詳しくは活動報告からさせていただきます。
理子さんは今頃ヒルダに怒られている頃だろう。
説教が始まってすぐエルと二人で逃げるようにトラストを探していた。
最初はマジメにトラストを探していたが、どこに居るかも分からず今はのんびりと街中を散歩している。
「あの時、何て言ったんだろう」
「んー……理子さんの考えてることはさっぱりだ」
エルはあの時のことが気になるからか、ただ暇を持て余した結果か、唐突に呟く。
正直言うとあの人の考えていることは皆目見当も付かない。と言えば嘘になるが、他人で遊ぶのを楽しむタイプの人だとしか分からない。
「そうかな?分かりやすいと思うけど」
そういえばエルはバスカービルと関わりの深い人間だった。理子さんともそれなりに接点があるから、そう言えるのだろう。
少なくともエルの方が分かりやすい。
「お前は付き合いがあるからだろ」
「それでも、君よりは分かりやすいよ」
なぜ理子さんよりも自分の方が分かり難いのだろうか。あまり嘘は付かないしこれといって不可思議な行動はしてないと自負している。
小さく首を傾げて考えていると、エルは続けて言う。
「君ってあまり人を疑わないでしょ?あのトラストって人も信用してたから、携帯をわざわざ置いて行ったんだしさ」
言われて見れば、あまり人を疑わない傾向にあるかも知れない。でも、あまり疑うのも失礼だし、気付いたらそうなっているのだから、意識していることは無い。
「今は周りの人間が疑うようなことの無い人ばかりだからだよ」
「じゃあ、僕は?」
自分についての話は、何となくナルシストのようで、微妙な気分になる。
そう思い話をはぐらかそうと言葉を選んだが、間髪入れずにエルは質問をして立ち止まった。
怪しい薬まで使われて拉致したし、裏切らないとも限らない。そう言いたいのだろう。
確かにそれはかなり不思議だ。いくら謝られたからといって、 すぐ信じていいような話では無い。
「……褒められたからかな。”武偵に向いてるよ”って、結構嬉しかったし」
「……それだけ?」
「それだけ」
実際に、思い当たるようなことはそれくらいしか無かった。
エルは拍子抜けしたようで訊いてきたが、頷きながら返事をしてやる。
少しの間エルはそのままで居たが、深いため息をつくと呟いた。
「なるほどね……」
「何がだ?」
一体なにが分かったというのだろうか、頬が緩んでいるから何かいいことでもあったのだろうか。
小さく首を傾げていると、エルは言葉を続けた。
「僕ね……」
「あ、わりぃ」
しかし、タイミング悪く携帯着信音が流れて、それを手で制した。
携帯を取り出すと「トラスト」と書いてあり、それをエルに見せて肩を竦ませる。
「トラスト、急に怒って……」
「彼女と会話してるフリをしろ」
電話に出ておどけて見るが、通話相手はトラストでは無かった。
男の声だがまったく身に覚えが無い。
悪い予感を感じなから指示通りにする。
「あ、あぁ……なるほどな、そりゃ怒るかもしれんな」
「傷を付けられたくないなら、隣の女を先に返して、信号を越えてすぐの路地裏に来い」
「……分かった」
エルはやりとりを不審に思ったのか、小さく首を傾げており、通話が切れると話しかけてきた。
「どうしたの?」
「機嫌直してくるで先に帰っててくれ……一人で来いってよ」
肩を竦ませてそれだけ言うと、自分だけさっさと歩き出す。
あまり話をしているとボロが出そうだ。しかも、隣の女と言っていたということは、こちらは見られている。下手な真似はできない。
「ちょ、ちょっと……もう」
エルの諦めたような声が聞こえて、少し安心する反面、気付いて欲しいと願った。
トラストの携帯から来たということは、トラストが捕まっている可能性が極めて高い。いくら優秀とはいえ、多人数に囲まれては体力的に無理が出るだろう。
つまり、相手は複数でかつ、それなりに戦闘の心得がある連中だ。
自分より優秀な人が人質に取られていながら、なんとかして脱出できるなんて、楽観的なことは考えない。
「考えろ……考えろ……」
