絶対に兄様と結婚したい妹VS突然女の子になっちゃったお兄ちゃん   作:としぞう

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第15話 魔の手が伸びる前に

 引き合わせたのは百合。お姉ちゃんと呼んで入学を嘆願しろと指示したのも百合。

 なのに、家に帰るまでずっと、百合は不機嫌そうなふくれっ面のままだった。

 

「あの、百合。いい加減機嫌直してくれよ」

「つーん……」

 

 顔を逸らし、「無視してます」とあからさまに伝えるような、そんな効果音を口にする百合。帰り道、電車の中でもひたすらこの態度を貫いていた。

 翼お姉ちゃん――じゃなくて、学長に対する態度がやっぱりまずかったのかと謝ったのも無視されてしまったし、それが原因じゃないっぽいんだけど……。

 

「ええっと……何か買って欲しかったりする? プリンとか……」

「兄様、それはご褒美ということでしょうか?」

「えっ!? そ、そうなるのかな……」

 

 ようやく反応してくれた。ということは、この方向性が正解だったってことか。

 

「ならば、物で釣る前に言うべきことがあるのでは?」

「えーっと……」

「兄様、今回私、頑張りました。一介の学生の身で、お忙しい学長先生にアポを取り、直談判し、兄様がいかに白女の生徒として相応しいか、熱くプレゼンし、今回の約束を取り付けたんですよ。冷静に考えて凄くないですか」

「お、おう」

 

 確かに百合の言うとおりだ。そりゃあいきなりだったし、振り回された感も否めないけれど……でも、全部ボクのためを思ってやってくれたことだもんな。

 

「そうだな……まだちゃんと言えてなかった。ありがとうな、百合。お前っていうできた妹がいてくれて、ボクは誇らしいよ」

 

 そう、彼女にお礼を言い、褒める。そんな当たり前のことをボクはできていなかった。百合が拗ねるわけだ。

 

「ふへへ……」

 

 優しく頭を撫でてやると、百合は普段とは違う……いや、ある意味年相応にあどけない笑顔を見せてくれた。

 

「もっと撫でてください、兄様。小さな子犬を労るように、優しく、愛おしく」

「う、うん」

「そして、言うのです。『ああ、百合。愛しているよ。君以上の妹はいない。さあ、熱いベーゼを交わそう。可愛らしい声で鳴いておくれ。そして僕らは今日、一つになるんだ』と」

「言うかぁ! なんだそれ!?」

 

 どこかミュージカルっぽい芝居がかったセリフ! よく浮かんだな!?

 

「ちぇーです。……じゃあ、一緒にお風呂で手を打ちましょう」

「それも入らないから!」

「そうは言いますが兄様。学生寮は大浴場だそうですよ。今のうちに私と一緒にお風呂に入って耐性をつけておかなければ、大変なのではないでしょうか」

「え……そ、そうなの!?」

 

 大浴場ってことは、同い年の女の子達と一緒に風呂に入るってことだよな……む、無理無理! そんなの耐えられるわけがない! 罪悪感もあるし……。

 

「やっぱり、ボク、白女に入るのはキツいんじゃ……」

「いいえ、兄様。白女こそ、兄様が選べる最良の選択なのです」

 

 ボクの意見をぴしゃりとシャットアウトし、百合は力強く断言した。

 

「冷静に考えてみてください、兄様。そもそも兄様は女子校に通うこと自体に抵抗があるようですが……本当に通うべきは共学ではなく女子校なのです」

「……と、言うと?」

「今日、白女に行ったとき、他の方々から視線を感じましたよね」

「うん。百合、随分人気があるんだなぁと……」

「注目を集めていたのは、兄様です」

「え?」

「もちろん、私の顔が知れていたというのもあるでしょう。そして二人一緒にいた分余計に目立っていたことは否めません。しかし、私を抜きにしても、兄様は美少女です。おっぱいの主張も尋常ではありません。たとえ同性であっても、二度見三度見せずにはいられない存在なのです」

 

 それは大げさじゃあ……そりゃあボクだって鏡を見て、これが本当に自分なのかと信じられないくらいには美少女だなぁと思わなくもないけれど。

 

「ただの美少女ではなく、超絶スーパーウルトラ美少女なのです。そう自覚なさってください」

 

 そうはっきり言われては、ボクもその場は頷くしかない。とにかく認めないことには話も先に進まないし。

 

「そして、兄様。もしも兄様が共学に行けば……その視線を向けてくるのは同性だけに留まりません。男子生徒もまた、下手すれば男子教員まで、同性以上に興味を向けてくるでしょう。そりゃあもう、ねちっこく、なめ回すように」

