貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
合宿3日目。
今日は
私立女子校で、お嬢様高校。
去年夏の甲子園大会準優勝。
決勝戦で
そして、第4戦にて
獅ノ宮にとって、因縁のある相手。
チームの形態としては、中龍学園同様、総合力が売り。
投手も野手も質が高く、走攻守全てが揃っている。
しかも去年と違い、主力の学年が繰り上がり、今年が完熟期だ。
つまり、去年獅ノ宮を負かした時よりも強くなっている。
「
「えぇ。そうね」
確か候補にあったのは2年生内野手の"
中龍学園の
つまり、彼女達もまた、男子級……ということだろうか。
「
「……いえ。真広もそうだけど、あくまでその可能性があるといった段階ね。実際のところはわからないわ」
なるほど。
あの時は藁にもすがる思いだったから、"可能性"だけでも捨て置けなかったんだ。
だが、候補に入ったということは馬鹿にもできない。
男子級のプレイヤーが獅ノ宮にいる9人だけとは限らない。
寧ろ9人もいるなら……この世界のどこかにまだ存在する方が信ぴょう性が高いだろう。
それが、近所にいる可能性もなくはないわけだ。
「やっぱりその2人が要注意人物なんですか?」
俺が尋ねると、成城先輩は横目で俺を一瞥した。
だが、すぐに視線を前に戻して返答する。
「いいえ。1番警戒すべきはアリスね」
「アリス……?」
俺の復唱に彼女は頷く。
アリス。
聞いたことがあるようなしなくもない名前だ。
確かネットニュースか何かで今年のドラフト候補に挙げられていた。
ブランド力のある学校に所属していると人材は見つけてもらいやすい傾向にあるし。
だが、気になるのは成城先輩が彼女を下の名前で呼んだことだ。
それはつまり、それなりに親しい仲にあることが予想される。
そら対戦校経験ある高校だから、会ったことはあるだろうけど……友達のニュアンスじゃなかったか?
「お知り合いなんですか?」
「えぇ。日本代表合宿で一緒だったわ」
「えっ。そんな凄い人なんですか!?」
去年の冬に行われたU18日本代表合宿。
参加者は成城先輩に原田先輩、中龍の橋本さん。
そこにまたもう1人判明した。
「アリスは日本代表正サードよ。本職はショート。走攻守全て揃ってる内野手は今あの
「それってドラフトの……!」
BIG5。
プロ入り確実と言われる中でも、ドラフト1位―――"ドラ1"候補の5人。
それが今年は高校生なのか。
大学野球や社会人野球がある中で、それらを押しのけてドラフト1位に高校生が並び立つのは、10年に1度あるかないか。
すなわち、大豊作も大豊作の世代となる。
大人を押しのけるくらいポテンシャルに溢れた5人……そんなのが3年生の完熟期を迎えて、よりにもよって獅ノ宮が這い上がろうとしている年と丸かぶりしてしまっている。
なんてことだ……!
