貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
そして、彼女と連盟で獅ノ宮に接触してきた他3人も中龍学園野球部のメンバー。
俺と獅ノ宮野球部が揉めた時に組んだ中龍との練習試合で助っ人をしてくれた人達だ。
彼女達が、中龍野球部を辞めて、獅ノ宮野球部に入りたいという。
それもアリアのように転校という形ではなく、あくまで中龍学園の生徒のままで。
まあ中龍は岐阜の学校だし、関東圏にある獅ノ宮に転校するというのは親の協力なしでは難しいのはわかる。
アリアは両親の理解と協力を
それも
では、そういう特殊な事例ではない中龍助っ人ズの彼女達が、中龍に在籍しながら獅ノ宮野球部に加入することは可能なのか?
結論から言えば、可能だ。
と、いうのもこれは貞操が逆転してない元の世界の高校野球もあった高野連の規定だが、【単独廃校ルール】を用いる。
単独廃校ルールは部員が少なく試合ができないチームに対する救済処置。
強豪校など部員が余っている他の学校から同意を得られれば、チームの構成人数が合計10人になるまで部員を借りることが出来る。
ただし、単独廃校ルールの対象に獅ノ宮野球部は含まれない。
それは
だが、それは俺が知ってる単独廃校ルール、つまり前の世界のモノであって女子野球が野球と呼ばれるこの世界では、ルールの中身が少し違うらしい。
これは俺が口にした知識が異なっていたから廣目が訂正してくれた内容なんだが。
どうやらこの世界の単独廃校ルールは、ベースは俺の知ってるルールと同様だが、近年改訂が施されてルールが"
それは、ポジションによって細かく人数制限が決められたという点だ。
と、いうのもこれは元の世界の高校野球でもそうだが、近年は高校生投手にも公式大会では球数制限が設けられている場合がある。
なので、ブルペンの層は必然的にそれなりに厚くする必要があり、1人や2人でやりくりする高校は、学生である球児の怪我を触発すると問題視されている。
なので、新しい単独廃校ルールでは、投手に限って4人以下しか投手の選手を有さない高校には、倍の合計8人になるまで他校の協力を得ても良いとされている。
そして、獅ノ宮の投手は今、怪我人の
これは、正直やりすぎのルールじゃないかと俺は廣目の説明を受けて思ったんだが、この世界の野球は女子野球であるというところが肝であると自分で気付いた。
いくらこの世界の女子球児が元の世界より発展しているといっても、何も彼女たちは頑丈になった訳じゃない。
ただ、『野球は女子のもの』という前提の元、50年の歴を与えた結果が今のハイレベルな女子野球というだけだ。
つまり、この世界の女子野球においても、前の世界の野球の尺度で計ると彼女達の肉体を壊しかねない。
なので、投手においてのみ特例が敷かれることとなった。
「要するに部員の合計人数とは別に、それを無視して投手だけ個別の制限を注意すればいいって訳か」
「そうなりますね。うちは投手4人。ただし先発はアリア先輩ただ1人だけなので、先発投手の吉田という方が加わって貰えるのであれば有難いです」
「あぁ……そうだな」
グランドの隅っこにあるベンチで廣目と話し合う。
確かに人数不足をどうにかしようとしている今の獅ノ宮野球部にとって、助っ人が来てくれるのは朗報だ。
大会のルール的にも問題ないし、是非とも来て欲しい。
ただ、それは助っ人Dさんこと吉田
彼女は投手だから特例に当てはまる。
だが、彼女が送ってきたメッセージには他の助っ人ABCも含めた4人で加入したいう趣だった。
残念ながらそれは適わないという話になる。
中龍の助っ人ズは先発投手だった助っ人D/吉田
と、なると他の3人はルール適用外となる。
ウチに加入できるのは吉田さんただ1人だけだ。
せっかく申し出てくれているのに1人以外は断らなければいけないというのは、心苦しいし、こちらとしても惜しい。
これは……ある意味困った案件だよなぁ。
「廣目。この話、引き受けるのか?」
「はい。そのつもりです。予定を打ち合わせた後になりますが、オンラインで今後について軽く話し合うことにしました。そこで交渉ではないですけど、手続きや起用などについて細かく擦り合わせればと思っています」
「そっか。えっと……ウチの部に入りたいって言ってくれてるのは4人みたいだけど、そのうち3人は野手だから断りの連絡いれないといけないな」
「えっ?」
「えっ?」
廣目が何を言ってるんだという目で俺を見た。
こんなに分かりやすく瞠目するのは、態度を表に出すのは廣目にしては珍しい。
俺も廣目の返しに困惑して彼女を見た。
廣目は、暫く俺の思考を察そうと考えを巡らせ、あぁなるほどといった感じで俺との食い違いを理解した様子を見せる。
「あぁ。すみません。私が結構不真面目なんだなということを認識するのに手間取りました」
「お、おう。……って、廣目が不真面目?真逆だと思うんだが……どついうことだ?」
俺が尋ねると廣目は、俺が廣目に抱いていたイメージを崩すことに思うところがあるのか、珍しく愛想笑いを浮かべながら一旦空に視線を逸らして、ポリポリとコメカミをかいた。
「あぁ……えっと、津川先輩が私を真面目だと評価してくれていたのは有難いのですが、私は割とすぐズルい考えを実行しようとしていました」
「ズルい考え……?」
一体何を考えたのか。
廣目は自分の不真面目さを自覚してバツが悪そうな表情になってしまった。
……別に俺が真面目ってこともないと思うんだけどな。
単純に考えが廣目に及んでいないというか、廣目の方が賢いってだけだと思う。それがズルだとしてもずる賢さだって大事なスキルだ。
まあそんなことは置いといて、廣目はちょっと言い淀みながら彼女の案を教えてくれる。
「ルール上、投手で登録した選手でなければ助っ人は受け入れることができません。普通なら津川先輩のように3人の野手は断るのが真っ当だと思います」
「あぁ、うん。それで?」
「はい。えっと……な、なので、4人全員投手登録にすればいいだけだなぁと思ったんですけど」
「……それは」
「ははは……」
苦笑いする廣目。
……うん。確かにズルい。
というか、そんな抜け穴があるルールを作る方がマヌケだ。
これ、他でも横行してるんじゃないのか?
