円卓の武偵   作:もこー

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拙い文章のため読み難かったり、文章のルールに従えていない物もあるかと思います
そういった物がありましたら、是非とも教えて頂きたい
次回からの投稿の教訓として勉強させていただきます


英雄との出会い

 カーテンの隙間から日差しの入るアパートの一室で、一人の青年が眠っていた。

 枕元には六時二十五分を指す目覚まし時計が置いてあり、部屋にはテーブルと椅子があるだけで、冷蔵庫すら置いていない。ゴミは落ちておらず、とても質素で清潔感のある部屋だ。

 しかし、壁一面には新聞記事や手配書などが貼ってあり、青年が一般的な生活をしていない事が目に取れる。

 青年は武偵と呼ばれる特殊な職業についており、日夜進化を続ける犯罪に対抗すべく依頼人の要求に合わせて何でも屋のような事をしている。飼い猫探しや浮気調査といった物から犯罪組織への密偵、時には攻撃までこなす武偵だが、片桐は主に犯罪組織への攻撃を仕事として受けている。今や生きる伝説とされている二人に近付くため、憧れを憧れで終わらせないため、日々努力を重ねているのだ。

 小鳥のさえずりが聞こえると、六時半を指す目覚まし時計がベルを叩き始め、部屋中にけたましい音が響いた。

「ん……あー」

 少しして青年がそれを叩くと、反省したかのように静かになり、部屋は再び静寂に包まれる。

 短い黒髪を揺らしながら立ち上がると、カーテンを一気に開け放つ。

 薄暗かった部屋は光に包まれ、青年は眩しそうに目元を腕で隠す。

 少しして腕を下ろすと、燃えるような赤い瞳が露わになり、キリっと目に力を入れた。

「今日はいいところを見せるぞ!」

 そして、頬を軽く叩くと力強くそう言い、クローゼットから愛用の刀と防弾仕様の私服を取り出して着替え始める。

 白いインナーシャツに灰色のアウターシャツ、紺色のパーカーを羽織り、右の太ももには黒光りする銃の入ったガンストックと背中に刀を仕込むよう装着した。そして最後に手帳を胸ポケットに入れようとした時に開いてしまい<片桐 録>と書かれた武偵証が露わになる。手帳を閉じて胸ポケットに入れると、急ぎ足で部屋を出て行く。

 ドアを開けると太陽の光を浴びて、一気に目が覚めた。

 室内では空調のおかげで感じていなかったが、今日は雲の無い快晴で、照り付ける太陽の熱はとても鬱な気分にさせられる。

 自転車置き場から自転車を出すと、憎らしげに太陽を見上げてから敷地内から出て行った。

 ここ東京は二十年も昔のとある事件を解決し、都市そのものを救った武偵の聖地となっている。武偵のみならず警察や陸上自衛隊、はたまた消防隊までもがその二人の名前を掲げ、都市の平和を謳う。盲目的に絶対的な信頼を寄せられたその二人は地方を巡り新人の育成に取り組んでいるが、今日この日は東京へと足を運んでいた。そのせいか、やたらと警官やパトカーが視界に映り、何も知らない一般人すら怪しく感じているであろう。

 片桐は[ホームズ]という看板の喫茶店に自転車を止めると、ベルの音と共に店内へと入って行く。

 店内を見渡すと数人の客がいる程度でかなり空いている。それもその筈、この店は武偵が管理している喫茶店で、表向きは招待制の店として経営しているが、扱う招待状は武偵証。つまり、武偵しか入れないという事だ。

 少しして店員が来ると、片桐は胸ポケットから手帳を取り出し武偵証を見せる。

「……お好きな席へどうぞ」

 店員はそれに何かしら探知機のような物を当て、表示された何かを確認してはそう言って引っ込んで行く。

 片桐は「どうも」とにこやかに言うと一番奥の席へと向かった。

 その席は他とは違い明らかに待遇が良かった。他が椅子なのに対してこの席はソファで、テーブルには既にお茶菓子が備え付けられている。そちらへと向かう片桐にそこに居た全員が視線を送り、場は沈黙した。しかし、それは片桐が特別だからでは無い、これから来るであろう二人が特別だからだ。

