貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
「ねえ、津川っち。野球部って部員募集してるってガチ!?」
「あぁ……うん。まあ。ていうか……津川っち?」
6月に入ってすぐ、同じクラスの
彼女は、完全な黒ギャル。
そして……何より特徴的なのは超長身。
その身長は、なんと驚きの190cm超えだ。
「あーしさ、色んな運動部の
「あぁ……うん。知ってる」
「でもさぁ、いやぁ~そういえば野球部からはまだ誘われてないな~って気づいたワケ!勧誘のチラシ見た時に!マジで!」
「……そ、そうだね」
まあ、そらそれどころじゃなかったからな。
主に俺と成城先輩のせいで。
「ねっ!野球部はなんであーし誘わないの?津川っちって野球部でしょ?部員募集してんのにあーし無視すんなし!」
「……ごめん。ていうか野球に興味あるの?なんか色んな運動部転々としてるイメージなんだけど」
「うーん。それな~。あーし、この身長だから色々誘われはするんだけど、あんまどれもピンと来ないっていうか?」
「誘われたらまず乗るんだ」
「うん!物は試しって言うじゃん?折角誘ってくれるんだし、とりまやってみる的な!?そんでハマるかもしんないじゃん!」
「でも、ここまではハマらなかったと……。じゃあ、野球もやってみる?」
「マジ!?いいの!?やるやる!」
グイグイ追求されて、めんどくなったという訳ではないが、彼女の勢いに説明するよりもう受け入れてしまう方が早いと判断した。
山崎さんは身長高い上に運動神経も良く、人望も熱いし、運動部から引っ張りだこなくらい人に好かれやすくもある。
ただ、本人は熱中しないと長続きさせる気はないようで。
俺が誘わなかったのもそれがわかってたからなんだよな。
今欲しいのは部員であって、助っ人ではないからな。それなら美山先輩でこと足りてる訳だし。
「ねっ。野球って身長高い方が有利とかあんの?」
「……まあ、基本的には。身長に限らず体格は良いに越したことはないかな」
「マジ?やっぱスポーツってみんなそうなんだね」
放課後、ギャルを連れていつものグランドに向かう。
山崎さんは体操服に、俺はウェアに着替えてグランド入りした。
が、まさかの既に新顔がいる。
「えっ、誰?」
「ひっ……!」
廣目と一緒にいた女の子に声をかけると、怯えてしまった。
そして、その
うお。高校生にしては濃いメイクだ。まあ山崎さんもだけど。
ただ、2人のメイクは系統が違う。
山崎はギャルで、廣目と一緒にいる
「廣目、この
「隣のクラスの
「はぁ……面平良さん……」
「……っ」
廣目の紹介を受けて面平良さんを見るが、ビクビクしている。
ただ、俺を見るや否や「だ、男子……」と物珍しそうに、それでいて何か期待してるような眼差しで見上げてくる。
……なんだろう、嫌な予感がする。
「えっと。廣目が見つけてきた新入部員候補?」
「はい。そうです」
「……野球は、未経験だよな。なんというか、運動経験とかも」
「はい。ありません」
「えっ。いいのか?それで」
「構いません。彼女は運動オンチでドジで何もできません。ですが、面白い武器を持っています」
「面白い武器……?」
なんだそれ、と思っていると廣目の言葉を聞いた面平良さんが体育座りして陰気な雰囲気を漂わせ始める。
「や、やっぱり……廣目さん、私の事晒しあげるつもりで誘ったんだ……。わ、わわ私が鈍臭いやつってわかってるのに野球なんておかしいと思った……さ、晒し者にするんでしょ?もう無理。ヘラる。家帰って薬飲みたい……」
「見ての通り、異常なほどメンタルが弱いです」
凄く早口で深刻そうな雰囲気の面平良さんとは裏腹に、彼女をこの動物にはこういう習性があります的な感じで説明する廣目。
……廣目って人の心ないの?
面平良さんめちゃくちゃ病んでて薬がどうとか言ってるヤバい感じなんだが。
だが、廣目はあぁいつものねくらいの態度で流している。え、それが正解なの?
「まあ……えっと、なんとなくわかった。で、それが武器なの?」
「はい。私は彼女にクローザー適性を見出しています」
「ちょっと待てぃ!」
思わず存在しないボタンを押してしまった。
いや、だっておかしいだろ!矛盾だろ!
