貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第96話:地雷を踏み抜くってこういうこと

 

「んだそりゃ。お前らちょっとキモイだろ……」

 

 一連の話を霧島先輩にすると、まともな返答をくれた。

 1年生組がぶーぶー文句を言うが「いや、キメェだろ。意見変えねえぞ私は」と一蹴された。

 そういえば霧島先輩といつもセットの原田先輩はまだ来てないな。

 廣目は来て、1年生組に加わって会話を交わしている。

【津川を守る会】に関しては「あ、そういうの結構です」って断ってて安心する。

 やっぱ廣目は信頼できるな。

 宗教勧誘にも屈しなさそうだ。

 

「原田先輩ってまだ来てないんですか?」

「あ?涼香なら腹痛で便所行ってっけど。なんか用か?」

「あぁ……いや、別に。大したことじゃないんですけど」

「ふーん?」

 

 霧島先輩のアップとキャッチボールに付き合いながら、尋ねてみた。

 まだ来てないようなので気長に待つしかないな。

 

「そういえば皆が霧島先輩は1番無害だって言ってたんですけど、言われる心当たりあります?」

「はぁ?んだよ、それ。……あぁ~、まあ多分だがアレじゃねえか?あたし恋愛ぶっちゃけ得意だからな。男に困ってねえんだよ。だから、別に津川に拘る必要ねえし、だから安心してんじゃねえの?知らねえけど」

 

 なるほどなぁ。

 確かに霧島先輩はモテるし、その上誰にでも手を出すチャラい感じじゃなくて性格良いしな。

 余裕が違うよな。

 

「てか霧島先輩恋愛得意な自覚あるんですね。……ぶっちゃけ極意は?」

「お前、案外モテたい欲あるんだな……。つーか極意って、んな大層なモンねえよ。恋愛なんてコミュニケーションゲーだし」

「そうなんですか?」

「おう。男は受け身側の性別だからな。向こうが気持ちよくなれるコミュニケーション取ればいいんだよ。んなモンだよ恋愛なんざ」

 

 霧島先輩曰く、顔は平均以上あればいいらしい。

 恋愛は外見でも中身でもなく口先のテクニックとのことだ。

 テクニックといってもそう特別なことではなく、ちゃんと広い交友関係作れるレベルで、らしい。

 要するにコミュ障すんなってワケだ。

 

「霧島先輩って今彼氏いるんですか?」

「あ?今はいねえな。てか去年の夏以降作らねえようにしてんだよな」

「えっ。なんで……」

 

 霧島先輩の背中を押してストレッチを手伝っていたが、それが止まる。

 彼女は恋愛の話をしてる時とは比べ物にならないくらい真剣で、陰りのある顔を見せた。

 

「……今は野球に集中してぇんだよ。てかしなきゃならねえ。去年の夏、あたしは誘われただけの初心者。だから才能に任せて適当にやってた。けどな、そんな生半可な奴は多少才能があっても通用しねえんだよ」

 

 想起するのは去年。

 世間を騒がせた新星の男子級達は酷い結果で終わった。

 もちろん内部崩壊もあったけど、それだけであの男子級達を簡単に攻略できる訳ではない。

 相手もレベルが高すぎるんだ。

 

「ビビったぜ。野球があんなハイレベルな競技だったとは、ってな。でも、後で気付いたし皆が教えてくれた。明らかに私達の代の高校野球は異常だ。レベルが高すぎる」

 

 俺もこの部活に入って、この世界の女子野球に触れ始めて気付いた。

 この世界の女子野球はハイレベルすぎる。

 いや、違う。

 レベルが高いのは高校野球だけだ。

 プロは平均球速130km/hの前の世界の女子野球に毛が生えた程度。

 でも、今の代の高校野球だけ違う。

 その原因は、歴史の長さを得たからじゃない。

 だってこれまでは違ったからだ。

 調べたら、レベルがここまで高いのは近年だけらしい。

 それももっと言えば、成城先輩達の代。

 彼女たちが小学生の時は少女野球のレベルが歴史に類を見ないレベルで高い世代だと騒がれ、中学野球の時も動揺。

 彼女達の進学に合わせてその"異常な高レベル野球環境"は付きまとっている。

 なぜかはわからない。

 俺には、男子級の天才達に合わせた試練が運命のように用意されてるとしか……。

 

「新聞とかテレビで言ってたが、今までで1番レベルが高いらしいぜ。歴史を塗り替えるってよ。常軌を逸してる。世界を変えるとかまで言われてたぜ」

「そ、そんなに……?」

「あぁ。でもそれを聞いてどうりで、って思ったぜ。だってよ、初心者のあたしでも異常だって気づいたんだぜ?だったら分かるやつにはもっとわかるだろ。あたしなんかよりよっぽど恐ろしい世界が見えてただろうな。経験者の奴らは」

 

 霧島先輩は俯く。

 

「だから……いや、それだけじゃねえな。とにかくすげぇ悔しかったっつーのもある。自分の実力が全然及ばねえってことだかさ」

「去年のこと……ですか?でも、相手のレベルが高くても先輩達の才能は規格外ですよ。個人個人のレベルやポテンシャルなら先輩達の方が上なんじゃ……」

「いや、今思うとそれもよくなかったんじゃねえかな。変に才能あって中途半端に通用したせいで相手の力量もなんとなく分かったんだよ。痛いほど理解したぜ、片手間にやってるようじゃアイツらには勝てねえって」

 

 霧島先輩の眉間にしわを寄せる。

 握りこぶしを作って、それを見下ろし自分の肩を触った。

 

