貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
成城先輩から聞いた元部員は、その翌日部活に顔を見せた。
器用貧乏の姉妹。
それは、明らかに皆とは顔立ちが異なり、線の細さが目立つ容姿の2人組。
彼女達は、不在だった期間に増えた顔触れに向けて自己紹介した。
「ユ・ソユンよ!
「yo。出戻りユ・ソヨン参上。特技は守備、それだけonly。内外野全てお任せあれ。hey、チェケラ」
漫画に出てくるような典型的なツンツンキャラ。
2年生。
姉のユ・ソユン。
身長155cm。
ポジションは内野全て。
特技は内野全て
弱点は守備がイマイチ。
某ゲームで言うところの守備適正D(遊のみE)/ミートC・パワーC・走力C。
ただし、この世界の女子高校球児基準。
謎のラップ調自己紹介を披露しつつも、無表情だし動きだけうるさいし、めちゃくちゃなリズムだしで個性強めキャラ。
同じく2年生。
つまり2人は双子。
妹のユ・ソヨン。
身長153cm。
ポジションは内外野全て。
特技は高水準のユーティリティ性。
弱点は走・攻の能力が低いこと。
某ゲームで言うところの守備適正オールC/ミートD・パワーD・走力C。
ただし、この世界の女子高校球児基準。
そして、この2人―――ユ姉妹は在日韓国人だ。
どうやら留学生らしい。
そんな2人姉妹を前に、先輩達は何やら微妙そうな顔をしている。
「まあ戻ってくるならお前らだよなぁ」
「か、完全予想通りって感じだね」
「この
「えっ、そうなんですか!?」
てことはユ姉妹の退部に、美山先輩は関係ないってことか。
なるほど。
確かに美山先輩が影響してないなら出戻りも納得できる。
皆が戻ってくるとしたらこの2人と口を揃えて言うのも、他の元部員と違って野球部に、というか美山先輩に拒絶反応がないからだ。
ん?じゃあなんでユ姉妹は野球部を辞めたんだ?
「……っ!ちょっと!男子いるじゃない!?」
「おぉ。確かに渡り蟹。あの野球部に異性とは、これ仰天」
「い、1年の津川和哉です。よろしくお願いします。ソユン先輩、ソヨン先輩」
「やだ!可愛い~!先輩だって、ソヨン!ていうかあんた達やるじゃない!去年の野球部なんて空気悪いわ女子しかいないわで最悪だったのに」
「……最悪で悪かったね」
ソユン先輩が物珍しそうに俺を見ながら、興奮気味になる。
そんな彼女のはしゃぎぶりとは対照的に原田先輩達は呆れた様子だ。
だが、1人だけ異なる反応を見せる者もいる。
廣目だ。
「はじめまして。ソユン先輩、ソヨン先輩。1年の廣目です。他にも山崎、
「……何よ。女子は別にいいわよ。てか話には聞いてたけどほんとにウチの野球部に入る為だけに転校してきたアメリカ女なんていたのね」
「あ?このアリア様のことか?そりゃ」
「他に誰がいるのよ。しかも偉そうじゃない、あんた。言っとくけどこっちの方が古株なんだからね」
「ハッ!知るかよ。私は神だ!アリア様だ!」
「うわっ。最悪なタイプの女……」
恒例のアリアに対するドン引きタイムだが、ソユン先輩はちょっと女子に対しては感じ悪いな。
彼女は続けて、中宮先輩を見る。
「で、あんたが陸上部からの兼部、と……。1年も含めて新顔の半分は未経験。本当に戦えんの?こんなチームで」
「……問題ありません」
ソユン先輩の不安に、廣目が前に出る。
というか不安とは別に見定めと小馬鹿にしてる感じが入っている気がする。
多分、本当に出戻るべきか判断している。
それと……もう1つの感情は俺にも覚えがある。
嫌な記憶だ。
要するに、彼女達は野球部を少し見下している。
「ふん。どうだか。新顔のおチビちゃんの言葉を鵜呑みにすると思う?私もバカにされたもんね」