「待て待て待て。えっ、投手やらせんの?しかも抑え?運動したことない
「そこです!!」
「うわ、ビックリした。急に大声出すなよ」
ビシッと俺に指をさす廣目にビクッと肩を鳴らす。
普段真面目トーンで落ち着いて話すやつが急に声張り上げるから……。
「クローザーとはメンタルが大事です。強ければ強いほどいい。投球の能力より重視したいくらいです」
「いや、だから……その……メ、メンヘラは不向きだろ……」
「その逆です!寧ろ、向いてると思うんです。すぐヘラるそのメンタルの弱さ。弱いならダメですが、弱"
「お、おう……」
廣目の力説に俺は圧されるしかない。
とはいえ、イマイチ納得できてない俺の様子が嫌だっのか、廣目は眉をピクっと動かした後、腕を組んでグランドと睨めっこしてしまった。
その背後で面平良さんはそろっとグランドから出ようと忍び足で動き始める。
が、それを見逃す廣
「まあ今日の練習でそれを証明してみせます」
「えっ。いや、私帰ります。それじゃ……」
「帰しません。一緒に野球やりましょう」
「い、嫌だ!運動ムリ!反対!インドアバンザイ!」
「却~下~で~す~!」
「お、おいおい。あんま無理やりってのは……」
「やめたげなよ」
『……!』
逃げようとする面平良さんを鷲掴む廣目。
その腕を掴んだのは山崎さんだ。
連れてきた俺も山崎さんの行動に目を見開く。
山崎さんは物怖じげせず廣目に芯のある瞳で向き合う。
「嫌がってるじゃん。やりたくないこと無理やりさせるのは違くない?」
「や、山崎さん……」
凄い気迫だ。
身長が190cmあるからだろうか。
山崎さんに腕を掴まれた廣目はすんなり手を引き、山崎さんは屈んで面平良さんと目線を合わせる。
「面平良さんだっけ?あーし、2組の山崎
「うえっ。ギャ、ギャル……陽キャ……ひぃ!?ムリ。ヘラるぅ……」
「ちょっ……!えっ。なんで!?」
山崎さんは助け舟を出した存在だが、面平良さんは山崎さんの容姿がもう怖いタイプのようで。
握手を求めた山崎さんに面平良さんは後退ってしまった。
山崎さんは困惑したが、切り替えて、改めて廣目と向き合う。
「とにかく、無理やりは良くないよ。廣目っち」
「……同じクラスの山崎さんですか。言い分は分かりますが、幾分こちらの時間に余裕がないもので。早急に部員を集めないといけないんです」
「それはそっちの事情でしょ。面平良っちが無理やり野球やらされる理由にはならないじゃん?」
「め、面平良っち……?」
あ、全員に何何っちってつけるんだな。
まあそれはともかくとして、山崎さんの凛とした態度は陽キャやギャルが苦手な面平良さんに多少は響いたようだ。
「うっ。あっ。さ、さすが陽キャ……陰キャが思ってるより優しくて誰も悪くない。腐ってるのは結局私たち……醜いのは私だけ……もう無理、薬飲も……」
あ、嘘。
響きすぎて病んじゃったわ。
「ほら!面平良っちが辛そうじゃん!」
「いや、多分私関係ないと思うんですけど……」
面平良さんを指さして主張する山崎さんに、さすがに濡れ衣だと主張する廣目。
うーん、話は平行線だし第三者が必要だな。ここは。
てなわけで、俺も話に入れてもらおう。
「でも、廣目。俺も山崎さんと同意見だよ。明らかに嫌々連れてこられてる感じだし。さすがに部員欲しいからって良くないんじゃないか?」
「……わかりました。では、アプローチの仕方を変えましょう」
意外とすんなり引いた。
……でも、絶対なんかまだ企んでるな。
廣目は逃げ腰の面平良さんの前に座る。
「面平良さん。貴女はとても素質があります。貴女がやる気になってくれれば、きっと凄まじい猛威を奮い、私達崩壊寸前の野球部を救う救世主となるでしょう……!どうか、私達を救うヒーローになりませんか?」
「う、うえっ……?」
急に廣目が面平良さんを持ち上げ始めた。
あー……なるほどな。
廣目の狙いがわかった。
メンヘラは落ち込みやすいけど、調子に乗らせやすくもある。
だから、褒めてその気にさせようというわけだ。
いや、さすがにそんな単純じゃないとは思うが……。
「う、うへへ……私が野球部を救う?ヒーロー?い、いいかもぉ……」
あ、ダメだ。ちょろいわ、この
「はい!もう大会になれば面平良さんのおかげでガンガン勝ち進められると思います!しかも面平良さんのおかげで勝つので試合後報道陣に囲まれてインタビューなんてされちゃいます!」
「ち、チヤホヤされるってこと……?」
「もうそれは勿論。日本中のスターですよ。モテモテです!よっ、野球姫!」
熱く語る廣目。
うん、お前もう演劇しろと言いたくなるような熱弁だ。
そして、面平良さんもどんどんその気になる。超誘導されてる。
まあメンヘラって承認欲求強いからなぁ。甲子園のスターとか努力してなるのは嫌でもタダでなれるならなりたいよな。
逆転世界で運動と女性が身近なのがここで活きてきたという訳だ。凄い最低な手段で使ってるけど。
「う、うへへ……チヤホヤ、モテモテ……お、男の子とかみんな私を囲んでくれる……う、うへへ」
「野球やりますか?」
「や、やりまーす……!うへへ」
「よし」
ここで決まる廣目のガッツポーズ。
うん、酷い奴だ。こいつ。
「それでいいのか……?」
「あーあ……。乗せられてるのはわかってるけど、本人がその気になっちゃったらあーしがいくら言っても無駄だろうしなぁ……」
山崎さんも本人が乗り気になってしまうとお手上げらしい。
こうして、