貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第7話:なんか思ってたのと違うんですけど~!?

 

「……ったく、完全にあたしらのこと舐めんてんな」

「仕方ないでしょう。去年ベスト8とはいえ、私達にはもうその面影はないもの」

「えぇ~?でも、練習試合を申し込んできたのは向こうからでしょ~?だったらぁ、多少は警戒はしてるんじゃないの~?」

「去年対戦経験ないし、一応ベスト8だから1度やっときたいってだけでしょ。ま、こっちは大会に出れそうにもないから杞憂だった訳だけど」

「あとは……やっぱり……」

「そうね。きっと当て馬ね」

 

 3塁ベンチの前で各々アップを始めた獅ノ宮メンバー。

 口々に悪態ついたり相手の思惑を探ったりする中で、成城先輩だけが相手の考えを見透かしているようだった。

 なので俺はベンチから彼女に尋ねる。

 

「成城先輩。当て馬ってどういう……」

「……真広よ。この試合の目的の大半は彼女の育成でしょう。相手は一定以上強ければどこでもいいといった感じね。彼女に強豪との試合経験を積ませたい……っといったところかしら」

「あぁ……なるほど」

 

 納得した。

 つまり、谷さんが言っていた中龍の未来のエースバッテリーというのもあながち間違いではないようだ。

 わざわざ彼女達の為だけにこんな試合までセッティングして貰えるということはそれだけ期待されている証拠。

 

 だから、未来のエースバッテリーというのは誇張表現ではなく本当にチームで設定している将来の予定なんだ。

 中龍エースの名護さんは3年生。彼女が卒業したら、橋本さんが3年生に繰上げになる。その時に名護さんの後釜となるような絶対的エースになっているように、今から成長を期待して育成に投資している……と。

 

 なんて奴らだ。思考回路がプロ野球チームだ。

 たった3年しかない高校野球部を現時点で最強にすることで、3年生は現状維持のまま放棄。来年以降を見据えて下級生の育成にシフトする。

 まんま常勝軍のやり方。

 

 このチーム、他とは違う。目先の優勝を狙ってるんじゃない。そんなもの掴んで当たり前なんだ。

 彼女達が、いやもはや首脳陣というべき監督陣と学校の狙いは。

 

 連覇だ。

 

「……っ。マジで王者じゃないですか……ははっ。えぐいな、初めて戦う相手がこれかよ」

「ビビってる場合じゃないわよ。私達も私達でただの練習試合をしに来た訳じゃないわ」

「……っ!」

 

 股関節を伸ばしながら成城先輩が俺を一瞥する。

 そうだ、彼女の言う通りだ。相手がどんなに凄いところでも、俺達は互いに勝ちにいかなければならない。

 俺は監督になる為に、彼女達は現状維持の為に。

 だから、震えてる場合じゃない。

 

「ハッ。私たちはレベル上げのスライムって事かよ」

「あは~。さすがにゴーレムくらいじゃな~い?」

「……拘りポイントそこ?踏み台の雑魚扱いは別にいいわけ?」

 

 アップをしながらツッコまれる美山先輩。

 それを受けて、彼女は顎を引いて表情に影を作った。

 

「あはっ。……だって、踏めるもんなら踏んでみればいいんじゃない?としか優希は思わないもん」

『……っ!』

 

 急に軽めのドスを含んだ美山先輩に一同息を飲む。

 時々感じるこの人の覇気はなんなんだ?こう、気迫とかではなく、腹の底から冷たい感覚が一気に襲ってくる感じがある。

 そんな彼女の雰囲気に悪寒が走り、全員が飲まれていると、現実に引き戻してくれる一声が掛けられる。

 

「あ、あの!」

「……!」

 

 グランドの外野を大幅に陣取って大人数で準備していた中龍野球部の方から4人、俺たちの元へとやってきた。

 彼女達が来るやいなや成城先輩はアップを中断して対応に移る。

 

「あら。貴女達が今日私達のチームに加わってくれる人達ね。どうもありがとう。よろしくお願いするわ」

「はい……!お願いします!」

 

 成城先輩が微笑んで手を差し出すと、中龍女子ズは緊張気味な様子で代表者がその手を取った。

 ん、彼女達のこの視線の熱さはもしかして。

 

「ごめんなさいね。私達が至らないばかりに。迷惑かけるわ」

「め、滅相もございません!寧ろ光栄です!私達、皆自分から立候補して……そ、その、去年の甲子園観てました!獅ノ宮凄かったです!きゃっ、言っちゃった!」

 

 代表者が興奮気味に鼻をふんすか鳴らしながら熱狂的な言葉を獅ノ宮メンバーにかけてくれる。滅相もございませんって何行儀……?

