聖闘士星矢 古き神々の復活   作:ほろろぎ

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最終話 神速の一撃

「母さん、すまない……俺は、俺は……」

 

 旧支配者の仕掛けた技によって、仮初めの夢の中で幻影の母親と抱擁(ほうよう)を交わすアルデバラン。

 

 これは夢だと頭では分かっていたが、それでも尚、この幻を振り払う気力がわかなかった。

 それは心中に残る後悔がゆえか、それともクティーラがアルデバランの小宇宙(コスモ)を奪い、彼のパワーが失せたがためか……。

 

 母の温もりに触れ、安心感と共に次第に意識すら薄れ始めていくアルデバラン。

 このままでは、せっかく女神アテナと宿敵ハーデスの協力によって現世に復活したのもつかの間、再び冥界の底へと逆戻りになってしまう。

 

 いや、邪神グレートオールドワンの手によって命を奪われたとあっては、その魂は無限の闇の中を永遠にさまようことになるかもしれない。

 

『もういいんだよ、息子や。ゆっくりお眠り……』

 

 偽りの母は、優しい声でアルデバランの意識を消滅へといざなう。

 

 

 

 

 

 その時だった。

 突如として、()()()()()()かのような強烈な痛みが、アルデバランの意識を覚醒へと呼び起こしたのは。

 

「なにやってんだい、アルデバラン! アンタほどの男が、安っぽい幻覚に惑わされるなんて」

 

 目覚めた牡牛の前には、息を切らせた仲間の姿があった。

 

「……シャイナ、俺は……」

「しっかりしなよ。邪神はまだ倒せてないんだ」

 

 シャイナのまとう紫色の聖衣(クロス)は、ところどころに亀裂が走り、彼女の柔肌からもいくつかの出血が見られた。

 

 アルデバランの窮地(きゅうち)に際し、彼女は周囲を取り囲む数百体の奉仕種族──深きものども(ディープワンズ)の群れを強行突破して駆けつけてくれたのだ。

 

「すまん、ぬかったわ」

「いいさ。でも、こっちも無理が祟ったね。奴らの攻撃で、アタシもロクに動けそうにないよ……」

「お前はそこで休んでいろ。あとは、俺がカタをつける」

 

 現実では先の夢と違い、牡牛座(タウラス)の黄金聖衣はしっかりと身に付けられたままだ。

 アルデバランはアテナが与えてくれたこの黄金の鎧の重みを、改めて感じとった。

 

「せっかく幸せな夢の中で死ねたというのに、愚かしいことをしたものよな」

 

 仲間を救ったシャイナの行為を、愚かだと嘲笑するクティーラ。

 アルデバランは再びこの邪神と対峙する。

 

「クティーラよ、一つだけ礼を言わせてもらうぞ」

「礼だと?」

「お前が見せた夢のおかげで、俺は忘れていたかつての想いを思い出せた」

 

 力強さと憂いのこもったアルデバランの瞳には、夢の中でほほ笑む母親の面影が宿っていた。

 

「母が愛した花を、この地上に生きる命という花々を守るため、俺は聖闘士になったのだ。今こそ、我が(けん)によって邪悪を討つ!!」

「片腕しか使えぬ貴様に、旧支配者の一柱たる私は倒せんよ」

「フッ。貴様程度の邪神など、この右腕一本あれば十分だ」

 

 これまで常に余裕の微笑をたたえていたクティーラの顔に、初めて怒りのゆがみが生じる。

 

「……よくぞ抜かした。なれば次は、直接攻撃によって貴様の命、砕いてくれるぞッ」

「こい、クティーラ!」

 

 悪の黄衣(ローブ)と正義の黄金聖衣から、それぞれの強力なオーラが立ち昇る。

 先に仕掛けたのは、クティーラだ。

 

「死ねぃ、タウラス! 『イリュージョンライフ クライシス』!!」

 

 夢を見せ、幻の中で徐々に生命力を奪うイリュージョンライフとは違い、こちらは直接的に相手の魂を打ち砕くクティーラの奥義。

 その必殺拳がアルデバランに襲いかかる。

 

 アルデバランは仲間である水瓶座(アクエリアス)のカミュに習ってクールに心を落ち着かせ、まだ無事な右腕一本に小宇宙を集中させる。

 極限まで収束させたゴールドのエネルギーが、アルデバランの右腕を黄金の輝きで満たす。

 

(たぎ)れ! 我が小宇宙よ!! 悪を砕く一矢となれッ!!」

 