「BIG5って誰がいるんですか?」
「……そうね」
俺が尋ねると、成城先輩は
「まずは、東京。
昨年夏の甲子園成績は、416 2本 盗塁3 OPS8割 UZR10超で
走攻守3点揃った内野手。
プロ入り後、トリプルスリー達成を期待される新星。
素行不良は目立つが、間違いなく高校野球史上、内野手としては最も総合力の高いと評判だ。
プレイヤーとしては、手放しに評価できる。
成城先輩はそう言った。
続いて。
「2人目も東京。
昨年夏の甲子園は、384 1本 盗塁1 OPS7割 UZR10超でGG。
総合力が高く、尚且つ守備力が売りの捕手。
肩力抜群。壁性能抜群。なんといっても盗塁阻止は凄まじいらしい。
そして、
最近の流行りは打撃型捕手で、男子野球世界から見れば珍しいことに、打撃型捕手が溢れているらしい。
何でも、女子野球では捕手は、「打撃はいいけど内外野の守備は任せられない」者がつく傾向があるらしい。
今思えば、
逆に、
練習試合でも
なので、谷さんが1番珍しいタイプの捕手となる。
そんな彼女と同タイプで尚且つ世代トップを走るのが
守備面では他を圧倒し、尚且つ打撃に置いても打撃を売りにしている他の捕手と遜色がない。
"打てばいい"。そんな高校捕手の怠慢を打ち砕き、常識を更新する存在だ。
そりゃ注目される。
谷さんが期待されてるのは、リード面では新田さんを超えるポテンシャルを秘め、打撃もそこそこ良いからとのことだ。
なんだか谷さんを応援したくなる解説を受けて、さらに次。
「兵庫。
昨年夏の甲子園は、501 1本 盗塁5 OPS6割 補殺率100%でGG。
天才打者に走攻守がついた逸材。
長打率は低いが、打てない訳じゃないらしい。
成城先輩のように自分のスタミナを考えて敢えて打たないタイプのようだ。
とはいえ打率と出塁率、盗塁率も高い。
加えて守備と走塁も上手い。
歴代外野手で総合力NO.1は間違いなく彼女であるという噂だ。
「岐阜。
「……っ!」
「―――"
昨年夏の甲子園は、防御率 1.21 62奪三振。
高校最強ピッチャー。
名護 憲子。
決め球カットボールで三振を量産し、球威制球スタミナ全てにおいて頂点。
言わずもがな、ドラ1候補とされている。
獅ノ宮との練習試合では美山先輩に打たれてしまい、強いイメージはないが、彼女の成績は凄まじい。
まさに無敵。彼女が投げた公式試合は負けが1つもないのだから。
「……」
「あ、あれ?最後の一人は?」
ここまで饒舌だった成城先輩が急に黙ってしまった。
まだBIG5は1人残ってる。
俺に催促されてようやく、成城先輩はゆっくり口を開く。
「最後の1人は……埼玉よ」
「……!」
ということは夏の甲子園大会に進出するために、勝ち抜かなければいけない地区大会で対戦する可能性がある。
驚いたな。
同じ地区にドラ1候補がいるのか……!
「もしかして、
「えぇ」
その時確か成城先輩が埼玉の強豪校だと触れていた気がする。
そして、成城先輩が肯定したのを見るに、やはり最後のBIG5は
果たしてそれは誰で、どんなプレイヤーなのか……。
「最後の1人は、ショートストップ。"
「へぇ。獅ノ宮って
「えっ」
突然、俺の背後から声がした。
振り返ろうとしたら既に隣にいて俺の顔を覗き込む。
成城先輩の言葉を遮ったその女性は、俺たちと同じ歳頃の女子。
同じ高校生だ。
そして、彼女が身に纏うジャージには―――【
「あっ!と、
予定時間より早く兎美徳のバスが到着したのかと思ったが、辺りを見渡しても獅ノ宮の校門前にいるのは彼女1人だ。
俺は、不思議に思って突如現れた少女を見ると、彼女は俺の視線が自分に戻ってくると確信していたようで、迎え入れるように会釈して小さく手を振った。
「あ、貴女は……」
「私?今喋ってたじゃん。私のこと」
「えっ?」
俺が目を丸くしてると、俺の後ろから成城先輩が代わりに答えてくれる。
「久しぶりね、アリス。津川くん。彼女が最初に話した高校BIG5の1人、
「えっ!?この人が……!」
成城先輩が教えてくれて、俺が
この人が……
貞操逆転世界に来て初めて女子校の女子に出会った。
しかも私立で、お嬢様高校。
今、俺の目の前にはお嬢様がいる。
そんな彼女が俺にグイッと迫って、ドキッとする。
「津川くんっていうんだ。いいね~彼女いる?」
「い、いないですけど……」
「うぃ~!フリーいただきましたぁ!ウォウウォウ!てかが〜ち?まじフリー?私、津川くんの彼女立候補致しまーす!どうすか!?」
「えっ。えっと……ど、どうすかって言われても……」
「い~わ~れ~て~も~?そこをなんとか!確変チャーンス、ないすか?ワンチャンない!?デート1回だけでも。おなしゃーーーす!!」
「……」
あっ。
この人、お嬢様じゃないわ。
片鱗もねえ。
こいつ中身ナンパ野郎だ。
絶対チャラ男の逆転だろ、間違いない。
めちゃくちゃ美人だけど、言動と行動がチャラすぎる。
「……相変わらず節操ないわね、貴女。ウチの部員にちょっかいかけないでくれるかしら?」
「そっか、こっちに頼み込むって手があったか~!あー、成城様。どうかこの女子校で男に飢えた、私にお恵みを~!獅ノ宮男子……紹介して!」
「する訳ないでしょう。そんなだから親に女子校にぶち込まれるのよ」
成城先輩が救えないものを見るような目で、手を合わせて頼み込んでくる取本さんを見る。
なるほど……成城先輩の言葉を聞いて、俺は自分の勘違いに気付いた。
ここは貞操観念逆転世界。
この世界における女子校は、 男子校なんだ!
