聖闘士星矢 古き神々の復活   作:ほろろぎ

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第一話 リターナー

 深い闇の底へ堕ちた意識が再びすくい上げられた時、彼の前には光があった。

 

「……どこだ、ここは? 聖域(サンクチュアリ)でも冥界でもないとは……」

 

 まぶたの上に刺すような陽の光を受けて、閉ざされていた瞳をゆっくりと開ける。

 頭上には爽やかな青空が広がり、太陽が燦然(さんぜん)と輝いていた。

 

 太陽が顔をのぞかせている!

 世界は、宇宙規模の日食の影響で、闇に閉ざされていたはずだったのに!?

 

 

 

 

 

 地上に邪悪がはびこる時、必ずや現れるという希望の闘士──「聖闘士(セイント)」。

 今しがた目を覚ました彼──アルデバランはその聖闘士の中でも、最高位の実力を持つ十二人の一人である。

 

 アルデバランは聖闘士、そして彼が属する聖域と神話の時代から敵対する死者の軍団──「冥王ハーデス」の一味と戦い、命を落とした……はずだった。

 

 今、アルデバランがいるのは最後の戦いの地であった、ギリシャは聖域の守護宮でも、死後に向かうはずの冥府でもない。

 地球の……地上と思われるどこかの土地の、草原の中であった。

 

 風や大地の感触、大気を流れる生命の力──小宇宙(コスモ)の流れが、彼に「これは夢や幻ではない」ということを伝えている。

 

 体を起こし、腕や足、腹に顔をベタベタと触って確認する。

 アルデバランは敵の兵士である冥闘士(スペクター)の一人の攻撃によって、意識を奪われたあとにその五体をバラバラに砕かれた。

 それが彼の魂に残る、()()()()最期の記憶。

 

 しかし今、身体にはどこにも異常はなく、ゾンビやグールといった屍人(しびと)などではない、健康な肉体をとりもどしていることを認識した。

 

「まるで、ハーデス軍との争いの前に戻ったような感じだ」

 

 戦いの中で常に共にあった鎧──彼の守護星座である牡牛座(タウラス)を模した黄金聖衣(ゴールドクロス)は、体を離れ彫像(オブジェ)の形をとり、(かたわら)に安置されている。

 まるで、目を覚ますまでずっとアルデバランを見守っていたかのように、黄金の鎧は太陽の光を浴びて輝いていた。

 

 身の回りに違和感が無いことを理解すると、改めて周囲に目をやる。

 やはり見覚えのない土地だ。

 

「ここはギリシャではないのか……?」

「そうさ、ここは()()()()だよ」

 

 独り()ちるアルデバランに応える者がいた。

 女の声である。それも非常に聞き覚えのある。

 

 それは彼の仲間のものであった。

 

「シャイナ、か──!?」

 

 金属質の仮面を被った女性の名は、蛇遣い座の白銀聖闘士(シルバーセイント)「オピュクスのシャイナ」。

 アルデバランの同胞の女戦士で、共にハーデス軍と戦った戦友だ。

 

 仮面で素顔は見えず、白銀聖衣(シルバークロス)をまとっていなくとも、特徴的な緑色の髪の毛が、彼女がシャイナであることを証明している。

 

「シャイナ、一体なにがどうなっているのだ? 俺は確か、ハーデス軍の冥闘士(スペクター)にやられ……」

「ああ。アンタは確かにその時、命を落としている」

 

 自分が一度死んだという事実を肯定され、少なからぬショックをアルデバランは受けた。

 冥王の配下──「地暗星 ディープ」の戦士の不意打ちを受け、落命したのはやはり錯覚などではなかったのだ。

 

 一筋の冷や汗が頬を伝う。

 

「では、なぜ俺は今、この地に立っているのだ?」

 

 アルデバランはシャイナに問う。

 彼女がその答えを知っているとは思えなかったが、予想外にもシャイナは答えを持っていた。

 

「本来なら、死したアンタの魂は冥府タルタロスへ堕とされていただろう。だが冥界は、星矢たち青銅聖闘士(ブロンズセイント)とアテナがハーデスを討ったことで、共に崩壊したんだよ」

「そうか……アイツらがハーデスを……地上の平和をとりもどせたんだな」

 

 感慨(かんがい)にふけるように、両の瞳を閉じるアルデバラン。

 

 聖闘士の宿敵、冥王ハーデスは神の力によって、全ての惑星を直列させるという皆既日食──「グレイテストエクリップス」を引き起こし、地上を闇に閉ざした。

 世界は天変地異に見舞われ、多くの罪なき人間が死に、ハーデスは残された地上を支配せんとしたのだ。

 

 その野望をくじくため、アルデバランたち聖闘士は自らの命をかけて懸命に戦った。

 

 青銅聖闘士とは、聖闘士の中でも最下級の実力しか持たない者たちの総称。

 その青銅がたった五人で、彼らの守護する女神であるアテナと共に、敵の神を討ち果たした。

 