 アルデバランが放った右腕一本での掌打。

 手の平から撃ちだされる黄金の牡牛の闘気(オーラ)は、強烈な突進力をもって邪神の攻撃を、いとも簡単に消し飛ばした。

 

「なにィ!?」

 

 腐っても神である自身の技を、ただの人間でしかないアルデバランが、防ぐでも押しとどめるでもなく消しさるなど、クティーラにとっては理外にもほどがある行いだ。

 ゴールドのタウラスの闘気は、そのままクティーラの体をも飲み込んでいく。

 

「ば、バカな……我が黄衣が反射できない威力だと……ッ」

 

 闘気によって邪神の黄衣はしだいに砕けていき、それはつまり鎧に宿っていたクティーラの意識の消滅(ロスト)を意味する。

 

「タウラスの小宇宙は、光速を超えたというのか……!?」

 

 邪神の最後の一声。

 

 人間の持つ最大の感覚、第八識──エイトセンシズ。

 極限にまで高められたアルデバランの小宇宙は、一瞬ではあるがそのエイトセンシズすら凌駕する力を発揮したのだ。

 

 その威力、まさに神速。

 牡牛のオーラはクティーラの意識を霧散させ、さらには彼女の背後にあったクトゥルフ召喚の門をも、完膚なきまでに破壊した。

 

 ゲートが壊れたことで、旧支配者の親玉であるC──クトゥルフは再び海の底での眠りに戻った。

 地下空洞に充満していた邪悪な気配もまた、霧が晴れるがごとく散り散りに失せていく。

 

「あ、体が自由になったよ……?」

 

 先ほどまでクトゥルフのビッグウィルの瘴気に当てられ力を失っていたボカも、奉仕種族ディープワンズに憑依されていた人々も、無事に意識を取り戻した。

 

 そして

 

「あ、母さん!」

「……ボカ?」

 

 クティーラによって体を奪われていた少年の母親もまた、怪我一つない状態だった。

 

「邪神の黄衣だけを砕いて、中の人間は無傷でとり返すなんて、器用なことするじゃないか」

「奴の小宇宙が宿っていたのが鎧だけで、彼女の肉体に憑りついていなかったのが幸運だったな」

 

 シャイナとアルデバランは、そう言って戦いが終わったことを確認しあう。

 

 地下空洞に光が差し込む。

 アルデバランが最後に放った一撃の余波は空洞の天井に大穴を開け、そこから太陽がのぞいていた。

 

「あらゆるものを砕く──名づけるなら『ブレイクホーン』、といったところか」

 

 グレートホーンに次ぐ牡牛座の技となるか?

 応えは、否だ。

 

「小宇宙を片手だけに集約させるのは、腕への反動がキツイな。右も感覚が無くなってしまったわ」

 

 過剰なパワーの反動で、アルデバランの右腕もまた、左手同様に大きなダメージを負ってしまった。

 敵を倒せたといえ、もし相手が複数であれば後が無くなってしまう諸刃の剣だ。

 

「やはり、俺にはグレートホーンが相応しい」

 

 そう言ってアルデバランは、わっはっはと大らかに笑うのだった。

 

 

 

 

 

「母さんを助けてくれてありがとう!」

 

 大きく手を振って、母と並び家へと帰っていくボカを見送ったアルデバランとシャイナ。

 二人も、この忌まわしきインスマスの地を後にする。

 

 ゆっくりとした足取りで、戦いを終えた戦士は地を踏みしめる。

 地上の平穏を守り通せた喜びをかみしめながら。

 

「まだ、アンタの魂は地上に留まっていられるようだね」

「うむ。これもアテナの加護のおかげか」

 

 『旧支配者の打倒』という女神からの任務を完了させたアルデバランは、今しばし現世での生を謳歌できる様子。

 

「これから、どうするんだい?」

「……聖域へ帰ろう」

「いいのか? せっかく蘇れたのに、また戦いの中へ戻る道を選んで」

 

 シャイナの問いに、アルデバランは迷いなく答えた。

 人々を護る戦士としての、一本気な想いを。

 

「金牛宮こそ俺の家だ。聖域(サンクチュアリ)を、十二宮を守護することが、この地上の平和を守ることに繋がっているのだからな」

 

 牡牛座の黄金聖闘士、アルデバラン。

 雄々しき男の帰還は、きっと聖域に生きる人々を驚かせ、心から喜ばせるに違いない。




これにて完結です。

牡牛座のカッコよさ広まれ。
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