「……あぁ、そうだ。勝ちてぇ。勝ちてぇんだよ。アイツらに。だから、野球に集中してぇ。もうあんな思いはしたくねえ。今度は本気でやって、勝ちてぇ。もっともっと、この肩でアイツらを刺してぇ。もう誰も……一塁ベースに立たせたくねえんだ」

 

 強い気持ちを拳に込めて、身を震わせる霧島先輩。

 霧島先輩の才能はスローイング。

 凄まじい肩で、三遊間から一塁へノーバウンドの豪速球を投げて瞬足ランナーすら一塁駆け抜けを許さない。

 だが、去年の甲子園では守備範囲の狭さと捕球が仇となって補殺率はそこまで高くなかった。

 霧島先輩の言う通り、野球を舐めてかかってたところもあるんだろう。

 明らかな練習不足で才能を活かしきれなかった。

 結果、周囲を驚かせるような才能は見せられたが、完全には通用しなかった。

 それでも通常の女子野球なら猛威をふるえる。

 それが叶わなかったのは、相手が全員強かったからだ。

 特に現在高校BIG5が所属する5校は、去年王皇(おうきみ)を除いて全て甲子園ベスト4に収まっている。

 男子級を5人有した獅ノ宮を押しのけて、だ。

 

「でも、なんで俺達の代でそんな急にレベル上がったんですかね……?」

「さぁな。運が悪いとしか思えねえが」

 

 うーん、まあそりゃそうなんだろうけど……。

 なんか引っかかるんだよなぁ。

 どうも意味がないとは思えないんだよな。

 転生したから何かこの新しい人生に物語性を感じるってのもあるけど、この世界の住人である成城先輩が、「まるで天才を埋めらせる運命」……因果律のようなものがあると睨んでいたのも相まって無視していいとはなれない。

 何事も全部、起こる事象には理由と関連があるんじゃないかと睨んでる。

 まあまだ漠然と思ってるだけだから今考えても具体的な原因は突き止められないんだけど。

 

「珍しいね。紗永(さえ)と津川で喋ってんの」

「あっ。原田先輩……!」

 

 原田先輩が合流した。

 ようやく会えたぞ!

 霧島先輩との雑談もここまでだ。

 

「おっ。涼香。やっと来たか。なんか津川が話あるみてぇーだぜ」

「えっ。何?なんか怖いんだけど」

「おいおい。もしかして告白なんじゃねえーの~?」

「茶化さないでくださいよ……!」

 

 ニヤニヤしてる霧島先輩の悪ノリがえぐい。

 即効で否定して事なきを得たが……原田先輩も若干意識し始めて困る。

 まあ無視するしかないな。

 

「告白じゃないんで肩の力抜いてもらっていいですか?」

「あ、あぁ……そうなんだ」

「なーんだ。つまんねー」

 

 原田先輩なんで残念そうなんだ?

 てか霧島先輩は反省してくれ……。

 

「んで、告白じゃないなら何?どうしたの?」

「あぁ、えっと……」

 

 なんか言いづらい雰囲気になっちゃったけど、大したことじゃないんだしサラッと聞きたいんだよなぁ。

 霧島先輩と原田先輩の注目が集まってて言いづらいが仕方ない。

 気にせずサクッと聞いてしまおう。

 

「原田先輩って……」

「うん」

「―――王皇(おうきみ)百十(ももと)原田(はらだ) (りん)さんと原田先輩って親戚ですか?」

 

 瞬間、空気が固まった。

 その一言を放った後、喋り続けたのは廣目を除く1年生組だけ。

 

「おま……っ!バカ!!」

「えっ?」

「~~~~~っ。津川先輩、ダメです!」

 

 な、なんだ!?

 この不穏な雰囲気。

 なんかマズイこと聞いたか……?

 えっ、でも関係性聞いただけだぞ……。

 

「津川」

「は、はい……!」

 

 前のめりになって叫んだ廣目と霧島先輩を交互に、周りを見ていたら後ろから原田先輩の落ち着いた声が聞こえた。

 さっきまで騒いでいた1年生組も今はただならぬ空気を察してキョロキョロし始めた。

 俺は原田先輩と向き合った。

 

「津川の言う通り、(りん)ちゃんは私の従姉妹だよ」

「そ、そうなんですね……」

(りん)ちゃんのプレー動画は観た?」

「はい。……観ました」

「そっか。凄かったでしょ」

「そうですね……凄かったです」

 

 ……あれ?

 それだけ?

 原田先輩は「だよね」とだけ言ってアップを始めた。

 一瞬目を細めはしたけど……霧島先輩と廣目が慌てたほど、特に変わった反応なかったな……。

 

「……っ」

「こ、これ大丈夫なやつか?」

「……どうでしょう」

 

 霧島先輩と廣目が集まって顔を見合わせる。

 う、うーん。

 なんかマズったっぽいけどどうミスったのかわからない。

 何をやらかしたのか聞かないと。

 

「ひ、廣目……俺なんかヤバいこと聞いちゃったかな?」

「そうですね……おそらくですが」

 

 マ、マジか。

 どうしよう……。

 廣目に尋ねてみても「ちょっと様子見るしかないですね。対策は打つので時間ください」としか答えてくれなかった。

 なので、俺はjogをする原田先輩を眺める。

 それしかできないから。

 特に変わった様子はないが……2人のあの反応は無視できない。

 絶対に只事ではない。

 

 ひょっとして、踏んでしまったのかもしれない。

 

 "地雷"ってやつを。

 

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