貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第99話:王皇遭遇

 

 それは、第3戦が始まる直前の事だった。

 

「スタメンを発表します。1番ファースト、クレア先輩」

「あぁ」

 

 まあそうだろうなといった感じでクレアは呼ばれる前から打席に立つ準備をしている。

 今日は獅ノ宮が先行の試合だ。

 廣目はベンチ前で淡々と名前を呼んでいく。

 

「6番はセカンド原田先輩で。……原田先輩?はい」

 

 返事がないが、廣目は偶然かと思って流した。

 だが、気になって俺がベンチを見渡して気づいた。

 ……どこにも原田先輩がいない。

 

「あれ?あの、原田先輩は!?」

『えっ』

 

 俺が皆に意識してもらうようちょっとわざと大きめな声を出したら、皆顔をあげて互いに互いの顔を見合せた。

 そして、「まさか」と嫌な予感が全員の共通認識になる。

 

「……涼香がいないわ」

 

 監督で試合前準備がない成城先輩がベンチ内をくまなく見渡して、確信したと口にする。

 ベンチに衝撃が走った。

 

「マジかよ!?」

「はぁ!?嘘でしょ……!」

「やられました……。なるほど、去年は王皇戦当日に消えた。今年も同じようにすると確実に止められる。だから―――」

「その前の試合から姿を消そうと考えたわけね」

 

 廣目と成城先輩だけが冷静に分析した。

 でも、皆はそんな落ち着いていられない。

 強いていうならソヨン先輩が「衝撃。失踪season2」と真顔でふざけてるのかよく分からない空気の読めない発言をしているくらいだ。

 

「ど、どうするの?今から探しに行く?」

「あは~。でも、もう試合始まるよ~?選手はもう動けないよね~!」

「あっ。だったら俺が行きます!俺が原田先輩探してきます!」

「そうね。ただ津川くん。焦らずゆっくりでいいわ。どの道この試合は開始時刻までにベンチにいなければその特定の選手は出場資格が失われるもの」

「あら~。厳しいのねぇ。でも、成城さんの言う通り、ゆっくり探せるわね。津川くん、申し訳ないけど探してきてくれるかしらぁ?試合がどうこうはともかく心配だもの」

「はい!俺も心配なので……!」

 

 俺が立ち上がる。

 佐藤先生は子供一人に探させるのは不安に思っていたが、彼女は顧問としてベンチにいなくてはならないので仕方ない。

 登録選手が欠席していても大会出場資格がなくなったり、試合できなかったりする訳ではないのは助かった。

 あくまでこの試合中に原田先輩が戻ってきても彼女は出られない、というだけのようだ。

 だから、言われた通り今日は落ち着いて探せる。

 

「じゃあ行ってきます!」

「あら?どこか行くの?」

「あっ、和美(かずみ)さん……!」

 

 ベンチ裏に向かおうとしたらちょうど入ってきた和美さんと出くわした。

 そうか!成城先輩の専属医として試合に同行するの今日からだって前に言ってたな。

 初戦と第2戦はまだ病院の引き継ぎとか手続きとかあって合流できなかったが、第3戦からは……ってそれどころじゃなかった!

 

「原田先輩がいなくなったんです。だから、俺が探しに行くことになって……!」

「えっ。大変じゃない!そんなことが起きてるの?」

 

 和美さんを目を見開いて驚く。

 そこに成城先輩も上着を羽織って加わる。

 

「津川くん。やっぱり私も行くわ。廣目さん、采配任せてもいいかしら」

「はい。大丈夫です。ソヨン先輩、原田先輩の代わりに出れますか?」

「御意。器用貧乏穴埋め完了。我、代役が天職なり」

 

 ソヨン先輩が準備を始める。

 確かに代わりに出ることにおいて韓国姉妹はどこにでも入れて苦手も少ないからすごく長けている。

 器用貧乏ってこういう時にすごく便利だし、助かる。

 

「じゃあ成城先輩と行ってきます」

「待ちなさい。成城さんがいなくなるなら私はここに居る意味ないし、私も行くわ。大人が一緒の方がいいでしょう。それと車で来たから車も出せるわ」

「……!助かります!」

 

 鶴の一声だ。

 徒歩で探すより間違いなく行動範囲が広くなるし足も早い!