無策で中に入るなんてやれるはずがない、信号は都合悪く青ですぐ渡れてしまう。
そもそも何が目的だというのだろうか。トラストと俺の共通点は、武偵だということ。
「っ……」
路地裏に入りやっと気付く。
遠山夫婦が、いかに狂信されていたのかということをだ。
入ってすぐには人が待機しており、しっかりとお面で顔を隠している。ジェスチャーでついて来い、とされると大人しくついて行った。
途中少し広い空間に出たと思うと、ダンボールで隠されていた扉へと入って行く。
何をすることも許されない、考えることすらさせないただ無言の誘導。
黙って扉へ入って行くしかない。
「よーこそ糞野郎!」
「っ!」
入ってすぐの歓迎はとても熱意を感じる腰の入った良い拳だった。
思わず倒れこむとすぐに胸倉を掴まれて立ち上がらされる。
「あまりやると後で困るでしょ、やめなよ」
「っけ……」
そこから更に拳を振り上げるのが見えたが、奥から出て来た女に止められて突き飛ばすように解放された。
今にも殴り倒してやりたいが、状況が掴めるまではそうもいかない。
「トラストはどこに……」
「そう焦らないの、すぐに会わせてあげるから……武器を調べろ」
一体何人居るのだろうか、狭い廊下の奥から四人ほど現れると、背中に帯刀している刀と、服の下に持っていた拳銃を奪われる。
「私達の要求はとても簡単よ?それさえしてくれたらすぐに解放してあげる」
「……屑が、っくぅ」
罵声のお返しはその女の蹴りで済まされた。
先ほどからの攻撃は手を抜いているのだろうが、それでもかなり響く。間違いなく場慣れしてる連中だ。
二人掛かりでしっかりと両腕を拘束されたまま幾つかの部屋を越えて行くが、明らかに廊下や部屋は汚れている。暫く掃除されていないのだろう。
それに、やたらと見なりの良い人間が目立つ。
先程の男女は普通の格好だが、部屋で何かをしてる連中はスーツを着ているくらいだ。
「ただいま戻りました〜」
「な、何で来たんだ……!」
一番奥の部屋へ入ると、中には数人の男がそれぞれ角材を手に持ち、中心ではトラストが両手を縛られて吊るされている。
意識が朦朧としているようでゆっくりこちらを見ると、切迫詰まった様子で怒鳴られた。
確かに仲間を呼んで来るのが賢かったのかもしれない。それでも、やっぱり一人で来たは確かだ。彼女が傷付けられるのは、我慢ならない。
「アンタは体に訊いても口を割らないでしょ?だから今度は、心に訊こうかなってさ」
「なるほど……」
よく見るとトラストは顔に外傷は見られないが、服は破れていたり血が滲んでいる部分が目に映る。
何をされていたのかハッキリと分かり、同時に奥歯を噛み締めた。
現代日本ではこんなことが許されるのか、あっていいのだろうか。
彼女のような正しい人間が、傷付けられても平然としているのは、同じ人間なのか。
「っふざけやがって!」
「まぁまぁ、落ち着けって、な?」
込み上げる憎悪が自分の中で膨らんで行くのを感じる。どうしようもなく、この場に居る奴等を許せない。
思わず吠えると、角材を持った一人の男が近寄って俺の肩に触れた。
「俺達はただ遠山夫婦の事件について、本当のことを知りたいだけなんだよ」
「俺達が嘘を付いてるってのか!?まずはそのめでたい脳味噌を馬の糞にでも突っ込んで少しはマトモにしてから来やがれ!っが、ふぅ……」
男は角材を捨てると俺のことを殴り飛ばす。
倒れ込む先には他の男がおり、しっかりそれを捕まえられると突き飛ばされるように元の場所へと押された。
「ハハ、こりゃいいサンドバックだ」
男は胸倉を掴んでそれを受け取ると、わざとらしくトラストの方を見てそう言う。
これは俺にもだが、トラストにも欲しい情報を言わせたいのだ。
トラストは悔しそうに歯を噛みしめると、俯き何も話さない。
「そんじゃ、もう一発!」
「んぐっ!」
それを確認した男に腹へと膝蹴りを入れられ、思わず膝を着く。
痛いし苦しいし気分は最低最悪だが、その理由は殴られて蹴られて、惨めな思いをしているからでは無い。
「ほら、早く立たないと次のを使っちまうぞ?」
