貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第95話:『津川は私が守らないと』

 

 原田先輩と原田 林さんの関係性について、気になってソワソワしていたからか昼飯を食い終わったらすぐにグランドに行った。

 今日、原田先輩と会ったら直接聞こうかと思っているから尚更だ。

 ワンチャン原田先輩が早めに来てたら練習前に会えるかなと思ったけど……。

 練習が始まるのは3時で今は1時半。

 時間が早すぎるからさすがに誰もいないようだった。

 かと思っていたが、先客が2人いた。

 山田さんと田中さんの中龍助っ人で投手転向した1年生2人だ。

 2人ともグランドで談笑しながらストレッチしていたので、そこに荷物を降ろして会話に混じる。

 

「えっ。2人早くない?」

「そういう津川くんこそ。どうしたの」

「俺は昼飯がてら練習の準備を事前にしておこうかなって……」

「えー!それめっちゃ助かる!私達も手伝うよ!」

「いやいや、俺の仕事だし。皆は練習の為に早入りしたんでしょ?キャッチボールとかアップとかしてきなよ」

「そんな選手とかマネとか関係ないよー。私達の練習の準備なんだし手伝うのは当然だよ!」

「そうそう。本当だったら自分のことは自分で!だもんね。そこをいつも津川くんには助けて貰ってるってだけなんだから!」

「そ、そっか。じゃあ……手伝ってくれる?」

「うん!」

「もちろん!」

 

 最初に合流した山田さんと田中さんとそんな会話を交わして3人でグランドの整備から始めた。

 準備しながら早入りした理由を聞いたら、2人は「さっき津川くんは練習のためにって言ってくれたけど、そんな真面目じゃないよぉ~!」「そう思ってくれたのは有難かったけどね!あはは!」と2人とも笑いながらも勘違いを受け入れるのではなくキッパリ否定した。

 どうやら2人とも単に暇だったから早めに来ただけらしい。

 聞いて思い出したが2人はウチに転校してきた訳じゃなくて、制度を使った助っ人。

 地区大会がある今は中龍の生徒である彼女たちも岐阜を離れ、暫く埼玉に滞在することをすっかり忘れていた。

 2人は、実家がこっちにあって唯一転入した田島さんの家に下宿している身。

 田島さんは午前は授業に参加することにしたらしく、同じく下宿している吉田さんは朝に弱いらしく爆睡中とのこと。

 残った山田さんと田中さんは、田島さんがいない中、家に居るのも落ち着かない上に獅ノ宮の生徒じゃないから授業を受ける訳にもいかない。

 完全に午前は手持ち無沙汰だったワケ。

 なので、ひと足早くグランドに来て時間を潰そうとした、という経緯のようだ。

 

「なんだー。2人とも真面目だと思ったのに」

「えっ。真面目でしょ!ほら、今津川くんの仕事手伝ってるし」

「いやいや!さっき自分でやるのは当たり前って言ってたのに……凄い早さで矛盾するじゃん」

「え~?なんのことかなぁ」

「ちょっと記憶にないなぁ」

「なんか卑怯だぞ2人とも!」

 

 俺が指摘するとあはは!と笑う2人。

 そんな雑談も交わしていると、グランドに入ってから30分程経過した時、るきあと面平良(めたいら)さんもやってきた。

 

「あれー?みんな早くなーい!?てか全員1年ジャーン!何気に初めてじゃね?1年ズの集い~~~!うぇ~~い!」

「確かに!いえーい!」

「いえーい!」

「い、いえーい……」

「ひっ……!陽キャのノリ、最悪……」

 

 るきあが偶然にも1年生回発足に気づき、自然な慣れた手つきでスっとスマホを取り出して自撮り集合写真を始める。

 その仕草を目にしたその瞬間から即座にカメラに写ろうと画角に収まる山田さんと田中さん。

 対称的に、陰キャの俺と面平良(めたいら)さんは唐突なことに対応できなくて引きつった笑みでなんとかギリギリ端っこに加わった。

 るきあはスマホを掲げた時にはもう完全にポージングを決めて表情管理もしっかりして盛れてる。

 さすがギャル。

 逆転してても陽キャは男女共通だ。

 山田さんと田中さんも意外と対応力がいい。

 まあ運動部女子だし普通に一軍二軍の陽キャなんだろうな。

 この一瞬で意識してなかったことを【分からされて】、さっきまで山田さんと田中さんと楽しく話せてたのが嘘のように感じてきたよ……。

 その点、面平良(めたいら)さんは安心するな!

