絶対に兄様と結婚したい妹VS突然女の子になっちゃったお兄ちゃん   作:としぞう

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第5話 戻れる可能性とその方法

「さて、お遊びはそこまでにして……兄様」

 

 百合はわざとらしい咳払いを挟み、話を切り替える。

 

「……なんだよ」

「もしかしたら、兄様。元に戻れる方法はゼロではないんじゃないでしょうか」

「どういうこと?」

 

 百合にとって何が遊びで何が遊びじゃないか、凡人のボクにはとても理解できないけれど、とりあえず耳半分で聞いていると思っていたより遙かに真面目な話題だった。

 

「もしかしたら、ひょんな拍子で女の子になった兄様ですから、これまたひょんな拍子で元の男性に戻る可能性もゼロではないと思うのです」

「確かに……記憶喪失とか、二人の意識が入れ替わっちゃった時みたいな!」

「前者はともかく、後者はあまりにファンタジーすぎませんか? ……ただ、どちらも良い例ですね。往々にして同じ衝撃を与えれば治るといいますから」

「なるほど……同じ衝撃か」

 

 百合に言われ、改めてボクが性転換する直前の夜に何をしていたか思い出そうとする。が、特に特別な何かをした覚えは無い……いや、一つだけある。

 

「ここ最近、毎日、お前ボクのベッドで昼寝してたよな……?」

「私ですか?」

 

 元々そういった異常行動を取りがちな妹だったが、毎日毎昼ベッドに忍び込むようになったのは高校に入ってからだ。

 おかげでボクは毎日、百合の残り香を嗅ぎながら――

 

「粗相を……」

「してないよ! 思考に割り込んでくるのやめて!?」

「これは失敬。もっと大人な粗相でしたか」

「大人なってどういう……いや、やっぱりいい!」

「ポ」

「頬を染めたときの音を言うな!」

 

 思わずツッコんでしまったけれど、こういう時の百合は無視した方がいい。

 

 とにかくボクが思ったのは、彼女の匂いをかいでしまっていたせいで、女性ホルモンかなんかが摂取されて……みたいな、そんな可能性もあるんじゃないだろうか。

 いや、自分でも気持ちの悪いことを考えている自覚はあるけれど、実際に女性になってしまった今、まったく有り得ないと否定することもできない。

 

「つまり、私の体臭を嗅いだことが、兄様を女性にしてしまったかも、と言いたいわけですね」

「分かってたのかよ!」

「ええ。私の体臭を嗅ぐ。粗相をする。どちらもこなすのは兄様には容易でしょう」

「だからしてないって!」

 

 何度否定しても、百合は「言わずとも分かっていますから」という表情を崩さない。

 彼女には、こうだと信じたら絶対に揺るがない凄みがあるのだ。

 

「では、試してみましょう」

「何を……」

「ぎゅっ」

 

 百合はいきなり抱きついてきた。

 

「…………は?」

「ぎゅ~~~」

 

 ものすごく力強く、抱きしめてきた。

 

「はあはあ、にいさまのにおい。はあはあ」

「凄い棒読み……」

「照れ隠しです。ぎゅうう」

「……どうして抱きしめてくるんだ?」

「兄様に私の匂いを嗅いでいただくためです」

「なぜ!?」

「兄様が仰ったのではないですか。私の匂いが原因だと」

 

 それはそう……いや、ボクは口にはしてないぞ。勝手に百合が読んだだけだ。

 

「だから嗅がせているのです。さあ兄様。思う存分吸ってくださいませ。もしも服が邪魔なら脱ぎますよ?」

「脱ぐな。ていうか、原因なんだから吸わせちゃ駄目だろ」

 

 百合の匂いを嗅いで女性になったと仮定するなら、男に戻るなら――。

 

「むしろ断つ方が……」

「それは駄目です」

「え、どうして」

「駄目ったら駄目なのです」

 

 より強く抱きしめてきつつ、百合は拗ねるように言った。

 

「私の体臭を嗅いで性転換したのなら、控えるのではなく、もっと吸うべきなのです」

「いや、でも」

「兄様も、私を抱きしめてください。もっと強く。もっと、兄妹……いえ、姉妹にしか許されないくらい、ぎゅううっと」

 

 そう言いながら、百合は余計に腕に力を込めて……少し、震えている?

