以降の詳細については後書きに記しておいたので、そちらを参考にしてください。
「アーサー!お前はまた力で変えよと言うのか!」
白銀の鎧に身を包むアーサーに、強面の騎士が強く異論をとなえていた。
キャンプ場なのか、ベッドの類は無く、寝袋のような物とランタンがあるだけで、他は何も無い。
「武力でしか変わらない物ばかりだからな、変えたいならば剣を取らなくてはいけない」
アーサーはそう言うと、腰に下げた煌びやかな剣を抜き、その美しい青空色をした刃を強面の騎士へ向ける。
「その結果として、ランスロットが離反し、モードレッドは国を奪おうとしているんだろ!」
「ふぅ……つまり、お前には戦う意思が無いんだな?」
アーサーは強面の騎士から説教を受けたが、残念そうに肩を竦ませ、首を傾げた。
「当たり前だ。もう、仲間に……!」
「残念だ」
強面の騎士が猛って反論をしたのを見て、アーサーは表情一つ変えずにそう言う。強面の騎士が言葉を途切れさせた理由が分からなかったが、膝を付いたことで理解した。
「アーサー……!」
美しい青空色の刃は、鮮やかな赤色に染まっており、アーサーは取り出したスカーフでその血を拭う。
「勇敢な騎士を亡くすか……これもまた定め。来世でまた会おうじゃないか」
「なに……!クソ野郎……」
強面の騎士は自身も剣を抜こうとしたが、アーサーに蹴り倒され、力尽きた。
「……きろ……起きろー!」
「っ!」
目を覚ましたら、そこはキャンプ場では無く、将棋セットと弾薬の無い拳銃しかない、コンクリートの空間だった。身体中が汗ばんでおり、いつの間にか寝てたようだが、先ほどの夢は何だったのか。夢にしてはリアルだ。
「大丈夫?かなりうなされてたけど」
紅葉は心配してくれたようで、しゃがみ込むとそう言って首を傾げた。怒って出て行ったわりには心配してくれるし、ありがたいことだったとは、思っているのだろう。
「あぁ……大丈夫だ」
対して、ガウェインの反応はしおらしく、頭を抑えると深く息を吐いて立ち上がった。
やはりあの夢はガウェインの体験なのだろうか、知っている限りのこいつなら、軽口を叩いて部屋への案内を催促していたはず。紅葉も不思議に思ったのか、間抜けな顔をしている。
「なんだ?」
「んー。いや、なんでもない」
紅葉は少し考えたが、にへらっと笑うとそう言って首を振った。
「それで、要件はなんだ」
「アーサー達が帰ってきたから、円卓に案内するよ」
紅葉はそう言うと歩き出し、ガウェインも頭を掻くと後について行く。
心拍は安定してるし、表情も硬くなっていない。あまりガウェインを心配する必要は無いが、身体は自分の物だから、気配りくらいはしておこう。
紅葉について行くと、二又に分かれていた通路の、もう一方へ向かい”円卓”と書かれた部屋に入って行く。中には円状の机と、それを囲むように設置された椅子があり、ガウェイン達以外は既に席についていた。
「待ったぞガウェイン、好きな場所に座りたまえ」
周囲を見渡していると、アーサーはそう言って肘を着く。
ガウェインはそれを聞くと入ってすぐの椅子、アーサーの正面に座った。
「さて、全員集まった所で報告だ。星伽の始末は失敗。キンジとアリアに邪魔をされた」
アーサーは手短に結果を伝えると、ランスロットに顔を向ける。
対するランスロットは小さく頷くと、事務的に返事をした。
「こちらは、理子とヒルダに邪魔されました。人数的な不利は否めないかと」
ランスロットは報告に足して、現状の問題を挙げる。しかし、それについては問題無いだろう。じきに、ガウェインという戦力が、加わるのだから。
「まぁ、そうだろうとは思っていたよ。モードレッドはガウェインと共に理子を殺せ、私とランスロットはヒルダを討つ。現時刻より作戦を開始する。十分後に入り口に集合しろ」
アーサーは一気に言い切ると、そそくさと部屋を出て行く。失敗したばかりだというのに、作戦も練らずに挑むというのか。あまりにも無謀で、賢い選択だとは思えない。
ガウェインと天塚は全員が出て行くのを見送ると、立ち上がり出入り口で耳打ちをする。
「大丈夫?」
