貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第81話:サウスポー山田/サブマリン田中

 

「山田 花子さん。貴女の利き腕は左だと思います。左で投げてみませんか」

「えっ……!?」

 

 合宿1日目。

 突然廣目に告げられた中龍助っ人1年生、山田 花子。

 彼女は困惑した。

 

「えっ?いや、でも……私全部右利きだよ?お箸持つのもペン持つのだって。あ、あと他には……」

「何か一つだけ利きが逆というのはそれほど珍しい話ではありません。私の"眼"で視たところ、山田先輩は投球する際重心の比重が左に傾いています。外野守備の送球で何かバランスが悪いと感じたことはありませんか?」

「え、えぇ……?どうだろ……」

 

 廣目に指摘されるも自分の感覚ではわからないのか「うーん、うーん……」と唸って頭を悩ませてしまう山田。

 そこに元チームメイトの助っ人組が集まる。

 

「山田さんって送球の精度悪かったし、それじゃない?」

「あー。コントロール微妙だよね」

「肩も弱い!」

「皆そんなふうに思ってたの……!?」

 

 凄まじい酷評だ。

 これには当の本人もショックを受ける。

 

「ま、まあ……それらの原因が利き腕の違いだと私は睨んでいます。ピッチャーをやる際も右投だと出力も制球も良くありません。一度、試してみませんか?」

「うぅ……じゃあ、はい。やってみますぅ……」

 

 あまりにボロクソに言われたので涙ぐみながら承諾する山田。

 さすがにこれほど避難するつもりはなかったので、廣目も苦笑いするが、受け入れてくれたのは助かった。

 正直、吉田のチェンジアップに対する受け入れが渋かったから、ここはすんなり通ることに安堵する。

 

「では、何度か投げてみて、あとは私の"眼"で見て修正点を伝えます」

「は、はい……!」

 

 そう告げて、山田の登板練習が始まる。

 左で投げてみて、さらに廣目に身体の使い方も教えてもらい、山田は感動した。

 

「す、凄い……!本当に投げやすい!なんで!?本当に利き腕は左だったの!?」

 

 2日かけたが、確かに左の方がしっくり来た。

 さらに廣目に変化球も教わり、山田はサウスポーとして育てることになった。

 山田の方向性が決まった一方、残された田中と田島は不安になる。

 

「ひ、廣目さん……!私達も何かないかな!?」

「山田みたいにこうした方がいいみたいな……。私たちにも自分で気づいてない特技とかない……?」

「……それは」

 

 2人に詰められて、廣目は目線を上げて彼女たちを見る。

 正直、彼女達助っ人が獅ノ宮に来ると聞いた段階で、この2人については結論が出ていた。

 それは、当人にとっては残酷な内容だ。

 

「……ハッキリ言います。私は見えないものは、視えません。吉田先輩と山田先輩は修正点がありましたが、必ずしも誰にでもあるとは限りません。つまり、改善の余地がない人は私にも手の施しようがないです」

『えっ……?』

 

 2人が目を丸くする。

 本当に、冷酷な内容を告げられた。

 廣目の言うことに2人とも衝撃を受けて呆気にとられてはいるが、理解はできている。

 要するに廣目でも、自分たちはどうしようもないと言われているのだ。

 

「そ、そんな……」

「私達そんなに才能ない……?」

「……そうですね。筋力パラメータを見ても正直突出した能力がないので、伸ばしどころがないです。2人には何も特徴がありません。伸び代もありません」

『……っ』

 

 あまりの酷評に2人は言葉を失う。

 だが、廣目はただ2人を貶すだけで終わるつもりはない。

 

「しかし、それはチームにとっては有難い存在でもあります」

『えっ……?』

 

 話の方向が変わってきて呆ける2人。

 廣目はそんな彼女たちに告げる。

 

「特徴がない。伸び代がない。それは、何を目指しても問題がないとも捉えられます。山田先輩が右投だと思い込んでいたような損失は、2人には訪れないということです」

 

 廣目は続ける。

 

「正直お2人が野球で将来を掴み取れる可能性は低いです。努力をしても先輩達の人生の為にはならないかもしれません。ですが、個人ではなくチームという目線で見た場合は違います。何をやっても同じ、何にでも染まれる先輩達は、チームに足りてない部分を補うポジションを気兼ねなく目指せるとも言えます」

 

 廣目は一拍置いて、2人に真剣な表情で伝える。

 2人の今後に関わる選択肢の提示を。

 

「残酷な決断を強いてしまいますが、選んでください。自分の為に私の提案を受け入れないか、チームの為に雲を掴むような努力をするか。もし後者を選ぶなら、私にも指導できることはあります」