 片桐もそれを改めて体感し、緊張した面持ちでふかふかのソファに座り込む。

「おー……」

 身体が吸い込まれるようにソファに沈み、初めての体感に思わず一度立ち上がりまた座った。

 他の客は追加で飲み物を頼み始め、まだこの場に残る意思を示している。片桐も備え付けの紙にコーラ、とハッキリ書くとそれをテーブルの端に置く。

 すると、奥から店員がやってきて紙を確認していない筈なのにコーラをテーブルに置くのだ。

 一体どういう仕組みになっているのかと片桐が周囲を見渡していると、出入り口のベルが鳴り、全員が反射的にそちらを見た。

 高鳴る鼓動を感じつつ、片桐もそちらに顔を向ける。しかし、そこに立っていたのは栗色の髪を肩までで切った女の姿だった。

 白いカッターシャツの上に黒いマントを羽織り、ジーンズには堂々と剣がぶら下がっている。全員が落胆した様子で会話を始める中で、片桐だけは視線を外せなかった。

 理由は分からないが、そうしていると吸い込まれるような青い瞳がこちらと重なり、慌ててコーラへと向き直った。

 一体何をしているのか、小さくため息をつきコーラに刺さっているストローでそれを口に含む。

「今日はよろしく」

 片桐は誰に言われているのかと声の方向へ顔を向ける。

 そこには青い瞳の女が立っており、思わずコーラでむせてしまう。胸を軽く叩くと涙ぐんだまま相手へ顔を向け直し、返事をした。

「こちらこそ、よろしく」

「おかしな奴だな?私は、パーフィディオ=トラストだ、強襲と探偵を専攻している」

 こちらの様子を見ると小さく笑みを零して女、トラストは簡単な自己紹介をして向かいの席に座る。

 自分の中で産まれた何かを理解した。

 一目惚れというのはこういうことを言うのか、などと他人事のように処理すると、こちらからも簡単な挨拶を返す。

「俺は片桐 録、強襲を専攻してる。日本語上手だけど、こっちに来てからどのくらい立つ?」

 とりあえず会話を持たないと気まずい雰囲気になるのは目に見えている。段々と自覚が強まってはいるが、会話が続けば楽になるだろう。

「八年程前にフランスから武偵になるために勉強をしに来た」

「フランスから?なんでわざわざ日本に?」

 今となっては世界各地に武偵を育成する機関があるというのに、国土も狭く、犯罪も海外に比べて軽い物しかない日本に何をしに来たのだろうか。

 疑問をそのまま口に出すと、彼女は苦笑を零して口を開いた。

「ちょっと人探しをしに……な」

 その言葉に嘘は無いのだろうが、内容を話すような事はしたくないのだろう。彼女は紙に「冷えた珈琲砂糖ミルク無し」と書いて端に置いた。

 場に痛い沈黙ができたのを感じ、何か話を持とうと考える。

 しかし、そうそう思い付くほど口が達者な訳ではない。ただ思案顔を晒すだけで、無音の空間が続く。

 店員が冷えた珈琲の入ったカップを持ってくると、彼女は「ありがとう」と一言添えて口を付けた。

 その仕草は驚くほど美しく、一般の庶民には無い高貴な気品を漂わせている。もちろん、自分の感情による影響もあるやも知れない。

 ただその一瞬を写真に収めていれば、清々しい気持ちになれたであろう。

「何か、おかしかったかな?」

 そんな視線に気付かない訳がなく、彼女は不思議そうに首を傾けていた。また、その仕草がとても愛らしくも見えて、ついつい言葉を選ばずに返事をしてしまう。

「綺麗だなーって」

 出てしまった言葉に慌てて「あ、いや、あー」と言葉にならない何かを表そうと口を動かし始める。

 彼女は口を挟むこと無く、ただ薄っすらと笑みを作りながらその様子を眺めた。

「変な意味じゃないよ?本当に。ただ礼儀作法が綺麗にできてるって意味で……」

「なんだ、そうだったのか」

 苦しく言い訳をしていると、途中で言葉を遮って彼女は眉根を潜め残念そうに言った。

 この女は小悪魔的な面を持っていると誰もが確信するであろう。それが、別の女であったならば、だ。

 彼女には疑えない明確な確信を持てる。その確信が何かなんて分かりはしないが、その場に居合わせた全員が、その現場に見惚れていた。

