円卓の武偵   作:もこー

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すいません、予定していた日付から大きく遅れてしまいました。
しかもまったく続きを書いていないという酷い有様……
言い訳はまた活動報告にて……


アーサー

 車は街中を抜けると山道へと入って行く。その間、二人は言葉を交わすことは無い。

 山道に入って少しした所でそれなりに開けた場所に出る。そこには不自然なほどビッシリ車が停まっているため、目的地だとすぐに分かった。

 こちらの車が近付き減速すると、すぐに緑の軽自動車が一つ出て行く。よく見るとだいたいの車の運転席には人が座っていた。

「ここでお別れね」

「ふん……」

 ヒルダは空いた空間に車を停車させ、普段通りの口調でそう告げる。現実味が無いせいか、いまだに自分が取引の材料にされているとは思えない。

 ガウェインは、不機嫌そうに鼻を鳴らして一人外へ出る。すると、見覚えのある顔が幾つか見えた。

 遠山夫婦と三人の男を従えて、茶褐色の鞘に収められた剣を片手に、前髪を弄る咲倉と、それと対峙する理子の姿。人質の交換とはこういう物なのか、何度か阻止したことはあるが、当事者の気分は最悪だな。

「あぁ、ロウ!お姉ちゃんずっとこの日を楽しみにしてた……これからは私達が守ってあげるから」

「片桐……」

 咲倉はその姿を確認した途端前髪から手を離し、嬉しそうに手に握る剣を抱きしめる。アリアは顔を伏せて、思い詰めたように眉を顰めた。

「人質の交換だよ、まずは二人に使った毒の特効薬を渡しなさい」

「こんな物はもう要らないからいいよ、早くロウをちょーだい?」

 理子はこちらを確認して咲倉と交渉を開始したが、咲倉は何のためらいも無くその材料をアリアに渡す。注射器に見える物と、それ用の薬のパックだ。

「ここまで有利な条件で、わざわざ君達を疑う気は無いから。この引換券もどうせ道具でしかないんだし」

 しかも、それだけ言うと二人を理子の方へ向かわせる。この状況は、遠山夫婦をさっさと渡していいと判断できるほど、彼女に有利なのか。停められている沢山の車には火薬でも入っているのだろう。

「ガウェイン、これからはあの女に従いなさい」

「……っ!」

 車からやっと出てきたヒルダは、簡単に指示を出して戻ろうとした。

 だが、ガウェインはその肩を掴むと、手加減せず殴り倒す。拳には嫌な感触が残り、殴り倒されたヒルダは、血を吐き捨てのそのそと立ち上がる。

「少しはスッとしたから、殺すのは勘弁してやる。二度と俺の前に顔を出すな」

 ガウェインはそう吐き捨てて、咲倉の元へと歩き出す。自分の中にある複雑な気持ちは、ガウェインも感じているのだろうか。

「あまり女の人に手を出しちゃダメだよ?男の人は紳士じゃなきゃね」

「化け物相手に情をかけるのはバカのすることだろ、俺は賢く生きる」

 理子や遠山夫婦を越えて咲倉の所に着くと、甘えるように腕に抱き着かれる。好意がこんなに鬱陶しく感じるとは、思わなかった。

 ヒルダは無言で車に戻りさっさと発進させ、理子達も追うように白い軽自動車に乗り込む。これで本当に交換は成立したのか、実感がまったく湧かない。

「……ガウェイン、私の指示には従うんだよね?」

「要件を言え、そしてさっさと済まして解放しろ」

 理子達を乗せた車がどこかへ行くのを確認すると、咲倉はすんなり離れて剣を差し出してきた。ガウェインは回りくどいのが嫌いなようで、それだけ言うと剣を受け取る。

「うんうん、君は話が早くて助かるよ。アリアを殺すのが目的なんだけど、まずはガウェイン自身に力を付けないとキンジに勝てないんだよね。だから、少しずつ強くなって貰うの。それだけ」

 咲倉はとても簡単そうに言うと、頬を緩めて笑って見せた。しかし、目的と手段が明らかに一致していない。アリアを殺したいなら、捕らえていた時点でやってしまえばいいはず。いや、そもそもアリアを殺すのは手段でしかないのか、まだキンジに勝てないということは、勝てるようにすることが目的とも言える。