「俺だけなら確実に負ける。相手が悪過ぎるからな」
そして、その会話から自分が麻痺していることが、ハッキリと感じさせられた。
俺は、ヒルダと理子さんを殺すという作戦に、全く違和感を覚えなかった。むしろ、当然のように受け入れ、どうするのか思慮している。
俺はどうなるのだろうか、そんな疑問が湧き上がり、不安が心を押し潰す。
「そうじゃなくてさ、二人を殺すってことは、辛いんじゃないかなーって」
「躊躇して死んでたら、意味がないだろ。俺は生き残るための、最良の選択をするだけだ」
天塚の言葉に対して、明確に大丈夫と答えることはなかった。それは、俺が大丈夫か、と受け取ったのなら、正しい回答なのだろう。
二人はそこで会話をやめると、円卓の場から出て、玉座の間へと向かった。
玉座の間に着くと、既にランスロットとアーサーが待機していた。しかも、二人とも武器を持ってる様子は無く、見覚えのある刀と、拳銃が無造作に置いてある。
「武器はどうした?」
ガウェインはそうきくと、床に落ちていたそれを拾い、ホルスターと背中にそれぞれしまった。手に馴染む感覚が、やけに懐かしく思える。
「使わない。いまごろ向こうでは、会議でもしてる頃だろう」
アーサーは意味深に笑うと、それだけ言ってエレベータへ入った。残った三人もそれを見ると、中へと入る。
武器を使わないというのは、どういうことだろうか。また、毒でも盛ったのだとしたら、かなり狡猾な手口を好むようだ。
しかし、だとすればなぜガウェインに武器を持たせたのか、更に言うなら、なぜ詳しい説明をしないのだろう。
無言のままエレベータは上昇し、開くと目の前に白塗りの車があった。アーサーは助手席に乗り、ランスロットは運転席へ乗ったため、二人は後部座席に黙って乗り込む。
「さて……ガウェインの中に居る奴に、一応話しておこう」
車が発車すると、アーサーが唐突にそんな事を口走る。ガウェインは興味なさそうにしているが、耳だけはアーサーの声へ向いていた。
「これから、たくさんの人を殺すことになる。それこそ、お前の意思など関係無く、ただひたすらに、際限なく殺す。それが騎士という物だ」
アーサーの言葉には、どこか圧力のようなものがあり、頭に響く。それが真実なのだと、ハッキリと伝える声音。
「私は、お前にも一定の評価をしている。短時間で他者がお前を信用しているのは、紛れもない事実だ。そんなお前を、徴兵したい。人の心を引き寄せるというのは、とても希少な才能だと、私は考える。人を利用するにあたって、薬や人質を必要としないからな」
アーサーの言葉はとても回りくどく、聞いていて少し腹がムカついた。しかし、アーサーが何を言いたいのか、それだけは明確に伝わる。
ガウェインとしてでなく、俺も駒として使いたい、ということだ。
「まぁ、否応無く従わせるがな」
結びの言葉は単純で、アーサーにはその手段があるらしい。確かに、俺を従わせたいなら簡単な手段がある。とても簡単で、それでいて強力な手段。
ただ言えるのは、この作戦がそうでないことを、祈るばかりだということか。
「アーサー、ガウェインばかりと話してたら、妬いちゃうよー?」
天塚は話が途切れたのを確認してから、そうアーサーに話し掛けた。
ガウェインは二人の話は耳に入れず、ただ周囲の景色を覚えている。雑居ビルの群生地を抜け、市街地へと向かう。それは見覚えのあるような、そんな街並みだった。
更に車が進んで行くと、その疑問は確信へと変わる。それは、俺の遼の近く、いや、これはそこへと通じる道だ。
そして、車が停まったのは、普段から客入りの悪い喫茶店の駐車場。それも、なぜか無数の車が停まっている。
この光景には見覚えがあり、一台一台には、やはり運転手が乗っていた。
「降りるぞ、大切なお客様も先に居る筈だからな」
アーサーはそう言うと、ランスロットと共に車から出て、代わりに知らない男が運転席に座る。
「ふん……」
ガウェインは鼻を鳴らすと、天塚に続いて、おとなしく車から降りた。
嫌な予感を感じてはいるものの、確認する手段はこちらには無い。ガウェインから見て聞いた内容しか、頭には入らないのだから、不便で仕方ない。
