貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第6話:最強校のエース

 

 来る途中で、中龍学園についてついでに少し調べた。

 だから、俺は獅ノ宮野球部を嘲笑うように現れた2人を知っている。

 彼女達は。

 

「なーにがベスト8って感じじゃん?それどころか人数不足で試合できないし。もう廃部になっちゃうんじゃない?マジウケる。ねっ、真広(まひろ)

 

 獅ノ宮をバカにする小柄女子。

 中龍学園2年生、(たに) 繁那(はんな)

 ポジションはキャッチャー。

 そして、真広と呼ばれ、彼女に同意を求められるように声を掛けられた方は、そのネームも身長も大物だ。

 

「いちいち相手を煽らないの。繁那のせいで色んな人に恨まれて大変」

 

 そう言って眉を少し下げつつも顔を顰めたりはしない、表情が乏しい系の170後半は余裕でありそうなひ弱長身女子。

 中龍学園2年生、橋本(はしもと) 真広(まひろ)

 ポジションはピッチャー。

 そして、なんといっても彼女を紹介する上で必須項目は。

 

橋本(はしもと) 真広(まひろ)』は『U18日本代表候補』、ということ。

 

 既に去年の冬、強化合宿に呼ばれている。

 そんな彼女にも谷さんは躊躇なく噛み付く。

 

「何言ってんのさ。真広がそんなんだから中龍(ウチ)が舐められるんでしょーが!」

「別に誰も舐めてないと思う。それに、私はこの態度でも先輩に怒られたことない。繁那はいつも怒られてる。これだけで私の方が正しいことは実証されてる」

「そんなんで納得できるか!?あんたの教育係は名護(なご)先輩だし、ズルだろその理論は……!あの人は怒らせる方が難しいっての!」

「はぁ。もうピーピーうるさいなぁ」

「あぁ!?」

 

 淡々と説き伏せる橋本さんに反論する谷さん、さらにそこに口を挟んだのは原田先輩。片耳に指を突っ込んでアピールする。

 それに対して谷さんが声を荒らげた。

 だが、そんな彼女を原田先輩は無視して橋本さんと向き合う。

 

「この()なんなの?真広」

「ご、ごめん……私のバッテリー……」

「えっ。これが?」

「これ言うな!」

 

 信じられないものを見るような目で視線を移動させた原田先輩に、谷さんが抗議する。

 そのやり取りを前にして、俺は思ったことがある。

 

「えっ。原田先輩と橋本さんってお知り合いなんですか……?」

 

 俺は二人を交互に見る。なんか当たり前のように下の名前で呼んでたし、橋本さんの反応からしても互いに顔見知りといった雰囲気だった。

 てっきり中龍学園のメンバーとは初対面だと勝手に思っていた。だって、去年対戦記録なかったし。

 

 それに、獅ノ宮メンバーがU18日本代表選手と、失礼ながら面識があるとはいやはや予想外だった。

 だから、俺は率直に尋ねる。

 すると原田先輩は俺の偏見を見透かしたのか、顔を顰める。

 

「あんたね。私に強豪校の知り合いがいたらなんか悪いわけ……?」

「……私と涼香はU18日本代表強化合宿で冬に真広と一緒だったの。それだけよ」

「へ、へぇ。そうなんですね」

 

 イライラしてしまった原田先輩の代わりに成城先輩が答えてくれた。

 俺はなるほどなぁと納得する。

 ……ん?あれ?

 なんかおかしくないか?というか今すごい大事なこと思わずスルーしなかったか、俺!?

 

「えっ!?成城先輩と原田先輩もU18日本代表なんですか!?」

「えぇ」

「そんなあっさり……」

 

 成城先輩は真顔で頷いた。

 俺は唖然とする。

 個人成績は調べたけどそれは獅ノ宮の大会データを参照しただけだし、代表入りなんて個人のニュースまで追ってないと把握できない。さすがにそこまでは調べきれてなかったわ。

 

 まあでも成城先輩が代表だというのは納得だ。成城先輩のデータはかなり優秀だった。まず、ポジションは全部と言っていたのは嘘ではなかった。

 去年の記録を見ると、主にセカンドでの出場は多かったが、全ポジション担っていた。内野も外野も捕手も投手も、それこそ本当に全部だ。

 

 しかもどの守備指標もいいし、打撃指標も優秀。投手としての成績も中継ぎしかやってなかったが良かった。二刀流なんてもんじゃない。もう手が足りないレベルになんでも完璧だ。もはや阿修羅よ、阿修羅。

 だから、すげぇな代表クラスなんじゃ……とは思ってた。ただまさか本当に代表とは……驚きだ。

 

 逆に原田先輩に関してはもはや意外だと思った。守備指標は確かに目を見張るものがあった、というか正直えげつなかったが、打撃指標は酷かった。

 お世辞にも良いとは言えない。てかゴミだった。ゴミ。

 