 

「な、なんか失礼なこと考えてない?」

「いや。別に。仲良くしような、面平良(めたいら)さん」

「えっ。なんで急に……?」

 

 てか面平良(めたいら)さんが早入りしたのは意外だな。

 いつも部活に来るのすら嫌がるのに。

 

「わ、私は早入りするつまりなかった。や、山崎さんが無理やり……。こ、こんなに早く来る意味がわからない……ギリギリまで心の準備したい……憂鬱……」

「ちょ。だから、あーしのことはるきあって呼んでいいっていつも言ってっし!あと憂鬱なら尚更早く来て身体動かした方が早く慣れて良くね?って言ったっしょ。どう?あーしの言ったこと合ってたっしょ!早く来て良かったくね!?」

「全然良くない……!予定より時間取られるの嫌……!ていうか身体動かしてスッキリするのはよ、陽キャだけ。同じ尺度で陰キャを計るな……!」

 

 あぁ……なるほど。

 要するにるきあにゴリ押し陽キャムーヴで連行されたんだな。

 可愛そうに。

 同じ陰キャ仲間として、同情してやろう。

 ちょっとフォローもしておくか。

 

面平良(めたいら)さん。気持ちはわかるけど、せっかく来たんだし何もしなくていいから外の空気吸って今日はここで心の準備してこうよ。ほら、見ての通り今は1年しかいなくて気楽だし。いつもよりマシでしょ。それに段階的に慣れていけるし」

「……た、確かに」

 

 異性の俺に声をかけられたら肩をびくつかせる面平良(めたいら)さん。

 そんな彼女はできる限り言葉を選んでゆっくり語りかけた効果か、俺の言葉を聞いてる間、目を合わせるのが苦手ながらもおずおずと俺の目を見ることができた。

 そして、納得してくれて目を逸らしつつも顔を少し上げてくれた。

 が、壮絶な勘違いも生まれた。

 彼女は俺を見て目を丸くする。

 

「い、陰キャに優しい男子……存在したんだ」

「あぁ……う、うーん。に、ニアピンかな」

 

 同じ陰キャで共鳴・共感したから寄り添えただけで別にそんな都合のいい存在になれる優しい奴じゃない。

 でも、面平良(めたいら)さんの俺を見る目は変わらなさそうだった。

 

「も、もしかして私の事……好き?」

「あー。うん。わかる。優しくされたら『あれ?気があるんじゃね?』ってなるよな。でも、ごめん。違うかな」

「ひっ!恥ずかしすぎる勘違い……末代まで残る黒歴史……陰キャ非モテブス女のくせに調子乗った罰として、勘違いしたことを言いふらされて一生後ろ指さされて笑われるんだ……!病む。死にたい」

「ごめん。俺、メンヘラではないからそういうメンタルはわからない。言いふらしたりしないからさ。頼むから戻ってきて顔あげて?」

 

 うーん、面平良(めたいら)さんの扱いまだ難しいなぁ。

 でも、練習が始まるまでグランドのベンチで休んでいく勇気は出たらしい。

 とりあえずよかった……かな?

