貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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74話で取本がライン求めてた描写は修正しました。


第76話:取本(とりもと) アリス

 

「では、こちらも本日のスタメンを発表します」

「おっ。廣目(ひろめ)はなんかないの?」

「なんでただのスタメン発表にユーモア求められてるんですか……?」

 

 一塁側簡易ベンチ前で、パッドを手に困惑した表情を見せる廣目。

 うん。

 さすがに兎美徳(とびと)に毒されすぎだ。

 廣目はいつも通りやればいいと思う。

 

「しかし、兎美徳(あそこ)は相変わらずだな……。時代錯誤っつーか、体育会系っつーか」

「ウチとは真逆のチームね」

「ですが、甲子園準優勝チームです。対戦する意味はありますし、学べるものもあるかと。まあ何でも吸収すればいいというものではありませんが」

「その手の取捨選択が必要って話でしょ?言われなくてもわかってるわよ」

 

 ソユン先輩は去年の獅ノ宮にいただけあって、考え方も獅ノ宮(しのみや)特有だ。

 割と先進的というか良くも悪くも流行の先端やチームの特色に合わせてやりくりするのが獅ノ宮(しのみや)

 取り入れるものは取り入れる、いらないものはいらないとハッキリしてる。

 どんなメンバーが集まってもやり方が一貫している兎美徳(とびと)と真逆なのは確かだ。

 どちらが正しいかなんて存在しない。

 強いていえば、勝った方が正解だ。

 なぜならその結果を勝ち取るためにやっていることなのだから。

 負けたいチームなんて、いない。

 

「では、スタメン発表します。成城(なりしろ)先輩と相談して決めました。地区大会もこのシフトで挑むのでそのつもりで聞いてください」

『……っ!』

 

 廣目はさらっと告げたが、全員の目の色が変わる。

 これでただの練習試合ではなくなった。

 大会のレギュラーもここで発表される。

 たとえ仲間であっても競争だ。

 ここで選ばれるために個々ができる事をやっている。

 あとは、チームが求める役割・立場・編成に当てはまるかどうか……。

 

「まずは1番―――」

 

 廣目が口を開き、皆が注目する。

 最初の1人を告げたあとは淡々と廣目は名前を上げていき、やがて、"ナイン"が完成した。

 

 本日、いや、獅ノ宮のスタメンはこれだ。

 

 

 ○獅ノ宮(しのみや)学院高校野球部 地区大会シフト

 

 1.1B クレア・バローナ

 2.3B ユ・ソユン

 3.RF 美山(みやま) 優希(ゆうき)

 4.LF 長門(ながと) 未来(みく)

 5.CF 中宮(ちゅうぐう) 秋奈(あきな)

 6.2B 原田(はらだ) 涼香(すずか)

 7. P アリア・オイゲン

 8. C 廣目(ひろめ) (ゆい)

 9.SS 霧島(きりしま) 紗永(さえ)

 

 

 続いて、兎美徳(とびと)学院高校野球部のスターティングメンバー。

 

 ○()()()学院高等学校 (西東京代表)

 

 1.SS 取本(とりもと) アリス

 2.RF 吉高(よしたか) (しのぶ)

 3.LF 赤井石(あかいせき) 蝶々(ちょうちょう)

 4.2B 東地(とうち) (ひめ)

 5.CF 護持(ごじ) 清良(きよら)

 6.1B 浮千代(うきちよ) 清家(きょうか)

 7.3B 桑名(くわな) 乙女(おとめ)

 8. C 慎乃(しんの) 阿海(あみ)

 9. P 後藤(ごとう) 納言(なごん)

 

 

 先行は兎美徳(とびと)

 後攻は獅ノ宮(しのみや)

 

 先頭打者は、さっそく日本代表のBIG5。

 取本(とりもと)アリス……!

 右打席に入る。

 

「ゼェ……!ハァ……!ゼェ……!ハァ……!ちょ、ちょっと待って。死ぬ」

『タイム!』

 

 ズッコケた。

 こりゃそうだよぉ……。

 あんまりだ。

 本領発揮どころじゃない、寧ろ試合直前に250周も走り込みさせられて満身創痍だ。

 そんな可哀想な取本さんは、アリアのストレートに対して、「は!?エグっ!速っ!?は!?」と見事なリアクションを見せる。

 今日のアリアは昨日の疲れもあって左投げだし、130km/h台しか出てないが、アリアを知らず女子野球の常識で考えたらそれでもめちゃくちゃ速い部類に感じるんだろう。

 左で130km/h台なんてプロでも早々いない、そんな扱いだからだ。

 

「えっっっぐ。いつからこんなサウスポー獅ノ宮に入ったの?」

「えっ?あぁ……今年の5月です」

「いや、キャッチャーも誰やねーーーーんっ!!」

 

 廣目が渋い顔をする。

 まあでも、そりゃそうだ。

 取本さんが知ってる獅ノ宮は去年の獅ノ宮であって、今の新生獅ノ宮じゃない。

 いや、でも部員不足は世間でも噂になったようだし、中龍野球部も認知してた。

 だったら練習試合を申し込んだ時点で部員が総入れ替えされて解決したっていうのも想像できそうだが……。

 

「オイオイオイーイ!去年のベスト8メンバーはどうしたんだよ~!手抜きか~?許せねえなぁ!」

『……!』

 

 取本さんの叫びに獅ノ宮野球部全員が反応する。

 今の取本さんの発言……も、もしかしてこの人たち、兎美徳(とびと)野球部は獅ノ宮野球部の崩壊を知らないのか!?