 綺麗な絵画は何も分からなくても引き込まれる。引き込もうと狙った物には無い、独特の美しさだ。

 嘘偽りの無い、素直な言葉を選んで口を開く。

「いや、勿論、君が綺麗だからそう見えるんだけどさ」

 その言葉に彼女は驚いた様子で口を開き、少しして言葉を選んだ。

「お前は中々に……」

「……っいらっしゃいませ」

 しかし、その言葉は入店のベルに続く店員の焦ったような声に流されて消える。

 二人は揃ってそちらを向き、そこに居た黒髪の男性「遠山 キンジ」と、美しい緋色の長髪を二つに纏めた女性「遠山アリア」に視線を釘付けにされた。

「生きた伝説……」

 誰が言ったか分からない興奮したような言葉は、自分の胸の中で呟いた言葉と一緒で、こちらに歩み寄ってきた二人は軽く挨拶をした。

「今回はよろしくな」

「よろしくね」

 成熟した声に続き、まだ幼さの残る声が店内に反響する。

 片桐が席を詰めてその隣に向かいに座っていたトラストが腰掛ける。

 キンジとアリアはそれを見てアリアが奥に、キンジが手前に座り、ピーチティー・珈琲と書いた紙をテーブルの端に置いた。

「あの、すいません。自分のこと、覚えてますか?」

 注文を済ませたキンジを見ると、待っていたという感じで声を掛けた。どうせ覚えてはいないだろうが、武偵になるきっかけとなった事件で、一度助けて貰った事があるのだ。

 二人は顔を合わせて考えてお互いに首を振って見せる。

「すまん、覚えてない」

「バスジャックの時、自分の母が人質にされてて、それをお二人に助けていただいた事があります。覚えていないかと思いますが、座ったままですが、改めてお礼を言わせてください。ありがとうございます」

 キンジの言葉を聞いて落胆することは無かった。何年も前の事件の被害者など覚えていなくて当然なのだから。

 簡単に説明を済ますと、頭をテーブルすれすれまでしっかり下げてお礼の言葉を言った。

 二人は恥ずかしいやら照れてるやら、頬をぽりぽりと掻いて言う。

「別に今更そんな……」

「どういたしまして、じゃあまた今度、この店でお茶でもするか?」

 アリアは相変わらず照れた様子で返事をしたが、キンジは少し真剣な表情で二人に言い、トラストは小さく頷き「私も誘っていただきありがとうございます」と丁寧に言う。

 店員が珈琲とピーチティーを持ってきたのを境に、キンジの顔は笑っていた。

「じゃあ、今日の任務のおさらいだ」

「私がするね」

 パン、と手を叩き会話を進ませるとアリアが地図を取り出してテーブルに広げる。

「ここのビルが武装集団の格納庫になってるという情報を受けてるの。だからキンジと片桐君で探って、情報を得たら私とトラストさんで強襲。内側から二人も応戦して、逃げていった連中は他の武偵が確保する。でも、今回は優秀な成績を持つ二人の教育も兼ねてるから、私達は君達のサポートが基本になるよ、頑張ってね?」

「え?俺達の育成……?」

 アリアの説明が終わると、まったく知らない情報が混じっていた。トラストと困惑した様子でこちらにアイコンタクトを取ってきて、二人揃って首を振る。

 今回はチームバスカービルの援護及び護衛という話で来たのだ、そんな話を急に言われては聞き返すのも無理は無い。

「俺達から要請したんだ、いつまでも俺達に頼ってちゃダメだろ?そろそろ、優秀な人材を育てる必要があると思うんだ」

「一つ、いいですか?」

 優秀な人材という甘い言葉に少々惚けていると、トラストが珈琲を一口飲んで口を挟んだ。

「あぁ、構わない」

「優秀な人材を育てると仰いましたが、熟練の方への強化の方が後世の事まで考えれば、教育側も増えて良いのでは?」

 その言葉の意味はすぐ理解できた。「自分達よりも適任がいる」と言いたいのだろう。キンジはそれに気付く様子も無く、小さく首を振ってから質問に答えた。

「……あまり言いたくは無かったが……君達について調べさせて貰った。トラストさんは、教務科を倒す程のセンスを持っている。片桐くんはトラストさん程の力は無いが、揺るぎない意志で足踏みをせず前へ行ける。俺達に憧れているだけの人には無い、確かな力を二人は持っている」