「……いらっしゃい」
アーサー達が入るのを確認してから店に入ると、無愛想な店員が挨拶だけして、隅の席を指差した。行けということだろう。
「……久しぶりだな、会いたかったよ」
そして、そこに居たのはやはり、その人だった。
「そうね、私もよ」
ヒルダと理子の二人の正面には、アーサーとランスロットが座っている。どんな話かは予想が付くが、ガウェインと天塚は立ったまま耳を傾けた。
「さて……本題に入ろう」
「冗談じゃない。一時的な中和剤何て掴ませて、交渉と違う!」
アーサーの不適な笑みに対して、理子は言葉を荒げる。そこから想像できることは、騙されたということか。
「私は薬と交換としか言ってなかったはずだが?まぁ、過ぎた話は仕方ない。これからのことを話そうじゃないか」
アーサーはクスクスと笑いながら言い返すと、悔しそうに表情を歪めている、理子に微笑みかけた。
はたから見ていても、性格の悪さがよく分かる。これで王様なのだから、昔の人はさぞ大変だったのだろう。
「今回の交渉は……そうだな、そこの吸血鬼が欲しい。今度はちゃんとした、完治する薬と交換だ」
「人をバカにするのもいい加減にしろよ!」
アーサーの一言に、理子が頭を沸騰させた。いや、アーサーが沸騰させた、が正しい表現だろう。ただでさえ、非人道的な行動を強いたというのに、今度はパートナーを差し出せというのだから、当然だ。
「まあまあ、そう怒るなって。何かを得るには、等価の物を払うべきだ。食事をしたら、料金を払うだろう?愛した男とパートナーを天秤にかけろ。簡単な話だと思うがな」
そう言うアーサーの目の前で、ヒルダは静かに聞いている。諦めではなく、受け入れているという様子で、ただ頷く。
「そんなこと……!」
理子がそれを選べない事など、確認するほどの事ではない。仲間、それもとても近しい人物を選ぶのだ。理子自身がよほどの力があるのなら別だが、少なくとも、遠山夫婦を出し抜き薬を使える相手なのは確かだ。まともな思考ができるなら、下手な手を打って未来を失くす作戦は使えない。アーサーが理子を選んだのは、偶然ではなかったのだろう。
「私でいいならそうすればいいわ。ふふ……ミイラ取りがミイラに、ね」
ヒルダは理子の頭を軽く撫でると、そう言ってガウェインの方を見た。ヒルダは少なからず覚悟はしていたのだろう。自分が無事で済むような結果は、元より想定に入れていなかったのだ。
「……」
理子もそれに反抗する気配は無く、そうするのが一番いいのだと、本人も分かっているようだ。
アーサーは満足そうに頷くと、ランスロットに合図し、アタッシュケースを出させる。中には注射器と薬のパックがあり、ヒルダはそれを受け取ると、理子の前に置いて立ち上がった。
理子はただ俯き、肩を強張らせる。理子の様子も気になるのだが、今の俺にはそれ以上にヒルダが気になってしまう。今回の任務はヒルダと理子の殺害。つまり、あの薬は間違いなく偽者だし、ヒルダは知らぬまま着いていき、罠にでもはめられるだろう。それを伝えようにも、この体はガウェインの物であり、俺の感情や思考は微塵も反映されはしない。
「それじゃあ、長居する必要も無いだろう。さっさと行くとしようじゃないか。天塚、手はず通りにな」
「はーい」
アーサーはそう言うとランスロットと共に立ち上がり、ヒルダを引き連れて店から出て行った。じきに車の出る音がして、少しすると駐車場の車は一つを残して全て出ている。この店はアーサーの傘下だと考えるのが自然だろう。
「さて……じゃあさっさと仕事終わらせようか」
天塚はそれを確認すると、そう言って拳銃を取り出し、それを理子へ向けた。
「待て、コイツはそれをよしとしない。早すぎるかもしれないが、逃走するには今が一番じゃないか?」
やはりガウェインはそれを手で制止して、そう言うと理子の元へ歩み寄る。
「先に言っておく、その薬は偽者だ。今回の目的はお前とヒルダを殺す事。助けたいなら、さっさと行った方がいいぞ?」
