貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第61話:完成 『獅ノ宮ベストナイン』

 

「逢引中か。失礼した。彼は私が困っていたから助けてくれただけだ」

「あ、逢引……?」

 

 原田先輩が困惑する。

 そういえば、ずっと思ってたけどこの人なんか言葉使いちょくちょくおかしいんだよな。

 古かったり漫画みたいな口調だったり……。

 貴様、とか普通使わないし。

 一体何で日本語学んだんだろう。

 

「えっと。外国の人……?だよね?助けてたって……」

「あぁ。ちょっと値段わからなかったみたいなんで、それ教えてたんです。……まあ野球部に勧誘もしましたけど」

「は?」

 

 二度見する原田先輩。

 そらそういう反応になる。

 思い返すと我ながら節操がないな。

 アリアといい中宮先輩といいついビビッときたら行動してしまう。

 

「あんたね……アリアの時も思ったけど勝手に勧誘しないでよ。こっちだって編成の都合とかあるし、冬華か廣目くらいには話通して判断煽った方がいいんじゃないの?」

「で、ですよね~」

 

 原田先輩は呆れたように言った。

 前にも原田先輩から言い出したことがあった。

 特に成城先輩は釘を刺されてたけど、報連相とかちゃんとすることって。

 なのに、原田先輩と一緒にいる時にその公約を破っちゃったな……。

 とりあえず、彼女の指摘はご最もすぎるので、俺は成城先輩にメッセージを送って、廣目には電話をかける。

 今日は部活休みだけど出てくれるだろうか。

 そう思うのも一瞬だった。

 廣目は数秒で通話に応えてくれた。

 

『廣目です。……何でしょう?今から夕ご飯を食べるので手短にお願いします』

「あ、あぁ。急にごめん」

 

 夕ご飯?まだ16時なんだが……。

 もしかして、夕ご飯の後に夜ご飯が控えてるのか?廣目だったら言いそうだ……。

 ってそんな事はどうでもいい。

 

「その、急なんだけど……また部員になって欲しい人をまた見つけちゃって、バッティングが得意らしいから補強ポイントにも合うと思うんだけどど、どうかな……?」

『そうですか。わかりました。良いと思います。お任せします』

「えっ。俺が言うのもなんだけど、なんかえらいあっさりじゃないか……?」

『いえ。私はこってり派ですよ』

「飯の濃さの話はしてねえよ……。まあまだ入ってくれるって決まった訳じゃなくて本人の要望で入部テストをしてからってことになったんだけど、どっかで時間取れるか?」

『……今日その人の時間と津川先輩の時間は空いてないんですか?』

「えっ?」

 

 俺は当の本人を一瞥して、クレアは俺の話を聞いて二つ返事で「この後の予定はない」と承諾してくれた。

 でも、俺の予定は……。

 

「あっ。えっと、原田先輩……」

「……いいよ。もう買い物も終わったし。チームの為でしょ?」

「……っ。すみません……ありがとうございます……」

 

 原田先輩は快諾してくれた。

 しかし、眉をひそめて無理して笑ってる感じがある。

 思うところはあるが、クレアに聞いたところ明日も平日ももう空いていないらしい。

 また後日、となると来週以降になると。

 そういうことならもう今日しかない。

 原田先輩に対して心苦しい気持ちはあるが……。

 

「原田先輩、今度埋め合わせしますから……」

「い、いいよ。ほんとにもう。用は全部済んだし」

「埋め合わせします。……させてください」

「……!……うん。わかった」

 

 なぜかこのまま終わりにはしたくなかった。

 俺は、原田先輩と新しく約束を交わした。

 今日はなんだかんだ楽しかったし、原田先輩といた時間は充実してた。

 また原田先輩と出かけたいと思った。

 だから……。

 彼女を蔑ろにしたままは嫌だ。

 この関係を大切にしていきたい。

 そして、何より……先輩に嫌われたくないから。

 

「絶対です。絶対、また一緒に野球観にいきましょ」

「もう……わかったってば。ほら、もう私はいいから」

「は、はい」

 

 原田先輩に促されて、俺は廣目との通話に戻る。

 

「……俺もクレアさんも大丈夫だけど。廣目もこっから会いに来てくれるのか?」

『いえ。私はいいです。入部テストは津川先輩だけでやってください』

「えっ!?なんで!?」

『もう必要なメンバーは集まっていますし。ここから追加となるならもうあとは津川先輩の直感に任せます。それでは』

「えっ、ちょっと……!おい!」

 

 ダメだ。ぶつ切りされた。

 えぇ……?なんでだ?怒ってるのか?俺が勝手に勧誘したから?

