貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第66話:槍、砲丸、レーザービーム 三点搭載 『三装の中宮』

 

「私は1番打者か……」

「ん?なんかダメだった?」

「いや」

 

 打順を見てクレアは呟き、原田先輩が首を傾げる。

 俺と成城先輩も含んで試合前ミーティングを三塁側に集まって行っている紅組。

 クレアは一度視線を落としてから、不安げな表情を見せた。

 ここまできて初めて見せる顔だ。

 

「確かに私に適切な打順があるとすれば1番か9番だと私も自分で思う。しかし、私には……試合経験が()()もない。最適な居場所で勝負し、試させてもらうのは有難いが……実践経験がない不安もある」

 

 なるほど。

 だから、不安なんだ。

 でも、そんなのこのチームには関係ないって俺は知ってる。

 

「あら。だったらこれから積めばいいじゃない。だから、紅白戦や練習試合を予定してるんでしょう?」

「そうそう。大体初心者だっているんだから、気にする必要ないでしょ」

「あーしも試合初めてだし!アーぴとお揃っちとか最高ジャン!肩身狭かったけどアーぴも一緒だと思うと、超勇気出るくね!?」

「……っ」

 

 クレアが皆のフォローに瞠目している。

 きっと初めての感覚に包まれているんだろう。

 証拠に彼女はフッとどこか安堵したように穏やかに口元を緩めた。

 

「……そうか。これがチームか」

「そうよ。私達は貴女と共にある。だから、貴女も私達と共に戦ってくれないかしら。ベンチ漬けにするメンバーなんて誰も生まないわよ」

「ハッ。つーかそんな余裕今の獅ノ宮(ウチ)にねえしな!」

「そ、それな。私達選手層ギリギリだもん……」

「残念無念。情けない話。しかし、現実」

「ま、だから助っ人も呼んだわけだし。私達だって、全員に期待してる。でしょ?」

「……えぇ」

 

 原田先輩が尋ねて、成城先輩が一瞬目を見開いてから同意するように頷いた。

 助っ人に期待と言われて助っ人ズは張り切った。

 

「が、頑張ります!」

「獅ノ宮の役に立つよ!」

「えぇ。ありがとう。でも、貴女達だけが背負う訳じゃない。全員で、戦うのよ。だから、クレア。貴女も試合でどんどん活躍してもらうわ。それに、ポテンシャルを死なせる方が愚者だもの」

「……耳心地の良いことを言ってくれる。流石だな、冬華」

「あら。褒めてもエグいチェンジアップくらいしか出ないわよ」

 

 小首を傾げて、不敵に笑う成城先輩。

 まさかの成城ジョークだ。

「ははっ。上手く言ったつもりかよ」とややウケの霧島先輩を筆頭に、助っ人ズにはウケがよくクスクスと笑っている。

 紅組の雰囲気の良さにクレアの表情は穏やかになった。

 

「……少し張り詰めていたが、()めだ。いつも通りのパフォーマンスを発揮できるよう、肩の力を抜く。それを意識することにした」

「その方がいいわ。紅白戦は試合形式というだけの練習よ。明日の練習試合もそう。初心者のるきあも含めて、試合慣れしてない人は場数を踏んでいきましょう」

『……!』

 

 成城先輩の言葉に全員が頷く。

 頭脳派の廣目が白組に行ってしまったので紅組の監督は成城先輩だ。

 

「さぁ、行くわよ」

『おー!』

 

 司令塔の成城先輩の掛け声で紅組が気合を入れる。

 その流れのままクレアがメットを装着、バットを持って左打席に入った。

 紅組が先行で白組が後攻だ。

 つまりマウンドに上がるのはアリア・オイゲン。

 

 さっそくアリアVSクレアの火蓋が切られる。

 

「来たな、欧州人。打ち取ってやるぜ……!」

「口だけは達者だな、アメリカ人。やれるものならやってみるがいい!」

 

 睨み合う先発ピッチャーと1番打者。

 キャッチャーの後ろにつき、主審として成城先輩が試合開始を宣言して廣目がキャッチャーポジションに構えた。

 白組の野手陣も守備位置につく。

 