それだけ言うとガウェインは理子に背を向け、天塚にアイコンタクトを送った。天塚も肩を竦ませると拳銃をしまい、ガウェインの隣に並ぶ。もしかしなくても、ガウェインはヒルダを助ける気が無いのだろうか。いや、元々彼は助ける必要性を疑問視していた。理子を見逃しただけでも、運が良かったと言える。
「待って、お願い……勝手なのは分かってる。でも、私だけじゃあいつ等には勝てない……」
すると、不意に体が後方へ引っ張られ、ガウェインは振り向いた。そこには服を掴む理子が居り、必死な形相でガウェインを見上げている。
「知った事か。間に合うかは知らないが、仲間でも呼べばいいだろう?忘れたとは言わせない。誰のおかげで俺とこの体が危険を被ったのか……お前とヒルダを救うだけの理由も、価値も無い。それとも、納得するだけの報酬が出るのか?」
ガウェインの言っていることは至極当然の事であり、ガウェインにしてみれば、憎む理由こそあれど、助けてやる義理は無い。ガウェインは鼻で笑うと、最後に嘲笑を交えてそう言い捨てる。元よりアーサー達に反抗するだけの価値など、どこにもありはしないというのに。どれだけ金を積まれた所で、命と自由の代えなどどこにもない。
「んー、価値ならあると思うよ?」
しかし、天塚は少し考える素振りをすると、不意に口を開いた。
「片桐って仲がいい人は彼女くらいでしょ?私的には利用価値があるんだよね」
しかし、出た言葉は無情であり、結局は本当の意味で助ける事はできそうになかった。
「……お前が選べ、どうせ指示されたら逆らえないだろ」
ガウェインは考えを巡らせたが、結局そう言うと深い溜息をつく。理子はその様子を不思議そうに見ていたが、天塚も理子へ向き直ると、にっこりと笑って見せた。
「という事で、ヒルダを助けてあげるよ。報酬は私の手伝いでいいから」
「……分かった。ヒルダのGPSを追うから、私の車に着て」
理子は迷ったようだが、結局は承諾して走って店から出て車に乗り込む。しかし、こんな話をしていいのだろうか。ここはアーサーの息がかかった店では無いのだろうか。
「そういう訳だから、ヒルダを助けて帰るよ」
天塚はガウェインにそう言うと、店の奥へ入っていった。何をするかは想像に易いが、ガウェインはその音が聞えるより先に店を出て、理子の車へ乗り込んでしまう。店主は無事なのだろうか、その疑問だけが、やけに脳裏を焦がす。
「悪魔と取引したということは、覚悟ができているんだろうな」
「あの男も悪魔だからね、最初からある程度の覚悟はあるよ。でも、ヒルダだけは譲らない。これは私の問題。あの子を巻き込んだのは私だから、何としても守らなきゃいけないの」
車の中では理子がなにやら携帯型の機械を弄っており、電波を追跡しているのだろう。
理子はとても大きな責任を感じているようだ。しかし、ヒルダも同じなのだと俺は思う。ヒルダにとって、理子はとても大切な存在。理子にとってもそうかもしれないが、それは理子の物とは大きさが違うだろう。
理子はそれに気付く様子も無く、ハンカチで手を拭きながら着た天塚が車に乗り込むと、すぐに発車した。
とりあえず次回は未定で、新作の方を書き進めております。
この作品の扱いに関してですが、元は暇ができたら書く、という物だったので、その通りに進めるつもりです。待機している新作が二作品あるので、それらが終わる頃となると、来年のこの時期辺りだと思います。
新作については随時活動報告でとなりますが、基本的にはどの程度進んだかは明記しません。書き進めていたものを大々的に切って書き直すというのも、私個人の書き物ではよくあります。まぁ、練りが甘かったというだけですが、それを書き直してとなると、進捗がかなり変化しますので、アテになりません。
なので、完全に決まり「これで出すかな」となった日に活動報告とし、都合の良い日時から連日投稿、又は週間投稿とします。
話の長さは「one side love」と同じような物を基準にしていますので、ボリュームに不満足は出るかとは思いますが、ご了承を。
ただ、次回投稿する新作については結末までしっかりと書きます。
元が結末を考えてからだったので、結末を書かない事には個人的にスッキリしないです。
では、また数ヵ月後か一年後か、そこでまた会いましょう。