円卓の武偵   作:もこー

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前回の前書きで言っていたサブストーリーが完成したので掲載します。
不思議なくらい筆が進み、気付けば物の二日で書けてしまいました。しかもこれ、一日二時間の合計四時間でした。
やる気があれば人はこんなに頑張れるんだなーとひしひしと思う。


サブストーリー「ヒルダと片桐のIFルート」

 突然だが、布団は最高だと思う。眠りに入る時は、暖かさがとても心地よく、少しゴワ付く感触ですら、睡眠欲を掻き立てる。そして朝、眠りから覚めたまどろみは、布団に入っている限り続く。

 そして、今俺はまさに惰眠を貪っていた。桜の舞う風景が外にはあるが、俺はそんな事よりも布団に居たい。

「朝よ、早く起きなさい」

 しかし、そんな至高の時間を邪魔する者が現れる。金髪を二つに結び、黒のワンピースを着た、威厳の漂う女性、ヒルダだ。

「あと二日……」

 あの事件が終わり、トラストとエルは国へ帰り、遠山夫婦は世界を回っている。日本に残っているのは、俺とヒルダ、それに理子くらいだ。

 では、なぜヒルダが俺の部屋に居るのか、だ。

 実の所、ここは俺の部屋ではない。理子の隠れ家で、俺はヒルダと共に、例の事件に関する喧騒から逃げている。外に出ると写真をせがまれ、仕事に出れば、無駄に手厚くもてなしてくるのだ。俺みたいな人間には、どうも生活しにくい。

 理子はと言えば、こちらとしても把握できておらず、毎日食料を届けてくれるだけだ。

「もう……ご飯冷めても知らないわよ」

 ヒルダはそう返すと、俺の隣に座り込み、頬を軽く撫でる。少し冷えており、先ほど手を洗ったのだろうと、小さな想像を膨らませた。

 ヒルダと二人暮らしを始めてから、既に一月も過ぎているが、家事全般はヒルダに丸投げしている。しかし、それには一つだけ条件があり、ヒルダは喜んで家事をしてくれるのだ。それは、血を好きな時に好きなだけ吸わせるという、分かりやすい物だ。

「んー……冷めたら勿体無いな、仕方ないから起きてやるよ」

「一生寝ていられるようにしてあげようかしら……」

 こういった言い合いは相変わらずであるが、ヒルダと俺には、少しばかり特別な関わりがある。

 パートナー、つまる所、仕事上での協力関係だ。相変わらずヒルダは良く分からないが、こちらには少なからず、想う所はある。それは裏切られた事ではなく、吸血鬼である事でもない。

 恋心だ。

 だから、俺はこの生活に、かなりの充足感がある。ヒルダからしたら、ていのいい餌場か何かだとしても、俺は構わない。

「一生面倒を見てくれるのか。なら、それも悪くないかもな」

「馬鹿言って無いで早くしなさい。先に食べてしまうわよ」

 こちらとしては本音であるが、ヒルダは呆れたようにそう言うと、俺を置いて部屋から出て行った。

 ヒルダとしてはこの生活をどう思っているのだろうか。俺は喧騒を避けたいが、ヒルダの性格的に気にはしても、こうまでするとは思えない。何なら、理子と行動してそうでもある。

「……腹減ったな」

 そうこう考えていると、不意な空腹感を感じ、お腹から音が鳴るのだ。俺は考えるのをやめると、布団から出て大きく伸びをする。体中の骨が鳴り、どれほどだらけていたか、よく分かった。

 部屋から出ると、二人用のテーブルでサラダを食べているヒルダがおり、一つ欠伸をすると、ヒルダの正面の席に座る。食器にはサラダの他に、トーストとスクランブルエッグがあり、分かり易く洋食だ。ヒルダの食べている様子はとても上品で、育ちの違いを明確に表す。昔話の類はしていなかったが、不意にそれが気になり、質問を投げかけた。

「そういえば、ヒルダは金持ちだったのか?口調とか飯の食い方とか、一般人とは思えないが」

「え?あ、あぁ。まぁ、ね」

 すると、ヒルダは少々慌てた様子で、答えを濁すとサラダを一口含む。

 どうやら聞かれたくないような話だったようで、少しばかり罪悪感を感じた。俺も昔の事はあまり話したくないというのに、なぜ聞いたのだろうか、軽率にも程がある。

「へんな事きいて悪い、忘れてくれ」

 それだけ言うと、俺はサラダに手をつけずトーストを食べ始めた。謝り方が悪かっただろうか、しかし、面と向かって謝るのも、勘ぐったようで嫌かもしれない。この場合はどういう謝り方が正しいのか、交友関係の大切さは身に染みて分かる。

