貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
夏合宿1日目。
廣目は大会前の練習は実質この合宿が最後だと告げて、それが宣誓となり学校は始まった。
初心者組と投手転向する助っ人ズ以外は殆ど天才組だ。
中宮先輩は天才組だけど大会直前まで練習するし、韓国姉妹は天才組じゃないけどこの合宿が最後の練習日。
この2つの例外を除いてはキレイに分かれている。
と、いうのも天才組や韓国姉妹はもう個々のレベルアップに関してやることが殆どない。
既に完成されているからこそ、あとはもう全体との連携と実際の稼働における起用法の模索くらいしかやることはない。
だから、合宿が終わったら試合に向けてケアに集中するメンバーは半分くらいいるのだ。
一応区別しとくか。
合宿後
練習組:中宮、山崎、
休養組:美山、原田、霧島、長門、アリア、クレア、ソユン、ソヨン
コーチ:成城、廣目
協力(雑用):俺
と、まあこんな感じだ。
だが、この編成に不満がある人が1人いる。
「ねえ、廣目。私にも指導してよ。私もっと守備上手くなりたいんだよね」
「……もう充分上手いと思いますけど」
グランドで唐突にそう声をかけられて困惑する廣目。
返ってきた渋い反応に、謎の鈍さを発揮して原田先輩は大袈裟な身振り手振りで否定する。
「いやいや、まだまだでしょ。私の目標は冬華を超えるユーティリティだよ?現状どこ守っても冬華の方が上手いんだからまだ鍛える余地ありじゃん。ね、廣目の"眼"から見てさ。なんか私の改善点見いだせない?」
「そ、そう言われましても……」
原田先輩はどうも食いつき、引く様子はない。
廣目はグイグイこられて珍しく対応に困ってる。
原田先輩が廣目にこうも指導を乞うのは、廣目の"眼"にコーチングにおける利点があるからだ。
まさに副産物というべきか。
廣目は筋肉を透視し、投手の状態の修正や相手選手に対して次の動きを盗み見する。
そんな廣目の"眼"はコーチングにおいて、自チーム選手の修正点を見抜くことも可能だ。
廣目はその使い方を利用して、合宿初日から、初心者組や助っ人ズ、さには韓国姉妹にまでこうした方がいいあーした方がいいと指摘して、それがズバリ的中している。
その様子を見て原田先輩は自分も廣目の修正を受けたいと思ったんだろう。
だが、廣目の反応を見るに、どうも原田先輩に指摘することがそんなにないのかな……?
「え、えっと」
「……涼香。私の手が空いてるわ。私じゃダメかしら?」
廣目が成城先輩を一瞥して、成城先輩はそれを即座にキャッチした。
原田先輩に歩み寄り提案する。
……あれ?
なんか……原田先輩が成城先輩の目を見ようとしない。
「……冬華なら去年から散々習ってるじゃん。廣目の指導は初めてだし、そっちを受けたい。私、もっと
「……そう」
成城先輩の提案も不発。
ていうかなんか2人の様子がおかしい。
いつもはもっと仲良しなのに多分だけどちょっとお互いよそよそしく見える。
なんでだろう。
成城先輩はあっさり引き下がってしまったし……。
「なんかあったんですか?2人」
「……?別に。なんで?」
「あぁ、いや……なんとなく……」
あれ。
原田先輩に直接尋ねてみたけど彼女は普通だ。
キョトンと真顔で首を傾げて、また廣目にアタックし始めた。
うーん……俺の気のせいなのかなぁ。
そう思って、成城先輩の方に目を向ける。
怪我をして練習に参加できない彼女は廣目と同じくコーチングに回っている。
別に向こうも普通だ。
やっぱり勘違いだったようだ。
ちなみに、去年美山先輩ありきとはいえ選手兼監督としてチームをベスト8に導いた彼女もまた、廣目ほどではないが指導は上手い。
ただ原田先輩の言い分もご最もだ。
特に彼女は成城先輩と仲がいいから普段から教わることも多い。
せっかくの合宿でいつもと同じことをするのは勿体ないと感じたのかもしれない。
だから、廣目を求めている。
さて、困った状況になった。
「わ、わかりました。ただ、今すぐは何も思いつかないです。色々考えておくので、明日まで待ってくれませんか?」
「モチ!楽しみにしてる……!」
廣目は仕方なく受け入れた。
原田先輩は満足したようで自分の練習に戻る。
中宮先輩の指導は今日だけ廣目が担当している。
原田先輩の方が一応今は解決したので、手の空いている成城先輩が「代わるわ」と言って中宮先輩の指導は引き受けた。
ふむ。
俺は廣目のコーチングを初めて目にするから、正直原田先輩をあしらった理由がよくわからん。
廣目の指導の様子を見るにしても、もちろん事前準備はしてきたようだが、実際に
成城先輩も廣目の肩を持ってたってことは何かしら理由がありそうな気がするんだよな。
ちょっと聞いてみるか。
「なあ、廣目。原田先輩も一緒に視られないのか?」
「……あぁ。なるほど。そうですよね。……どうしましょうか」
なんだ?この反応。
廣目は、俺がなんでそんなことを聞いてくるのか訳がわからないといったような面食らった表情を見せた。
だが、すぐに納得したようにハッとして小さく何度か頷いて、その後、視線を泳がせ、成城先輩を見た。
その視線に気づいて成城先輩と……霧島先輩もトレーニングしながらこっちを気にしてる。
廣目は少しの間、言葉に詰まりながら、というより困りながら俺とキチンと目を合わせて話してくれる。
「……本人でない人間が勝手に言うのはどうかと思うので、津川先輩の察しの良さに賭けてもいいですか?」
「えっ。ど、どういうことだよ。それ」
「すみません。ここで肯定してくれないと、私からは何も言えません」
廣目が俯く。
どうも廣目の意思どうこうの話ではなさそうだ。
仕方ない、話が進まないのは困るし、とりあえず頷いておく。
「……ありがとうございます。では、
「あ、あぁ。原田先輩ってどこを守ってもめっちゃ範囲広いよな」
「はい。しかも内外野全てに苦手がなく柔軟性を持ちます。瞬発力、機動力共に申し分無し。あの身体能力の高さは才能です」
原田先輩を褒めまくる廣目。
だが、次の瞬間、急に突き落とした。
「―――それでも、"
「……えっ?」
衝撃的なことを告げた廣目に、俺は固まる。
だって、おかしいだろ。
ずっと獅ノ宮には天才が5人いるっていうところからのスタートだった。
成城先輩の男子級の天才9人で構成される【獅ノ宮ベストナイン】にだって、原田先輩は名を連ねていた。
それに今さっき原田先輩の守備範囲の広さは才能だといった。
なのに、ここに来て、なんで……そんな矛盾したことを言うんだ?
しかも廣目だ。
ここまで関わってきて、今まで有能な動きで獅ノ宮の為に動いてくれたから俺にはわかる。
廣目はいい加減な事を言わない。
なのに、あの廣目が言った。
訳が分からない。
それでも、廣目の眼は真剣だ。
適当なことを言ってるわけじゃない。
俺は……混乱した。
「えっ。天才じゃないって……それってつまり……」
「はい。今が彼女の
「なっ……」
言葉を失った。
廣目はハッキリと言い切った。
でも、冷酷に言い放った訳じゃない。
廣目も……困った感じで目を逸らした。
だから、俺は何も言い返せず、明日は廣目の指導を受けられるとご機嫌の原田先輩のその様子を、見つめるしかなかった。