円卓の武偵   作:もこー

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はい、one side loveも終わり、現在書いているのはこちらのみとなりました。
とりあえず書き溜め分はまだあるので、その辺はどうにか……したいなぁ←


覚めぬ夢

 目が覚めたのはヒルダの背中でのことだった。ヒルダの体温は暖かく、まだ寝ぼけている頭でなぜこうなっているかを思い出す。

 理子が内通者だと推測を立てて戦ったが、結局負けてヒルダに助けられたのか。

 そこまで考えてからなんとも言えない気まずさから、起きたことを伝えられなかった。別に本人とは言ってないが、好きな人が居る。なんて言葉を笑顔で言われたら誰でもこうなるだろう。

「……」

 このまま背負われているのもまた気まずく、起きたことを伝えようと口を開いた。しかし、そこから音が漏れることは無い。頭では話せるのに、まったく脳が腹に力を送らないのだ。

「……あら、今回は早いのね」

「……」

 ただ、そうしようとしているのは伝わったようで、ヒルダの横顔が目に入る。記憶が飛ぶのを前提にああ言ったのなら、これは知らないフリをした方がいいのだろう。意識してしまうのは仕方ないが、声が出せないなら悟られることも無い。

「声が出ないのかしら?副作用にも種類があるのね」

 ヒルダはこちらが口をパクパクしていると、察してくれたようで前を向き、少しして立ち止まる。

「一応訊いておくけど、覚えてるかしら……?」

 そして記憶の有無を確認した。

 どうせ自分で歩けるかの確認だと思っていたが、不意な質問に思わず心臓が揺れる。相手の背中にそれが伝わっていないか心配だ。

 ヒルダの顔が此方に向く。

「……」

「……そう、貴方って意外に嘘つきなのね。自分で歩きなさい」

「っ!」

 首を横に振ってなおも、鼓動は高鳴り続けてしまい、案の定バレてしまった。

 ヒルダは急に手を離すが、あらかじめ言われていたからといって、着地できるものじゃない。受け身を取れずに背中から落ちると、相変わらず声は出ないまま、痛みで悶える。

「嘘をつくなら上手につきなさい。私ちょっと傷付いたわ」

 ヒルダはこちらに手を差し出すと、そう言って顔を逸らした。

 ヒルダの考えていることは分からない。ただ俺が分からないだけなのか、上手く隠しているからなのか。ただあまり嘘は付かないとうことは知っている。何かを隠す時は、それについて極力話さないようにする女だ。

 少し罪悪感を感じながら、ヒルダの手を握る。

「そういえば、声が出ないのよね……私喉が渇いたの、いいわよね?うん、ありがと」

 手を握ってわざとらしく声が出せないのを確認したヒルダは、こちらに顔を向け倒れ込んできた。思わず抱き留めてしまうと、ヒルダは満足気に笑みを浮かべて首に両腕を回す。

 断ることは愚か抵抗もできないのは自分が情けなく思う。三人が自分の気持ちに向き合い覚悟を決めたのに、自分はまだまともに考えることもできない。今のこれを嬉しく感じる反面、他の二人に悪い気もする。

「他の人のことばかり考えて、私とても悲しいわ。誰も来ない内に私だけの物にしちゃおうかしら……」

 そんな気持ちが表情に出て居たのか、ヒルダは拗ねたように視線を逸らすと、そんなことを言ってこちらに視線を向ける。

 忘れてはいけないのが、ヒルダは理子と長い間一緒に居たということ。何をするか分かった物じゃない。

 そう思ったのも束の間、ヒルダは不意にこんなことを言い始めた。

「貴方は今感情が昂ぶってるから、後は私を強く想うだけでいいのよね?私だけ、ガウェインの貴方を見ていないのは不公平よ。だから……ガウェインになったら一つだけお願いを聞いて」

 ガウェインになる、というのはあの強化された時のことだろう。しかし、そうなった時はほとんど自分の意識が反映されない。だから約束をした所でどうにかなる物ではない筈だ。

「あまりこういうことはしたくないけれど……今回だけは、許してね」

「な、何を……」

 ヒルダの言葉は何処と無く甘い香りがする。声に匂いは無いというのはそうなのだが、頭の中に心地よく入り込み、痺れさせて行く。

 やっと声が出たかと思うとすぐこれだ。身体は変な痺れ方をして動かせないし、頭の中では少しずつ考えることが減らされる。

 これが催眠術だと気付いたころには、ヒルダの身体が暖かく気持ちいいという感覚以外無くなっていた。

「催眠術よ、ちゃんと練習しておくと、こういう時にも役に立つのね。録は私のこと嫌い?」

 ヒルダは自分から催眠術だと教えると、貴方でも片桐でもない、録と呼んだ。

 ヒルダが嫌いな訳が無い。普通に楽しいし、親しいという意味合いなら多分一番の人だろう。今は少しおかしいからか、トラストとエルでは感じなかった少し甘い、女性のいい匂いもする。