「気にしなくていいわ。いずれきかれるとは思っていたし、突然だったから言い淀んだだけよ」

 モソモソとトーストを食べていると、ヒルダはフォークを置いて水を一口だけ飲む。それは先ほどまでと雰囲気が違い、毅然とした態度はしおらしくなっていた。思い出して欝な気分になっているというよりも、迷っているように見える。

「私が吸血鬼なのは知っている通りだけど、母は病死して、父は長野にあるレベル5拘置所の中よ」

 ヒルダの様子からある程度は察していたか、淡々と語り始めたそれは、ヒルダの様子とは違いとても重要な事だった。それをこうやって言えるということは、ある程度自分の中で割り切れているのだろう。

「その様子だと知らないようだけど、私の父はブラド、過去に遠山夫婦と理子に破れた人よ」

「ブラド……まさか、無限罪のブラドか?」

 ブラドの話は遠山夫婦を調べた人なら知っている話だろう。理子と仲間になった時であり、アリアではなく、キンジとして名が知れた事件なのだ。まさか、ブラドが親だとは思いもよらず、俺は思わず聞きなおしてしまう。

「驚いたでしょう?」

 ヒルダはそれだけ言うと、嘲笑を零してまたサラダを口に含んだ。ブラドの悪名を知っていればいるほど、その話はとても大きな意味を持つ。ブラドは女性を虐げる事で、過度の興奮を覚えたらしい。それを楽しんでいた節が多く、それは決してセコンディになるためだけでなく、自らの趣向の範囲にまで及んでいたのだ。それは、文字通り化け物と形容するのが相応しい。

「まぁ、確かに驚いたな……」

 俺はヒルダの質問に対して頷いて見せた。しかし、俺はそれに関して嫌悪感を抱くことは無く、まず同情を覚える。それはこちらの過去もあるが、その中でヒルダが何を思って過ごしたか考えたからだ。

 ヒルダは最初理子と敵対していたが、今ではこのように丸くなっている。それは、元がこうだったのか、理子に感化されたのか。どちらにせよ、過去を空想するには十分な話だろう。例えそれがどっちであっても、あまり思い出したくない過去に違いは無い。母親について触れない事が、一番それを物語っている。

「でも、俺はお前を差別する気は無いからな。その辺は勘違いするなよ?」

 それを思うとあまり掘り下げれず、気にしていない、という事だけを短く伝えた。吸血鬼という種族について詳しいわけでもないが、少なくともヒルダは悪い奴じゃない。少し強情で、素直な言葉を言え無いただの女性だ。

「ふふ……そう言うと思ったわ。貴方はそういう人だものね」

 ヒルダは口元を隠して笑うと、サラダを一度飲み込んでからそう言った。それにどれ程の意味が込められているかは分からないが、俺は期待されていたのだろう。自分から言う事は怖いが、確かな信頼があった。だから、こうしてちゃんと言ってくれたのだろう。ガウェインのおかげで、やたらと推論を立てれるようになった。感謝すべきだろうが、分からなかった事が分かるようになるというのは、少々やりにくい感覚がする。

「恐悦至極に存じます」

「似合わないわよ?」

 何にせよ、俺は普段通りに振舞えばいい。いつものようにおどけて見せると、ヒルダとの会話はそれで終わった。

 二人が食事を済ますと、ヒルダはさっさと食器を提げてしまい、上機嫌なのは様子を見れば一目瞭然である。それはこちらの返事が嬉しかったのか、それともお楽しみがあるからか。

「布団を畳んだら上だけ着替えておきなさい」

 どうやら、後者らしい。

「あー、分かったよ」

 俺は満腹感を味わう間もなく部屋に戻ると、すぐ着替えに取り掛かった。最初の頃に着替えを面倒臭がった結果、服に血の痕が残っている。それ以降はちゃんと着替えるようしているが、ヒルダが来る前に済ましておかないと、機嫌を損ねてしまうのだ。ヒルダが色々世話をしてくれているのだが、どちらかというとこちらが飼われている気分である。

 クローゼットを開けると色々な衣類が並んでいたが、俺は襟に血の付いた服を選んでそれを着た。例の被害者であるが、こいつにはそれ以降ずっとお世話になっている。寝巻きを脱ぐとさっさとそれを被り、俺は大きな伸びをしてから布団を畳み始めた。

 ヒルダの気分次第でどの程度かは変わるが、機嫌が良いと長引きやすい。今回は機嫌が良く、今の内に畳んでおかないと、いつになるか分からないのだ。まぁやっておかなくて困る事も無いが、普段の習慣から外れるのが落ち着かない。