「い……!?」

「そして兄様もかつては男性でした。もしかしたら男子との方が付き合いやすいかもしれませんが……兄様が男子に友達として接していていも、男子はその裏で、どうすれば兄様のそのワガママボディを弄べるかそろばんを弾いているかもしれません。というか絶対弾いてます。絶対に絶対です」

「そ、それはやだな……!?」

「でしょう? 心安まる時間も無く、いつか兄様は集団で……なんてこともあり得ます。そうならないために、未来の犯罪者を生まないために、兄様はまず女子校に通い、周りの人達と今の自分の付き合い方を学ぶべきなのです」

「一理あるかも……!」

 

 すごく納得してしまった。少なくとも、今の女性としてのボクが他人にとってどう見えるか、それが分からないことには永遠に不安は解消されないだろうし……。

 

「そしてそして、白女は徹底された完全男子禁制。先生、職員、用務員さんに至るまで、全員が女性で構成されています。兄様はまず新たな同性である女性に対ししっかりと耐性をつけた上で、男性への対応方法を学んでいくべきだと、私は考えます」

 

 そこまで考えてくれていたのか。本当になんてできた妹なんだ。

 

「それに、これが一番のメリットですが、白女には私がいます。兄様の正体を知り、しかし絶対に裏切らない確実な味方です。女性がどういうものかもまだ不安な兄様に、こういうときどうすればいいとすぐに相談できる相手は必要でしょう? 私も兄様の全てを知り尽くしていると言って過言ではありませんし。ええ、全く過言ではありません。むしろ足りないくらいです。兄様の暮らし、人生、全てをサポートする最高であり最強の妹がこの天海百合です。どうか天海百合に清き一票を」

「選挙みたいになってる!」

「兄様に選ばれる……それだけで80億票に値します」

「全人類分!?」

 

 それはもう世界の声じゃん……そんなもん背負えないよ、ボク。

 

「これが白女でなければならない理由です。白女は兄様を受け入れる最良の環境を整えており、何より私も二十四時間三百六十五日、兄様のお側で付いて離れず、兄様を支えることが……支えることが…………ぶふっ」

「百合!?」

「おっと、興奮しすぎて鼻血が出てしまいました」

 

 鼻から赤い液体を噴出し、咄嗟に手で押さえる百合。今の話のどこに鼻血を吹き出させるだけのものがあったんだ?

 

「とはいえ、学年が違うので多少姉様には一人で頑張っていただく必要は出てしまいますが……よいしょ」

 

 百合はティッシュをくるくる丸め、鼻に詰める。しっかり両穴。両穴から出てたのかよ。

 

「一番大変なのは寮での共同生活だと思いますから、そこをしっかりサポートできるというのは兄様としても安心感があるのではないでしょうか?」

「そうだな……百合はボクが元男だって分かっているわけだし、気持ちも楽かも」

「そうして兄様は次第に私無しでは生きていけなくなり……ふふふ、鐘の音が聞こえてきます」

「え、なんて言った?」

「いいえ、なんでも」

 

 鼻が塞がれている分、声が籠もって、呟きなんて余計に全然こちらに届かない。

 なんだか背筋がゾクッとするような、妙な感じがしたけれど……いや、変に掘り下げて妙なものが出てきても怖いし、気にしないでおこう。

 ……本当に気持ち楽になるなかなぁ、百合と同室で。なんか普通感じなくていいような緊張を感じる気がしてしまうのだけど。

 

「そうと決まれば兄様。早速転入の準備を進めましょう。父様と母様にも話しておきますし、ゴールデンウィーク明けの入学になりますから、必要なものを揃えるには時間も十分ですよ」

「そ、そうだな。付き合わせて悪いけど」

「いいえ、兄様となら地獄の果てまでもお供します」

「ああ、そう……そりゃあ頼もしいよ。ありがとな」

 

 大げさな発言はいつものこと。こういう時の対応は軽く流しつつ、頭を撫でてやるといい。

 

「兄様……えへぇ……」

 

 すると、百合はまるで猫みたいに大人しくなりつつ身を寄せてくるので、それで静かにできる。

 

(でも、そっか。あの学校にボク、通うんだ……)

 

 学長の言葉が嘘とか、その場の流れて言っただけの冗談じゃなければ、ボクは百合と同じ制服を纏ってあそこに通うことになる。しかもおそらく、寮に入る形で。

 

 それは凄く不安だけれど、でも、ほんのちょっぴり楽しみでもあった。それはやっぱり、殆ど家に引きこもっている生活に退屈を感じてるっていうのが大きかったからだと思う。断じて、元男性として女性の花園を覗けるという優越感、背徳感から来るものじゃない!

 

 

 

 

 

 ……たぶん。

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