貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
さぁ、いよいよ試合開始。
まずは先行。
獅ノ宮学院高校野球部のスターティングラインナップ。
今日は成城先輩が組んだ打順とポジション。ゲームメイクも彼女がする。ちなみに去年の大会も成城先輩が主に監督の役割をしてたらしい。
あと、俺が調べた地区大会の指標をプロ野球のシーズン単位に計算し直したデータも添えておく。あくまで参考程度だ。大体この数字レベルになる選手だという指標だと思って欲しい。
〇獅ノ宮学院高校
1.3B
2.2B
3.RF
4.LF
5.SS
6.C 助っ人A
7.CF 助っ人B
8.1B 助っ人C
9.P 助っ人D
甲子園ゴールデンクラブ……3B 原田 涼香、2B 成城 冬華、RF 美山 優希
甲子園ベストナイン……2B 成城 冬華、RF 美山優希、LF 長門 未来
続いて後攻。
中龍学園のスターティングラインナップ。
これまた去年の甲子園のデータをシーズン換算したものを参考程度に綴っておく。
〇中龍学園
1. SS
2. C
3. 1B
4. RF
5. LF
6. 3B
7. 2B
8. CF
9. P
甲子園ゴールデングラブ……SS 弘端 和泉、CF 勇岡 瑞希
甲子園ベストナイン……1B 羽釜 拾、SS弘端 和泉、3B平橋 周子、RF 福宝 歩未
以上。
以上です。
……思ったこと言っていいですか?いいですよね?皆も同じこと思ってるよね?言うね?言います。
「向こうのメンツがガチすぎるだろっ!!!!!」
俺はベンチで頭を抱えた。
いや、俺が抱えるのはおかしい。おかしいのは向こうの頭だ。
これが王者のやることか!?あなた達は蟻んこを全力で踏み潰す像ですか!?
何が困るって2日目も野手はほぼ同じメンツらしい。
……え?なんだっけ?2日目は俺が監督やって?勝たなきゃいけないんでしたっけ?
無理じゃん。なんだよ、甲子園ベストナイン4人って。過剰戦力だろ。
そりゃこれに勝ったら誰にでも認められるでしょうよ。勝てたらの話だけどな!!
黒バスでももうちょいスローペースでキセキの世代出てきたわ。なんで最初に戦う相手と自軍にB9とGGが半分集結してるんだよ。クソ脚本か?こっから話の展開どうすんの?
個人レベルはこっちも高いとはいえ、3人だけだ。しかもスタメンの半分は借り物で、ベンチにも入れない選手たち。
終わった。俺だけじゃない、こんなの今日も明日も勝てねえよ。この試合意味ねえよ。俺と獅ノ宮野球部の対決、もうやる前からどっちも負け確定だよ。
「3年生は3人、他は2年生か……。3年生セカンドと2年生センターのレギュラーは出てないみたいだけど、こいつはキツイだろ……」
終戦だ。勝てるわけがない。俺は天を仰いだ。
俺が嘆いているのを聞いて、成城先輩がこれも橋本 真広さんの為の布陣だと教えてくれた。
つまり、中龍がガチのスタメンを組んできたのはこれもまた橋本さんの育成の為。
言うなれば、『過保護スタメン』。
去年の甲子園でレギュラーだった3年生と2年生。それに加えて来年まで組むことになる慣れ親しんだ、そして慣れ親しんでいかなければならないマスクの谷さん。
実力で選ばれたメンツ。そうでないセカンドとセンターの2年生2人も来年のポストは当確の逸材だ。
なるほど、さすがは強豪。たかが練習試合でも意味を持たせないなんてことは絶対にしない。
橋本さんに自信を持たせる為のスタメン。これを出されたらもう無理だ。俺も獅ノ宮も……勝てない。
俺が諦めてる間に獅ノ宮顧問の佐藤先生と中龍の監督が握手している。「どうぞ宜しくお願いしますね~!」と朗らかに挨拶する佐藤先生に対して、向こうの監督もにこやかに対応していた。
怖そうな女性監督だが、佐藤先生がただのおばあちゃん先生なのを見抜いているのだろう。見た目とは裏腹に人当たりのいい態度だ。
大人の監督の元、行われている試合だと再確認したところで、両チームナインが整列。
頭を下げた後、ベンチに戻ってきた1番バッターの原田先輩がヘルメットと防具、バットを装着してバッターボックスに入る。
向こうのナインも守備につき、先発ピッチャーの橋本さんもセットポジション。
さぁ、これで。
「プレイボール!」
女性審判による合図で試合が始まった。
獅ノ宮学院高校 ✕ 中龍学園。
その1回表。獅ノ宮のお手並み拝見。まずは、第1打席だ。
相手がどんなに強大であれ、そんなのは承知で試合を組んだのは向こう。そして、大口を叩いたのも向こう。
ナインはほぼベストでも向こうのバッテリーは同じレベルかそれ以下だ。
彼女達の実力、見せてもらおうじゃないか……!
「ストライク!バッターアウト!チェンジ!」
ズッコケた。
5分もしないうちに終わりましたけど!?