「……丁度マッサージしてほしかったんだ、浮気しないでくれよな?」
彼女の苦しそうな顔を見るだけで胸を抉られるような気分になるし、どうにも開放させれない自分が許せないのだ。
こちらが膝を着いたままでいると、男はそう言って指を鳴らす。
大人しく立ち上がるとただ自分に意識を向けさせるしかできなかった。
「あーそうか、なら後で料金を貰わないとなぁ?」
顔を殴られ転ぶ間も無く胸倉を掴んでから、頭突きをされる。
それからはただひたすらにやられ続けた。トラストにも俺にも確認することは無く、鬱憤を晴らすかのように。
だが、必ずすぐに立ち上がった。そうしなければ彼女に矛先が向くというのもあるが、それ以上に殴られていないと自分が許せなかったのかもしれない。
たまに視界に入るトラストは、目を逸らすこと無く俺のことを見ていた。
「っ、くそ!」
「やめな」
暫くすると見飽きたのかここに案内した女が制止してくる。
男は胸倉を離すと角材を拾い上げて壁に凭れに行く。
「これじゃ折角のイケメンが台無しじゃない……」
支えを無くしてバランスを崩した俺はゆっくりと倒れ込んだ。
意識は朦朧とするし視界はだいぶ滲んでボヤけている。
女は隣にしゃがみ込むと、上体を起こしながらハンカチで傷を優しく脱ぐった。
尋問で使われる飴と鞭という物か。
話に聞いているよりも自分には効果が無く少し安心する。
「ほら、彼女さん泣いてるよ?早く白状したら?」
女はトラストを指差すと指差しながらそう言うが、視界がボヤけて本当にそうなのかも確認できない。
本当だとしたら、なぜ泣いているのだろうか。分からないのは単に思考もおぼつかなくなっているからだろう。
「助けて!」
だが、唐突に頭の中に声が聞こえた気がした。
たった一言だけだが、トラストの声に非常に良くに似ている。しかし、誰も声に反応する気配は無い。
「そういえば、彼女さんとはキスしたのかしら?」
「ブスとする趣味はねーよ!」
女は嘲笑しながら顔を近づけてきたが、気付いたら力いっぱい頭突きをしていた。
「っんの野郎!優しくしてやったら調子に乗りやがって……っえ?」
そして、仰け反り汚い言葉遣いになった所へ思い切り蹴りを入れる。
なぜかは分からないが身体が軽く、無限に力が湧き出てくるのだ。
「今更かよ……だが、都合はいい」
立ち上がって女を見ると、不意なことに受け身を取れなかったのか、倒れ込んだまま気絶している。
「て、てめぇ!ただで済むと思うなよ!?」
角材を持っていた男は状況を掴んだようで、そう叫ぶと単調に角材を振りかぶって突っ込んできた。
今はその姿にハエが止まりそうな程遅く見える。意識が回復したどころか、むしろ知らない何かが覚醒した気がする。
「俺に散々手ぇ出しやがって……殺してやろうか、あぁ?」
そんなゆっくりとした攻撃が通用する訳もなく、軽く頭を下げ相手の脇下を通るようにクロスカウンターを顔へ叩き込んだ。
男は顔を中心に半回転して地面に叩き付けられ、意識を失う。しかも、都合の良いことに腰に挟んである拳銃が見えてそれを抜き取る。
「止まれ!女がどうなっても……」
「許可無く喋るな、耳障りだ」
まだ残っている三名ほどの男達はトラストの後ろへ回ると拳銃を突き付けて叫ぶ。
しかし、どうもおかしい。何も感じれない。普段なら大人しく武器を捨てる筈だが、むしろ拳銃を相手へ向けている。
再現無く怒りが湧き出てきて、本当に人を殺してしまうかも知れない。
「三秒やる、俺のもんから離れろ」
ただそう言うのが限界だった。
勿論男達は動く気配を見せない。
「……仕方ないか」
「っぅ……」
一言呟いてから放たれた弾丸は六発。二つはトラストを拘束する縄へ、一つはトラストへ向けられている拳銃に。残りの三発はトラストが倒れ空いた空間の先にいる、男達三人の右肩へ吸い込まれて消える。
「っ片桐……?」
拳銃を捨ててトラストの元まで歩いて行くと、彼女は動揺した様子で名前を呼んだ。
しかし、それに返事をする気分にはなれずに転がっている男達から拳銃を剥ぎ取り、その内の一丁をトラストの元へ放る。