「それで、アリアを殺した後は解放されるのか?まぁ、ありえない話がだがな」

 ガウェインも同じことを考えたのだろう。キンジに勝てるような力を手にして、そこから何をやらされるのか。もしも、この女が言っていた俺を守る、というのが目的が本当ならいいが、そうじゃないとすれば本当に自殺を考える。

「やっぱりガウェインは賢いね。まぁ、そこから先はあの人に会ってからだね」

 あの人とは何者なのか、てっきり咲倉が主犯だと思っていたのに、上の人間がいるねか。

「あの人?」

「会ってからのお楽しみ」

 ガウェインの質問には回答が無く、それだけ言うと青のスポーツカーに乗り込む。後ろに付いていた男達も、それに従うようにそれぞれの車に姿を消して行く。

「逃げる隙があればいいが……俺は誰を殺してでも生き残る、それだけ覚えとけ」

 ガウェインは小さく呟くと咲倉の乗った車に乗り込んだ。今の言葉は、俺に対しての言葉なのだろう。生きるという目的のためなら手段を選ばない、それはつまり、アリアを殺すことも厭わないということ。わざわざ伝えたということは、本当にその気なのだろう。

「ガウェインはビックリすると思うなー……どういう反応をするか楽しみだよ」

 咲倉の車内には、よく分からないオーケストラの音楽がかけられている。そういった物には興味が無いが、生で聴いている訳でもないのに、不思議と引き込まれた。

「お前と会話を持つ気は無い、指示がないなら口を開くな」

「じゃあ最初の指示ね、私やその仲間への攻撃の禁止、それと、私以外には従う必要は無い。これが貴方を長生きさせる最良の手段だよ」

 ガウェインは相変わらずイライラした様子で、露骨に嫌そうな返事を返す。すると、咲倉は意味深なことを言った。

 長生きさせるということは、死ぬ予定があるのか、それとも、逆らうなら殺すということか。どちらにしてもあまり嬉しい情報じゃない。

「俺を守ってくれるんだろ?」

「害になるなら無理かな、私はそうしたいんだよ?」

 ガウェインが落ち着いているのが異様だった。心拍は安定しているし、視野は特に定めず眺めているだけだと分かる。どうなるか分からないという恐怖は彼には無いのか。

 組織の内情を探るような言葉にも、咲倉は動じず普通に答えた。

 なぜか二人が別の世界に居るように感じる。自分とは、明らかに離れた存在だと分かっているからだろう。

「まぁいいか……ガラティーンを渡された時点で分かるさ」

 深いため息と共に、渡された剣を眺めて呟いた。ガラティーンの名前は聞いたが、ただ錆びれたようにしか見えないこれがそうなのか。もっと神々しい物か禍々しい物を想像していた。

 だが、それよりも気になるのは、ガラティーンを渡されただけで何が分かるのか、ということ。こうなるなら、トラストから詳しく聞いておけば良かった。今は何よりも情報が欲しい。

 ガウェインの呟きを最後に会話は途切れ、楽器の音だけが車内に響き続けた。

 

 理子達が出てから少しずつ停まっていた車は無くなり、俺の乗る車は最後に出発した。広間を出た車は山を下り、住宅地すら越えてどんどん都会の真ん中へ進む。

 今ごろあの四人やトラストはどうしているのだろう。エルの所で解毒できたか確かめて、口喧嘩でもしているかしれない。一方的に怒るトラストと、それを黙って聞くヒルダの姿が浮かんだ。

 これは狂人の描く絵のように、ただの空想なのだろうか。もしそうなら、そうなって欲しいという希望でしかない。ヒルダと理子を含む全員が助けにくるのだと、裏切られてなおも信じてやまないのか。