「嫌いな訳ないだろ」

「そう……じゃあ、約束は守ってね?」

 ヒルダは少し残念そうに呟くと、唇を重ねた。今はヒルダしか見えないせいか、唇の柔らかさや温度、ヒルダの一つ一つが明確に頭に彫り込まれる。

 これは、卑怯だ。

「っ節操の無い女だ……どけ」

「でも、気持ちよかったのでしょう?」

 半ば無理矢理意識が覚醒するとヒルダの肩を押し返して呟く。ヒルダは頬を緩ませクスクスと笑うがどこうとはせず、むしろ腕に力を入れられガッチリと捕まえられる。

 ガウェインの時でも力で勝てないとは、一体何をしたらそんなに力が出るのやら。

「否定はしない。だが、節操の無い女は好みじゃない。女はもっと硬派であるべきだ……そう、天塚がいいな」

 なぜ天塚が出てきたのか自分でもさっぱり分からない、むしろ二度と顔も見たくなくらいだ。自分で制御できないにせよ、これは酷い。

「そうよね、だって貴方はガウェインだもの……私も貴方は好みじゃないわ。そうね、片桐がいいかしら」

 だが相変わらずヒルダの言葉は達者で、不機嫌そうに返すとあっさり離れて立ち上がり、こちらも立ち上がる。

「片桐が身勝手な男だとこうなるのね。まぁ、いいわ。約束は守ってくれるんでしょ?」

 ヒルダが少し怖く見えたのは最初に見た時だけだったが、今はなぜか恐怖が先立つ。恐らくこれが本来のヒルダなのだろう。

「俺に何をさせたいんだ?さっきの続きでも……」

「私が許可するまでは私に従いなさい」

 その怖さの原因が分かった時には、もう遅かった。

 俺は、いやガウェインがそれを拒否せずにヒルダを睨み付けると、彼女は薄ら笑いを浮かべる。

「まずは確かめさせて貰うわよ?跪きなさい」

「お前……!」

 ヒルダの言葉に逆らえず、反射的に膝を地面についた。

 本当に意味が分からない。確かに自分の意識が反映されにくい状態なのは知っているが、こんなことになると誰が思う。いや、ヒルダだからやろうとしたのだ。

「やっぱりそうなのね……ガウェインはただの二重人格、条件を満たして出てくると必ず何かをする。例えばトラストを助けるなら助けるし、エルを守ろうとしたら守る。理子を追い詰め時に頭が働いたのは、まだ守るっていうのが続いていたから。そして、貴方は目的を果たすと片桐に戻るのだけれど……私が許可しないと戻れないのでしょう?」

「……」

 ヒルダの言っている意味は、嫌なほど明確に理解できる。恐らく、今の推測は完全に当たっている筈だ。跪いたまま立ち上がれないことが、全てを物語っている。

「ふふ……私だけの片桐にすることもできるのかしら?」

「糞みたく汚い女だ、恥を知れ」

「冗談よ、貴方はガウェインでしかないもの……ごめんなさい。片桐はちゃんと意識があるのでしょう?質問には正確に答えなさい」

 完全に支配されているという恐怖は想像以上に怖い。今のヒルダは余計に怖く見えてしまうのだから、信じるに信じれない。

「意識は常にある。だが俺とは共有できないし、基本的に知能やらは俺がベースだから、トラストへの信頼の無い俺は気持ちを伝えれない。これで満足かよ……」

「とっても満足よ?立ちなさい、そして私と行動を共にすることを命ずるわ」

 ガウェインは何かを察して諦めている。いや、本当は自分も分かっているが、そう信じたくないのだろう。

「理子と合流して帰るわよ」

 その瞬間、人を信じることのバカらしさを再確認させられた。

 

 ヒルダは指示を出すと、さっさと来た道を引き返し、俺の身体は勝手にその後ろをついて行く。理子も最初からこういうつもりで、芝居を打っていたのだろうか。

「それにしても、本当に性格が違うのね?トラストから聞いていたけれど、まるで別人みたい」

「そうだな、思考や感情だけじゃなく神経の伝達速度まで違う、痛感や経験を除けば本当に別人だからな」

 ヒルダは興味があるのか、ガウェインに質問をする。いや、これはしなきゃいけないから、なのだろうか。どちらにせよ、ガウェインは先ほどの”質問には正確に答える”を破れずに、ちゃんと全て話した。

