貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
「すみません。霧島先輩。俺迂闊なこと言って……」
「あー。しゃーねえ、しゃーねえ。事前に注意しとかなかったあたしらにも非があるしな」
霧島先輩は俺にお前は悪くねえと言ってくれた。
でも、誰も原田先輩と原田林の関係を口にしなかったことをもっと深く考えるべきだった。
完全に俺の過失だ。
「ま、気にすんなよ。涼香も普通に練習してっし。な?」
「はい……」
俺の背中をポンポンと叩いて励ます霧島先輩。
彼女が目配せした先では、確かに原田先輩は普通にシートノックを受けている。
いつもと態度は変わらない感じではあるが……。
「そういえば成城先輩と廣目が原田先輩を監視しとかないとって言ってたんですけど、去年なんかあったんですか?」
「あー……まあな。去年も当然地区大会で
「えっ!?失踪!?」
思ってた以上に根深い問題じゃん。
そんなに原田林さんとの関係悪いのか……まあ悪いよな……そらそうか。
「確かに監視必要ですね……それは。今年は失踪されたらヤバいですね。原田先輩抜きで
ウチの打線は地区大会シフトから1人でもかけたら点を取れないギリギリの繋がりしかないし、1点取ってそれを守る切る野球をしてる獅ノ宮から守備の名手が1人でも減るのはマズイ。
今年は成城先輩が復帰するまで1人でも欠けたら終わりだ。
なんとしても疾走なんてさせるわけにはいかない。
「まあそうだな。かと言って家庭の問題だから口出しできねえし、くくりつけて無理やり会わせるのもなんか違ぇしなぁ」
「あくまで自分の意思で、ですか。難しいですね……」
原田先輩が前向きに王皇戦に出向いてくれるなんて正直厳しいだろう。
失踪してしまうほどに拒絶してて、トラウマが酷いとなると無理強いする訳にもいかない上に乗り切ってもらうのも正直無理な話だ。
でも、戦力的には外せない、と……。
うーん。
難しい問題だなぁ。
「あ、でも原田先輩と原田林さんと野球するとコンディションが下がるんですよね?出場できても能力が落ちるなら結局誰かと代わるんですかね……?」
「んーにゃ。確かショートについてなけりゃ大丈夫だったはずだぜ?ま、本人が言ってただけだから定かじゃねえけどな。結局去年は失踪したし」
なるほど。
話に聞くと、去年はその理論を持ち出して「だから、大丈夫。試合に出る」と皆を騙したらしい。
んで皆それを聞いて安心してたところに失踪。
成城先輩も完全に油断していて「やられた」と頭を抱えたらしい。
卒業生に凄い頭を下げたとのことだ。
苦労人だな……成城先輩。
「ま、今年は目を光らせるしかねえな。な?」
「えっ。う、うん。今年は大丈夫だよね?って聞く訳にもいかないし……気まづいし……重箱つつきたくないし……」
「ホント。去年はしてやられたわ。マジで」
「失踪。疾走。どこを逃走。全く知れず」
いつの間にか集まってた去年組。
長門先輩は通りすがりで霧島先輩に尋ねられてどんどん卑屈になって、ユ姉妹は相変わらず辛辣だ。
「皆さん!投手陣の練習が終わったので今日はここで引き上げます。明日は試合。あまり練習しすぎるのもよくないのでキリがよくなったらダウンしてください」
『はーい』
プルペンから出てきてグランドに入ってきた廣目の一声によって野手陣の練習も今日は終わりとなった。
明日は地区大会第3戦。
「原田先輩!明日も勝ちましょうね!」
「うん。そうだね。ありがとう、津川」
「はい!」
原田先輩の様子が心配だったので声をかけた。
やらかしてしまったのを取り返すためでもあるけど。
彼女はいつも通りの態度で返してくれた。
そして、次の日の試合前、原田先輩は姿を消した。