 

(もしかして、百合のやつ、ボクのために我慢してるんじゃ……)

 

 そうだよな。百合も年頃の女の子。

 いくら女性になったとはいえ、兄に抱きつくなんて嫌に決まってる。

 それなのに無理して、ボクのために――。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ……!」

「…………」

「にいさまにいさまにいさまにいさま、にいさまのかおり、にいさまのたいしゅう、にいさまにいさまにいさま、にいさまがねえさまになってもにいさまはゆりのにいさまです、すてきです、すばらしいにおいです、これがごうほうてきにかげるなんてやばいです、くにはきせいすべきです、とんでもないちゅうどくせいです、まいにちかがなきゃおかしくなりそうです、にいさまにいさまにいさま、わたしのにいさま、ゆりだけのにいさま、ぜったいはなしません、にいさまにいさまにいさま……」

 

 メチャクチャ早口で、意味を理解する前に通り過ぎていってしまうけれど、百合はなにか呟いていて……たぶん、嫌がってるとかそんなんじゃないってことは分かった。

 

 そしてなんとなくだけど、抱きしめ返すのは危険な気がする。

 

 ただ……こんな姿になってもボクは兄だ。妹を邪険にはできない。

 それができるなら、最初から昼寝する妹を部屋から蹴り出して、部屋に誰も入れないよう外から鍵を掛けてしまっているだろう。

 

「はぁ……」

「あ、兄様の溜息。すぅ~~~」

「吸うな」

 

 ボクの吐き捨てた幸せをしっかり補給していく妹。普通に汚くない?

 ……っていうか、いい加減止めないと!

 

「だから、仮に本当にボクが百合のにおいを嗅いで女の子になっちゃったなら、百合のにおいを嗅いだら余計女の子になっちゃうだろ!?」

「余計女の子になる……とは?」

「いや、分からんけど。……なんだろ、胸が大きくなるとか」

「それは皮肉ですか、兄様。私のおっぱいが元男性の兄様より小さいことへの皮肉ですか? 言っておきますが、私の胸は年相応、標準サイズです。兄様が普通じゃないんです」

「わ、悪かった! ごめん!」

 

 どうやら百合の逆鱗に触れる不用意な発言だったらしい。兄、反省。

 

「と……とにかくだ。何も分からない内に余計なことを試すのは良くないな、うん」

「そうですね。これ以上兄様のおっぱいが大きくなられると、わたしが女性としての自信を無くして逆に男性に性転換しちゃうかもですし……いえ、それは逆に有りなのでは?」

「無しだよ!?」

 

 子どもが二人とも性転換したとなっては父さんも母さんも驚くじゃ済まないだろう。百合はボクとは違ってせっかく名門女子校に入ったんだし……それをこんなことで棒に振るのは不憫すぎる。

 

「……まあ、そのことは後で考えましょう。話を戻すのですが」

「戻すって、どこまで?」

「兄様の転入先の話です」

「あ、わりとまともなところに戻った」

「えへん。頭なでなでしてくれても構いませんよ」

 

 その程度で胸を張らないでほしい。あと、この程度では褒めません。調子に乗るので。

 

「それで?」

「むぅ、焦らしますね、兄様。さすが、私のツボを分かってらっしゃる」

「ツッコまないぞ」

「……ポ」

「なぜ照れた!?」

 

 ついツッコんじゃったよ! 思考回路読めなすぎて!

 

「こほん。さて、改めて話を戻すのですが」

「戻すならちゃんと進めてくれ……」

「ですね。編入先の件、私に心当たりがあります」

「えっ、本当に!?」

「はい。兄様は確かに突然女性になられ、学校を転校しなければいけなくなりました。しかし、逆に考えれば、これはただの喪失ではなく、新たな可能性を手に入れたとも言えるのではないでしょうか」

「……というと?」

 

 微妙に回りくどいのはいつものこと。

 ここは大胆な複線ドリフトに移行しないようじっくり見守ろう。

 

「つまり……女子校に通う、という可能性です」

「……ん?」

 

 なんだか一気にきな臭くなってきたな?

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