「そろそろ移動しなくちゃ間に合わないわよ?」

 キンジの言葉を見計らったかのように、アリアは腕時計を確認して三人に告げた。

 キンジも時計を確認すると立ち上がって、アリアと共に出て行く。

 残された二人も立ち上がると、トラストがおもむろに呟いた。

「……雲行きが怪しいな」

 言葉の意味は分からなかったが、確認する暇も無く二人は外へ出て行く。

 外に出ると白の軽自動車に二人が乗り込んでいる時だった。

 キンジが運転席に座ると「乗ってくか?」と声をかけてきて、二人は二つ返事で後部座席に乗り込んだ。

 中に入って分かったが、座席の下やクッションの隙間には拳銃が仕込まれており、ドアには鍵以外に窓の下にボタンがある。恐らく雲ガラスにできるのであろうが、どう考えてもそれ以外に仕組みがある筈。

 武偵には改造車を使う事を許されており、それに精通した武偵がいるほど自然な事だ。伝説の二人が乗る車には興味が湧いたが、不思議と言葉に出せず、痛い沈黙が漂う。

 先ほどのトラストの言葉が気になるというのはあるが、車内の様子がピリピリしているのが最たる原因だろう。誰一人として口を開こうとせず、ただ前を見つめる。トラストは感じている何かを二人も感じているのだろうか。だとしたら、とても悔しい話だ。

「もうすぐ着くから、準備しておけよ?車外に出たら、開始だ」

 そんな沈黙が暫く続いて十分経ったくらいの時だろう。キンジが簡単な指示を出して駐車場へと入って行く。

 痛い沈黙は静かに燃える闘争心に変わり、誰よりも何よりも震えているであろう心臓を抑えようと深く深呼吸をする。

 そして、車が止まるとトラストと軽く視線を交えてキンジへと視線を移す。

「あ……」

 恥ずかし気に顔を赤らめたアリアに、不適な笑みを浮かべたキンジがキスをしていた。

 思わず小さな声を上げてしまい、こちらまで恥ずかしい気持ちになってしまう。

「それじゃ、行ってくるよ」

「もう……」

 キンジは顔を離すと悪戯っぽく笑いながらそう言って車外へと出て、残されたアリアは赤らんだ顔を逸らしていた。

 突然の事にぼーっとしていると、キンジが窓をノックして我に返る。急いでドアを開けて出ると、振り返らずに歩き出した。

「子猫ちゃんに怒られないよう、ちゃんとやらないとな?」

「は、はい」

 キンジは澄まし顔でにぃ、と笑う。

 これがヒステリアモードか、キンジとアリアは二人とも常人ではありえないような力を持っている。キンジは性的な興奮をトリガーに異常なまでの反射神経と集中力を得る。それこそ、幾つもの銃口を一度のチャンスで撃ち抜いたり、未来予知に近い勢いでの推理、弾丸をナイフで弾く等。挙げ始めたらキリが無いくらい化け物じみた事をしているのだ。これが伝説と呼ばれる所以でもあり、盲目的な信頼を寄せられる理由でもある。

 キンジは排気口に何やら装置を付けると、何が起きるでもなくそのまま外して排気口を開けて中へ入って行き、それを追って行く。

 キンジからどういう風に動く等、何も聞いていない。こちらもあらかじめ調べてこの排気口を使う事を想定していたが、あのキンジと同じ事を考えていたと思うと頬が緩んだ。

 排気口の中は迷路のように入り組んだ設計になっており、エレベーターを含む各部屋に繋がっている。向かっているのは恐らくエレベーターであろう。設計図を見た感じでは三階には建物に面した大きな部屋があり、そこまでは廊下が一直線で警戒しやすい作りになっている。武器を隠すとなれば、これ以上の場所はこの建物には無い。