「………………は?」

 

 プレイボールから5秒。

 廣目はミットを構えようとしてやめた。

 それは、クレアがバッティングフォームを取ったのと同時だった。

 廣目は打席のクレアを二度見する。

 

「おい、どうした?廣目。早く構えろ!そいつが反応できねえとこはどこだ!?」

「……?」

 

 試合が始まったのに動かない廣目に、痺れを切らしたアリアがマウンドの上から叫ぶ。

 クレアも間が空いて疑問に感じたのか廣目を見た。

 それでも廣目は驚いた様子で固まっている。

 

「―――ありません」

「あ?」

「廣目さん……?」

 

 ようやく廣目が口を開いたと思ったら、よく聞こえないし理解できない。

 だから、アリアも廣目の後ろにいた成城先輩も困惑した。

 他の全員も中々試合が動かないことに戸惑っていた。

 

 そんな中、廣目は立ち上がり、クレアを見て後ずさる。

 

「な、ないんです!クレア先輩を打ち取れるコースも球種もありません!ど、()()()()()()()―――打たれますッ!!」

「は?」

 

 廣目が珍しく狼狽えた様子で叫んだその内容に、アリアを筆頭に全員が同じ反応をする。

 つまり、「は?」だ。

 

「なっ……んだと?」

 

 アリアが瞠目する。

 他の皆も動揺した様子で信じられないようなものを見る目でクレアに注目する。

 そして、視線が集まったクレアもどう対応していいのか困ったように困惑していた。

 ただ1人、成城先輩だけが冷静だった。

 

「なるほど。つまり私や優希と同じということね。クレアも最初の自己紹介で言っていたように、本当に『打てない』は『ない』と。そういうことでしょう?廣目さん」

「……っ。は、はい……」

 

 あまりに淡々としているので、廣目も成城先輩に面食らわされている。

 廣目は優秀で賢くて、普段は成城先輩とも対等に見える。

 美山先輩との勝負にも勝ったし尚更だ。

 でも、やはり成城先輩と美山先輩は別格なんだろう。

 廣目の"眼"が捉えた衝撃の事実に2人だけは動揺していない。

 

 それもそのはずだ。

 この男子級の天才が集まる【獅ノ宮ベストナイン】に構成されるメンバーは2つのパターンにわかれる。

 それは、【万能型】と【特化型】だ。

 そして、後者は前者の下位互換である。

【万能型】は、成城・美山のみ。

【特化型】は、その他だ。

 

【特化型】は、全ての才能を持つ成城・美山の一部能力を有している。

 いつかベストナインは実質美山優希を9人集める事だと評したが、まさにそれという訳だ。

 長門先輩の本塁打力、霧島先輩のスローイング技術、クレアのバットコントロールetc.1つの才能だけ有した、1つの能力値だけずば抜けた彼女たち【特化型】。

 その全てを合わせてようやく成城・美山と対等になる。

 それだけ他の天才の上位的な領域にいる2人だからこそ、クレアに驚きはしない。

 

 なぜなら、2人にとってそれは既知の感覚だからだ。

 

 唯一の例外は廣目 惟。

 彼女は視力がいいという生まれつきの身体的能力を有している。

 それは同じ肉眼で生まれない限り同じことを他人がするのは不可能だ。

 だから、廣目は美山先輩に勝つことが出来た。

 

 だが、廣目が美山先輩に勝てたのは美山先輩に性格という弱点があるからでもある。

 つまり、才能も思考も廣目は美山先輩のメタだった。

 それがクレアに対しては逆なんだ。

 クレアは美山先輩のバットコントロールやアジャスト、ミートだけを有している。

 その限定版になることがかえって廣目にとっては厄介となっている。

 美山先輩が万能型なのは無敵に思えるが、相性問題がある天才同士においては、全て持っている=苦手な能力もあればメタれる能力もあるとも捉えれる。

 だから、廣目にとっては美山先輩よりクレアの方が苦手というわけだ。

 なので廣目が戸惑い勝負したがらないのも無理はない。

 ここは勝負を避けるか。

 いや、それでは練習にならない。

 どうする?廣目。

 

 

「―――関係ねえ!!」

『……っ!』

 

 

 そう叫んだのはマウンドのアリア。

 彼女は自身のミットにボールを叩きつけて、廣目にミットを向ける。

 

「構えろ、ユイ!適当に構えちまえ。ただし、ストライクゾーンだ!」

「……っ。ア、アリア先輩……」

 

 アリアに命じられて廣目は息を詰まらせる。

 例え廣目か弱気になってしまっても、彼女は1人ではない。

 バッテリーは、もう1人いる……!