 

「じゃあ車出してくるから球場前の大通りで集合ね」

「はい!」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 俺と成城先輩が頭を下げて、3人で行くことになった。

 俺たちはベンチを後にする。

 球場前で待ってるとそんなにしないうちに外車のセダンが俺たちの前に止まって、それが和美さんの車だった。

 さすが医者。

 俺たちはそれに乗り込んで、車内では和美さんがヒアリングを行う。

 

「闇雲に走らせても効率悪いわね。原田さんが行きそうなところとかわかる?」

「……まずは涼香の自宅に。でも恐らくいないと思います。いるなら最初から引きこもってるでしょうし」

「確かに!朝は一緒にいましたもんね、俺たち」

「そう。じゃあ自宅の後は駅前に行きましょうか。見つかりたくないなら人混みに混じるか、人のいない所か両極端でしょう」

 

 そう言ってアクセルを踏み込む和美さん。

 まずは原田先輩が普段一人暮らししている自宅に行って、いなかったので駅前に路駐して俺と成城先輩が駅構内で二手に分かれた。

 

「俺東口の方行くんで成城先輩は西口の方任せていいですか?」

「わかったわ。何かあったらスマホに連絡ちょうだい」

「はい!」

 

 了承を得て分かれる。

 俺が探すのは構内のメイン広場、比較的栄えてる方だ。

 

「原田先輩!原田先輩!いませんか……!」

 

 人の注目を集めてしまうが構わず名前を叫んで呼びかけてみる。

 だが、自ら姿を消した人がそうひょいひょい出てくるはずはない。

 ダメ元だ。

 

「原田先輩……!」

「えぇ~?何何ぃ誰か探してるのぉ?」

「えっ!?」

「手伝ってあげようか?ボク」

 

 突然声をかけられて振り返ったら大学生くらいの女性が2人、ニヤニヤとした表情を浮かべながら俺を取り囲んでいた。

 いつの間にか逃げ場はない。

 お姉さんたちはいかにもな遊んでそうなギャル、みたいな外見ではないが大学生の陽キャらしく上品だが少し露出が目立つ格好だ。

 俺が困ってそうだから声をかけたという2人。

 だが、明らかにこの人たちは俺の人探しに協力なんて本気でしようと思ってるわけじゃない。

 一瞬でわかった。

 これ、逆ナンだ……!

 

「あっ。いや、えっと……今急いでて……!」

「えぇ~?いいじゃーん。人手は多い方がよくなーい?てか親切とか厚意とか蔑ろにしちゃいけないって先生に教わらなかった~?」

「てかボクかっこよくなーい?ボクを置いていってどっか行っちゃう女なんてほっといてさぁ……お姉さん達とどっか遊びに行かなーい?」

「いや、だから……!」

 

 この人達話通じねえ!!

 どうにも逃がしてくれなさそうだ。

 クソ、どうすりゃいいんだ。

 こんなことしてる場合じゃないのに……!

 

「おやおや。こんなところにいたのかい?困った子猫ちゃんだ」

『……!?』

 

 通行人の誰しもが見て見ぬフリをして俺を見捨てていく中、たった1人だけ女性の声が俺とお姉さん達の間に割って入る。

 3人がその声の主の方を向くと、ボーイッシュな女の子が壁に手をついて俺を見つめていた。

 おそらく俺と同い年くらい、つまり女子高生。

 しかも運動部。

 部活で配られるようなジャージに身を包んでいるからだ。

 容姿は淡麗ボーイッシュ、漫画に出てきそうな絵に描いたような王子様系女子。

 

「チッ。んだよ。女いんのかよ」

「きっしょ。よく見ればブスじゃん」

「……っ」

 

 彼女が現れてから急に態度が豹変したお姉さん達が足早に去っていく。

 さっきまで俺を口説きまくってたのに酷い言い様だ。

 ナンパが失敗すると悪態をつけて容姿を貶していくって本当なんだな……。

 まあそんなことはともかく、助けてくれた人にお礼しないと。

 