 そうこう考えながら後をついて行くと、着いたのはエレベーターでは無く、トイレだった。

「あの……なぜここに?」

 流石に想定外の事となれば質問せざるを得ず、肩をノックして小声で訪ねる。

 誰も居ない空間ではあるが、あまり声は反響せず、キンジにのみそれは伝わった。

 キンジが振り返ると、澄まし顔は無くなっており、代わりに真剣な眼差しをこちらへ向けて訊き返す。

「……お前は何のために武偵をしている?」

 少し迷うように間を開けると、そんな質問をした。

 何のために、と聞かれたら間違いなく自分のためだろう。名誉や勲章には興味が無くとも、武偵という仕事に誇りを持って勤めているのだから。

 片桐が困ったように言葉を詰まらせると、キンジは言葉を続けた。

「たとえば、俺が犯罪に手を染めたとして、俺を再起不能にしてでも捕まえる覚悟は持てるのか?」

 キンジは片桐から視線を離さずに言葉を言い切り、返事を待つ間もひたすらに片桐を見ている。

 その顔がとても焦っているように思え、片桐は生唾を飲み込みゆっくり口を開けて言う。

「俺はキンジさんに憧れて武偵になった。でも、だからといって手を抜いたりはしない。可能かどうかは別としても、捕まえる」

 何があっても信念は曲げないと声を大にして言いたいところではあるが、ゆっくりと力強く答え、キンジを見上げた。

 キンジは暫し片桐を見ていたが、ふと表情を柔らかくすると、片桐から顔を背ける。

「いい返事だ」

 ただ一言で背中を向ける際に、キンジの口端が釣り上がるのが見えた。

 それを見て見ぬフリをして再度質問をしようと口を開けると、先にキンジが口を開く。

「お前は、強襲を専攻してたんだろ?」

「え、あ、はい」

 一瞬言葉を理解できなかったが、キンジが拳銃を取り出すのを見て、小さく溜息をついた。

 強襲科しかやってないのだから当然と言えるが、強襲するとなればそれはすなわち最初から確信以上に証拠があり、元より内部と外部から強襲するという物だったのだろう。

 そこまで考えるとキンジは軽く合図を出してトイレから出て行った。

 キンジに続いてトイレから出ると、すでに二人組の男性が床に転がっていた。

 音も聞こえないウチに二人組を気絶させる手段なんて想像すらできない。しかし、キンジならばやれるのだろうと勝手に納得した。

「ここからの班長はお前だ、やれるよな?」

「はい」

 キンジは拳銃にサプレッサを付けながら片桐に告げ、それに対して淀みなく一つ返事を返す。

 ここからは自分が考えて動き、自分の指示一つで失敗の可能性すらあるというのに、なぜこんなに自信が出るのだろうか。返事をしておいてふとそう思った。

「このままエレベーターへ向かい、上がった先からはお互いにカバーしながら目的の場所へ向かいます」

「了解」

 淀みなく出した指示にキンジも迷わずに承諾をする。

 この感覚は二度と忘れ無いだろう。人が一瞬だけ自分を超えて到達する機械のような判断力と反射神経。戦いを覚悟しそれを受け入れるこの瞬間を、あのキンジと体験しているのだから。

 二人は足音の出ない程度の小走りでエレベーターへ向かう。エレベーターに入るまでは不思議と誰とも遭遇せず、キンジはメールでアリアに行動開始をキザな分面と共に送る。

 そしてエレベーターの扉が開くと、キンジに合図を出して飛び出した。

 そこでは三人の男性がエレベーターを待っており、キンジの手に拳銃が握られているのを確認すると、驚いた様子で道を開ける。

 キンジと片桐は相手が抵抗しないのを見ると、それぞれ一人ずつ腹と首後ろを殴って気絶させて残りの一人はキンジがサプレッサの付いた銃で膝を撃ち、少しすると眠りについた。