 

「どのコースも球種もダメだとしても関係ねえ。どこに投げても一緒ってのはコースと球種()()だろ。私の直球(ストレート)はただの直球じゃねえ。分かってても打たれねえ!」

 

 アリアはさらに視線を鋭くする。

 

「お前が勝てねえってんなら私が勝つ!私のストレートを信じろ」

「……っ!」

 

 凄まじい自信と鼓舞。

 アリアの性格と、確かな能力を有するからこそ可能なやり方だ。

 だが、それは廣目にとっての大好物でもある。

 

「……なるほど。それなら息をするより簡単です。わかりました。構えましょう」

「そうだ。よく言った!私を信じるなんざ、この世の何より簡単だろ!」

 

 アリアの言葉に廣目が頷き、ようやくマスクを被り直す。

 そして、中腰になり、ミットを構えた。

 高めの直球勝負だ。

 

「ナイスリードだ。イカすぜ。そうこなくっちゃな」

「はい!バッチコイです」

 

 バッテリーの問題は解決した。

 互いに不敵な笑みとアイコンタクトを交わした。

 さぁ、ようやく打者との対戦だ。

 再度アリアとクレアの視線が交錯し、覇気が衝突する。

 

「ストライクゾーンのみの直球宣告とは。それしか投げられんとはいえ、人間性とは裏腹に正々堂々としたスタイル……感銘を受けたぞ!」

「ハッ。分かってねえな。私の野球に衝撃を受けるのはまだまだ早いぜ。アリア様の野球は、ストレートを見てさらに昇華するんだ……!」

 

 言いながらアリアがセットポジションに入る。

 それを見てアリアのバッティングフォームを作った。

 

「行くぜ。安打製造機女。世界に私だけの、生まれてきた中で1番の神豪速球……特等席で拝ませてやる!」

「寧ろ来い。噂の世界記録160km/h、勝負できることに光栄を覚える。そして、拝むつもりはない。打つ……!」

 

 互いにセリフを吐き捨て、いざ勝負。

 まずは初球。

 アリアが振りかぶった。

 

「最初から全開でいくぜ。くたばりやがれ!!」

「……っ!?」

 

 アリアが放った球に即座にクレアが驚愕する。

 球速は154km/h。

 確かにアリアは最初から全力だ。

 だが、全力なのはアリアだけではない。

 

「ぬぅ……っ!?」

「あぁ!?んだとっ!!」

 

 クレアは豪速球に対する衝撃を一瞬で既知としてインストールし、切り替えて球を捉えた。

 しかし、タイミングが少し遅かったのか、バックネットフェンス直撃のファールとなる。

 

「ぐっ……!なんという速さだ。反応が追いつかん!」

「ホントに当てやがった。このアリア様の世界最速球を。こいつ……っ!」

 

 当てられた。

 ただそれだけでもアリアにとっては多大なる屈辱。

 それも当然だ。

 彼女の球速帯が右で150を超えてから、当てられたのも打たれたのも、彼女のキャリアの中でたった1人しかいないからだ。

 だが、クレアからすれば人生で一度も空振りしたことのない彼女にとって、"当てるのが精一杯"という事象は、衝撃だった。

 

 これは―――女子野球のレベルを完全に超越した、【規格外】同士の対決。

 男子級のプレイヤー2人は、この時、初めて同じ男子野球(せかい)を感じた。

 レベルが合うことでしか起こりえない現象。

 今、2人はそこにいる。

 