「自分の身くらい守ってろ」
トラストは困惑したまま拳銃を拾うと、身体が痛むのか顔を顰めながら立ち上がった。
俺は両手に拳銃を握りトラストを待たず部屋を出て行く。
外には銃声を聞いたであろう覆面の連中が三人ほど構えており、一斉に撃ってくる。
「邪魔をするな!」
その後のことはハッキリとは覚えていない。弾丸を弾いてから次々出てくる相手を制圧し、道の安全を確保していったことは覚えている。
もう一つ覚えていることを挙げるならば、無意識の内に全て終わらせたことだろう。
「ん……?」
目が覚めると見覚えの無い天井があった。
周囲を見渡すと特にこれといった特徴の無い、ありふれたシンプルな部屋と自分の腕に繋がった点滴、枕元で伏せて眠るトラストが居る。
俺は何でこんなところに居るのだろう。”助けて”と聞こえた辺りから記憶が曖昧で、今ここで寝転がっているという実感も湧かない。
「っうぐ……」
起き上がろうと力を入れると、全身が悲鳴を上げた。
筋肉もそうだが、両腕は軋み骨が折れているのが分かり、腹部や膝には撃たれた後の痛みがある。
一体何があったのだろうか。
少なくとも生きてはいるだろうが、ヒルダに起こされた時のように思考がボヤけている。
「……トラスト、いつまで寝てんだ」
とにかく今は情報が欲しく、揺すったりはできないが声を掛けた。
トラストも音に敏感になっていたのか、特に苦労する事なく目を覚ます。
目をこすり寝ぼけた様子で顔を上げると、こちらを見て動きが止まった。まるで夢でも見ているかのような、驚きと喜びが一緒になった表情だ。
「おはよ、朝は……」
「片桐、あぁ……夢じゃない!」
「お前……」
軽口を叩いてやろうかと思っていると、突然頬をペタペタと触られ、挙句には安堵の息を飲みながら胸に顔を伏せる。
死んでた訳じゃないってのに、リアクションが濃過ぎるだろ。そんなに心配されてたのかと思うと少し嬉しいが、むしろこちらが心配になる。
「私がどれだけ心配したと思ってるんだこのバカは……」
「え?」
すると、トラストは顔を上げていないのにハッキリとトラストの声が聞こえた。
思わず間抜けな声を出してしまったが、トラストがまたも驚いた様子で顔を上げる。
「もう聞こえるほどに私は信用してしまったのか?」
「何だそれ、腹話術の練習でもしてたのか?」
顔を上げたトラストは一切口を動かしていないのに、やはり声だけ聞こえた。
意味は分からないが腹話術でもしているのだろう。
「私は……ちゃんと、責任を取ってくれよ」
トラストは迷うように何かを言おうとしたが、口を開くとそう言って頬に右手を添える。
トラストの体温はとても高く、少しばかり心地良い。今何をしようとしているのか、それを考えられないくらいに。
「片桐……これはお前にとっての初体験になるか?」
「何を言ってんだよお前……」
トラストは額を重ねると、頬に添えられた手の親指で俺の唇に触れる。
まさか、本当にキスをするつもりなのだろうか。だとしたら落ち着かせないといけない。理由は分からないが興奮しておかしな行動をしてしまえば、後々後悔するだろう。
「分かっているんだろ?正直なお前の考えを見せてくれ……」
だが、トラストは口を開かずにまた声を頭の中に響かせる。
正直な俺の考えと言われても、キスされそうなことに対しての感想を言えばいいのだろうか。
嫌だとは言えないが、少なくとも恋人でもない相手に急にするような行為では無いだろう。
「愛の告白は男からする物だからな……お前がしてくれるならいつでも受ける」
「お前、俺の考えが……!」
トラストはこちらの考えていることに対して返事をしている。
そしてそれに気付くと口元を緩ませて、唇を重ねた。
トラストの唇は柔らかく、そしてわずかに震えている。それが分かると、トラストも可愛いものだと思う。怖いならやめておけばいいのに。
「っ、返事は、また今度でいい……エルを呼んでくる」
少ししてトラストの唇が離れると、赤らめた顔を逸らしてそそくさと部屋から出て行った。
不快に感じたりあまり抵抗したなかったのは、単に思考が鈍ってるからだろう。