「君は神様を信じる?」

「信じない」

 そうこう考えていると、咲倉が不意に質問をしてきた。ガウェインはそれに即答すると、ビルに遮られるだけの風景に視線を移す。

 神がいるなら、今の状況をどうにかしてほしい物だ。

「私は、居ると思う。戦争を繰り返してきた人間が生き残ってきたのは、神様がそれを許さないからじゃないかなって」

「宗教勧誘なら遠慮するよ、俺は宗教が嫌いなんだ」

 咲倉の言いたいことは分からないが、ガウェインがまともに受け答えする気がないというのは、ハッキリ分かる。しかし、咲倉は構わずに話を進めた。

「なら、人類を絶滅させるっていうのは、神様を殺すことじゃないかな?」

「……戦争を起こす気か」

 咲倉の言いたいことは分からなかったが、ガウェインは咲倉に視線を移して呟く。

 戦争を起こすと言っても、それにより起こる利益は何だ。咲倉達は武器商人の集まりなのか。はたまた、ただ世界を壊したいだけの、狂人かもしれない。

「神が居ない世界では何が神になり代わると思う?それはその中で一番優れた人だよ。その人が永遠の命を持っていれば、なおさらだよね」

「俺を神にしてくれるのか?」

 咲倉の話を聞いていると、とあるビルの地下へ入って行く。ガウェインも聞く気が無くなったのか、返事はふざけているようにも見える。

「君は寿命があるでしょ?」

「寿命の無い人間なんて……まさかな、アイツは死んだ」

 咲倉の言葉はただ狂っているようにしか聞こえないが、ガウェインは何かを知っているようで、苦笑を零すと誤魔化した。

「誰も死体は見てないでしょ?君も死んでたんだから」

 まったく話が見えてこない。ガウェインの心拍数はどんどん上がり、焦りか興奮かは分からないが、おかげで思考が鈍る。落ち着き払っていたのも皮が剥がれ、分かりやすく動揺している。

「信じる信じないは自由だから 、その辺りはご自由に?どっちみち指示には従って貰うし」

 車は地下駐車場の最奥に停車し、咲倉はそう言って車外へ出て行く。ガウェインは自分を落ち着かせてから出て、待っていた咲倉と共に地下駐車場を進む。

 自分の目の前で分からない話をされるというのは、むず痒い気分になる。特にこういった状況ならなおのことだろう。

「……もし、本当にそうだとしたら、神になるっていうのもあながち不可能ではないか」

「でしょ?彼は強いからね」

 ガウェインは少し納得したようで不意に呟くと、咲倉もそれに笑って返す。地下駐車場にはその声がよく響くが、不吉の前触れのように思えた。

 二人はその後会話をすること無く”関係者以外立ち入り禁止”と表札の立っている扉を開け、目の前にあるエレベーターに乗り込む。いま落ち着いていられるのは、ガウェインが落ち着いているからだろう。普段なら心臓が太鼓のように脈打ち、バケツで水を掛けられたように冷や汗をかいていたはず。これに関してはガウェインに感謝すべきだろうか。

「謁見の間へ招待するよ、ガウェイン卿」

 エレベーターは咲倉の言葉と連動したように止まり、ゆっくりと扉が開かれる。その中央には玉座に座って足を組む男の姿があり、周囲には三人の男女がいた。タキシードを着て眼鏡を光らせる男、武偵校の制服を着てお菓子を頬張る少女、それに白衣を着た男。全ての目がこちらに向くのを感じる。

 コンクリートの広場のはずなのに、真っ赤なカーペットが王までの道を作っているように錯覚した。形容しがたい気品と、程よく重たい空気が王の威圧感を引き出す。

「我が盟友よ、待っていたぞ」

 深く年季の入った力強い声は、それを聞いただけで格の違いを明白にし、ガウェインに鳥肌が立つのを感じる。

「アーサー王か、分かりやすい……本当に昔のまま変わらないんだな」

 しかし、それを表に出さないよう無表情で呟き、広い空間に二人分の足音を響かせながら歩み寄っていく。

「お前の知らない私としては、モードレッドに付けられた古傷くらいか」

 アーサーはクツクツと喉を鳴らすと、服の胸元を引っ張って白い跡を見せた。かなりの年月が経っているのだろうが、その跡はクッキリと傷の深さを物語っている。

「……それで、死んだはずの王がいまさら俺に何の用だ?今は片桐って奴が俺の主なんだが」

 アーサーから三歩離れた場所で止まると、周囲の奴には目もくれずに睨み付けた。ガウェインは忠誠心の強い騎士だと聞いていたが、とてもじゃないがそうは聞こえない。

「話は聞かずとも分かっている。今日からはお前の身体なのだから、私の元へ戻ってこい」

「断る」

 アーサーもトラストのように心を読めるのだろうか、だとすれば咲倉から全てのことが伝わっているだろう。ガウェインもそれは分かっているだろうが、アーサーの言葉に反射的にも思える速さで断った。

