貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
「なんか
「えっ。あっ。はい?シュー……ト?よ、よくわかんないです。ごめんなさい。もう無理。家帰りたい。薬飲も……」
「は!?なんで?」
いや、皆で見ていたら本人が注目を浴びるのが苦手で気分を悪くしたから、廣目・原田・津川の3人だけで見ている。
凄い。とにかくメンヘラの扱いは大変だ……。
さっそく原田先輩が面倒くさそうな顔で彼女を見下ろしている。
「ボールの握りが違うようですね」
「あー、初心者だからってことか?」
「はい。メンタリティだけで選んだ人材でしたが、速球も変化球も投げられない中で真っスラという持ち球はかなり良いですね。矯正せずこのままにしましょう」
真っスラか。
確かにそんな感じだった。
変化量は少ないけど、面平良さんみたいに明らかにアスリートタイプには見えない投手が、地味に変化して回転がかかった球を投げてきたら、相手から見てかなり厄介かもしれない。
「問題は球速ですね。さすがに今の超スローボールでは困ります。恐らく80km/hも出てないでしょう。せめて平均90km/h、最速100km/hは目指したいですね」
「んっ。となると、筋力トレーニングとか?さすがに今の身体は貧弱すぎるし」
「き、筋トレ……!?」
原田先輩の提案を聞いて、投球練習だけで既にゼェゼェ息をついている
「いえ。筋トレは継続性が必要です。
「継続性ないの、確定なんだ……。まあ俺もそうかなとは思うけど」
廣目の
まあそれが実際的中するんだからなんとも否定できないんだが。
「ねっねっ!あーしはどう!?あーしは!?」
「あぁ……はい。山崎先輩は持ち前の身体能力でどのポジションに当てはめても高い能力がありますね」
「マジ?廣目っちに言われるってことは割とポジじゃね!?てか山崎先輩って、るきあって呼べしー!」
「はぁ。では、るきあ先輩と」
「んっ。先輩もいらないけど、まあOK!廣目っち14歳だもんね!」
廣目はどうも山崎さんが……るきあが苦手なようだな。
ちなみに俺もさっき下の名前で呼べと注意された。
女子を下の名前で呼ぶのは童貞なので気が引けたが……呼ばないと本人がごねるので、その態度を受けると割とすんなり呼べた。
で、肝心の
よく恋愛漫画とかにありがちなスポーツ万能タイプって感じだ。
だが、スポーツ漫画に出れるほどではない。
つまり、通常の世界の男子並に優秀な獅ノ宮野球部の天才たちとは、また一線を引く。
いわゆるこの世界の平均的な"
まあこればっかりは相手が悪いな。
獅ノ宮野球部ベストナインが異常なだけで、
初心者なのに凄い……が、天才達ほど伸び代はない。間違いなく、彼女達と同じ領域に辿り着くことは無い。
なぜそんなことが言えるかというと、廣目の反応が渋いのもそうだが……俺の直感にビビッとこないんだよな。
いや、それだけじゃ判断材料としては薄いんだけど、アリアや中宮先輩に感じたようなものを
体格もよくてフィジカルも良いのに……だ。
これは自分でもわからない。
自分のこの感覚の基準はなんなんだろうか。
正直、
なのに、全然ピンと来ない。
打撃も、守備も、投球もそれなりにいいのに。
いや、
まあ……それなりって言ってもこの世界の女子球児達と同格なのだから、天才達が基準なのは贅沢なんだろうけどな。
「ちなみに、あーしってポジションとかどこになる感じ?」
「そうですね……内野もショート以外ならいけそうですし、外野もありですね。打撃もまあ中宮先輩くらい良いので。とはいえ、投手層が薄いのでリリーフに入ってもらうのが現実的ですかね」
「りりーふ??って何!?津川っち!」
おぉ。なんで質問はこっちに飛ばすんだ?
