貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第83話:下位打線はプランB!

 

 ワンアウト。

 巡ってきた打者は、8番廣目。

 

「廣目、どうするんだ?このままじゃ点入らないぞ……」

「むっ」

 

 打席に入る前、俺が指摘すると廣目は手持ちサイズのスコアボードを見て顔を顰める。

 正直ここまで廣目と成城先輩が組んだ打順は機能していない。

 出塁率の高いクレアと進塁に長けたソユン先輩、そこを組ませたのはいいものの。

 ランナーを返して、その1番2番を活かせる中宮先輩が離れてしまってるのがなぁ……。

 初心者だから気を遣って上位打線を避けたのが仇となっている。

 

「次、長打はない!前進守備!」

「……」

 

 廣目は俺に返事せず、相手の守備位置を見た。

 兎美徳(とびと)はここまでの打席で凡退しかない廣目に前進守備シフトを敷く。

 定石だ。

 

「……そろそろですね」

「え?何が?」

「いえ。それよりも、作戦があります」

「……!」

 

 廣目が何故か金属バットを収納して俺に告げた。

 それを聞いて安心した。

 よかった、やっぱり無策って訳じゃなかったんだ……!

 廣目のことだからそうだとは思ったが、ここまでの展開を見てると不安だった。

 投手は頑張ってるが、今のところ無援護状態だったからな……。

 

「私達の組んだ打順には最終手段があります」

「最終手段?」

「はい。ピッチャーを7番に配置して、私を8番にしているのはその為です。これは、私を起点にこれまで先頭出塁に徹していたクレア先輩で、逆に点を取る仕組み」

 

 そう言って廣目は、()()バットを手に右打席へ向かった。

 そして、打席に立ち、成城先輩のコールと相手投手後藤さんのセットを迎える。

 投じる初球。

 スイングも遅く、パワーもないそんな廣目には力強い直球が有効だが、ここでは前進守備を活かす為。

 引っ掛けて凡退狙いの変化球!

 それが逆に格好の餌。

 否、廣目が()()()()()状況(シチュエーション)

 迫る変化球、穴だらけの内外野間。

 廣目は得意の【眼】を用いて球の軌道を捉え、目で追う。

 タイミングも完璧に取れる。

 いつもなら、金属バットは重すぎて廣目の非力さでは振り回される。

 だが、今持ってるのは木製。

 いくら廣目でも木製なら振るえる。

 これなら、タイミングを取れて、アジャストできる……!

 

「上位打線が機能しなかった場合のみ、発動する作戦―――ここまでの打席で勘違いして頂いて有難いですが、申し訳ありません。私、全く打てない訳ではないんです」

 

 廣目は、初めて会った時、俺に言った。

 

『津川先輩は優秀な捕手といえばどんな選手を思い浮かべますか?』

『えっと……強肩強打、とか?』

『なるほど。確かに捕手の代表的な能力ですね。ですが、私はその真逆です。肩は弱く盗塁は必ず許します。そして、殆ど打てません。しかし、リードとキャッチング・ブロッキング。特にリードには自信があります』

 

 殆ど打てない。

 だが、全く打てないとは確かに言ってない。

 条件が揃いさえすれば、廣目も打てる……!

 

「こいつ、ふざけ……っ!」

「ワタクシ達を前進守備にする為にここまでわざと打たなかったというのですの~!?」

 

 廣目の木製バットによる乾いた打球音が響き、打球はファーストとセカンドの頭を超えて、ライト前に落ちた。

 炸裂、廣目の右打ちだ。

 彼女は余裕で一塁を走り抜けると、真顔でガッツポーズを掲げる。

 

「さぁ、プランBです」

 

 ガッツポーズを下げ、ベンチを指さす廣目が宣言すると、次の打者の霧島先輩が「あいあい」とだるそうに答えて右打席に入る。

 続く霧島先輩は送りバントだ!

 

「あたしあんま上手くねえんだがな……!」

「充分です」

「……っ。くそ!」

 

 廣目のスタートがめちゃくちゃ良い。

 どうやら【眼】を使えば投手の動き出しも視えるようだ。

 だから、足は速くないが最適なタイミングでスタートを切れる。

 走力はないが、盗塁技術はある。

 霧島先輩が転がした打球は勢いが強くてピッチャー前に転がってしまったが、投手の後藤さんが拾う頃には廣目はもう二塁到達寸前。

 兎美徳内野陣は苦い表情を見せた。

 

「すみません。全く走れない訳でもないんです」

 

 二塁に到達した廣目が身体を起こして煽るが、態度は依然真顔で冷静に土を払うだけだ。

 とにかくこれでツーアウト二塁。

 廣目はプランBと言っていたが、ここからどうやって点を取るんだろう。

 クレアで点を取るとは言っていたが、クレアは単打特化だ。

 単打ウーマンのクレアが打っても二塁の廣目は帰塁できないぞ……。

 

「いいえ、帰れます」

「……!」

 

 俺の思考を読んだように廣目が口にする。

 そして、後藤さんが腕を振るったのと同時にスタートを切った。

 

「なぜなら、クレア先輩はどんな球どんな状況でも必ず打てて、初球から打つので……!!」

「その通りだ。廣目」

 

 フッと不敵な笑みを浮かべるクレア。

 彼女は外から内へ入るフォークに、全く泳がされる気配もなく捉えてバットを振り切った。

 カキン!という金属音が響き、すくい上げられたボールは右中間前に運ばれる。

 ボールは外野を転がるが、抜けるということはなくセンターが前で拾う。

 相変わらずの単打だ。

 だが、完璧なエンドランを仕掛けた廣目なら、足は遅くも充分帰ってこられる……!

 

「流石です、クレア先輩。これで1点。ゴチです」

 

 ホームベースにスライディングで滑り込む廣目。

 バックホームは間に合わず、廣目が到着した後にキャッチャーの慎乃(しんの)さんの元に球が戻ってきた。

 これで獅ノ宮初得点。

 ようやく試合が動いた!

 

 

 兎美徳(とびと) 0 - 1 獅ノ宮(しのみや)

 

 

 初球で安打が確定だと事前にわかっていれば、初球から全力でエンドランを仕掛けられる。

 クレアの高打率を活かした廣目の作戦勝ちだ!!

 

「うわー、やられた。しかも打者は二塁、と。走塁判断いいね」

「得意なわけではないが、苦手意識もない。このくらいの判断は容易い」

 

 ショートの取本(とりもと)さんがまたクレアを賞賛する。

 クレアは廣目が帰塁し、兎美徳(とびと)野手陣がバックホームを選択したおかげで、その間にクレアは送球を見てから一塁を蹴った。

 なのでクレアは二塁に到達。

 1点取ったあと、尚もツーアウト二塁だ!

 

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