それを再認識しつつもっと急ぐことを決めた。

 

「今、1人口説いているところです。もっと、急がないといけませんね」

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