じゃないとそんな、親に更生の為にぶち込まれるとは思えない。
親が女子校に自分の娘を入れるのは大抵、娘を男から守るためだ。
だが、この世界では逆なんだ。
とはいえ更生は諦めているのかもしれない。
おそらく中学時代、異性に関してだらしない取本さんは、それこそ元の世界でいうヤリのチンの如く遊びまくっていたんだろう。
そして、誰に怒られてもやめないから、なら彼女から男を取り上げようという発想になったんだ。
そうして無事に女子校にぶち込まれた取本さん。
男に飢えた今に至る……というワケだ。
「おーん。おーん。私が可哀想だと思わないのか!この鬼!悪魔!」
「自業自得だとしか思わないわね。あと後者は人違いよ」
成城先輩に縋りよったと思ったら、瞬きの間で距離をとって指をさしヤジを飛ばす。
忙しい人だ。
この人、本当に日本代表正サードでBIG5の1人ドラ1なのか……?
とても凄い人には見えない。
まあ、それは置いといて……気になることがある。
「あ、あの……他の
「そうね。私も聞きたいわ」
「んあ……?」
俺達が尋ねると、取本さんは嘘泣きで流した涙を拭って立ち上がる。
そして、暫くアホ面で空を見上げて考えを巡らせた後、自信満々に胸を張った。
「いや~?実はさ。皆寝坊しちゃって。でも?私は?しっかりしてるから?ちゃーんと時間通りに集合場所に来て、タクって先に来たってワケ。おっ、私ってできる女じゃな~い?ねえ?津川くん」
「えっ。いや……それって……」
「寝坊したのはアリスね。後から慌ててタクシーに乗ってたまたま先に着いただけでしょう。見栄張るのはよしなさい」
凄い。
事実陳列のオーバーキルだ。
俺も気づいたけど、言葉選ぼうとしたのに。
「ヘイヘイヘーイ!どこにそんな根拠があるのよ。ねえ?津川くん。どう?このできる良い女と週末一緒にカラオケでも―――」
「あっ。
「すみませんでした!!!!寝坊したのは私です!!グランド100周、喜んで!!ありがとうございます!!押忍!!!!」
俺に迫っていた取本さんが成城先輩の一言で背筋を見たことないくらいピンと伸ばして、後ろで手を組み突如叫ぶ。
凄まじい量の発汗とこの世の終わりみたいな顔はもはや芸術だ。
突然の豹変ぶりは、
さっきまでのチャラチャラした取本さんでも、それが嘘のようだ。
そんな教育、お嬢様高校の印象とは真逆だが……もしかして、女子校のイメージと一緒で、"私立のお嬢様"もかなり乖離があるんじゃ……。
そんな予感と共にバスは停留所に止まり、続々と―――全国で1番伝統のある野球部の選手達が獅ノ宮の地に足を踏み入れた。