「愛の告白……ねぇ」
恥ずかしい台詞を真顔で言えるのに、実際行動すると恥ずかしくなって逃げ出す。
その姿を思い出すのを最後に、また意識は深い闇に吸い込まれて行った。
「本当に起きてたんだ……!」
「ここ最近付きっ切りだったでしょ?いい加減休まないと」
また声が聞こえる。しっかりと意識はあるのに身体が動かない。
トラストは思考を読めるから気付いてくれるだろう。
「……そう、だな」
しかし、トラストは疲労がどっと現れたようで呟くと、足音が遠ざかり扉は開いてすぐ閉じた。
何とかしてエルに起きてることを伝えないと、また暫くこのままにされるだろう。それだけは避けたいのだが、自分には何をすることもできない。
「……僕の話も最後まで聞かないで、また会ったらこれだもん。ずるいよ、君は……」
トラストが居なくなったのを確認したのか、エルは唐突にそう言って手を握る。
そういえば電話のせいで話を止めてしまったのか。一体何を言おうとしていたのだろう。
「僕ね、やっとやるべきことが分かったんだ。過去を見て立ち止まるんじゃなくてさ、君みたいに前へ進みたい」
エルは何を言っているのだろう。こんな男を目標に生きて本当に満足なのだろうか。
希望に満ちた言葉は、いずれその姿を変える。
「そうしたら、幸せな人生になると思うんだ。だから、さ……早く起きてよ……」
胸にエルの顔が乗っかり、すぐに服が濡れてやっとエルが泣いていると分かる。
自分が寝ているあいだに何があったのだろう。過去はキンジさんのことか、はたまた別のことなのか。
いずれにせよどうも暫くは元気で居てやる必要があるみたいだ。
「……仕方ねーから起きてやるよ」
すると、不思議なことに声を出せた。指は動くし目も開けれる。
エルは急いで顔を上げると、腫らした目でこちらをじっくりと見た。
こんなの見せられてゆっくり寝転がっては居られない。
体のあちこちが酷く痛むが、無理矢理上体を起こしてエルを見やる、すると。
「う……片桐、僕は……!」
「っ……仕方の無いお子様だな」
エルは抱き着き、まるで本当の子供のように泣きじゃくった。
抱き着かれた際に痛みから声を出しそうになったが、奥歯をしっかり噛み締めて殺すと、小さく呟く。
エルは構わず泣き続け、暫しの間だけ身体を貸してやる。
エルが泣き止むのは思っていたよりも早く、体感では一分ほどで終わった。
「……ご、ごめん」
エルは一段落ついたのか離れると気まずそうに呟いて背を向ける。
こちらもそのような反応をされると少しやりにくい。
「元気になってくれりゃそれでいい」
ただ先ほどのこともあってか、妙に気を使ってしまうのは仕方ないことだろう。
エルもそのおかげか、小さく頷くと涙を拭って笑って見せた。
「コホン……僕から君にお願いがある」
そして改まって咳払いをすると神妙な顔付きでそう言う。
一体重体の患者に何をお願いするというのか。
小さく首を傾げると、エルはハッキリと宣言する。
「僕と、付き合ってほしい」
「ユニークなジョークだ、そういうのはせめてヒルダくらいに育ってからしないとつまらないぞ?」
やはりエルはバカなのだろう。
それがよりバカらしく聞こえるのは、既にトラストからも同じようなことをされたからだ。
患者を元気付けるならもっとマシなジョークにしとほしい。
「……あ、失礼な!僕だって多少は……って違う!本気だよ、証明もできる」
エルはやはりバカなようで、どこがとは言っていないが何かを思い付いて胸を隠した。
だが、今日は少し様子が違う。
すぐ話をもとに戻すと、また真面目な顔でそんな事を言うのだ。
「じゃあ今すぐ外科医の先生の所行って、頭のネジを代えて……」
「真面目に聞いて」
今はそんなおふざけに付き合う気分じゃない。適当にはぐらかして終わらせようとすると、言葉を遮ってエルは俺の口を抑える。
「僕は、君が好きみたいなんだ」
彼女の真面目な顔が、目に焼きついた。
予定していた次回作の投稿ですが、事情により先延ばしになりました。
予定が狂いまくってて申し訳無いです。