貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第84話:ツーシーム/フォーシームを攻略しよう

 

 ソユン先輩が単打を残して、ヒットエンドランで走ったクレアが帰塁した。

 続く美山先輩が棒立ちで見逃し三振してチェンジになってしまったが、追加点は取れた!

 これで2点差だ。

 

 

 兎美徳(とびと) 0 - 2 獅ノ宮(しのみや)

 

 

「ピッチャー交代です!」

 

 廣目が告げて、マウンドに上がるのは獅ノ宮1年生リリーフ山崎(やまざき) 月輝夜(るきあ)

 身長190cmがマウンドに立ち、さらに巨身となる。

 

「うおっ。デカ」

「だっしょ~!?それがあーしの武器だかんね!それじゃ、対戦よろしくお願いしまーす!!」

 

 日本人離れした身長に、体格も優れたるきあに打席の5番バッター護持(ごじ) 清良(きよら)さんは驚いていた。

 だが、すぐに切りかえて左打席に構え、るきあも振りかぶる。

 るきあの投球フォームはまだ不安定で、長い足を大きく上げるが軸はブレブレ。

 球をリリースするまでフラつくことが多い。

 しかし、それでも尚、彼女の長い腕がしなりを唸らせて高い位置から放つ球は驚異的だ。

 

「……っ!!」

「うおっ、球もヤバ!?」

 

 初球ストレート。

 フォークも習得中だが、まだ会得していない。

 だから、るきあの今の持ち球はストレートのみだ。

 廣目は彼女に球種よりもリリースポイントの高さを重点的に教えこんだ。

 るきあは無意識に身体を捻り、腕を地面と垂直の最高到達点に持っていくまで、何度も練習させて染み込ませたんだ。

 無論、負担が大きくならないように身体の使い方はみっちり教えたし、廣目の【眼】であらゆるパターンの動かし方で最も負担の少ないものを"視て"選択した。

 故に、球速はまだ110km/h前後だが、角度のついた上から突き刺さるストレートは球威が凄まじいから問題ない。

 まあ初心者の女子で最初から110km/h出せるなら凄い方だが、るきあの身体能力の賜物だろう。

 110km/h+高さ。

 これは、間違いなく今の段階でもある程度は通用するハズ……!

 

「あ~ん!マジ悔しすぎなんですけどぉーーっ!!」

 

 8回表を終えて、ベンチに戻ってきたるきあ。

 通用すると俺は見立てていたが、相手は甲子園準優勝高。

 さすがに甘い相手ではなかった。

 まだ未完成のるきあはベンチに帰ってきてすぐ涙ぐみながら、唇を噛み締めた。

 結果をいうと、るきあは炎上した。

 先頭打者の護持(ごじ)さんは三振で抑えられたものの、続く浮千代(うきちよ)桑名(くわな)/慎乃(しんの)に打たれて1失点。

 最後は、走者一塁三塁で9番の代打を廣目のリードで打ち取ってゲッツー。

 なので、追いつかれたり逆転されたりはせずに済んだが、るきあが満足いかないのは当然だろう。

 この悔しい借りは、成長して後々に返していくしかなさそうだ。

 とにかくこれでまたスコアが動いた。

 

 

 兎美徳(とびと) 1 - 2 獅ノ宮(しのみや)

 

 

 そして、8回裏。

 獅ノ宮の攻撃。

 相手ピッチャーは、さっき代打を送られた影響もあってマウンドにはクローザーの神原(かみはら) 恋檎実(こごみ)さんが上がる。

 

「ふぅ~~~~………………よし。いくぞ!」

 

 マウンドに上がる前にホームに背を向けて深く息を吐く神原(かみはら)さん。

 兎美徳(とびと)はクローザーもローテーション式で3人程いる。

 と、いうのも普段はその3人は先発をしているから、間隔が空いて余裕のある人が登板できるようになってるようだ。

 その中でも神原さんは優秀で、直接メジャー行きを目指しているとの噂もある。

 彼女の特筆すべき能力はWHIPが高いこと。

 先発においても、抑えにおいても出塁を許さない完封型だ。

 球種は2球種のみで球速も平均より低いが、高校生では珍しく直球はフォーシームであり、球威が凄まじいのが彼女の最大の武器。

 高校生相手なら無双するのも頷けるの能力だ。

 そんな彼女を相手に練習できるのはまたとない機会、対するは"普通ではない"獅ノ宮の男子級規格外。

 打者の才能持ち。

 しかし、その実は長門先輩。

 彼女は神原さんとは相性が悪い。

 

「うっ……や、やっぱり……」

 