「痛感や経験……なら、なるべく大切にしないとね?片桐が痛い思いをしちゃうのは不本意よ」

「俺はいいのかよ……顔と声が一緒なら変わらないだろうに」

 ヒルダが部屋に入ると理子は気絶していた筈なのに、すんなりと立ち上がって俺の荷物を回収する。

 もはや何のために回収しているかも分からない。いや、考えたくないのだ。

「ヒルダ、本当に……」

「理子、私は選んだのよ?そういうことを言われると、まるで私が後悔しているようで格好悪いじゃない」

 ただ、理子はあまり良く思っていないようで、落ち込んだように視線を落とす。これは計画では無かったのか、だとすればヒルダは元々仲間ではないか。情報も少なく、考えても今の自分では答えは出ない。

「ガウェイン、貴方と交換でキーくんとアリアは解放されるの。利用してごめんなさい……全て終わった後で殺しにきても責めないから」

 理子はこちらを見ると、ヒルダの時とは違い覚悟を決めているのがハッキリと分かる、強い眼差しでガウェインにそう言う。

 やはり二人は俺を捕まえるために利用されているのだろうか、姉貴はキンジのHSSにも対抗できると言っていた。簡単な話だが、自由に操作できるキンジと考えてしまうと、分かりやすく兵器だ。戦争を起こすことも止めることもたやすいだろう。

 キンジはアリアが居ないとできないのに対して、俺は常時そうなのだから利便性が違い過ぎる。

「終わった後で片桐がお前を許せないなら、自然と殺すことになる。もちろんヒルダもな」

 ガウェインは理子の質問に対して答えながら、ヒルダの様子を見ていた。理子は小さく頷いただけだが、ヒルダは一瞬顔をしかめてすぐ元に戻す。ガウェインは何を考えているのだろうか、本当に殺してしまいたいほど憎いのか。