 ちなみに彼女を仲間はずれにせず交えて話せるように、ベンチの近くで集まってできる作業をしようということになった。

 提案者俺だけど。

 まあそんなワケで面平良(めたいら)さんを除いてボール磨き大会の始まりだ。

 磨きながらるきあがグランドを見渡す。

 

「ヤバ。グランドも綺麗だしプルペンも整ってるくね?用具も出してベースとかコーンとかも設置してってマジ3人とも優しいと偉ちの神じゃん!」

「そ、そこまでではないと思うけど……まあでも、それを言うならボール磨きしてくれるるきあちゃんも神だよ~」

「マ?3人に比べたら全然っしょ。でも、そう言ってくれる山田っちの優しさマジ染みるわ。山田っちマジいい子すぎん?」

「あはは!そうそう、実は私いい子なんだよね~。気付いちゃった?お客さん、見る目ありますね~!」

「いやいや、ここは謙遜するとこでしょ。そういうとこがまだまだだよ、花子は」

「は~?何を~!!」

「ちょっ!やめ……っ!……あははっ!ごめ、ごめんって!降参降参!」

「じゃあ発言撤回しろ~!このこの~!」

 

 じゃれ合う山田さんと田中さん。

 山田さんのこそばし攻撃が田中さんを襲撃している。

 最初は微笑ましいと思ってたけど、途中で服がめくれまくって肌が見えだしたのでギョッとなって目を逸らした。

 2人ともTシャツ短パンのスポーツウェアだから目のやりどころが大変なことになってて気まづいわ……。

 いや~山が綺麗だな~。

 獅ノ宮……っていうか埼玉は自然が豊かだよなぁ。

 誰だ?海がないしなって笑ったやつは。

 

「てか皆はなんで早く来たん?あーしはジッとしてらんなくてって感じ!んでどうせ早入りするなら面平良(めたいら)っちも誘お~!って家凸した!」

「な、なんでぇ……1人でいけばいいのに……」

「あはは……」

 

 被害者面平良(めんたら)苦労話、は置いといて。

 さっき3人で話したことをるきあ達にも伝えた。

 すると、るきあは山田さん達とは違う視点の反応を見せる。

 

「……津川っち男子高生(DK)で一人暮らしってマジ?危なくない?」

「確かに!大丈夫?チャラい女をホイホイ家にあげたりしてない?」

「うえっ。陽キャ女子に身体を許しまくってるヤリチン男子……い、陰キャ女子の敵……!い、いつも私達を見下す。私達のこと汚物だと思ってる……」

「いやいやいや!勝手に話進めないで!?俺、そんなんじゃないから!彼女ナシ歴=年齢だから!あと誰も家あげたことないし、防犯もオートロックでしっかりしてる!」

 

 慌てて否定した。

 一同ホントか~?と疑惑の目だがまあ一応呑み込むにしたらしく、話の尾ひれがこれ以上大きくなることはなかった。

 ……別の方向に肥大化していくという形で。

 

「オートロック!?高校生のひとり暮らしで?」

「いやいや、高校生だからでしょ。支払い能力ないから親が援助してくれるし。あれ?そういえば津川くんの親って……お医者さんって……言ってなかった!?」

「マ!?医者!?ヤバ!箱入りでフリーで一人暮らしとかマジ狙われまくるっしょ!」

「ひっ……!陽キャと遊びまくる男になるんだ津川……でもそれは都合よく扱われてただけでいずれ捨てられて中古男になるんだ……そ、そしたら私みたいな底辺でも釣り合う……な、慰めてあげるよ津川くん。う、うひひ」

「なんでそうなるんだよ!話飛躍しすぎだろ!」

 

 面平良さんの妄想力がすごい上に内容が酷い。

 他の3人も引いてる。

 ま、マズイ。

 このままじゃ面平良さんの人権がなくなのは未来の話じゃなくて今すぐだ。

 皆聖人の野球部(美山先輩を除く)で嫌われたらヤバいぞ。

 それもう当人に非があるとしか言いようがないし、回復が難しくて立ち直れなくなる。

 ……まったく。なんでこんな展開になってるんだ?