「そう言いたくなる気持ちも分かりますが、本当に問題はありません。未経験の新メンバーは素材を見て選んだので、適当に連れてきた訳ではありません。それに、中宮先輩に限っては"
「……待って。才能ですって?」
廣目の言葉を受けて、ソユン先輩の表情の色が変わった。
彼女は中宮先輩を睨んだ後、大口を叩いたからかアリアにも視線を移して、冷めた目付きになった。
あぁ。この感じも覚えてる。
これから、小馬鹿にする時の態度だ。
あの時の自分がいかに愚かだったか、身をもって猛省しているからこそ、客観的に見ても俺があの時同じ態度を取ったんだろうなと判断できる。
そして、今、あの時の自分の愚かさを客観視することで痛感している。
本当に申し訳なくて、最悪の記憶だ……。
それを今から、前にすることになる。最悪だ。
「ふーん……なるほどね」
ソユン先輩は腕を組んで今の野球部を品定めするように見渡した後、廣目を見下ろして最悪なことを言う。
「ハッ。まさかの逆転の発想ね。皆が逃げちゃったから、
『……っ!!』
全員の鋭い視線がソユン先輩1人に集中する。
―――"
それは、去年の夏、野球部がボイコットされた時に
そして、原田先輩は俺を殴った時に言っていた。
彼女は、完璧である前に、部長である前に大切な友達だと。
それは他の部員にとっても同じ。
彼女は大切な存在。
故に、今の野球部にとってその言葉―――"地雷"だ。
「ソユン……っ!!あんた!」
「いえ。確かに当初はその予定でしたが、その計画は中断しました。中宮先輩はたまたま良い人材として巡り会っただけです」
「……っ。廣目……!」
原田先輩が掴みかかりそうな勢いだったが、廣目が冷静に対応した。
ソユン先輩は、意外となんとも思ってなさそうな真顔で「あっそ」とだけ返してソヨン先輩と何気ない話を始める。
……この人、ひょっとして悪意はないのか?
「あの!ソユン先輩は……なんで先輩達をそんな酷い呼び方するんですか?」
「津川……」
悪意がなくとも、先輩たちを化け物呼ばわりされていい気はしなかった。
だから、俺は彼女に尋ねる。
すると、ソヨン先輩は真顔でケロッと答える。
「え?だって、みんながそう呼んでたし。そんだけよ」
「……は?」
あまりにも平然と言うから面食らった。
つまり、去年の問題に対する解決策に対して、ただ感想を述べただけだと。
彼女はそう言う。
あぁ……なるほど。
やっとわかった。
この人は前の俺と同じじゃない。
寧ろ、対極にいる人だ。
「津川、こいつに何言っても無駄だぜ。そういう情みてぇなのねえから。私達にも誰にも関心ねえんだよ。だから、客観的に言ってるだけだ」
「……それでこんな感じ悪いなら余計タチ悪くない?」
「う、うん。それはそう。そう思うの無理ないと思う……」
霧島先輩のフォローに、中宮先輩が俺の思っていたことを代弁してくれ、長門先輩が呆れた表情を見せた。
あぁ。彼女達の補足を受けて、納得した。
野球部を利用しようとしていた時の俺は、利用しようと考えていただけあってある意味野球部に関心を持っていた。
だが、ソユン先輩にとって野球部のことなんでどうでもいいんだ。
出戻りしてくれたのはホントにただ頼まれたからってだけ。
と、なると、彼女たちが退部した理由も……なんとなく察しがつく。
多分、大した理由ではないと。
「ま、肩を寄せ合おうがなんだろうが、崩壊せずちゃんとやっていけるやり方がそれだっていうなら別にいいわ。無駄な時間過ごさなくて良さそうだし」
「ソヨンもソユンに完全同意。青春時代は有限。部員不足の部活に割く時間無し。しかし、今は問題なし」
2人はキッパリ言い切る。
やっぱりこの2人はある種ドライだ。
退部したのも野球部が機能しなくなったからというだけ。
彼女達ユ姉妹を含めても去年の夏から冬にかけてはメンバーが7人となる。
つまり、ただただ人数不足の部に所属するのは時間の無駄だと判断した、それが退部した理由だ。