「あら、吸われてる内に目覚めたのかしら?」

「別に待ちわびてる訳じゃないからな、いや、マジで分かってるよな」

 布団を畳み終わり、畳んだ布団に座って大きく伸びをすると、ヒルダが入ってすぐそう言った。どうも冗談に聞えない時があり、一応念を押しておいたが、返事は無くヒルダは隣に腰を降ろす。

「それは残念ね。もうそろそろ潜在的な物が出てくる頃合だと思ったのだけれども……」

「あのなぁ……」

 ヒルダはそう言うとこちらの言葉を聞く間もなく、俺の首元に噛みついた。チクリとした痛みがあるが、もう慣れてしまい、反応を示すほどでもなくなっている。もしかしたら本当に、これが気持ちよくなってくるのではないか、などと無駄な事を思慮するだけで、何も無い部屋を眺めた。

「毎回思うんだが、吸われてる間暇なんだよな。手元でできるような趣味も無いし、いや、鍛錬か寝てるかだからそもそも趣味が無いのか。いやでもな、暇な事に違いは無いと思うんだよ。テレビでも部屋にあればいいんだが、あぁ、俺が撤去したんだったな。そういえばテレビといえば……」

 そしてひたすらに独り言を始める。吸われている間に暇を持て余した結果、俺は独り言をぼやき続けるという、くだらない結論に至っていた。鍛錬の邪魔になるからテレビは無いし、かといってこれといった趣味も無い。ただこうして血を吸われているだけどいうのは、いかんせん暇で仕方無いのだ。最初は少しばかりヒルダが返事をするかもしれない、という期待もあったのだが、どうもその期待に応えてくれるつもりはないらしい。その結果、こんな寂しい物になったしまったのだ。

「……貴方、そうしてるととても可哀想な人よ?」

「うぐ……それは言わないでくれ、俺も自覚があるんだよ……でも暇だろ?」

 しかし、今日はヒルダが反応を示した。どういう風の吹き回しかは知らないが、何にせよ言われたら言われたで、とても恥ずかしい物がある。

「じゃあ閑話休題でも挟みましょうか」

 ヒルダは首元にぷっくりと出た血を指ですくい、それを舐めるとそんな事を言い始めた。ヒルダが途中で区切るのは始めてで、そこでやっとヒルダが普段と違う事に気付く。しかし、具体的に何が違うかは分からず、相変わらず過去の自分を恨んだ。

「私達吸血鬼は、何で血を飲むと思う?」

 ヒルダの質問は唐突で、少し考えさせられる。一般的な見解を言うなら、血でしか栄養を摂れないとか、不老長寿のためだとか、そんな答えが出るだろう。しかし、ヒルダは血をただの趣向品と見てる節が多く、そういった風には見えない。

「んー……血が好きだからか、飲むと力が湧くからか、そんな所か?」

 すると、こういう答えしか出なかった。吸血鬼はただ血が好きなだけか、はたまたドーピングのような物か。一般的な知識しかない俺には、そのくらいが限界だ。

「やっぱり、そう思うわよね?でも、そうじゃないの」

 きいてくるだけあり、やはりそういう訳では無いらしい。

「私達吸血鬼は、血を吸う事で遺伝子の上書きをするのよ。簡単に言うなら……進化ね。犬の血を吸うとより犬に近い進化をするし、賢い人間の血を吸うと、より賢く進化する。そこに味何て関係ないのよ」

 最初の言葉では全く理解できなかったが、続く説明で何となく理解できた。つまり、血を吸った相手と同じような成長をするのだろう。ともなれば、一つだけ確認しておくべきことがある。

「待て、それはつまり……犬の耳や尻尾が生える可能性もあるということか」

「その場合だと、姿自体が犬に寄ると思うわよ。貴方の想像とは違って、セコンディに近くなると思うけれどね」

 非常に残念である。男として言うなら、そういった物にはちょっとした憧れを持つだろう。そして想像を膨らませると、従順で好奇心の権化のようなヒルダが、尻尾を振りながら耳を垂らし擦り寄ってくる。それがいかに素晴らしいかなど、言葉として出す事も無い。そんなちょっとした夢を見ていたが、現実はどうもそうはいかないらしい。

 セコンディとはその名の通り”第二形態”という物だ。ヒルダのそれは見た事は無いが、ブラドのそれは二メートルをゆうに越す巨体と、狼のような鋭い爪と牙、それに凶暴性が増すらしい。ヒルダがどうかは知らないが、ブラドを基準に考えるならとても危ないのは分かった。