「……あんたなんか私に失礼なこと思ってない?」

「はい!思ってます!」

「なんで私にはそんな無駄に素直なのよ。ちょっとは否定しなよ」

 

 俺が全力で頷いたことで、原田先輩ももはや怒る気にならず顔を顰める。

 申し訳ないが、心の底からこの人が日本代表!?というのが俺の感想なので気を使おうと思えない。

 

「涼香は補欠よ」

「あっ、ですよね!やっぱり!!」

「……こいつマジ殴ってもいい?」

「男に暴力振るうと後々めんどくせぇぞぉ~」

「チッ!!」

 

 オウ、めっちゃ盛大な舌打ち。

 女の方が暴力性のある世界であることを感じさせる、霧島先輩の指摘を受けて、原田先輩が機嫌を損ねて先に球場へと消えてしまった。

 

 ちょっと弄りすぎただろうか。

 まあそれはさておき、ここに現れたのがバッテリーということは……と、どうやら美山先輩も同じことを思ったらしく前に乗り出してきた。

 

「誰か知らないけどぉ、もしかして二人は今日の先発バッテリーなのかな~?」

 

 美山先輩が小首を傾げて尋ねる。

 橋本さんと谷さんはどう見てもアップ中だ。近くにいると熱を感じるし、軽めに走ってきた後なんだろう。

 準備をしてるということは、そういうことだ。

 その証拠に橋本さんは頷いた。

 

「うん。私が先発ピッチャー。繁那もスタメン」

「未来のエースとそのバッテリーがお前らの今日の相手だ!どうだ!絶望したろ!」

「いえ、別に」

「そこはしろよ!?日本一の強豪校、中龍のエースバッテリー……と、とはまだ言えないけど……エ、エースバッテリー……に、そう、に!なる予定の私達が相手なんだぞ!?」

『……』

 

 ……苦しいな。獅ノ宮メンバーも微妙な表情をしている。

 多分エースバッテリー名乗るのは許されてないんだろうな。強豪校はそういうところ厳しいだろうし。

 上下関係もそうだが、その垣根を越えるなら実力を示さないと下級生な上に実力もないのに何調子乗ってんだの一言で一蹴される。

 

 それになにより、中龍には全国の高校野球ファンも認める絶対的エースがいる。橋本さんも十分ビックネームだが、彼女を差し置ける筈はない。そんなことは誰もが許さないだろう。

 そして、その人を、当然獅ノ宮メンバーは認知している。

 

「やっぱりエースはまだ名乗れないんだね~?」

「うっ……そ、それは……」

「まあ中龍のエースっつったら名護(なご)がいるしなぁ」

 

 美山先輩の苦言に谷さんが苦虫を噛み潰したような表情をして、霧島先輩がその名を挙げる。

 そう、中龍のエースピッチャーの名は名護。

 

 名護(なご) 憲子(のりこ)

 

 中龍学園3年生。絶対的エースピッチャーにして、高校最強投手。

 一人で157球投げたとか、甲子園でノーヒットノーランをしたとか、そんな化け物みたいな実績ばかり持っている。

 

 なので、大会の第一戦や強豪校の相手など大事な試合は必ず彼女が先発ピッチャーに抜擢される。そして、その起用には必ず応える。

 まさにエースに求められるものを持ち合わせた存在……なのだが。

 

 余談だが、彼女は、名護憲子はエースに似つかわしくない温厚な性格の持ち主だという。おかげで異性からの……男子人気も高い。

 よく前の世界でも甲子園の球児をやたらカッコイイだのイケメンだの王子だのともてはやす文化がたまに流行ったが。彼女はまさにそれだ。

 実力と性格で、多くの心を鷲掴みにしている。

 

 だから、言われるのだ。

 最強校中龍のエースは彼女を差し置いて、他にはいないと。

 名護憲子が最強のエースだと……!!

 

「で、その名護は投げないのかよ?」

 

 霧島先輩が現実に戻す。

 彼女の疑問に橋本さんと谷さんのバッテリーに視線が集中する。

 答える谷さんは腰に手を当て、口角を上げて、フッと挑発的な笑みを浮かべた。

 

「ウチのエースと戦いたいってか?ハッ、思い上がんなっての。だったら私達から倒してみな。じゃないと引きずり出すなんて、夢のまた夢じゃん?」

『……っ!』

 

 先輩達の目つきが変わる。

 俺も、彼女の物言いに眉間にしわをよせた。

 先輩達はもちろん、俺も勝ちに来てる。まあ俺は2日目だけだけど。

 だから、挑発されたらムッとする。

 そして、今再認識した。やはり、相手は彼女達で申し分はないと。

 俺達は最強校に宣戦布告する。

 

『上等!叩き潰す!』

 

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