 興奮してるのは代表者だけでなく、他の助っ人さん達も同じようだ。獅ノ宮メンバーを見る目が完全に憧憬の目、しかも目の前にいることに落ち着かない様子だ。代表者が手を離すと、手握っちゃった!と仲間と盛り上がっていた。

 

 まあ最初に声をかけてきた時の緊張具合からなんとなく察していたが、どうやら彼女達は獅ノ宮のファンらしい。いや、中龍のメンバーなんだから甲子園は中龍を応援すべきでは?とは思うが。

 出場機会がないからあまり愛着がないのかもしれない。

 

「みんな1年生かしら?」

「あっ!えっと、2年生が2人でバッテリーです!って言っても……勝手に組んでるだけなんですけど……ははっ。あっ!あと2人は1年生でどこでも守ります!ねっ!」

「は、はい!どこでもやります!やらせてください!」

「私も……!あっ。で、です!」

「……っ!そう。心強いわね。ありがとう」

 

 元気いっぱいフレッシュに元気に主張しまくる中龍助っ人ズに成城先輩は少し大袈裟に目を見開いて反応して、礼を重ねる。表情も凄く柔らかい。それを受けて、助っ人ズもやっぱり成城さん優しい……!と盛り上がる。

 手を取り合って盛り上がる助っ人ズ。彼女達のやる気は充分だ。その点はよかった。

 

 これで手を抜かれるなんて心配はないだろう。まあ安心要素は以前成城先輩が話してたこととなんか違うけど……。

 助っ人ズは成城先輩にアップ邪魔してごめんなさい!と頭を下げると、他の獅ノ宮メンバーにも駆け寄っていった。挨拶していくのだろうが、彼女達に寄る時の目の動きが完全に次の獲物だ!のギラつきなんだよな。おかげで原田先輩がビクッと肩を震わせる。

 

「霧島さんよろしくお願いします!」

「ショート期待してます!」

「霧島さんのショート見れるなんて感激!」

「お、おう……。なんか照れるな」

 

 お、珍しく霧島先輩が狼狽えてる。鼻をかく霧島先輩。

 次に助っ人ズが駆け寄るのは原田先輩。

 

「イッ!?ちょ、私はいいって―――」

「原田さんだよね!?甲子園ゴールデンクラブ!!ユーティリティまじ尊敬!」

「原田さんが後ろで守ってるなんて心強すぎ!どこ守っても上手すぎてマジ尊敬してる!」

「…………どうも」

「お前もうちょい愛想良くしろよ……」

「うるさい!初対面苦手なの!」

 

 逆ギレする原田先輩。

 続いて長門先輩も囲まれて「どうやったらあんなに打球飛ぶんですか!?教えてください!」とせがまれて「え、えっと……な、何も考えて……ない……」と困惑した様子で答えていた。無我の境地ですね!流石です!と返されていたが、多分そういう意味で言ったんじゃないと思う。

 

 そして、最後は美山先輩。みんながもてはやされてるのをたった一人だけ自分の順番が回ってくるのを期待してワクワクしながら待っていた。明らかにその様子が伺えた。

 助っ人ズが彼女を取り囲み、美山先輩はキター!と満開の如く笑顔を浮かべる。

 

「美山さん!美山さんだよね!?すご!本物だ!」

「『甲子園の悪魔』……!『甲子園の悪魔』と一緒にやれるなんて……!」

「よっ!『悪魔』!!」

「…………なんか優希だけ皆と違くない?」

「くだらないことやってないで早く準備するわよ」

 

 なんか思ってたのと違う。美山先輩は落胆した。

 それを横目に成城先輩が催促する。

 美山先輩は、ぷくーっ!と頬を膨らませる。

 試合開始前、美山先輩の機嫌が悪くなった。

 

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