貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第58話:土曜日、デートの約束

 

 原田先輩の様子が変だ。

 部活中、ずっと俺をチラチラ見てくるし。

 練習には集中してないし。

 俺に何か用があるのかとも思ったけど、その割に全然話しかけてこないし。

 こっちから話しかけても短い返事で会話を切り上げられてしまう。

 いつもなら俺とたくさん雑談してくれるのに、今日はなんだか避けられてる気がした。

 

「あの!原田先輩、俺なんかしました!?」

「……っ」

 

 あまりにもいつもと対応が違うので、思い切って彼女を問い詰めてみた。

 彼女が休憩中、原田先輩にだけ聞こえるように隣に行って尋ねる。

 その時だって俺が近づくのを横目に確認して立ち上がって、離れようとした。

 声をかけたから足を止めてくれたけど……一体なんで今日はそんなよそよそしい態度を取るんだろう。

 

「すみません!俺なんも気付いてなくて、無意識なんですけど、なんか嫌なことしてしまったなら謝ります!ごめんなさい!」

「……へ?」

 

 俺は原田先輩に謝る。

 原田先輩は良い人だ。

 彼女が俺と接しようとしないのなら、きっと俺に原因がある。

 これまでだってそうだったから、自然とそう思った。

 きっと俺が何かしたんだ。

 それで気に触って……そうに違いない。

 何かした記憶がなくて、具体的に謝れないのがネックだが仕方ない。

 とにかく謝って、許してもらう方が先決だ。

 だって、原田先輩とこれから先ずっと、こんなに距離を感じ続けるなんて絶対に嫌だから……!

 

「あ、えっと……。べ、別に津川は何もしてないよ?私、別に怒ってる訳じゃなくて……」

「えっ。じゃあなんで今日こんなに避けるんですか?俺のこと……避けてますよね?」

「……っ!そ、それは……!」

 

 どうやら何か気に触るようなことをしてた訳ではないようだ。

 でも、だとしたら尚更なんで避けられてるのかわからない。

 ……もう少しだけ、問い詰めてもいいだろうか。

 

「それは……?何ですか?教えてくださいよ。俺、このままじゃ嫌です!原田先輩()()仲良しでいたいです!」

「……っ!あ、えっ、あっ……。ごめ……っ、えっと……」

 

 原田先輩が目を泳がせる。

 その最中、一瞬だけ霧島先輩にも目線を送った気がしたが、霧島先輩はイケ!イケ!と謎のサインを送っていた。

 それを受けて原田先輩が俯きながら小さく頷き、ゆっくりと小さく口を開く。

 

「えっと。その……」

「……その?」

「……っ!」

 

 ようやく何か言ってくれそうな口ごもり。

 しかし、すぐに背を向けてしまう。

 

「ご、ごめん!」

「えっ!?ちょっと……!」

 

 急に走り出してフィールドに戻る原田先輩。

 練習が再開されたのでそれ以上は追求できず、俺は仕方なく練習が終わったあとに片付けや雑用を済ませて、彼女を追いかけた。

 

「先輩!」

「……っ」

 

 制服姿の原田先輩とジャージの俺。

 着替える時間はショートカットした。

 じゃないと原田先輩が先に帰ってしまいそうだったからだ。

 

「先輩、待ってくださいよ!先輩!」

「……っ」

「原田先輩!」

「~~~~~~~~っ!」

 

 俺に気付かないフリをして、帰路をそそくさと歩いていく原田先輩の背中に俺は必死に声をかけた。

 原田先輩は最初こそ無視していたが、俺が何度も声をかけるうちに足を止め、申し訳なさそうに振り返る。

 

「……ごめん」

「だ、だから……それ……っ!何の謝罪なんですか!?」

 

 部活の休憩時間中にも謝って逃げられたが、そもそも謝る意味が分からないし、それを求めてない!