「フッ……なるほど。確かに規格外の天才が集まったチームだ。素晴らしい。面白いぞ……!」

「面白くねえよ!打たれておもしれえピッチャーがこの世にいるかよ!絶()ぇ抑えてやる」

 

 再び足を上げるアリア。

 2球目。

 

「ぁ……っ!!」

「ふっ……!!」

 

 胸元ストレート。

 155km/h。

 結果は一塁線ファール。

 

「クソ!」

「ぐっ……!」

 

 2人とも悔しそうだ。

 投げきったアリアはフォームのまま表情を歪ませ、捉えきれなかったクレアはフォロースルーのまま片膝をつく。

 当てられるのすら嫌なアリアと、前に飛ばせなくて歯がゆいクレア。

 さぁ、勝負の軍配はどららに。

 

「次で終わりだ。最後は空振らせてやる!三振は振らせて掴む!」

「やってみるがいい。必ず打つ……!」

 

 互いに次で絶対に終わらせる。

 3球以上はいらないと気迫で告げている。

 そして、改めてあのアリアの球を当てられるクレアが凄まじい。

 平均150台の速球に対応する反射神経と、そのレベルの速球がどこに飛んできてもミートできるバットコントロール技術。

 これがクレア・バローナ……!!

 俺達は、今間違いなく、新しい味方が待つ能力の真髄を確認できている。

 

「こいつがアリア様渾身の……っ!!豪速ストレートだ!!」

「……っ!!ド真ん中か!!」

 

 もちろん決め球も直球。

 だが、アリアは言う。

 決める時に投げるストレートはさらに速いと。

 故に球種は1つではない。

 ストレートの他に、ストレートのさらに上……もっと速いストレートだ!!

 

「ぬぅ……!ぁぁ……っ!!」

「なに!?」

 

 金属音が響いた。

 廣目の低めの要求に首を振って投げた158km/hストレート。

 それにクレアは詰まりながらも逆方向に球を浮かせた。

 打球は―――。

 

「落ちるな!落とすな!!死んでも捕れ!!」

「無茶言うんじゃないわよ……!」

 

 アリアの要求にソユン先輩が文句を言って、三遊間の後方に、山なりで軌道を描く球を、跳躍して捕ろうとする。

 だが、不可能だ。

 緩く飛んだ打球はレフト前に落ちる。

 あ……っ!だけど、レフトの……っ。中宮先輩の動き出しがいい!

 偶然かもしれないがカバーが早い。

 落ちてすぐの球を拾って―――瞬間、腕が唸った。

 

「なに!?」

「……っ!」

 

 一塁ベースを目指して駆けるクレアも、守備に落胆したアリアも驚愕する。

 全員が二度見した中宮(ちゅうぐう) 秋奈(あきな)の送球は、まさしくレーザービーム。

 クレアは全速力にならざる負えなくなり、一塁ベースを駆け抜けたが……。

 

「アウト!!アウトです……!」

「なっ……!?」

 

 クレアが一塁ベースを踏むよりも、ファーストの山田さんのミットにボールが収まる方が一瞬早かった。

 廣目は"眼"を使ってキャッチャーポジションから判断。

 判定はアウト。

 中宮先輩がクレアを刺した……!

 

「ちょっ……!マジ!?」

「ナイスです、中宮先輩……!!」

 

 ソユン先輩が背中越しに一塁とレフトを二度見して、廣目がレフトに向かって叫ぶ。

 クレアは衝撃、アリアは瞠目、そして他の守備についてる白組も、ベンチの紅組も中宮先輩に注目した。

 そして、肝心の本人も驚いて目を見開いている。

 

「えっ、あっ……アウト?嘘でしょ?私が……やったの?」

 

 無我夢中で動いたようで、まだ認識できていない。

 だが、やがて、己の手を見つめて実感を確かめてた。

 それは握り拳になって、"理解"する。

 

「私が……私の、力……これが私の……!」

 

 皆が中宮先輩にナイスだの称賛を掛ける中。

 彼女は集中状態にあり、耳には届いておらず。

 数秒後、「しゃ……っ!!」と小さな声でガッツポーズを作る彼女は、静かな闘志を自覚し始めていた。

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