単純明快な行動理由。
だから、戻ってくる時も単純というわけだ。
「万年代打要員と守備固め要員にしちゃ態度デカめだな」
「アリアといい高圧的な
「ふざけんな!私をこんな韓国かぶれと一緒にすんな!」
「かぶれじゃなくて生粋の韓国人だしあんたホントにアメリカ人?ていうかソヨンはともかく私は打てるんだし今の面子ならスタメンでしょ!?」
「さ、さぁ……成城先輩に聞いてみないとそれは……」
「あー。相変わらずキャンキャンうるさいわ。ソヨンは掴みどころないし。津川、あんたもいちいち相手しなくていいからね」
「ははは……」
去年から居残った先輩達も、出戻ってきた姉妹も、新顔達もさっそくギャーギャー言い合って賑やかだ。
癖の強い人が多いのは同意だけど、俺としては現状の明るさが割と好きだ。
さっきはソユン先輩の発言で一瞬張り詰めたけど……4月はずっとそんな雰囲気だったし。
俺のせいでもあるけど、それが今は払拭されてこうして皆でワイワイやれてるのはホッとするし楽しい。
そして、出戻ってきてくれた韓国双子姉妹ユ先輩達。
内野ユーティリティで打撃重視の器用貧乏、姉のユ・ソユン。
中弾道気味で、バントからホームランまで打てるという。
とはいえ、突出した打力がある訳では無い、平均的なパラメータの得意はなけれど苦手もないバッティングが売りな選手。
内外野ユーティリティでどこを守ってもそこそこ上手い守備重視の器用貧乏、妹のユ・ソヨン。
範囲も失策抑止もそこそこ、進塁抑止も併殺もそこそこ、突出した数字はないけどマイナスの数字もない。
どこを守っても総合値は平均となり、相対評価のUZRの数字は悪くなるが、マイナスにいくことはない。
2人ともあらゆる場面で起用できる魅力的な選手。
選手層を厚くできるし、痒いところに手が届きそうだ。
ちょっと態度や性格に難アリでベンチの雰囲気が不安だが……姉妹が言ってた去年の夏よりかは遥かにマシなハズ。
そう考えると、韓国姉妹は去年のメンバーなんだなと実感するな。
まあ彼女達は去年の躁鬱な空気の中でもかなりマシな部類と霧島先輩や原田先輩が教えてくれたが。
……と、なると去年はどれだけ雰囲気悪かったんだとツッコミたくなるな。
まあ性格うんぬんは美山先輩がいる時点で今更感がある。
とにかく部員不足を補うために当初廣目が計画していたことは全て完遂できた。
なんなら中龍の田んぼガールズという予想外の展開もあったから、想定より状況が好転したくらいだ。
これで部員は選手じゃない俺を除いて16人。
内訳は、4月からの成城先輩達5人+アリア達追加のベストナイン組3人+山崎・面平良の新入生2人+中龍田んぼガールズ4人+元部員韓国姉妹2人。
これで新生
あとは大会に向けて野球未経験組を育てたり、中龍の田んぼガールズを投手として戦力にしたり。
でも、メンバーはこれで全員。
このメンバーで俺達は、夏の大会に挑む。
目指すは、甲子園。
その先の栄冠。
今はまだ、知らなかった。
海の向こう。
差別に苦しみ、燻る男子級の天才が……特徴的な長い赤髪を潮風に靡かせて、俺達と同じ方角を見ているのことを。
後に廣目は言った。
彼女達が"規格外の天才""獅ノ宮タイプ"と呼ぶ、男子級のプレイヤー。
誰もがその大きすぎる力を誰にも受け入れて貰えず、そして
必然の運命という矛盾は、俺にも作用していると廣目は言った。
彼女は、"津川 和哉も同類の天才"であると衝撃的なことを述べたのだ。
津川 和哉―――俺の才能は、スカウティング。
選手を見る目。
そんな俺の目にいずれ、止まることになる海の向こうの赤い天才打者は。
後に、獅ノ宮に欠かせない打線の"核"となる。
彼女がいなければ夏の戦いはすぐに終わっていた程に。
そんな、身長131cmバットコントロールの才を持つ赤い天才打者の名は―――クレア・バローナ。