「す、すみません。ありがとうございます。見ず知らずの俺の為に……」

「それはどうかな」

「えっ?」

 

 下げた頭を上げる。

 彼女は俺を見て微笑んだ。

 ……近くでよく見たらどっかで見たことある顔だ。

 

獅ノ宮(しのみや)のジャージ。そして、君が探しているのは原田という名の獅ノ宮女子。獅ノ宮の原田といえば野球部の原田涼香かな?つまり君は()()()()野球部というわけだ」

「……っ!なんで……!」

 

 言いながら彼女の格好をもう一度注意深く見た。

 彼女のジャージ、その胸に記された学校名。

 

 ―――王皇(おうきみ)百十(ももと)

 

「あっ……!」

「おや。もう調査済みかな?獅ノ宮のマネくんは優秀だね」

 

 王皇百十野球部。

 王子様系女子。

 そして、もう一度顔を見たら、前に調べた時に見た背番号1番の選手と一致する。

 俺が気づいたことに、彼女は既に気づいている。

 間違いない、この人は……!

 

王皇百十(おうきみももと)主将(キャプテン)江山(えやま) 栗深(くみ)……!!」

「ご明察。はじめまして。大切なライバル校の素敵な(マネ)を守れてよかった。あぁ、すまない。余計なお世話だったかな?」

 

 微笑む江山(えやま)さん。

 紳士だ。

 

「い、いえ。大丈夫です……」

「そうかい?よかった。男の子が1人で出歩くのは危険だよ。気をつけてね」

「はい……。じゃ、じゃあ俺はこれで……」

 

 ライバル校のキャプテンと接する機会なんて中々ないからもう少しこの人と話していたい気はするが、今はそれどころじゃない。

 とりあえずお礼だけ言って立ち去ろうとした。

 だが、背中を向けた俺に彼女は声をかける。

 

「原田涼香を探しているのなら、協力できることがあると思うのだけれど。どうかな?」

「……っ。ど、どういうことですか?」

 

 聞き捨てならないことを言われて振り返る。

 すると、彼女は口角をあげて少し悪っぽい笑みで俺と目が合うのを待っていた。

 口元のホクロが動いてチャームポイントであることを主張している。

 

「原田涼香の居場所、わかるかもしれないと思ってね」

「……曖昧ですね。さっきも今も。心当たりがある訳じゃないんですか?」

「いや、あるさ。ただし、私ではないけどね」

「……?それってどういう……」

 

 どうも含みがあって真意が読み取れない。

 彼女自身がそういったミステリアスな雰囲気があるから尚更だ。

 

「彼女が行きそうな場所、わかるかい?わからないなら闇雲に探しても消耗するだけだよ」

「わ、わかってます。だから、原田先輩と仲がいい成城先輩に聞いて……」

「彼女は親友と言っても中学からの仲。姿をくらましたということはもっと深層心理を探った方がいいんじゃないかな。こういう時、情報網は古い方がいい」

 

 やたら理屈をこねて力説する江山さん。

 まあだが一理ある。

 成城先輩が知らない原田先輩の一面だってそりゃあるだろうし。

 でも、原田先輩の家族は他県それも九州だって言うし……古い情報と言っても九州にいた頃の情報が何になるんだって感じはある。

 それに原田先輩の親は原田先輩が野球をやることに反対してて、原田先輩は親に黙って野球を続けている。

 だから、ここで親に相談することはバラすことにもなる。

 そうなると江山さんの意見は正しくても飲み込めな……いや、待てよこの人、まさか……!

 

「気づいたようだね、さすがだ。さぁ、どうする?」

「……っ」

 

 彼女はまた笑みを浮かべる。

 この人、王子様系なんかじゃない。

 腹のうちはドス黒い……!

 

「情報なら、王皇(ウチ)にある。話してみるかい?―――(りん)と」

 

 彼女は、恐ろしい選択を提示した。

 原田先輩の人生をめちゃくちゃにした張本人。

 その人との邂逅。

 まさに、背に腹はかえられない提案だ。

 

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