「……あれ、ちょっと待て。俺の血を飲んでるけど、それはいいのか?」

 そこまで思考が済み興奮が晴れると、俺は不意にそれを思いついた。吸血鬼の伝承を考えるなら、飲み切ると完全に進化する物だとは思う。しかし、多少でも飲めば影響はあるのが普通だ。いくら少しずつとはいえ、ヒルダは俺の血をそれなりの量採取している。それはとてもまずいのでは無いではないだろうか。現在のヒルダは肉体的に知能的にもそれなりに完成している。さすがに俺がヒルダに勝ってる部分は思いつかないのだ。

「最初貴方の血を飲んだのは、貴方がガウェインの子孫だと知っていたからよ。彼がどれほど優れていたかは、貴方がよく知っているでしょ?それなら、その遺伝子を欲しがるのは分かるわよね」

 ヒルダの説明はもっともなようであり、少しばかり矛盾がある。確かに、何も知らない場合ならそれがある程度の合理性があるのも頷けた。しかし、今の俺はどうだろう。ガウェインのおかげで半ば強制成長したとはいえ、ガウェインに勝るほどとは言え無い。それならわざわざ俺の血を飲む必要は無いのではないだろうか。

「貴方の疑問に対する答えは、自分で考えなさい」

 俺はどうやら疑問を顔に出していたようで、ヒルダはそれだけ呟くとまた血を飲み始めた。わざわざ俺の血を飲む、それも頻繁にする必要はどこにあるのか。確かに、今の持て余している時間を潰すには丁度良い話題だ。

 ガウェインの血縁というだけで有効なのか、それとも、ヒルダは俺が優れていると思っているのか。しかし、ガウェインの血縁といっても、不純物が混ざりすぎな筈だ。俺の方が優れていると思っているというのは、いくらなんでもありえない。相手がキンジやアリアなら納得できても、俺を選んで飲む必然性は皆無だろう。

「この問題は、少し難し過ぎやしないか?」

 そして、俺は暫く考えた結果として、その答えしか出てこなかった。

「そうでしょうね。貴方は馬鹿で、阿呆で、間抜けで、どうしようも無い人だもの」

 それを聞いたヒルダは俺の首元から離れると、ガーゼを首元にあてがい少々不機嫌そうに言う。俺は思い当たる節が思い当たらず、困ったように首を傾げるしかできなかった。

 流石に不機嫌になるような理由は無いだろう。最後に上機嫌だったのは質問が終わってからで、俺は一言だけしか言っていない。

「よく分からんが……すまん」

 とはいえ、俺は謝るしかない。二人で生活しているのに、機嫌を損ねたままでいられると困る。というのは建前だとして、嫌われたら洒落にならない。

「そうやって謝るのは、自分の品位を下げるわよ?謝るのなら、理由を添えて謝りなさい」

 しかし、機嫌を更に損ねてしまったようで、深い溜息と共にそう言葉をかけられた。しかも、ヒルダは立ち上がることなく、座ったままこちらを見据えている。このままどこかへ行かれても困るが、これはこれでとても困ってしまう。ヒルダは何に怒っているのか、浮かぶ気がしない。答えを出せなかった事が悪いのだろうか。ありえないが、何も言わないよりは幾分かマシだ。

「答えが分からなかったから……か?」

「そうよ」

 そう思い言ったのだが、ヒルダは短くそれを肯定する。おそらく、俺は今かなり間抜けな顔をしているのだろう。自覚はあるのだが、それを直すに至らない。なぜそれに対して怒ったのか、本当にあっているのか、どうも錯乱気味になってしまっている。

「ッ……ほら、飲みなさい」

 思考を何とか纏めようとしていると、ヒルダは唐突に自分の親指を噛み、指の腹からは血が垂れた。そして、それを俺の顔の前まで持ってきてそう言う。もう意味が分からない。ヒルダの中で何かが進んでいるのだろうが、俺には何も把握できてない。言われた通りするしかなく、疑問符は相変わらず浮かんだまま、俺はヒルダの親指を口に含み吸う。口の中には鉄分の独特な風味が広がり、子供の頃歯が抜けたのを思い起こす。

「美味しくないでしょう?」

 そして、少しするとヒルダは指を引き抜き、そう投げかけてくる。抜いた親指からはまだ血が流れており、ヒルダがそれを舐めると、傷は綺麗に塞がっていた。

「そう、だな」

「でも私は美味しいと思っているわ。貴方と感じている物が一緒だなんて思わないし、私は……この話はやめましょう」

 ヒルダのそれはとても理解できる物ではなかったが、そう言って立ち上がるヒルダの横顔は、とても寂しげに見えた。

 ヒルダは何かを伝えたいのだろう。しかし、ヒルダなりの言葉では俺には通じず、それが歯がゆいのだ。言葉として、それを直接伝えるというのはできないのだろうか。いや、そうしたいと思っているがしないのだろう。ヒルダが俺に背を向けた時には、それだけの思考が終わり、ガウェインという人間を素直に尊敬した。