 長門先輩は空振り三振。

 121km/hのフォーシームに対応できず、早振りする上に最後はフォークで踊らされた。

 完全に相性不利だった。

 だが、次は中宮先輩。

 打てる可能性がある上に神原さんのような癖の強くて優秀な当主との対戦経験は、旨みしかない。

 この打席は結果ダメでも意味がある。

 

「……っ。普通の真っ直ぐじゃないよね。ツーシームってやつ……?」

「いえ。彼女のはフォーシームね。回転がより増しててさらに落ちるの。シュートよりのツーシームと違って、フォーシームはフォーク寄りね」

「……最悪。私、そういうの苦手なんだけど」

 

 主審の成城先輩に教えて貰って打席の中宮先輩は顔を顰める。

 中宮先輩は直球は得意だが、変化球はまだ苦手。

 なので得意の真っ直ぐにすら変化をかけられると嫌悪感が強いようだ。

 しかし、そんな彼女の認識を成城先輩は正す。

 

「そうかしら。ただの変化球と違って、変化がかかっていても結局は直球寄りだから慣れさえすれば秋奈の好みになると思うけれど」

「そう……?速いだけならまだしも変化までされたら初心者の私には無理じゃない?」

「速いと言っても変化の分、手元で球速は落ちるわ。それに逆に捉えれば変化の少ない変化球とも言えるでしょう。そう思えばいいのよ」

「何それ。気持ちの問題ってこと?」

「そうね。バカバカしく聞こえるけど、意外と馬鹿にはできないわ。外野からしたらそんな単純に捉えることはマイナスに見えるけど、私たちプレイヤーは結果さえ得られるなら柔らかく捉えても問題ないもの。でしょ?」

「……確かに」

 

 成城先輩と言葉を交わしてだんだんと彼女の意見が正しく聞こえてきた中宮先輩。

 そうかも……と思いながら腕を伸ばしてバットを一瞬眺めた後、打席から外して数回素振りする。

 ちなみに俺も成城先輩と同意見だ。

 選手が楽観的だと観てるだけの俺達はそんなので大丈夫かと心配してしまうが、それで解決するなら別にいいというのは意外と真理だ。

 文句をつける人も結果が出たらまあいいか……となるのはまちまちだし、尚更そう言える。

 苦手意識を払拭できるなら、ツーシームやフォーシームなんならシュートやカットだって"変化量が少なくてラッキー"と考えるのはアリかもしれない。

 特に直球を得意とし、速球も常識の範囲なら対応出来る中宮先輩においては、尚更。

 中宮先輩もそう至ったのか、息を一度吐いてから肩の力を抜いて再び打席に入った。

 

「変化の少ない変化球……ね」

「貴女ならできるわ、秋奈」

「……っ」

 

 プレイをかける前に微笑みを向けてくれた成城先輩に、中宮先輩は一瞬目を見開いて動揺して、すぐに集中状態に入る。

 構えに入って、投手の神原さんもプレートについた。

 成城先輩は意識の変化を訴えたが、最後には気の持ちようを解した。

 色々言ったが、意外と根拠なんてどうでもよくて、中宮先輩なら打てるようになると伝えたかったのかもしれない。

 私は貴女を信じてる、それが1番なんだ。

 そして、恐らくそれは中宮先輩に伝わってる。

 彼女は感情を表に出すのが苦手でいつも飄々と素っ気ない態度を取るが、それは豊かな感受性と他者の思い遣りに敏感である裏返しだと思ってる。

 だから、成城先輩の信頼と期待はきっと本人も認知してる。

 事実、中宮先輩の対応の幅が広がれば獅ノ宮の攻撃力は格段に増す。

 そういう客観的な分析からしても、俺だって成城先輩と同じ気持ちを抱く。

 そんな全方向から気持ちを向けられたら嫌でも気づくだろう。

 それが重荷にならないように気を遣わなくてはいけないが、本人の鼓舞になるなら喜んで遠慮をやめる。

 俺も成城先輩も、貴女を頼りにしてるよ……!中宮先輩!

 

「変化の少ない変化球……変化の少ない、変化球……っ!!」

「……っ!」

 

 捉えた!

 フォークに泳がされた後だったが、神原さんが味をしめずに済んでくれたおかげで次に来た119km/hのフォーシームを中宮先輩が打った。

 金属バットの音が響いて打球はセンターへ!

 

「くそ……!」

 

 中宮先輩が一塁到達前に顔を顰める。

 打球は惜しくもセンターライナーで護持(ごじ)さんが捕球してアウトになった。

 でも、いい当たりだった!

 速球系の変化はなんとか合わせられそうだ。

 

「スリーアウト。チェンジ」

 

 8回裏の攻撃は6番原田先輩のセカンドゴロで終わった。

 続く、最終回。

 獅ノ宮のクローザーは……面平良(めたいら) 絵夢(えむ)

 

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