 

「はいはい!俺の事で好き勝手言いやがって。るきあも山田さんも田中さんもレッテルで俺の事見すぎ。別にオートロックあるだけでいいとこ住んでないし、親とはほぼ疎遠だから俺にすり寄っても太い実家の恩恵なんて得られないよ」

「えー。そんなの関係ないよ。男の子なんだし。いいとこで育った上品な男子ってのが魅力じゃない?女じゃないんだし将来とかお金とか親そのものよりそっちでしょ」

「あー。あーしも同意見って感じ~。どこにでもいるワケじゃないし的な?」

「せ、世間知らずで誰の手にも染ってない……穢れてない的な先入観はあ、ありそう……」

「あっ。そうそう。それかも」

「そう言われでも当人としてはピンと来ないんだけど……そんなもんか?」

 

 みんなの俺に対する、というか箱入り息子に対する先入観らしい。

 正直よくわからん。

 まあそもそも俺は和美さんとは距離置かれてるし、置いてるから箱入りって感じじゃなくてほぼ普遍的な男子だしっていうのもあるんだろうか。

 とにかく皆が言ってる印象と実際な俺は乖離あると思うけどなぁ……。

 

「皆マジで好き勝手言い過ぎだろ。俺多分そんなんじゃないぞ……」

「主観じゃわかんないよ。仮に事実は違ったとしても、そんなの外からはわかんないし周りが自分から見えてることだけで勝手に抱くことだからねぇ」

「あー、なんか津川くん警戒心なくない?危険だよ?マジ狙われる素質しかないから」

「いやいや。まさか。皆が特殊なだけでしょ」

『は?』

「えっ?」

 

 全員が「こいつマジか」みたいな信じられない目を俺に向ける。

 あの面平良(めたいら)さんまでもだ。

 え、なんでそこはみんな息ぴったり共通認識なんだ……?

 

「あー。今、世の一人息子を持つお母さん達の気持ちがわかったわ」

「いやマジそれな。愛しい自分の息子がこんな無防備だったら卒倒するわ」

「あーしらが守んなきゃ……ってなるくね?」

『わかる。なる』

「えぇ……」

 

 なんか謎の団結を生んでしまった。

 今日ここに俺の母親(自称)が4人爆誕したんだが、俺の意思はなぜ無視されてるんだ?

 4人は【津川を守る会】を勝手に発足した。

【1年生組&津川を守る会】というライングループを作って、そこに俺と廣目もぶち込まれる。

 計6人。

 秒で廣目からメッセージが飛んできた。

 

『なんですか?このグループ名。今、皆さん一緒にいるんですか?そこで何が起きてるんですか?』

 

 うん、そら困惑するわ。

 そして当然のごとく誰からも説明がない。

 廣目は廣目で1年生のやり取りの場としても兼任してるこのグループの特質が厄介で、退出できなくて困っていた。

 可愛そうに。

 個チャで俺が説明した。

 

『……なるほど。なるほど、とだけ言っておきます』

 

 と、だけ返ってきた。

 コメントに困ったんだろうな……。

 まあ理解はできたから理解だけしたって感じだ。

 意思表明はしっかりするところ廣目らしい。

 ただ廣目も俺に対してみんなが抱いてる偏見に頷けるところもあると評したのは解せぬ。

 

「マジ津川っち。危機感なさすぎだから。これからはあーしらが守っからね」

「いや、許可してねえよ」

「津川くん!悪い女に引っかかっちゃダメだよ!好きな人ができたら私たちを通してね!」

「聞けよ!てかウザイわそれ!」

「野球部の先輩も意外と危険だよ。良い人達だけど、簡単に心許しちゃダメだからね?」

「あ、それわかる!まあまず原田先輩は絶対狙ってるでしょ?あとは中宮先輩にアリア先輩!クレア先輩も意外と要注意だよね」

「1番安全なのは?」

『絶対霧島先輩』

 

 あー……もう勝手にしろ。

 めんどくさくなってきた。

 こいつらめんどくせえ。

 この数時間で1年生組の距離はめちゃくちゃ縮まって仲良くなった。

 だが、俺の保護者ヅラした奴らになってしまった。

 なんでこうなったんだ?

 

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