「ヒルダ」

 俺はヒルダが逃げる前にその手首を掴む。よほど驚いたのか、肩を大きく震わせると、立ち止まった。

「俺に空気を読む力無いのは分かってるだろ?何か言いたい事があるなら、ちゃんと言って欲しい」

 ただひたすらに、ヒルダが返事をしてくれるのを待つ。その間手を離すことは無く、ヒルダも振り払おうとはしない。

「そんなの……私だって伝え方が分かったら苦労しないわよ。貴方なら、言いたくても怖い事があったら素直に言えるかしら。それも、取り返しが付かないくらい大切な事。言わなければ安全は続いて、一定の幸福感はそこにある。それでも、言える?」

 ヒルダはやっと言葉が出たが、振り向くととても弱弱しい表情をしていた。今にも泣きそうに見えるし、焦燥しているようにも見える。とにかく今の彼女は、とても追い詰められている気がした。

 ヒルダの言葉は俺にも分かる。言ったら壊れてしまいそうな事なら、俺にだってあるからだ。今の生活には満足しているが、ヒルダが好きだというのは間違いない。より近しい関係になれたら、それはとても幸福だろう。それでも、俺はあえて言わずに現状で満足していた。

「……俺だって、言いたくても言え無い事はある。壊れるのが怖いし、ガラス細工でも掌に乗せてる気分だ。でも、何か今なら言える気がするな」

 でも、頃合なのだろう。俺にはこういうヒルダを、何もせず見ているということはできそうにない。どうせ拒絶されるなら、清清しいほうがいい。スッパリ終われば、何の躊躇もなくあれやこれや言える。

 かなり突然の事であるが、俺は首を傾げるヒルダに一言言ってやった。

「好きだよ」

 飾った言葉は俺にはできない。等身大の言葉を言うだけだが、精一杯なんだと思う。言う直前まで安定していた心拍は急激に高鳴り、自分の言った言葉を今すぐにでも取り消したくなる。こんな勢いで言ってよかったのだろうか、色々と終わる予感を胸いっぱいに浮かべたまま、俺は苦笑を零してしまった。

「っ……私の寿命は人間より長いのよ。だから、人並みの寿命になりたかった。それが、あの問題の答え」

 驚いた表情を見せたヒルダだが、それはすぐに泣きそうな表情に変わり、そしてすぐ凛々しい表情になる。そして普段のように何の気無くそう言うと、俺の肩を尋常じゃない力で掴み押し倒した。左肩はとても痛むが、背中は布団のおかげで特に痛みを感じずに済む。

「ちょ、肩いた……」

 突然の事に言葉が浮かばず、とりあえず肩の痛みを訴えようと思た。しかし、その言葉は文字通り塞がれる。言葉を遮ったの物はとても柔らかく、しっとりと鉄分の味がした。いつぞやの記憶が浮かぶが、それとは色々と違うのを感じる。あの時の彼女はどこか焦っていた。しかし、今の彼女は安心したように、表情を緩めている。かつてないほど近づいた体を、俺は両腕でしっかりとその場に縛り付けた。

 迷う必要は最初から無かったのだ。

 ヒルダの体は思っていたよりも細く、その温もりは布団何か話しにならないほど、安心できる。ヒルダは今、どんな気分なのだろう。

 まぁ、それは全て終わってからでいい。

 今はただこの幸福の時間を味わいたい。




もはやただの自己満足となってしまいましたが、我が家のヒルダが好きな人に満足していただけると嬉しいです。
ついでにヒルダの性格についてちょっと補足しておきますね。

ヒルダは原作だとツンデレのような行動理念でした。なので、それをそのまま精神だけ成長したというのを基準に書いています。なので、素直に物を言うのが苦手で、でも言い訳はしないように自制している。みっともない姿は見せないように、大人でいるように自分を律している。だから感情が内向的に向いてしまい、それが爆発したり緩んだりすると、車の中でガウェインにボロクソに言われた時のようになります。その点ではまだ未熟なのを自覚しており、それについてずっと苦労している。

っというような感じです。
いやぁ、お風呂急かされながらだとどうも文章直す時間がありませんね。

あ、このあとメチャクチャ×××したとかいう妄想、俺は多いにありだと思ってるぜ←
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