 いや、そんなの初めてじゃないし、それに怒ってる感じの声音ではなかった。

 廣目が怒ってるところを目の当たりにしたことはないけど、普段通りの廣目だったと思う。

 じゃあなんで俺に一任するなんて丸投げしだしたんだろう。

 う、うーん……。

 

「何?どうかしたの?」

「い、いや……それが入部テストは今日俺とクレアさんだけでやるようにって言われて……」

「はぁ?廣目は?」

「それが来ないって……」

 

 俺の返しに原田先輩も困惑したように顔を顰める。

 まあでもこうなったら仕方ない。

 俺だけでどうにかクレアさんとの交渉を進めていくしかない。

 

「原田先輩は帰って休んでください。そ、それじゃあ……今日は楽しかったです」

「いや、ちょっと待ってよ。そんな状況になったのにはい、お別れなんてできないって。私もその入部テスト付き合うよ」

「えっ!で、でも……」

「でもじゃない。津川をここから1人になんてできないし、テストするならさ、プレイヤーの私がいた方が何かと便利でしょ?」

「それはそうですけど……いいんですか?」

 

 俺が尋ねると原田先輩は小首を傾げてニコッと会釈する。

 

「モチ!いいって言ってんでしょ。私にも手伝わせてよ」

「……っ。あ、ありがとう……ございます」

 

 切り替えてウィンクしてくれる原田先輩。

 俺はドキッとした。

 超良い人だ。

 俺、この人のこと……さらに好きになったかもしれない。

 ほんと、大好きな先輩だし、尊敬できる。

 

「クレアさん!テストの方式なんですけど……どうしましょう?」

「呼び捨てとタメ口でいい。2人ともだ。それと、私の能力を魅せられる最適な場所がある。着いてこい」

 

 そう言ってレジで精算を済ませたあと、俺たちの前を歩くクレア。

 俺と原田先輩は顔を見合せて彼女の後に続いた。

 すると、連れてこられたのはバッティングセンター。

 

「私がお前たちのチームに必要な存在か、ここで見極めるといい。無論、その次は私がお前たちを見極める番だがな」

「何をするつもりなんですか……?」

「見ていろ」

 

 端的に答えたクレアはメットを被って左打席に入った。

 バットは自前の物を使用する。

 他に客がいない中、彼女が選んだピッチングマシーンは1番球速帯の高い端っこの扉だ。

 俺と原田先輩は彼女が入った部屋の前まで移動し、外から彼女の後ろ姿を見る。

 

「最速120km/h。変化球も何でもありですね」

「まあ普段競技やってる人間なら打つ分には大丈夫でしょ」

 

 原田先輩の言う通り、多分打つだけなら原田先輩が打席に入っても問題ない。

 実力を見せるなら実践……つまり実際の選手を相手にするのが1番だ。

 だからこそ、この打てて当然のバッティングセンターで一体何を魅せてくれるのか。いや、何を魅せられるというのか。

 見極めろと言われたのは、きっとそこだ。

 

「いくぞ」

「……っ!」

 

 ピッチングマシーンの機械音が聞こえて、クレアが宣言する。

 俺と原田先輩は彼女のバッティングに注目した。

 

「ふ……っ!!」

 

 淡々と等間隔で投げ込んでくるピッチングマシーン。

 速球から緩い変化球まで緩急をランダムに用いてくる。

 それをしっかり全球バットに当てる未知の欧州人打者、クレア・バローナ。

 彼女は、当たり前のように空振りをしない。

 だが、それは驚くべきことではない。

 驚くべきは、俺と原田先輩が見ていて2人とも『この打者は空振りなんてしない』と共通認識を抱いたことだ。

 だから、驚いたりしない。

 彼女のスイングを見れば、空振りなんてしないことくらいわかるからだ。

 そして、()()()()()だけの技術が、クレアにはある。

 彼女のスイングを見ていて、コンタクト力を前にして、目の前にして体感で捉えてるからこそ、感覚で確信できる。

 

