絶対に兄様と結婚したい妹VS突然女の子になっちゃったお兄ちゃん   作:としぞう

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第29話 兄妹二人でゆっくりと

「おつとめご苦労様でした、兄様」

 

 部屋に帰ると、そう恭しく百合が頭を下げてきた。完全におちょくってるな、コイツ。

 

「人を刑務所から出てきたみたいに」

「勉強嫌いの兄様からしたらそれほど遠くないかと」

「そりゃあ好きってわけじゃないけどさ……まぁ看守さんが優しかったから全然耐えれたかな」

「それは良かったです。もちろん疑っていませんが。なんといっても京子先輩はバブみの権化ともっぱらの評判ですから」

「バブみ?」

「バブバブと甘えたくなる包容力の持ち主、という意味です」

 

 こんなの一般常識ですよ、と言わんばかりに涼しい顔で解説する百合。

 いや、知らんし……どこでそんな言葉覚えてきたんだよ。

 

「あ、兄様。それじゃあまるで京子先輩がバブバブいうみたいだなとか思いましたね」

「思ってないけど……」

「しかし考えてみてください。ここにおまんじゅうがあります。おまんじゅうは甘いでしょう?」

「ああ、うん」

 

 どこから出したのか、百合はビニールで個包装されたまんじゅうを見せびらかしてくる。

 

「しかし一方で、おまんじゅうを食べた人が甘いと感じるから、おまんじゅうは甘いと言えます」

 

「うん……?」

 

 なんかちょっとこんがらがってくる話だな。

 頭を捻るボクをよそに、百合は丁寧にビニールを剥がし……無防備になったまんじゅうを、ボクの口に突っ込んできた!

 

「んがっ!?」

「それと同じです。京子先輩を摂取した人がバブバブ甘えたくなるから、京子先輩はバブみを感じさせる方……と、また一つ賢くなりましたね。えらいですよ、兄様」

 

 百合はそう言ってボクの頭を撫でてくる。本当に自由だな、コイツ。

 

「そのおまんじゅうはご褒美です。勉強したら糖分が欲しくなるでしょう? まぁそれは国原さんからいただいたものですが。お菓子作りが趣味ということで」

 

 はえー、そうなんだ。

 でもお菓子作りが趣味の人で和菓子作るタイプの人珍しくない?

 

「普通に美味しい」

「ですね」

 

 見ると、百合の勉強机にはいくつも包装フィルムが転がっていた……こいつ。

 

「……晩ご飯、食べれなくなるぞ」

「大丈夫です。別腹なので」

「まんじゅうって結構腹溜まらないか?」

「晩ご飯が別腹なのです」

「そっちかよ」

 

 食いしん坊キャラかコイツ。スリムなくせに。

 

「というのは冗談です。これの殆どはみゃこが食べていったものですから」

「ああ、そうなんだ……」

 

 それって美也子ちゃんがお腹いっぱいになってるってことだよな。

 まぁ、人の妹に口うるさく言うつもりはないけれど。

 

「ふあぁ……」

「おや、おねむでしょうか」

「んー、ちょっと疲れがどっと来たかも。勉強も最悪から一歩前には進んだし、ちょっと気が楽になった証拠かな」

「それでは晩ご飯までお休みになられたらいかがでしょうか」

「でも今寝たら夜に寝られなくなりそうだし」

「熟睡してしまえば懸念通りになるでしょうが、それならば適度なところで私が起こします。ふふ、さながら兄様の目覚まし時計といったところでしょうか」

「お前……そんなの嬉しいのかよ」

「兄様のものであればなんでも。近い将来、周りの物全て私で埋め尽くせたらと常日頃から妄想は欠かしていません」

 

 相変わらず怖い妄想してるなぁ。

 

「でも、そう言うなら少し寝ようかな……戯れ言は置いといて」

「はい。姉妹なのですから、遠慮なさらないでください」

「ん……ありがとな」

 