 求めてるのは説明だ。

 そう思いながら俺はやっと足を止めてくれた原田先輩の前で、中腰になって膝に手をつき肩で息をする。

 

「あっ……ご、ごめん。あっ。……私、逃げちゃってごめん。走らせちゃったよね?ご、ごめんね?」

「い、いえ……っ。それより……」

「……っ!う、うん」

 

 もう俺の要求を正しく理解してる原田先輩は、俺の心配をしながらキョロキョロと周りを見渡す。

 ちょうど、小さな公園のベンチがあった。

 彼女はそれを指さし、俺に上目遣いで子首を傾げる。

 

「そこのベンチ、座ろっか。私の話……聞いてくれる?」

「……っ。……聞きますよ。いくらでも。その為に追いかけてきたんで」

「そ、そっか。そうだよね。うん。ごめ……ありがとね」

「いえ……っ」

 

 俺は呼吸を整えて、原田先輩と一緒にベンチに座った。

 彼女は席に着くやいなや俺に尋ねる。

 

「あ、水とか……持ってる?」

「はい。水筒あります。ま、まず飲んでいいですか?」

「うん。ゆっくりでいいよ」

「……ホントに?」

「も、もう逃げないから……!ごめんってば」

「はははっ。冗談です。すみません」

 

 少し笑ってから、水を飲む。

 原田先輩は俺が喉を潤すのを待っている。

 どうやらようやく本当に話をしてくれる気になったみたいだ。

 安心した。

 喉を鳴らし終えたら、水筒をしまって隣合う彼女に目線だけ向けた。

 

「……それで、なんで俺のこと避けてたんですか?」

「べ、別に避けてた訳じゃなくて……その、は、恥ずかしくて……」

「えっ。恥ずかしい?」

「うん……恥ずかしい、っていうか勇気が出なかったというか……いざってなると、私何も言えなくて。言い出せなくて……っ」

 

 なんだかモジモジしながら顔を赤くする原田先輩。

 だが、そもそも話がまったく見えてこない。

 何の話をしてるんだ?これ。

 一体何が恥ずかしかったのか。

 言い出したかった、というのは何を言い出したかったのか。

 彼女の口から説明してもらわないとわからない。

 それは原田先輩も気付いてるようで……。

 

「あっ。ごめん。何の話してんだよって感じだよね」

「い、いえ。ゆっくりでいいんで……もっと教えてください」

「……っ。うん……」

 

 原田先輩が俺の立場になって、気付いたが、とにかく今は目の前のことにいちいち謝るより本題に入りたかった。

 だから、俺は彼女がゆっくりとでも言葉を紡いでくれるのを待つことにした。

 原田先輩は、一度息を呑んで深呼吸を挟むと、勇気を振り絞るように目線だけ俺に送る。

 顔は地面を向いていたし、スカートをギュッと掴んでいた。

 

「あ、あのね。その……放課後とか休みの日とかでどっか空いてる日ない?」

「……えっ?」

 

 事情の説明を期待していたから、真っ先に出たのが予定を尋ねるという事で面食らった。

 ……思うところはあるが、口を開いてくれるようになるまで大変だったんだ。

 ここは変に蔑ろにせずに彼女が話したいことを優先して、彼女がしたい会話に乗ろう。

 

「あ、あぁ……えっと今週ならどこでも」

「ホント!?じゃあさ、じゃあさ……!一緒に野球観に行かない?」

「……っ」

 

 突然の誘い。

 あぁ、なるほど。

 言い出せなかったこと……その正体はわかった。

 つまり、これだ。

 俺を誘いたかったんだ。

 でも、誘えなかった。

 恥ずかしかったから。

 原田先輩がさっきそう言ってた。

 そして、なぜ恥ずかしかったのか。

 それは原田先輩が処女……前の世界でいう童貞で勇気が出なかったのと、俺達が異性間だからだ。

 そうだ、先輩は意識したんだ。

 俺だって誘われてすぐ意識した。

 だって、2人で野球観戦に行く、2人で出かける……それは、それって……。

 

 ―――デートじゃないか。

 

 そう、思わざるおえないからだ。

 これは俺が童貞だからすぐに意識してしまうのはあると思う。

 だが、今回に限っては原田先輩も俺と同様の立場。

 そして、そんな彼女が勇気を出せず、恥ずかしがっていた。

 つまりはあながち俺の先走った意識も間違いではない。

 なぜなら向こうも意識しているのだから。

 両方が意識してるのなら、それは……童貞(おれ)の憶測だって、事実なんだから合っているハズ。

 

「あ、えっと……」

「あっ。やっぱり……ダメ?」

「い、いえ!全然、大丈夫です!」

 