 間違いない。

 クレア・バローナ、彼女の特技はミート力。バットコントロールだ。

 

 恐らく様々なタイプのピッチャーに対応できる。

 ピッチングマシーンがあらゆるパターンの投球をしてきても必ず対応している。

 だが、さっきも言ったが相手はピッチングマシーン。

 やはり生身の人間以上に打てるということの価値は下がる。

 

 それでも、俺も原田先輩もクレアを評価した。

 それは……。

 

「気付いてますよね?原田先輩。俺でもわかりますもん」

「……うん。クレアは毎回わざと()()()()()()()()()()。ねえ。あの()……もしかして」

「はい。俺も同じことを思っていました」

 

 原田先輩の言葉に俺は頷く。

 クレアはどんな球が飛んできても、狙った場所に打球を飛ばすことができる。

 余裕がなさそうに振り切ってるから多分今も本気のスイングなんだろう。

 それでも打球が遠くへ飛ぶことはない。

 だから、多分パワーはないんだ。

 その代わり、ミート力が異常だ。

 そして、この異常な能力は見たことがある。

 

 美山 優希だ。

 

 クレアは、ミート力だけなら美山先輩と同じものを持ってる。

 つまり、男子レベルに到達している。

 男子級の天才。獅ノ宮の天才達と同じ人種。

 美山・成城が有する能力の一部を供えている、あの2人以外の6人と同じ【特化型】……!!

 

「どうやら理解できたようだな。さぁ、次はお前たちの番だ」

『……っ!』

 

 ピッチングマシーンが投球回数を終えて、全て同じところに打球を打ち飛ばしたクレアが、バットの先を俺たちに向ける。

 次は俺たちが試される番。

 クレアが野球でお金を稼ぐという目標を達成するために、必要な実績を積める学校かどうか。

 獅ノ宮野球部は、それを試されている。

 

「上等。次は私が魅せてやる!」

「……っ。原田先輩……!」

「ほう」

 

 俺の前に出て、俺を庇うようにクレアのバットの先に自ら踊りでる原田先輩。

 周りを確認してから他の客がいないことを利用して、クレアの部屋のフィールドに出た。

 そして、クレアのバッターボックスの前に立つ。

 

「何をするつもりだ……?」

「あんたの打球を捕ってやる。私が捕れないところに打ってみろ!どこに飛ばそうが私は捕れる」

「……!」

 

 何処にでも飛ばせるクレアにとって最適な煽り文句。

 打球を操れるクレアと、守備範囲オバケの原田先輩。

 この2人の対決はいわば真っ向勝負。

 互いに互いのメタ的な能力。

 つまり、勝てばそれは実力の優劣が完全に着くということだ。

 故に、クレアは煽りに対して原田先輩を鋭い目で捉える。

 

「私達の野球部はあんたみたいな天才がゴロゴロいるの。その中でも私は下から数えた方が早い。だから、私に魅せられる()()()ならあんたにとってウチはそれだけ魅力的なチームってワケ」

「……なるほど。そういうことか」

 

 天才同士、同じ人種同士言葉は少なくとも通じ合う。

 日本人だから、欧州人だから。

 彼女たち"()()()"にそんな区切りはない。

 あるのは、優劣のみ。

 原田先輩は無意識にその価値観を見せた。

 クレアは彼女が無意識であることに気づいてる。

 だからこそ、余計に原田先輩のことを気に入った。

 返した言葉は淡白だが、クレアの口角は上がっている。

 これは……テンションが上がってるんだ。

 クールそうに見えていたが、中は熱い。

 原田先輩のメンタリティに共感と興奮を覚えている。

 

 そうだ、クレア・バローナ。

 その人が俺の自慢の先輩。

 獅ノ宮の内野手……原田 涼香だ!