 

「いや、獅ノ宮(うち)は部員不足で崩壊しかけたんだし……新しいメンバー仕入れてもおかしくないでしょ。今更何言ってんの?」

「部員……不足?崩壊……?」

「えっ。あんた知らないの?」

 

 試合中断して寄ってきた原田先輩。

 彼女から説明を受けた取本さんはそれでも困惑した様子で顔を顰めていた。

 そして、取本さんは3塁ベンチを慌てて見るが、仲間の様子もまた、自分と同じだった。

 

『な、なーーーに~~~!?獅ノ宮野球部が部員不足で崩壊~!?』

「いや。なんで今更衝撃受けてんだよ。結構古いニュースだろ、それ」

 

 驚く兎美徳野球部一行に、霧島先輩も困惑する。

 主審の成城先輩とキャッチャーの廣目も打席の取本さんに話しかける。

 

「スマホとか持ってたら気付きませんか?普通」

「3年間禁止に決まってんだろ!兎美徳(とびと)だぞ、兎美徳!入学から卒業まで指1本触れねえわ!」

「貴女、私と涼香と冬の代表合宿で一緒だったでしょう。その時に散々そのことについて話したのに何も気付かなかったの?」

「あーーーー!あれそういうことかよ。なんか話し合わねえなって思った。うわ、どーーーーうりで。えぇ……あぁ、そう……マージか」

 

 なんか思い当たる会話があったようで、全てが繋がった取本さんは打席でしゃがみこんで1人で納得し始めてしまった。

 そして、どんどん去年の事象が理解できるようになったらしい。

 

「あー。マジ?あんたらそんなヤバい状況になったの?あれだよね、ウチとやった4回戦の直後ってことだよね?うわぁ……それなのにウチ優勝できなくてマージごめん。ごめんね、冬華」

「……貴女が謝る必要はないわよ。ただの私達の力不足よ」

 

 打席でしゃがみ込んだ取本さんは成城先輩だけでなく旧獅ノ宮メンバーにも目を向けて、噛み締めるように項垂れた。

 あぁ、そうだよな。

 この人達も準優勝といえば聞こえはいいけど、負けは負けだもんな。

 相当悔しかったんだろうな。

 取本さんのこの誠実さを見ていれば嫌でも痛いほどにわかる。

 そして、去年を知らない俺なんかよりも、去年を経験した成城先輩達の方が染み渡るほど理解できるだろう。

 だから、でもそれは去年の話と彼女達なら言える。

 

「アリス。もう過ぎた話よ。試合を再開しましょう。この試合だって、これからの為にやってるものでしょう」

「……そうだよね。あぁ、うん。そりゃそうだ。あー、思い出さないようにしてたんだけど、ダメだね。よし、切り替えた!」

 

 取本さんは再び立ち上がり、自身の頬をバシン!と叩く。

 そして、バットを回して構える。

 

「もう立ち直って、新しいメンバーと新しい目標に向かっていくってんなら良し!今年も敵として、申し分無し!目指すは優勝、お前らも中龍も、それ以外も全部倒す!」

 

 再びプレイがかかる。

 取本さんは良き好敵手に向ける、嫌味のない不敵な笑みを浮かべた。

 

「また泣かせてやるよ、獅ノ宮!!」

「―――いいえ。先輩達はもう充分泣きました。涙なんて、去年のうちにとっくに枯れ果ててるんだ。あとはもう勝って、勝ってこの飢えを満たすしか……考えてません!!」

 

 取本さんの煽りからのフルスイング。

 だが、左から放たれたストレートは完全に差し込まれた。

 廣目の叫びとミットの音、そして成城先輩のストライクコールが耳に入り、取本さんは少しだけ嬉しそうに振り返る。

 

「私の苦手コース……!お前……っ!」

「はい。場の空気になんて流されません。どんな時でも打たせません……!」

 

 キッと強い眼差しを一瞬向けて、返球する廣目。

 取本さんは口角を上げて、愉しそうだ。

 

「いくぜ。打てるもんなら打ってみやがれ……!」

「……っ!!」

 

 141km/h。

 今日最速のストレートをぶち込まれて、取本さんは三振した。

 成城先輩のコールが入り、一瞬悔しそうなリアクションを取るも、取本さんは打席から離れる。

 

「ナイス直球。ナイスリード。次は打つ!」

 

 打席に背を向けて去る彼女は、獅ノ宮バッテリーを指さして、グローブをはめた手でサムズアップした。

 そして、ベンチに帰ると「何三振してカッコつけてぇんだぁ!沈めんぞ!」「すみませんすみません!ごめんなさーい!」と叫びながらボコボコにされていた。

 

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