問題になるのもそう遠い未来じゃない気がする……。
まあ、今はまかり通ってる訳だからルールを活用する身としては、違反でも何でもないんだから気にする必要はないと思う。
それは対戦校も一緒だけどな。
だからこそ、ある意味フェアとも言える。
うん、だから廣目の考えは賢いと評価していい部類に入ると思うし、良いと思う!
「俺は廣目のやり方はその手があったかって感じで賛成だ。正直4人全員欲しいしな!」
「そ、そうですか。……そうですね」
廣目が頷きはしたが、俯いた。
俺が気づかせたせいで気にしてしまったようだ。
全然気にしなくていいのにな。
「ごめん。俺のせいで後ろめたくなっちゃったよな」
「……っ。いえ!そんなことは。津川先輩のせいとかではほんと、ないです。先輩こそ気にしないでください」
「あぁ。わかってる。廣目も気にするなよ。ルールじゃ投手登録選手は大会中1登板以上させなきゃいけないんだろ?どこかで1回でも投げれば、やましいことは何もないよ」
「は、はい。そうですね……ありがとうございます」
廣目は俺に頭を下げる。
なんだか、こんなにしおらしい廣目は初めてな気がする。
いつも頼もしくて、賢くて、しっかりしてて心強い仲間だからかな。
こんなに狼狽することもあるんだと思ったくらいだ。
でも、廣目は14歳。
優秀でも繊細な歳頃なのは忘れちゃいけない。
彼女に頼ってばかりじゃなくて、俺もフォローできることはしていかないと……だな。
「そういえば、練習試合の時も1年生の2人はどこでもやるって言ってたぞ。事情説明したら、向こうだって出場機会を求める部分はあるだろうし、乗ってくれるんじゃないか?」
「そ、そうですかね……?」
「あぁ。きっとそうだよ。それに、
「……!た、確かに……向こうが承諾してくれたらになりますが、これから投手として育ってもらうというのは良いアイデアですね」
「おっ!だろ?廣目がいるからそう思えたんだ。吉田さん達と話す時、打診してみようぜ」
「はい……わかり……ました。あ、あの津川先輩……」
「ん?どうした?」
廣目がなぜかしどろもどろだ。
でも、オホンと咳払いを挟むと気を取り直した。
「い、いえ。気にしないでください。それより、ありがとうございます。津川先輩のおかげで自分の考えが正しいと思えるようになりました」
「そっか。俺のおかげってことはないと思うけど、廣目は間違ってないからそう思ってくれてよかった!仮に間違ってても俺も賛同したんだから同罪だ。だから、1人で気負うなよ」
「……はい。そう言って貰えて、安心しました」
廣目はようやく頬を弛めて柔らかい表情を見せてくれた。
中龍助っ人ズの申し出を有難く受け取り、獅ノ宮に引き入れる算段はこれでついたことになる。
スタメンは天才達で構成されているし、層の厚ささえカバー出来れば、戦力としては申し分ないどころか強い筈だ!
戦える。
遂にここまで来た。
去年の夏に、忘れ物を沢山してしまった先輩達。
精神的に追い込まれて部を潰してしまおうとしてしまった成城先輩。
俺も、自分の都合で野球部に迷惑をかけてしまった。
何度も後悔するほど本当に愚かだった。
でも、先輩達は俺を許してくれて、成城先輩が持ち直したことで部の皆も再起に前向きになってきた。
アリアが加わって、成城先輩と同じくらいマウンドを信頼して託せるようになった。
俺達は、
新入生だって入って、中龍助っ人ズからの連絡なんてぼた餅もあった。
いい風が吹き込んでいると思う。
何度でも言う。
皆に、優勝して欲しい。
栄冠を掴んで欲しい!
もう俺個人に何か野望がある訳じゃない。
ただただ、思うんだ。単純に。
大好きなこの野球部が報われている姿を、甲子園で目に焼き付けたいって。
そう、思うんだ。