 原田先輩が顔を赤くしながら、俺と向き合う姿勢になって、身を乗り出して上目遣いで聞いてきた。

 俺みたいな童貞は意識し始めるとそれで頭いっぱいになってテンパるが、まさしく今はそれだ。

 でも、この期を逃さないというのは本能レベルで脊髄反射してしまう。

 相手に対する気持ちがどうとか、駆け引きがどうとかそんな事を考える余裕はない。

 滅多に来ない女の子からのアプローチ。

 だから、食い気味に大丈夫問題ないという意思表示をした。

 原田先輩は、俺の返答を聞くと、パァっと分かりやすいくらい明るく笑顔になって嬉しそうにする。

 

「そ、そう?よかった!じゃあ土曜なんてどう?大会近いから色々買い物もしたくて……付き合って欲しいんだけど」

「そ、それも全然大丈夫です。寧ろお手伝いさせてください!主力選手のサポートはマネの役目なんで……!」

「えぇ?あははっ。何それ。マネの鑑か!」

 

 原田先輩は自然に笑いながらツッコミを入れる。

 いつもの先輩、いつもの笑顔だ。

 俺はその表情を見ると……凄く安心する。

 

「……もしかして、今日ずっと俺を誘おうとして。それで様子おかしかったんですか?」

「……っ」

 

 俺が尋ねると、彼女は目を合わせてくれなくなって、顔も逸らしながらポニーテールの毛先を弄り始めた。

 そして、小さく頷く。

 

「……うん」

「……っ」

 

 確信はあったが、聞くのは勇気が必要だった。

 でも、尋ねてよかった。

 彼女がこくりと肯定した瞬間、内側から興奮を覚えた。

 先輩にバレないように抑えたが、抑えきれたかは自信がない。

 それくらい……本人の前じゃなかったら悶えていた程に、震えそうだった。

 

「か、帰ろっか」

「……っ。はい!」

 

 原田先輩も落ち着かなくなったのか、言い出して立ち上がる。

 避けられていた理由もわかって、話もちゃんとできた。

 本題の遊びにいく約束だってできた。

 帰ろうという原田先輩の提案を断る理由はなくなった。

 俺達は一緒に帰る。

 

「家の近くまで送ってくれてありがとうございます、原田先輩。原田先輩の家、逆方向なのに……」

「えっ。いや……!こ、これくらいは全然。ほら、私のせいで遅くなっちゃったし、この時間に男の子1人は……ね?危ないじゃん」

 

 もう俺の家まで後少しというところまで原田先輩は一緒にいてくれた。

 確かに彼女の言う通り、逆転世界では男1人にはさせて貰えないかもしれない。

 俺としては変な感覚だが……先輩に守ってもらえるのは、なんだかちょっと嬉しい気もする。

 いや、ホントにそれが理由でここまで送ってくれたんだろうか。

 先輩は、もうちょっと俺と一緒にいたかっただけだったりして……いや、過度な期待はよそう。

 それに、そう思っていたのは俺の方だった気もする。

 原田先輩が送ってくと言い出さなければ逆転世界であることも思い出して、それを利用して送ってくださいとお願いしてたかもしれない。

 うん、多分そうしてた。

 

「じゃあ……土曜日、楽しみにしてます!原田先輩」

「……っ。……うん。私も。すっごく楽しみ。ありがとね、津川」

「ま、まだ礼言うには早いですよ。買い物、荷物運びでも何でも手伝いますから言うならその時です!」

「えぇ……?やだ、男子に荷物持たせるなんて……私そんな情けない?」

「あっ。いや、そういう訳じゃ!すみません!」

「あはっ。冗談だよ、冗談。頼りにしてるね……津川」

「……っ」

 

 家の近くで俺に手を振る原田先輩。

 俺にだけ向けたちょっと不器用な会釈が凄く記憶に残った。

 彼女と別れた後も俺は興奮気味だった。

 頼りにしてる、そう言われたことが噛み締めるほど嬉しくて、抑えても抑えてもニヤケた口元が漏れそう。

 

 ―――頼りにしてるね、津川。

 

 彼女の言葉が、彼女の声で、何度も俺の頭の中で流れる。

 頼りにしてるね。

 頼りにされてる……!

 

 土曜日、原田先輩と出かける。

 原田先輩から誘ってくれた。

 この日の晩は、"脈アリ"という言葉を何度も早とちりするなと枕に頭を擦りつけて打ち消そうとした。

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