 三人目が眠りについたのを確認すると、二人は一本道となる通路へとさしかかる。

「待て」

 すると、キンジは不意に片桐の肩を掴んで止めた。

 そして片桐が振り返った瞬間、キンジの悔しそうな顔と共に腹部に拳を受けた。

「っな、んで!」

 困惑と焦りが湧き出て、今起こっている信じられない現実を理解するので手一杯になる。

 キンジが、唐突に裏切ったのだ。

 キンジは返事もせずに腰に手を回すと、サプレッサの付いていない隠し拳銃を取り出す。

「キンジさん!」

 返事をしないキンジに強く言うが、相変わらずの様子でキンジは新しく取り出した方の銃口をこちらへ向けた。

 少し前に男を眠らせるのに使った麻酔銃ではない。間違いなく実弾が入っている。

「許せ」

 キンジは短くそう言って引き鉄を引くと、大きな発砲音が廊下に響き、とっさに転がった片桐の左肩にそれは命中した。

「っつ……」

 左肩に殴られたような衝撃と、ナイフが刺さったような違和感が襲う。服が赤く染まっていることを確認してやっと、血が出ていることに気付いた。

 左肩を抑えて立ち上がろうと膝を着くと、キンジはその頭に銃口を付ける。

 数秒間の間が空いたようにも、一瞬だったようにも感じるとても長い沈黙が場を包み込む。額には生汗が滲み、これから殺されるという極限の緊張感からか、鼓動は地震でも起きてるのかと錯覚するほど、激しく荒ぶっている。キンジが引き鉄に指をかけ、口を開いた。

「動くな!」

 しかし、聞こえたのはキンジの声ではなく、鋭い女性の声だった。

 キンジはピクリと身体を震わせ、予定外の客が誰かを瞬時に察して口を開く。

「本当に、優秀だ」

「犯罪者に褒められても喜べないな」

 片桐も我に帰ってキンジの後ろを覗くと、トラストが右膝を赤く染めて銃を構えていた。誰に襲われたかは想像したくなく、考えるのをやめた。

「片桐、武器を探ってこちらへ滑らせろ」

 トラストは怪我など無いとでも言うように、極めて冷静な声で片桐に指示をだす。キンジも抵抗する様子は無く、おとなしく銃を二丁とも床に落として、踵で蹴ってトラストの方へ滑らせた。

「アリアはどうした」

「嘘が下手だったから引っかかったフリして寝かせてあげた」

「あいつらしいな」

 キンジはトラストの言葉に対して苦笑して返すと、両手を壁に付いて敵意の無い事を示しながら、深いため息をつく。

「何でこんなことを……」

「マスコミが報道してくれるさ」

 片桐がボディーチェックを始めて小さく独り言を呟くと、キンジは適当な返事を返した。それに意味があるというのか、普通なら無いと思うのだが、それを疑わなかったために今回隙を晒してしまっている。トイレでの会話を正しく理解していれば、こんなことにはならなかったのだから。

「ところで二人とも、何でお前達を選んだと思う?」

 そして片桐がズボンの裾の辺りを調べようとした時、唐突にキンジがそんな事を口ずさんだ。そして、二人がそろって一瞬考えてしまった、その刹那。

「っくぁ……!」

 トラストが不意にうめき声をあげて倒れこみ、その背後に居るアリアが視界に映った。片桐は咄嗟にホルスターから銃を引き抜こうとしたが、キンジがその隙を逃す事は無く背面蹴りにより、撃たれた左肩を蹴られて思わず倒れ込んでしまう。

「それは、秘密だ」

 そして受け身を取りながらも銃をキンジに向けたが、その銃もアリアの銃によって弾き飛ばされた。

 完全に息のあった、伝説同士のチームプレイ。お互いを信頼し、あいつなら何をする、と確信を持てる二人の意思の強さがあってこその行動だ。

 キンジは片桐の銃を拾い上げ、それを片桐へと向けた。

「お前達は……!」

「アリア」

「分かってる」

 しかし、またもタイミング良く現れたのは警備員だった。

 キンジはアリアに合図を出すと、アリアが手榴弾を転がし、煙幕を張りながらキンジの元へと駆けていく。キンジは片桐の銃で窓を割ると、ベルトに付けてあったワイヤーを壁に撃ち込んで二人して窓から飛び出していった。




現在は書き溜めがあり、その物語の進行に合わせて随時投稿していきます

文章の読みにくさは自覚しておりますので、少しずつですが治っていくと思います
それと、注意書きの件もあり推薦は受け付けないようにしておりますのであしからず

では、読んでいただきありがとうございました
では、次回の投稿にて

あらすじにて注意書きをペーストし忘れた状態で投稿してしまっていたため、対応しました、大変申し訳ありませんでした
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