1番バッター原田先輩は、初球を打ってショートゴロ。
2番バッター成城先輩は、初球安打で出塁。
3番バッター美山先輩は、なんかニコニコしながら一切動かず見逃し三振。
4番バッター長門先輩は、空振り三振。
1回だけで2奪三振されててウケる。じゃねえよ。
全然ダメじゃねえか!!
「大丈夫ですか?こんな調子で」
「……まあ、待つしかないわね」
口ほどにもない。
俺がそんな感想を抱いて、ちょっとニヤつきを抑えられないながらも尋ねると、守備に向かう用意をしながら成城先輩は、俺の表情を一瞥して真顔で返した。
……待つ?何を?
「1人出たくらいじゃダメってことか……。何?スリーランがいいの?なんか今日いつもより要求キツくない?」
「スリーランというより逆転シチュエーションが欲しいんじゃないかしら。要求がキツイのは、試合前に機嫌を損ねたせいね」
「ま、待ってください。2人とも何の話してるですか……?」
原田先輩と成城先輩の会話がよく理解できない。だが、内容は気になる。
2人はまるで、誰かがやる気を出せば簡単に点が取れるとでも言わん口振りだ。
「今にわかるわよ」
「あーあ……てことは先に点取られるの待たなきゃいけないのか、今日。キッツイな」
「あっ、ちょっと……!」
俺の質問に答えずに全員守備についてしまった。
と、同時に芝生のライトスタンドから爆音級に上がる大歓声。
『せーのっ。優希ちゃ~~~~~~~んっ!!』
「はぁ~い!」
「……なんだあれ」
総勢30人くらいが美山先輩が守るライト周辺にだけ押し寄せている。
美山先輩だけの固定ファンか。そういえば美山先輩の打席だけやたら外野がうるさかったな。
ていうかもう相手の攻撃が始まるのに美山先輩ホームベースに向けて背中向けてファンサしてるんですけど。なんだあれ(2回目)。
「お遊びチームか?本当にベスト8なのかよ……」
甚だ疑問だ。卒業生が凄かったんじゃないかと思ったこともあったが、でもゴールクラブとベストナインに選ばれてるメンバーがいるし、指標も優秀なとこは優秀なんだよなぁ。
なんというか、正直不気味なチームだ。データを見ても試合を見ても全容が掴めない。
「……」
「さぁ、行こう!」
俺が試合そっちのけで遊んでる美山先輩に困惑している間に、助っ人ズの2年生バッテリーが投球練習を終えて掛け声をあげる。
今更だが1番根幹になるポジションのバッテリーが借り物って情けないというか、1日目は獅ノ宮の力を俺に見せる的なコンセプトでやる的なことを言ってたくせに、それでいいのか?って気持ちがあるな。
「ハッ。バッテリーが余所者じゃウチとやってるようなもんだな」
「……!」
俺と同じ事を思っていた人がもう1人いたようだ。
中龍学園2番バッター、
当たり前のように1番バッターの3年生、弘端さんの出塁を許したあと、彼女は右のバッターボックスでルーティンを挟みながらバットを構えた。
対峙する彼女に助っ人のピッチャーが深呼吸する。
「谷さん!本気でいきます!よろしくお願いします……!」
「あぁ?」
宣言する助っ人Dさん。
その言葉を受けた谷さんは表情を歪めた。そこに込められた感情は……苛立ちだ。
「……何が本気だ。この次に
「ストライク!」
1球目にボール、2球目にストライクコールが審判から告げられる。
谷さんは見逃した。だが、打てなかったから見逃した訳じゃない。
ワナワナと震える彼女が目の前の球に集中しなかったのは、怒りを蓄積させていたから。
だから、次の1球。
カッ!キィン!!と芯で捉えた音が響く。
「ベンチにも入れねえ凡Pがっ!!私でも打てんだよ、オラァ!!」
「なっ……!?」
「ヤバ!?あぁ……!」
バッテリーが空を見上げる。その視線は放物線を追って、ライトスタンドへ注目も打球も落ちていく。
美山先輩はファンに手を振り、ホームベースに背を向けたまま。フェンスを超える打球を、横目で一瞥しながら口角を上げた。
文句なし。確信の。そして、勝負を決めた。
「……先制ツーランホームラン」
「よっしゃおらぁ!!」
谷さんが叫びながらダイヤモンドランを行う。
先輩達は顔色一つ変えなかった。助っ人に入ってくれた4人だけが顔面蒼白だ。
成城先輩以外太刀打ちできないピッチャー、橋本 真広さん。
この後、高校最強のクリーンナップが控える中、それを迎えることもなく。格の違いを見せつけ、大量得点負けを想像させるには、十分な絶望を叩きつけてきた谷 繁那さん。
それだけじゃない。
中龍学園。
レギュラーに選ばれる投手全員がエース級と言われ、投手大国かと思えば野手も高校最強と呼ばれるまさしく王者。その座に君臨する絶対的強豪校。
―――彼女達は。最強、
「……っ」
俺は唇をかみ締めて俯いた。
だが、それは俺だけだった。