聖闘士星矢 古き神々の復活   作:ほろろぎ

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第二話 秘密の姫

 地上を邪悪の手より守るため降臨した女神、アテナ。

 彼女と大地の平和を守護するために集まった少年たちを、人は聖なる闘士──セイントと呼んだ。

 

 聖闘士(セイント)の最高位の称号──黄金(ゴールド)(かんむり)をいだく一人、アルデバラン。

 宿敵である冥王ハーデスとの聖戦で命を落としたはずの彼は今、神々の意思により今一度現世へと(かえ)ってきた。

 

 聖戦で冥界へと(おもむ)いた女神(アテナ)が戻らぬ隙をついて、新たなる邪悪が地上を、人々の命を脅かさんとしている。

 アルデバランは仲間の白銀聖闘士(シルバーセイント)シャイナと共に、敵が暗躍する地であるアメリカはマサチューセッツの地を駆けていた。

 

「ここか」

「ここだ。聖域(サンクチュアリ)の調べでは、このエセックス郡の外れにある港町で、敵の動きが活発化しているらしい」

 

 アルデバランが、聖域からの勅命(ちょくめい)を帯びたシャイナに確認をとる。

 

 聖闘士発祥の地であるギリシャに本拠を構える「聖域」は、地球全土の霊的防衛を(にな)う組織である。

 今回の新たな敵の暗躍を察知した聖域は、聖戦の生き残りの一人である聖闘士のシャイナに、「敵邪神を討伐せよ」という指示を下した。

 

 そうして彼女は、復活したアルデバランを迎えにギリシャを離れ、わざわざアメリカへ来たというわけだ。

 

 二人はマサチューセッツを疾走し今、エセックスを流れるマニューゼット河の河口へとたどり着いていた。

 河口には港町がある。シャイナはアルデバランを先導し、町へと入った。

 

「ずいぶん(さび)れた町だな。人の住んでいる気配が、まるでない」

「どうやら、すでに廃市になっているようだね」

「そのようだ。しかし、ここに敵──『C(シー)』と呼ばれる邪神を(あが)める奴らが(つど)っている、というわけだな」

「隠れて動くにはうってつけさね」

 

 アルデバランとシャイナは話しながら、つぶれてしまった町を歩く。

 

 建物はことごとくが老朽化し、倒壊しかかっていた。

 ずいぶん長い年月放置されてきたことがうかがえる。

 

 町の周囲には湿地帯が広がり、海が近いこともあって生臭さの混じるぬるい風が辺りをただよっている。

 二人は不快な臭いにわずかに顔をゆがめながら、町の探索を続けた。

 

 

 

 

 

 調査の結果、この(すた)れた町の名は、かつて『インスマス』と呼ばれていたこと。

 元々の住人は、未知の疫病によって一人残らず死に絶えてしまったことがわかった。

 

「疫病か……それも、邪神が関わっていると見ていいのだろうか」

「おそらくね。理由はわからないが、それだけのことを人の手で起こせるとは思えない」

 

 アルデバランとシャイナは、廃市となったインスマスの中心部にいた。

 

 町の隅から隅まで調べつくしたが、わかったことは上記の二点のみ。

 敵である者たちの姿はおろか、気配すら感じられなかった。

 

「それで……坊やはこんな所でなにしてんだい?」

 

 今シャイナらの前には、一人の少年が(おび)えたように立っている。

 敵の捜索をする中で二人は、秘かにあとをつけてくる気配を感じていた。その正体が目の前の男の子である。

 

「オ、オイラの名前はボカ……。母さんを探してんだ」

「母親を?」

「近頃、このインスマスの付近のいくつもの街で、住人が行方不明になってんだよ。オイラの母さんも、その一人さ」

「失踪人探しなら、警察にでも任せなよ」

「もちろんいったさ! でも行方不明者の数は百人以上もいて、母さん一人にかかってられないって言うんだ!」

 

 悲し気に顔を伏せたボカは、それに、と言葉を続ける。

 

「世界規模の皆既日食のせいで、どこの国も大混乱だろ? それで余計に警察なんかは、人探しどころじゃないって……」

 

 ハーデスの力の影響は、こんな小さな子供にまで暗い影を落としていた。

 アルデバランは少年を元気づけようと、彼に声をかける。

 

「俺たちは、その行方不明事件を調べに来たんだ。安心しろ、お前の母も必ず見つけてやる」

「本当かい!? だったらオイラ、一つだけ協力できるよ!」

 

 ボカは単身で母の行方を捜す中、ある晩にここインスマスを、複数の大人の影が歩き去るのを見たという。

 アルデバランたちは少年に案内され、人影が行きついた先までやって来た。そこは……

 

「こんな海沿いの崖の下に、洞窟(どうくつ)があったなんてね」

 

 シャイナのつぶやき。

 