 一度寝ようと思うと一気に眠気が吹き出してきた。

 制服を脱ぎ、半袖ショートパンツという、楽な格好に着替える。

 そんな着替えシーンを百合はじっくりねっとり観察してきていたけれど、なんかもう慣れた。少なくともボクが見るよりは罪悪感もないし。

 

 ベッドに入ると同時に、百合が部屋の電気を消してくれた。

 暗くしてしまって、百合はどうするんだろう……と思ったのもつかの間。

 

「兄様、もう少し詰めてください」

 

 百合も当たり前にベッドにはいってきやがった。

 

「おい」

「兄様が眠られるのなら、私は抱き枕になろうかと思いまして」

「そんなの要求した覚えないけど」

「言わずとも、兄様のこと、分かります」

 

 なぜ五七五。というか本心から要求してないし!

 

「いいじゃないですか。私も少し、休みたい気分でしたから」

 

 百合はそう言ってボクに正面から抱きつくと、なぜか腰をぐりぐりと押しつけてきた。

 

「ここ、ボクのベッドなんだけど」

「存じています。あと愛しています」

「ついでに足すな!」

「それに私にとって、兄様のベッドは兄様とほぼ同回数、慣れ親しんだものですから」

「同回数って……」

 

 こいつ、実家に居たときと同様、毎日ボクのベッドで寝てたのか。どうりで毎日生暖かいと思った。

 

「ああ、久しぶりの兄様の感触……百合は最高に幸せです……」

「……大げさだ」

「いいえ、敬愛する兄様を前にして大げさもなにもありません。人間の持つ言語では兄様の神性はとても語りきれるものでないのは確かですが、私はいつでも本気、本音、本番OKですよ」

「何が確かなんだよ……」

「紛れもなく、本心です」

 

 どうにも会話が噛み合っていない気がする。眠気でボクの理解力が落ちているのか、はたまた百合も夢うつつに引き釣り込まれようとしているのか。

 百合は普段より幾分か幼い態度で、ぎゅうっとボクに抱きつく力を強くする。

 

 やれやれ……こうなったら変に抵抗する方がずっと疲れる。

 

「今だけは、兄様は私だけの兄様、です」

「俺を『兄』って呼ぶのは、もうきっと未来永劫お前だけだと思うけどな」

「ふふっ、ですね。姉と慕われることはあるかもしれませんが」

「どうかなぁ……きょことか恵那ちゃんを見てると、ボクはあまり向いてないと思うけど」

「それこそどうでしょう。兄様の魅力に気がつかないほど、世界は間抜け揃いではないと思います」

「言うねぇ……まあでも、それならボクよりずっと百合の方が早く見つけられそうだ」

 

 だんだん微睡んできて、現実と夢の境目が曖昧になる。

 微妙にぼやける視界の中、なんとなくボクを見つめる百合の、その頬に触れた。

 さらさらの肌が、なんともいい触り心地だ。

 

「くすぐったいです、兄様」

「ふふっ」

 

 照れくさそうに少し身を捩る百合を、ちょっといじめてやろうと撫で続ける。

 普段沢山からかわれている仕返しだ。

 

「未来の総理大臣が、兄とこんなことしてるなんてバレたら大スキャンダルかな」

「いいえ、兄様と愛を育むのは妹の義務ですから、間違いなく賞賛されるでしょう。国民栄誉賞、ノーベル平和賞、アカデミー賞……何を貰っても足りないくらいです」

 

 百合はそう言いつつ、僕の手に自分の手を重ねる。

 

「どうか、ゆっくりお休みください、可愛い可愛い、私だけの兄様」

「うん……おやすみ……」

 

 さすがに限界が来て、ボクはすっかり重くなったまぶたを閉じた。

 百合の手が、ボクの髪に触れたのを感じて……でもすぐに、周りの音は何も聞こえなくなった

 

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