貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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埼玉地区大会編
第88話:いざ地区大会へ


 

 夏合宿が終わって、一部メンバーはさらに練習を重ね、大会まで1週間を切るまでに迫った。

 兎美徳(とびと)が帰っていつもの日常が戻って以降、スタミナトレーニングを実施することになったアリアも含めて投手陣は更なる強化。

 吉田さんはチェンジアップの指導を成城先輩から直々に教わり、山田さんはサウスポーで田中さんはアンダスローを物にしようと頑張っていた。

 投手陣でいえば、あとは面平良(めたいら)さんとるきあだが。

 前者はサボろうと何度も試みたが結局廣目に捕まってアリアと一緒に投げ込みの日々。

 とはいえ毎日200球以上投げ込んでるアリアに比べたら面平良(めたいら)さんはそこまで過酷じゃない。

 と、いうのも面平良(めたいら)さんとるきあは球速アップが狙いだからだ。

 特にるきあは練習試合で悔しい思いをしたのもあって、気合いが入っている。

 

「ちょ、今の結構良くない!?速かったっしょ!何キロ!?ねえ、何キロ!?」

「わ、わかったわかった!ちょ、揺らないで!見えないから!」

 

 俺はるきあに急かされてスピードガンを見る。

 

「す、凄い!130km/h超えた!」

「マ!?え、うちヤバくない……!?」

「うん……!凄い。マジで凄い!」

 

 俺とるきあは手を叩いて喜んだ。

 るきあは背が高いけど線が細かったから、増量したのが正解だった。

 足腰もヒップも、そして上体も前より筋肉がついた。

 おかげで最速131km/hを叩き出した。

 とはいえ、増量なんてたった数週間でそんなにすぐ結果に結びつく訳じゃない。

 筋肉なんてどんなに効率よくやっても、そんなにすぐにつかないし。

 なので、るきあの場合は少しの増量でも最初のうちはすぐに影響する特性だったというのと、筋肉がつきやすい体質だったというだけだ。

 それに別に実践したのは増量だけじゃない。

 投手フォームの見直し、腕の振り方、出力の仕方、etc.

 色々廣目が専任で視てくれたからできたことだ。

 

「どうかな?廣目」

「ふむ……確かに130を超えたのは喜ばしいことですが、今の身体と投げ方でバンバン最速を狙っていくとなると故障しかねません。なので、最速の追求は暫くこの辺りにしておきましょう」

「これ以上はもっと身体作ってからの方がいいってことか」

「そうですね。とりあえず地区大会は120km/h後半を意識して投げてもらえますか?」

「オッケー!廣目っちが言うなら間違いないっしょ。従い得的な~!?」

 

 るきあは快諾。

 球速厨かと思えばまだそこまで思想に囚われていないらしい。

 というか廣目に対する信頼が上回ってるんだろう。

 それは非常に助かる。

 るきあに限らず初心者組は廣目を信仰しすぎなくらいが本人達の故障を防ぐ意味でもちょうどいい。

 

「そういえばさ。廣目」

「はい。なんでしょう」

 

 俺は廣目に声をかける。

 先日の練習試合、気になっていたことがあったからだ。

 

兎美徳(とびと)との練習試合、廣目は木製バットに替えて打っただろ?思ってたんだけど、最初から木製バットじゃダメなのか?そしたら最初から打てるだろ」

「あぁ……なるほど。そのことですか。それに関しては、そんなことはないという回答になりますね。確かに木製バットなら振れますが、守備を引き付けてからでないと打球が内野を超えるのは厳しいです。なので、終盤でしか使えない手です」

 

 なるほど。

 廣目の打力は俺が思っていたより単純じゃないようだ。

 つまり、木製バット✕疲弊した投手✕前進守備のこの3つが揃ってないと打てても安打にならないワケだ。

 謎は解決した。

 やっぱり廣目と成城先輩の考えを上回ることは出来ない。

 あの二人が行き着いた結論ならば、それ以上の最適解はないと思った方が良さそうだ。

 納得したので、この話はこれで終わりにして次に行こう。

 

「じゃあるきあはもういいよな?俺、他のとこ見てくるよ」

「そうですね。るきあ先輩は肉体作りの継続と故障防止の指導くらいしか残ってないので私しか見れません。なので、是非その通りにお願いします」

「はいよ」

 

 廣目に軽く返事をして俺は仮設ブルペンを後にする。

 グランドに戻ると、外野で原田先輩の指導を受けてる中宮先輩。

 クレアに打撃指導を受けている田島さんがいた。

 俺はそんな彼女達の練習の手伝いをする。

 

「はぁ……地区大会までいよいよだなぁ」

「来週か。胸が高鳴るな」

「えっ。クレアってドキドキしたりするの?」

「あぁ。私は試合経験がない。公式戦はその地区大会とやらが初だ。……足を引っ張らなければいいが」

 

 クレアが俯く。

 珍しく自信なさげで、バットを地面についている。

 クレアに打撃を見てもらってる田島さんも横目で見た。

 俺はその視線も一瞥して、クレアに声をかける。

 

「クレアなら大丈夫だよ。だって、天才だろ?」

「……っ!そうか。確かに一理ある。やるべき事をやり、出来ることを示すのみだ。それ以上でも以下でもない」

「その通りだよ。クレアならきっと活躍する……!」

 

 俺が鼓舞すると、クレアはフッと口角を上げた。

 柔らかい表情を見せたクレア。

 大会まで1週間。

 それぞれが合宿で得た課題に取り組み、日々を過ごした。

 

 そして、新生獅ノ宮(しのみや)野球部としては初めての夏を迎える。

 まずは大宮を舞台に同地区の高校全てを下す必要がある。

 地区大会の栄冠を得たその先にようやく待ち受けるのが球児達の夢、甲子園。

 そこに行くことは大前提として、俺達は1週間後、地区大会を迎えた。

 

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