 

 究極の2択。

 自分を選ぶか、チームを選ぶか。

 田島と田中は、『……っ』と息を詰まらせながら顔を見つめあわせて考え込む。

 2人とも目を逸らして俯いてしまった。

 だが、思い悩む後輩の田中を見て、田島は息を飲んだあと、覚悟を決めて顔を上げた。

 

「わ、私やってみます……!」

「……っ!?た、田島先輩……!」

 

 田島は2年生捕手。田中は1年生元内野手。

 先輩である自分が、この難しい選択の決定を見せなければならない。

 そう思った。

 

「私は……獅ノ宮の力になりたくて来た。だから……!獅ノ宮の為に、何でもやります……!」

「そうですか」

「……っ」

 

 田島の宣言を目にして田中が目を見開き、廣目の返答が耳に入って廣目のことも見る。

 このやり取りを見て、余計に自分は……と追い込まれた田中。

 そんな不安な精神状態の田中の手を、田島が掴む。

 

「……っ!せ、先輩……」

「……」

 

 田島は、何も言わない。

 でも、伝わる。

 彼女が先に答えを出したのは、この獅ノ宮に来た気持ちや動機が一緒だと思ったからだ。

 皆、同じ想いを胸にここへ来たと信じている。

 だから、田中をわざと追い込んだ。

 彼女が、自分の意思決定に後悔がないように。ここに来た時の気持ちを嘘偽りにしないために。

 例え、嘘偽りになったとしても誰も彼女を責めない。

 その心変わりは尊重される。

 それくらい大きな決断だから。

 でも、周りはよくても田中自身はずっと心に引っかかりを覚える。

 故に田島は行動に出た。

 彼女の勇気を、後押しするために……!

 

「わ、私は……」

 

 口ごもる田中。

 だが、キッ……!と覚悟の決まった目で顔を上げるまでそう間は空かなかった。

 廣目が微笑む。

 

「私も……!私もやります!しょ、正直頑張っても意味がないんじゃないかな……って、怖い!でも、ここには遊びに来た訳じゃないから。皆の力になりたいから……だから、やります!やらせてください!お願いします!!」

 

 廣目に勢いよく頭を下げる田中。

 それを見て田島も慌てて頭を下げる。

 

「わ、私もお願いします……!」

「……わかりました。決断してくれてありがとうございます。勇気のいる選択だったと思います」

 

 廣目はコホンと咳払いを挟んで、お辞儀を返した。

 そして、改めて決断してくれた2人に感謝を示す。

 

「田中先輩は1年生でこんな重い決断を強いてすみません。田島先輩は2年生で取り返しがつかなくなるかもしれない中、選んでくれて本当にありがとうございます」

「えっ!?いや、全然……」

「廣目さんって優しいよね……」

「そ、そうでしょうか?自分ではこんな選択迫るなんて鬼だと思ってるんですが」

「そんなことないよ!優しいよ!」

「……そうですか。ありがとうございます」

 

 廣目はまさかそんなこと言って貰えるとは思ってなかったので田中の言葉に少し照れる。

 そんな言葉をくれる田中、嫌な顔をしない田島。

 この2人の気持ちに応えたい。

 廣目は強くそう思うようになった。

 その気持ちが心の中でズッシリと、でもどこか温かくて軽い感覚で満たされる。

 そんな感情を大切に。

 シャツの上からキュッと胸を掴んで、廣目は強い眼差しで2人と向き合う。

 

「気持ちがわかるとは言いません、私は提示者なので。だから、私にできることは2人の決断が報われるように努力すること。私も頑張ります。一緒に頑張りましょう」

『はい……!』

 

 廣目の言葉に2人の良い返事が返ってくる。

 満足そうに廣目は頷いた。

 そして、さっそく本題に入る。

 

「そうと決まれば早速ですが意識して欲しいことを伝えます。そして、それは矛盾してるように聞こえるかもしれませんが、聞いてください」

『……っ』

 

 2人は頷く。

 廣目はそれを確認して相槌を返して続ける。

 

「やるからには才能がなくとも誰よりも上手くなることを目指してください」

『……っ!』

「可能性はなくとも、確率は0ではありません。言うより難しいと思いますが、0.1%でも掴みに行ってください。競争に勝ち、全員を超えるつもりで挑んでください。それがお2人自身の為にも、チームの為にも最善だと私は思います」

 