 人の身で神を打倒するという奇跡を成し遂げた彼らは、いまだ地上への帰還の最中にある。

 

「その(すき)を……アテナ不在の隙を突いて、新たな敵がこの地上に攻め込もうとしているんだ」

「なんだと!? やっと聖戦が終わったばかりだというのにか!?」

 

 シャイナの言葉に、アルデバランは虚を突かれた思いだった。

 

 冥王ハーデスしかり、海王ポセイドンしかり……この地上は、遥か昔より神々の奪い合いの的なのだ。

 

 聖域と冥王との聖戦が終了し、両者が疲弊(ひへい)したこの瞬間は、地上を狙う他の神々にとってはまたとないチャンスであろう。

 

「今、聖域に残された聖闘士は、私ら白銀と青銅がわずかに数人。黄金にいたっては、アンタも知っての通り全滅さ」

「……ゆえに、俺が呼び戻されたと」

 

 シャイナはうなづく。

 ここでアルデバランは一つの、当然の疑問にたどりついた。

 

 それは、共に戦い抜いた仲間たちのこと。

 アルデバラン以外の黄金聖闘士(ゴールドセイント)十一人もまた、一人また一人と戦いの中で散っていった。

 

 彼ら黄金の十二人は肉体を失い魂となってなおも、ハーデスの元を目指す五人の青銅聖闘士を送り出すため、天界エリュシオンへの道を(はば)む壁を破壊し……完全なる消滅を迎えた。

 

「なぜ俺だけなんだ? ムウや老師、アイオリアたちはどうなっている? 彼らも同様に、地上へ戻ってきたのか?」

「残念ながら、冥界からの帰還者(リターナー)はお前だけだ、アルデバラン。他の十一人の黄金聖闘士の魂がどうなったかは、聖域でも……」

「……そうか」

「アンタだけが呼び戻された理由だが、どうやら今回の敵とお前は、ほんのわずかながら因縁があるらしい。その(カルマ)によってのことだ」

「俺に因縁だと? 覚えはないが」

「アタシも詳しいことは知らないが……なんにしてもアンタは、アテナとハーデスの協力で現世に返ってきたってわけさ」

 

 さらりと語られたシャイナの発言。

 彼──アルデバランの復活に、これまで敵対していた死の神ハーデスが手を貸したとは、一体どういうことだろう?

 

「今回の敵は、地上をただ支配することだけが目的じゃない。この世界を破壊と混沌でつつみ、死者の魂を冥界に送らず、自らの(にえ)としようとしているのさ」

「なるほど。配下が欲しいハーデスにとっては、その(みなもと)である死者を横取りされてはかなわんということか」

「ああ、利害の一致ってやつだね」

 

 これまでの会話で、おおよその事態を把握(はあく)したアルデバラン。

 ならば、これから成すべきことは一つだ。

 

 この地上の平穏を守ることこそ、彼ら聖闘士に課せられた、ただ一つの使命。

 

 アルデバランはシャイナが持ってきていた私服に着替え、聖衣を持ち運ぶためのパンドラボックスに収納すると、二人はすぐに敵の待つであろう地へと向かった。

 

「その敵とやらは、このアメリカにいるのか?」

 

 常人を(はる)かに超える速度で地を駆けながら、アルデバランは並走するシャイナに問いかける。

 

「アメリカのマサチューセッツ州を中心に暗躍している、謎の集団がいるというのがアメリカ合衆国からの内通だ。聖域の調べでは、もうちょい活動範囲を絞り込めているがね」

「今更だが……その敵とやらは、一体何者なのだ? やはり神か?」

「だろうね」

「曖昧な返答だな」

「聖域でも、奴らの動向はつかみあぐねているんだよ。なにせ古いうえに、規模の大きな組織らしいからね」

「むう……聖域ですら把握できない敵、か」

 

 聖域はこの地球という星の、全域に渡る守護を一手に担っている。

 黄金聖闘士のアルデバランも、過去に受けた任務において、他の宗教で崇められる邪神の討伐を行った経験があった。

 

「やはり、今回の敵も邪神の(たぐい)だろうか」

「そいつは間違いないよ。敵の神は、名前を発するだけでその力を増すというからね。厄介な相手さ」

「そうなのか? では我らは、そいつをどう呼べばいい?」

「……聖域は、邪神のイニシャルをとって、ただこう呼ぶ。『C(シー)』、と」

「C、か……」

 

 名を口にすることすら禁じられる神。

 一体、どれほどの力を秘めた邪神であろうか。

 

 アルデバランは今一度受けた生と、聖闘士としての己が使命──この地上の愛と平和を守る、という想いを噛みしめ、自らの拳を硬く握りしめるのだった。




星矢とクトゥルフの組み合わせって、あるようで意外となかったので書いてみました。

クトゥルフ神話は好きなんですが詳しくないので、間違ったところがあったらごめんなさい。
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