 インスマスの町からは影となった場所──海岸に面した山肌をくり抜くように、ほら穴が口を開けている箇所をボカは発見していたのだ。

 そして複数の人影は、吸い込まれるようにしてこの洞窟の闇の中へ消えたという。

 

「自然にできたものではないな。何者かが意図的に作った洞窟のようだ」

「行方不明者が出た頃から、この付近では『海の神様』を(まつ)る怪しい宗教団体がコソコソしてるんだ。きっとこのほら穴も、そいつらの仕業だよ」

「海の神、か……」

 

 少年の言葉にアルデバランは、おそらくその神とやらが聖域が「C」と名づけた邪神であり、失踪した者たちの行方に絡んでいるのだろうと推測する。

 

「さあ、行こう! この先に母さんもいるはずだよ!」

「あ、おい! ちょいと待ちな!」

 

 シャイナが止めるのも聞かず、ボカは速足で洞窟の中へ入ってしまった。

 母に会いたい一心であろう、アルデバランもその気持ちを無下にできず、少年を同行をゆるした。

 

 

 

 

 

 まるで地獄へと繋がっているような、深い深い底へと通じる道を降った三人は、ついに洞窟の終点へと到達した。

 

 そこは人の手で作ったものとは思えないほど広い空洞となっており、空洞には数百人はくだらない数の、おびただしい人の影が(たたず)んでいた。

 みな一様に生気が感じられない虚ろな顔で、まるで吊り下げられた人形のように、ゆらゆらと力なく起立している。

 

「なんだ、この人々は」

「あ! この人たちの顔、見覚えがあるよ。みんな行方不明になった街の人たちだ!」

 

 闇の底に(つど)う人の群れに、驚きを隠せないアルデバラン。

 ボカの言う通りなら、これらの人々はなぜこの深い闇の中に集められたのか……。

 

 シャイナは気づく。

 人々の間に漂う、不穏な生命エネルギーの流れに。

 

「気をつけな、アルデバラン。この人たちはみんな、邪神の小宇宙(コスモ)に操られてるよ」

「うむ。この小宇宙、覚えがある。忘れもしない、地暗星ディープの冥闘士と同じものだ」

「その通り、ニオベは我が配下。ハーデス軍の動向を調べるために潜ませておいたのだ」

「「!!」」

 

 人々の中心に立つ一人の女から、その言葉は発せられた。

 

「あっ、母さん!?」

 

 深い海の底のような濃紺の髪、美しい顔立ち。

 

 女性はボカの失踪した母親であるらしい。

 しかし彼女の様子は、まるで邪教の教祖のように怪しく、堂々としたものである。

 

 アルデバランは女性を射るように見据える。

 

「とてもこの子の母とは思えんな……さては、邪神が憑りついているな」

「さすがに感がいい。この女の体は旧支配者(グレートオールドワン)が一人、『秘密の姫(シークレトリ)のクティーラ』がいただいている」

 

 旧支配者とはその名が示す通り、地球に人類が栄える以前にこの星を支配していた者たちの総称。

 星辰──星の配置が乱れたことで力を失った旧支配者は、海の底で悠久の眠りについた……はずだった。

 

 彼らの存在は聖域も知るところであるが、

 

「クティーラだって? そんな神の名は、聖域の調べでは上がらなかったよ」

「詰めが甘かったな、白銀聖闘士。我が名は我らが教団──旧支配者の息がかかった者たちの手で、入念に記録の中から抹消されている」

「どうりでね。しかし、なんだってそんな手の込んだことするんだい」

「全てはこの時のためよ」

 

 クティーラの背後に立つ石造りの門から、怪しげな呻きが漏れ出た。

 地獄の底でうごめく獣よりも、もっとおぞましい声だった。

 

「冥王ハーデスが起こした全惑星直列の儀──グレイテストエクリップスによって、星の巡りは再び我らのものとなった。今こそ『我が父』を復活させ、この地上を破壊と混乱に包み込む!!」

 

 クティーラの父、それこそが邪神「C」。

 彼女はCを目覚めさせる時のために、存在を秘匿され今日まで暗躍してきたのだ。

 

「インスマスの住人を、疫病をもって殺害したのも貴様の仕業か!」

「奴らの魂は、私の復活のいい(かて)となってくれたぞ」

「外道め!」

 

 アルデバランとシャイナは共にパンドラボックスを開封、それぞれに牡牛座と蛇遣い座の聖衣をまとった。

 星座の加護を受けた黄金と白銀の輝きが、闇の底に閉ざされた洞窟の中にあって、眩いばかりに光を放っている。

 

 クティーラはボカの母親の肉体を通して、ニヤリと不敵な笑みに顔をゆがめるのだった。




アルデバランの相棒がシャイナさんなのは、他に適任がいないのもありますが、岡田先生のエピGアサシンで夫婦役を演じていたことからの発想です。
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