貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第50話:TJからの復帰はきっと間に合わない

 

「結論から言うと手術は大成功。どうせ前例のない術式だし、私が考えたアプローチとかも試してみたけど、それが上手くいきました。通常なら回復に半年はかかるところリハビリ次第ですが3ヶ月でいけますね」

「まあ……!本当にありがとうございます、先生」

「いえいえ。半ば実験みたいな私の無茶振りを受け入れてサインしてくれた成城さん本人とそのご両親の賜物ですよ」

 

 6月第1週に差し掛かった週末。

 遂に成城先輩の手術が終わった。

 成城先輩とそのご家族とのやり取りの後、主治医の和美さんは成城先輩の手術に駆けつけた野球部のメンバー、そんな俺たちを引率する佐藤先生に挨拶した。

 その後、俺以外の部員と佐藤先生は成城先輩の病室に行き、残った俺の元に和美さんが寄ってくる。

 

「……成城さんのご両親には主治医になるって決めた時から私が責任を持って頭を下げて、成城さん本人に庇ってもらいながらどうかお許しを頂けたわ。手術の同意書にだってサインして貰わなきゃいけなかったしね」

「す、すみません。俺のせいで……」

「成城さんが自分で仕組んだことなんでしょう?だったら、別に貴方だけのせいって訳じゃないでしょう。まあ、簡単に利用されるくらい愚かで私との約束を破ったことは誠に遺憾だけれど」

「すみません……」

「貴方も成城さんのご両親に挨拶しなさいよ。私も同席するし、ちゃんと時間は取ってもらっているから」

「……!わ、わかりました」

「……大丈夫よ。成城さんがしっかり説得してご両親も納得……というか面食らっていたから。大人を簡単に説き伏せてしまうまだ高校生の娘にね」

 

 和美さんは初めて成城先輩のご両親と面談した時のことを思い出して冷や汗をかく。

 ギプスをつけた成城先輩は病室で待って、大人同士で話そうとしていたが、成城先輩が自ら同席を頼んできたらしい。

 そして、両親が俺と和美さんを責めないように、説き伏せた。

 

「あの()は、ちょっと子供とは思えないわね。そして、何よりそれが人を惹きつけるのが恐ろしいわ。私も、あの()と接するうちにあの()に呑まれてる……そんな感じがする」

「……っ!それって……」

 

 美山先輩が去年の獅ノ宮野球部3年生、つまり卒業生にしたのと同じことだ。

 やはり、美山先輩と成城先輩のスペックは同じなんだ。

 ただ、才能の使い方が違うだけ。つまりは性格が異なる。

 今回は成城先輩も珍しく美山先輩と同じ手段を使った。

 俺を利用したケジメをつけるために……。

 

「私、あの()の将来に可能性を感じて、専属トレーナー名乗り出ちゃったわ。そしたらあっさりOK。これからは付きっきりでサポートすることになったわ」

「えっ!?いつの間にそんなことに……!て、ていうか病院は……?どうするんですか、仕事」

「辞表届出しちゃった」

「えぇ……」

 

 この人、こんな人だっけ?

 行動力が凄い。

 俺、あんま和美さんのこと知らないからなぁ……。こんなアクティブな人だったんだな。

 

「ま、別に慈善事業じゃないけどね。あの()もそれはわかってる。win-winの関係だって。……それを正しく認知してる。ビジネスを理解してる高校生、本当に異常ね」

 

 和美さんは髪を耳にかけて、壁に背を任せる。

 なるほど。何か打算あっての行動で、それを成城先輩も理解している。

 和美さんはアクティブな人なんだじゃなくて、野心家なんだ。

 自分のキャリアに必要なら、この人は高校生だって利用する。

 

「あの()はきっとトップアスリートになる。だから、今は私が就くことであの()が得をする。高校生の待遇じゃないもの。でも、あの()がビッグになったら、私はそのマージンを受けられる。あの成城冬華の学生時代を支えた専属トレーナー……ってね」

「……ちゃんとお互いに下心ありで成り立ってるんですね」

「当然よ。私はそんなに安くないわ」

 

 腕を組んで鼻を鳴らす和美さん。

 まあ、両者承諾の上で話が進んでいるならもう本人同士の問題だ。

 互いに利益が生まれるようだし、俺から言えることは何もないな。

 ただ、報告しておくべきことは教えてくれた。

 

「だから、大会とかもついていくつもりよ。佐藤先生にはもう話も通してある。まさか貴方と近しい関係になるとは思わなかったけど、これは私から近づいた案件だから気にしないでちょうだい。とにかく、よろしくね」

「は、はい。急展開過ぎてついていけませんけど……和美さんの自由なんで俺から言えることは何もありません」

「そっ」

「えっと、じゃあ……また後で。俺も病室行って成城先輩に挨拶してきます」

「あっ。待って」

「……?何か……?」

 

 俺も皆と同じように成城先輩の病室に入ろうとしたが、和美さんに呼び止められて振り返る。

 

「あの()言ってたわよ。リハビリだって完璧にこなしてみせる。最短の3ヶ月で済ませて、怪我する前よりもっと進化した選手になる。怪我した事で、より成長に繋がったって言えるようにって。……貴方に気負って欲しくないから」

「……!成城先輩……」

「最短でも3ヶ月。それでも打者としてだけね。できるのは。甲子園大会の終盤にギリギリ間に合うかどうか、地区大会は絶対無理よ」

「……っ」

 

 病室に行ったら、成城先輩はギプスをして待っていた。

 2ヶ月間日常生活が出来るレベルまでの可動域の回復を待って、その後に迎える8月中旬の甲子園大会。

 最新の手術に和美さんの考案も加えた結果、リハビリ期間中だが、打者としては出られる可能性が生まれた。大会中の終盤にはその機会があるという。

 

 ……だが、逆に言えば、成城先輩が試合に出るには、彼女抜きである程度勝ち進む必要がある。

『完璧の成城』を除いた、不完全な獅ノ宮野球部で。

 

 それでも、無慈悲に時間は経つ。

 そして、もうすぐ訪れる。

 

 あの夏が。

 

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