まあいいけどさ……。
「あぁ……えっと、ピッチャーにも大まかに分けて2つあって、試合の最初から投げる先発と途中1イニン……1回とか2回とか短い回だけ投げる中継ぎっていうのがいるんだ」
「あー!中継ぎっていうのはなんか聞いたことある!アレっしょ?先発の人がヘトヘトになっちゃったり打たれたりしたら交代して投げる人っしょ?」
「うん。そんな感じ。先発投手を助けるから救援陣って言うこともあるよ」
「マジ!?じゃああーしも
「きゅ、救世主……うへへ」
うーん、中宮先輩も含めて今度野球勉強会開いた方がいいかもなぁ。
「原田先輩!今度初心者組の為に野球勉強会開きましょ。原田先輩が先生で!」
「ちょ、なんで私が先生なの……?」
「えっ。だって、原田先輩、歴長いし経験豊富だし。頼りになるじゃないですか……!」
「……っ!」
俺の言葉を受けて原田先輩が目を見開く。
おっ。なんかよくわかんないけど乗ってくれそうだぞ!
「た、頼りにって……津川がそう思うの?」
「はい!原田先輩が1番頼りになります!」
「~~~っ!しょ、しょうがないなぁ。津川がそんなに言うなら、私期待に応えちゃおっかな!」
「やった!手伝います!」
「ひっ。勉強ヤダ……ムリ……家帰って薬飲みたい……」
原田先輩は野球オタクでもあるし、やる側と観る側両方の経験を兼ね備えてるから先生役としてピッタリだと思うんだよな。
成城先輩は入院中だし、廣目は忙しいし、そうなると原田先輩しかいないと思った。
「んふふ。津川ったらそんなに私の事信頼してるんだぁ……。ほんと出会った頃と全然違うんだから。私の事1番バカにしてたくせに。でも、なんかそういう最悪から育んだ感じも、悪くなくない?やんっ!」
原田先輩がくねくねしながらなんか言ってるが、よく聞こえない。
まあ童貞(処女)って妄想激しいし、なんか捗ってるんだろう。
わかる。勿論俺も経験済みだからだ。キリッ。
なので痛い目で見てあげず、そっと見守るよ。原田先輩。
それはそうと、さっきから廣目がスマホに届いた通知を確認して、何やら顎に手を当てて真剣に考え込んでいる。
なんだ?何があったんだ……?
「廣目、どうした?なんかあった?」
「あぁ……いえ。SNSで獅ノ宮の生徒に宛てた部員募集を募っていたんですけど、どうもなんだか別の高校の生徒から連絡が来てしまって……」
「……?別の高校?」
それは確かにおかしな話だ。
廣目のスマホを覗き込み、詳しく聞いてみることにした。
「どこの高校なんだ?」
「それが……
「……っ!中龍学園!?」
その名を聞いて驚く。
俺が獅ノ宮野球部に入ってすぐ、俺の厚かましい要求から野球部員の皆と対決してしまう流れになった時の、練習試合の相手。
高校最強校、中龍学園!
でも、メッセージを送ってきてくれた人の名前の方にあまり馴染みがないな。
よ、吉田……?そんな人いたか?
「で、その吉田さんって人はなんてメッセージ送ってきたんだ?」
「はい。それが……
「えっ!?なんで!?」
「さぁ……」
意味がわからない。
頭のいい廣目にも相手の意図が全く読めないようだ。
中龍学園の生徒が獅ノ宮の野球部に入りたい……?
おかしくないか。だって、中龍には立派な野球部がある。
だったら中龍野球部に入ればいい。
それか、メッセージを送ってきたのは中龍野球部の部員で、出場機会を求めてウチに入りたいのか?
いや、だとしても中龍は岐阜県の学校で獅ノ宮からは程遠い。
中龍との地区大会での試合を避けるにしてもそこまで離れる必要は……いや、待てよ。
中龍から獅ノ宮に入りたい?
そんなことをしたいと願う物好きは……心当たりがある。
彼女たちは確か、自分たちは獅ノ宮のファンだと言っていた。
そうか、そういうことか……!
「廣目!ウチに入部したいって言ってくれてるその中龍の生徒は何人いるんだ……!?」
俺が尋ねると、廣目はメッセージを読み返して答える。
「4人だそうです」
「……っ!」
その返答を受けて、確信した。
連絡をくれたのは―――あの練習試合で獅ノ宮野球部の助っ人をしてくれた4人だ!!