 

「私が勝ったら、ウチに入りなよ。いいでしょ?魅力を感じるってことは可能性も感じるってことなんだから。あんたがプロに顔売りたいなら……私達の仲間っていうのが売りになるくらいブランド力つけてあげる」

「大した自信だな」

「お互い様でしょ」

「……気に入った」

 

 クレアはますます原田先輩に魅入られる。

 左打席にもう一度セットした。

 彼女は、真剣勝負をご所望だ。

 原田 涼香が必ず応えてくれると確信しているから。

 

「さぁ、ばっちこい!」

「……待て。スカートでやるつもりか?」

「何?別にいいでしょ。安心しなよ。言い訳なんてしないから。ま、する必要ないだろうけどね」

「そうか。ならばいい」

 

 店主に許可を得て、グローブも借りた。

 原田先輩はピッチングマシーンより前、セカンド寄りに投球が当たらないようにストライクゾーンからは出て、ポジショニングする。

 低く構えた原田先輩の守備姿勢を見て、クレアはバットを構える。

 

「原田といったな。既に素晴らしいプレイヤーだ。貴様の選手としての姿勢……尊敬に値する!」

「……そいつはどうも」

「おかげで自分自身に気付きを得たぞ。私は出場機会が欲しかったのではない。対等な勝負を求めていた、とな……!」

 

 ピッチングマシーンの機械音が始まる。

 

「いくぞ、原田」

「涼香でいいよ。私もあんたのことクレアって呼ぶから。歳上が呼び捨てにしろって言うならこっちも同じこと求めてもいいでしょ?」

「あぁ、構わん。気軽にタメ口、これもまた対等故だ。この関係に申し分なし。さぁ、改めていくぞ。涼香……!」

「よっしゃ。来い!!」

 

 対峙する2人。

 ピッチングマシーンが球を放つ。

 胸元に曲がってくるカーブだ。

 

「これを捕れるか……!」

「余裕」

「……っ!?早い……!」

 

 クレアは内に入ってきたカーブを器用に逆方向に飛ばした。

 しかも打球は鋭く速い。

 だが、それよりも速い……いや、()()ものがある。

 

 それは、原田先輩の動き出しだ。

 早い。

 あまりにも早い。

 クレアがミートした時には既に身体がピクリと反応していた。

 打球が飛んだ時には、もうその方向に駆け出している。

 原田先輩は今、ピッチャーより一塁寄りにいるが、ピッチャーより前にいる。

 だから、三遊間方向に打球が飛んでも動く範囲としては通常より狭い。

 セカンドからショートまでの距離はセカンドの定位置から二塁ベース程しかないと言える。

 だとしても、距離が近い分、打球は通常より速いというデメリットもある。

 それでも、原田 涼香という内野手に、守備職人に、そんなことは関係ない。

 

 彼女は、高校生の時点で高水準のユーティリティ性を持つ『名手の原田』。

 

 特筆すべき彼女の能力は守備範囲。

 どこを守ってもRngRは9.0を超える。

 

 だから、クレアの逆方向の速い打球も簡単に追いつくし飛びつける。

 彼女は飛び込んで、伸ばした腕の先、ミットの中にその打球を迎え入れた。

 

「やるな。どんどん行くぞ!」

「かかってこい!!」

 

 クレアと原田先輩。

 どちらも笑みを浮かべている。

 認め合ってるんだ。

 2人の対決は日が沈むまで続いた。

 そして、原田先輩が逸らした球はなく、40球を超えたあたりで捕球ミスで幕を閉じた。

 勝負を終えて、別れ際。

 クレアは俺たちに言い残す。

 

「予定は全てキャンセルすることにした。獅ノ宮(しのみや)野球部、私も加わらせてもらうぞ」

『……!』

 

 彼女の言葉に俺と原田先輩は息を詰まらせて顔を見合わせる。

 そして、俺たちの返事は決まっている。

 

『もちろん!待ってる!ようこそ。獅ノ宮(しのみや)へ……!』

 

 獅ノ宮野球部、最後の部員。

 男子級の天才9人で構成される『獅ノ宮ベストナイン』の9番目!

 

 赤い天才打者。

 クレア・バローナ。18歳。

 

 才能はミート力。バットコントロール。コンタクト力。

 安打量産機、出塁の鬼だ。

 

 奇しくも、偶然の出会いが重なりに重なって、中断していたベストナイン計画が完遂された。

 新生獅ノ宮野球部、総勢18人。

 これにて完成。

 このメンバーで俺たちは夏の甲子園に挑む。

 

 そして、後に語られることになる。

 獅ノ宮野球部には、女子野球の歴史を変える規格外の天才が9人いたと―――。

 

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