 言いながら、廣目は自分に昔言い聞かせた内容だと気付いた。

 そうだ。

 この2人はどこか自分と重なる。

 廣目は生まれた時から才能を有する"持つ者"だ。

 だが、2人と同じく"持たざる者"だとも思っている。

 低身長、体格は小さく、恵まれず。

 家庭にも恵まれなかった。

 貧乏で家庭内性暴力、虐待、育児放棄。

 飛び級できるほどの頭脳は努力で後天的に身につけたもの。

 金は投資を勉強して株を買って資金を得た。

 初期資金は親から貰ったお小遣いだが、少額で、それ以外親の義務となる物は与えられてこなかったから、使ったのは許して欲しい。

 代わりに、今は一人暮らしで家賃も学費も試験代も自分で払っている。

 才能は有したが、視力という使い所がわからないモノ。

 だから、才能はあるが、才能に恵まれてはいない。

 そんな人生を歩んできた廣目 惟だからこそ、人生のうち高校時代という大事な期間を賭ける彼女達に、寄り添える説得力がある。

 それは、自慢できることではないと廣目は思っている。

 でも、ラッキーとも思った。

 自分に不幸な出生があったおかげで、2人に強い思い遣りを持てる。

 今日初めて神に感謝した。

 2人と、獅ノ宮野球部に尽くせることを。

 その精神性を得られる背景を有していたことを。

 廣目は少し自嘲気味に、でも柔らかい表情で笑みを口元に浮かべる。

 この気持ちがあれば、2人と真摯に向き合える。

 2人のために、チームのために、私も尽くしたい。

 その思いで2人の前に立ち、責任を持って、言い放つ。

 

「目指さなければ、有り得ません。持たずに生まれたのならそのくらいの覚悟を持って、取り組まなければなりません!厳しくいきます。その姿勢で挑むくらいでないとついてこれませんよ?いいですか!」

『は、はい……!』

 

 思っていたより強い鼓舞が廣目から出て、2人は驚きつつも引き締まった気持ちになって大きな声を出す。

 ここにいる全員が重い決断や責任に正直ビビっている。

 だが、誰も暗い気持ちは抱いていなかった。

 全員がどこか晴れやかな清々しさを抱えている。

 もう迷いはない。

 あとは進むだけ。

 なので、さっそく廣目は2人に今後の指導方針について告げる。

 

「田島先輩は、強肩強打の捕手として強化練習を行います。言わずもがな、私の不得意分野を補う役目です」

「わ、わかった……!でも、廣目の【カンニングリード】があればランナーが出るどころか、反応すらできなくて、バットを振ることもできないんでしょ?使い所って……あるの?」

「あります。仰る通り私はランナーを出しませんが、この世に絶対はありません。万が一にも出した場合、交代で出場できます」

「そ、そっか。そうだよね。そりゃ」

「はい。あと、代打起用もできて作戦の幅が広がりますし、私は一塁手もできるので捕手同時併用でランナーの状況によって使い分けることもできます」

「それってつまり私も一塁手できなきゃいけないってことだよね?」

「その通りです。話が早くて助かります」

「わかった!ファーストも練習するね……!」

 

 まずは、田島が廣目と話し合った。

 田島 麻里子は、強肩強打の捕手を目指す。

 サブポジとして一塁手も着手。

 廣目との併用が理想だ。

 

「田中先輩は、変則的なリリーフ投手になって欲しいです。右の吉田、左の山田、エースのアリア。今獅ノ宮ブルペンの所持枚数はこの手札です。ここに試合の流れを変えるような癖のある投手が欲しいです。色々模索していきましょう」

「は、はい……!頑張るね……!なんでも身につけてみせるから!」

 

 田中 優子も意気込む。

 彼女は主にリリーフ投手として育てていく。

 だが、ただのピッチャーではなく、できるだけ癖を求めていく。

 理想は試合の流れを変えるピッチャー。

 回途中の登板で悪い展開を断ち切ったり、火消しも担当できるようにしたい。

 また、1イニングも当然任せたいし、回跨ぎなんかもできれば理想だ。

 要するに変則性のある便利屋リリーフだ。

 

 これらの方針は、獅ノ宮の足りないピースを埋めるためのモノ。

 本人達の資質はまるで関係ないが、当てはまれば補強ポイントを的確に埋めることが出来る。

 決して軽視すべきではない。

 重要なポジション。

 2人はそこを担う為に、貴重な高校生活を費やす。

 しかも道のりは険しい。

 だが、チームは彼女達の成長を願っている。

 そして、それが叶えば彼女達は求められる。

 そのゴール地点が明確になっているだけでも、かなりの救いだ。

 個人にとっては意味が生まれず無駄になるかもしれない。

 

 しかし、忘れないで欲しい。

 

 2人は、獅ノ宮野球部を救う存在なのだということを。

 

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