「首輪を付けて制御できるほど、躾をされてないんだよ……俺を手元に置いたことを後悔して死ね」

「ふむ……暫く見ない内に口が悪くなってしまったな」

 ガウェインは続けて皮肉を言うと、アーサーは少し考える素振りを見せる。ガウェインは右手を痛いほど握りしめ、胸底から溢れる呪怨のような意識を息を押し殺して留めた。これが醜い憎悪だと理解するのには、少々の時間が必要になったのは、意外だったからだろう。

 ガウェインは冷静で頭の回転が良く、肉体的にもかなり洗練されている。それこそ機械のような冷たさを感じるほどに。しかし、アーサー王に対してはガウェインも人間の姿を見せた。それがどんな理由かは別として、嬉しいと思うのは異端だからだろうか。

「アーサー、ガウェインの肉体は私の弟だから、乱暴にしたら分かってるよね?」

 アーサーは考えが済んだのか、口元を歪めると腰にぶら下げている剣の柄に手を添えた。すると、咲倉が一歩前に出てそれを制止する。

 咲倉が偉いようには見えないが、アーサーは柄から手を離して肩を竦めた。

「怖いなぁ……グリフレット、彼を修練場へ案内しろ。モードレッドが帰還したら詳細を話せ」

「マーリンかランスロットにしなよー……僕が小間使い嫌いなの知ってるでしょ?」

 アーサーはクスクスと笑い、代わりに先ほどから菓子を食べていた少女を指名する。しかし、少女は他に居合わせている男二人を確認してそれを拒否した。見ただけではそんなに手強そうなイメージも無く、こんな年齢なのに王に対してこの態度。どうもアーサー王の部下達は、御しにくいらしい。

「俺達はレキを始末するんだ、代わりたいなら代わってやるが?」

「あー……パス。じゃあ咲倉かアーサーでいいじゃん」

「私達は星伽の始末、諦めなよ」

 白衣の男が簡単に仕事を言うと、グリフレットは余っている二人に標的を変えた。だが、その二人も別の仕事があり、グリフレットは頬を膨らませる。

 サラリと流されてしまったが、レキと星伽の始末とは、どういうことだろうか。二人は関与していないという話だったが、まるで邪魔になった部下の口封じのような言い方だ。

「また相手してやるから、お願いするよ」

「やだ、アーサー弱いもん」

 アーサーも困ったように苦笑するが、隣にいる先ほどから一言も話さない男に左手首を見せられる。時間が押しているらしい。なんとかお願いしようとアーサーは条件を出したが、あっさりと断られてしまった。ゲームか何かだろうが、確かにアーサーが上手いようには見えない。

「はぁ……じゃあモードレッドが来るまで、俺が相手してやるよ」

「ほんと?でも、何するか知らないでしょ?」

 見かねたガウェインは深い溜息をつくと、不意にそんなことを言い出した。ガウェインには過去の記憶があるから、どんなことをするか分かってるのだろうか。対戦型のゲームなら格闘ゲームだが、ガウェインの生きてた時代にはそもそもゲームは無い。

「じゃあ、詳しくはモードレッドから話を聞くように。またね」

 しかし、咲倉はガウェインに押し付けるつもりなのか、足早にそう言うとエレベーターへと向かった。それを合図にアーサーが立ち上がると、他の二人も並んで、いそいそとエレベーターに乗り込む。

「お前の先祖が好きだったことは知ってる。よく付き合わされたからな」

 そしてそれを確認すると、ガウェインは頬を緩ませてグリフレットの頭に手を乗せた。エレベーターは閉まり、グリフレットは嫌そうにガウェインを見上げる。

「まぁ、僕には勝てないだろうけど、遊んであげるよ」

 グリフレットは逃げるようにガウェインの脇を抜け、部屋の隅にある扉を開けると中に消えていった。

 




はい、というわけで
次回投稿は二週間後になりますよっと。
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