「……じゃあ行こうか」

 理子はヒルダとアイコンタクトを取ると、そう言って窓ガラスを割り出て行く。トラストが気付いて行動を起こすのは早く、その後すぐに階段を駆け上がる音が聞こえた。

「後悔してるならやめりゃいいんだよ、バカが……」

「っしてない。トラストを気絶させなさい、そしたら理子と合理するわよ」

 ガウェインは踏ん切りが付かずに理子を追えないヒルダを見て、そう言うと深いため息を吐く。しかし、その言葉は説得というよりも、背中を押してるようにも聞こえる。

 ヒルダは足音が近付く前にガウェインに指示を出すと、自分だけ降りて行った。

「片桐っ!」

「頼むぞアーサー、あまり遅いと……ランスロットの野郎みたくなっちまうからな」

 トラストは直剣を構えて入ってきたが、こちらを見た途端剣先を下げる。何があったのか理解できていないのと、こちらからトラストに思考が伝わらないことが原因だろう。

 ガウェインは頭を抑えてトラストに歩み寄り、疲れたようにそう言った。

 トラストは相変わらず困惑した様子で、ガウェインが目の前に立つと剣先を床につける。

「お前……」

「許せ」

 トラストが察したようで何かを言おうとしたが、ガウェインはそれを遮って呟く。トラストは防ごうともせずにガウェインの拳を鳩尾に受け、こちらに凭れるように気を失った。

「これで俺も、裏切り者か……」

 ガウェインは呟きトラストをゆっくり横にさせる。その言葉の意味は、円卓の騎士にしか正しく理解できないだろう。なんとなく羨ましく思った。

 トラストを少し眺めると、割れた窓に視線を移し、さっさと飛び出して行く。

 今更になってどんな家か分かったが、普通の二階建て一軒家で、庭には花壇いっぱいの花が咲いていた。塀の裏からエンジン音が聞こえるため、ヒルダ達が待っているのだろう。

 敷地から出ると赤いスポーツカーがあり、ミラーには無表情のヒルダが映っている。理子が何処に居るかは知らないが、とりあえず助手席に入った。

「拠点へ真っ直ぐ向かうわ。ここからなら三十分程度だから、寝ててもいいわよ」

「……残念だが、俺と俺の中の奴は寝れるような気分じゃない。仲間を裏切った直後だからな」

 乗ってすぐ話しかけられ、シートベルトを閉めたのを確認されると、車は発進する。見た目はスポーツカーに見えたが、エンジン音はあまりうるさくない。

 そうして少し間を開けて、ガウェインは小さく呟く。相変わらず、ガウェインはヒルダの顔をさり気なく確認しており、動揺を悟らせないための無表情だと、すぐに分かる。

「ごめんなさいね、私も心が痛むのよ?」

「へぇ?化け物にも痛む心があったのか、そいつは驚きだ」

 ヒルダは普段通りの言葉で返事をしているが、対するガウェインは酷く汚い物だ。吸血鬼であることをそう言っているのだろうが、いくらなんでもこの言い草は許せない。

 いや、なぜ許せないのか。裏切った相手にまだ未練があるとは、我ながらやはりバカなのだと自覚する。

「……なまじ知能があるから、仕方ないわね」

 ヒルダは表情を変えないようにしていても、口元が僅かに震えているのが見える。しかし、それが怒りなのか悲しみなのかは分からない。

 ガウェインは返事をせず、少しして話し始める。

「にしても、片桐は今の俺の言葉を批難してるだろうな、やめと……」

「いい加減にしなさい!」

 ガウェインの言葉は途中で遮られ、ヒルダの怒鳴り声が車内に響いた。ヒルダが声を荒げるのは始めて聞くが、驚くよりも不安な気持ちになる。

 それはヒルダの声が、酷く悲痛な物に聞こえたからかもしれない。

 ガウェインの口元が緩むのを感じる。

「何を怒ってるんだ?ただの会話じゃないか。片桐は優しいよなって、そう思うだろ?」

「っ……」

 今になりようやくガウェインの目的が分かった。ヒルダはまだ迷っている。その迷いに亀裂を生むために、先ほどから露骨に俺を話に入れているのだ。

 案の定ヒルダは更に悩み、感情的になってしまう。そこで更に一押しすれば、もしかしたらヒルダは考えを変えるかもしれない。

「貴方はガウェインよ、片桐じゃない。何が分かるの?今更になってまだ許されると思うほど、私は甘くないの」

 ヒルダは普段通り言葉でどうにかしようとしているが、明らかに感情が目立つ。そして何よりも、ガウェインに黙るよう指示しなかった。

「逆に聞くが、お前に片桐の何が分かる?俺は常にこいつと一緒だ。何を喜び何を嫌い、何を思うか……俺は分かるが、お前みたいな逃げてばかりの女じゃ、分からない。滑稽だな、いや、哀れか?自分の意思を捻じ曲げてでも助ければ、誰かに許して貰える。だが……片桐はどうだろうな……今は仕方ないと許していても、これから物のように扱われて死んでいくかも知れない。死ぬ間際には誰の顔が浮かび、同時に誰を呪いながら死ぬか、ははは、傑作だ!それを想像してもなお……」

「黙りなさい!……彼の声で……やめてよ」

 ガウェインの言葉はナイフのように鋭く、心を狙い何度も振り回され、酷くヒルダを傷付けただろう。

 ガウェインはヒルダを見ていないが、泣いているのは声の震えで容易に想像がついた。

 指示をされたガウェインはそれ以上は何も言えず、ただ信号が赤に変わるのを見る。

「うっ……く……」

 それと同時に声を堪えて泣くヒルダの声が聞こえ、ガウェインはそちらを向いた。

 ハンドルに左手を添えたまま右手で口を抑えたヒルダは、とても幼く見える。感情が理性を上回っているのが分かり、きっとそのせいだろう。

 自分の意思とは別に酷く胸が痛んだ。

「……」

「貴方は、違う……やめ、なさい」

 ガウェインは黙ってヒルダの頭に手を乗せ、それをゆっくり動かす。

 ヒルダは口に添えていた右手で払い除け、嗚咽に邪魔されながら新しく指示を出した。

 先ほどの痛みはガウェインの物だったのか、それとも自分の意識に作用されたか。それは分からないが、ガウェインの行動はとても以外だった。

「片桐ならしただろ?……へぇ」

 一言だけつい口に出してしまったのだろう。しかし、それ以降は聞こえないよう呟く。やはりこの男の痛みとは考えられない、先ほどの痛みは俺の問題だったのだろう。

「うるさい……話しかけるな」

 ヒルダは自分が落ち着くのに必死で気付いて無いようだが、この情報はガウェインにとっては美味しい物だ。

 逃げる算段を得ながら、落ち着いたヒルダと共に目的地へ車は走る。




とりあえず、新作について考えてる最中なので、その辺りはどうなるか分からないです。
多分……恋愛バトル系かな?

多分……多分だよ多分。
でもまぁ、シリアス物が好みなので、シリアス成分は入ってくるかと。
というわけで、また再来週に
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