異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

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万物総て躬に染まれ

 

 

 

 

 他の魔将の様に力がない私は、どんな手段でも使用する。例えそれが情けないと言われようとも、闇にふさわしくないと言われようとも。どんな手段を用いても勝てばいい、取り込めばいい。私にはそういう力がある。

 

 私はいつもの様にか弱い旅人を装い、目的だった地の近くにやってきて撤退していた所だ。

 

 目的地に到着して直ぐに私が魅了し虜にしたはずの邪神教の信徒共を見つける事が出来た。奴等は何故か町を離れ、こんな森の中でただひたすらに空に向かって祈りを捧げているのか、理解できなかった。

 

 魅了した信徒たちならば意のままに操る事が出来る、直ぐに当初の目的を果たそうと思った矢先、人間共は物理的にありえない体の動きで私を見つめていた。

 

 人間の事は知っている、だからこそあんな動きはあり得ない。

 

 首が360度以上回転し、祈る身体はそのままで私だけを見つめているのだ。闇の化身たる魔将の私が気圧される程には、それらは狂気に染まっていた。

 

 そいつらは口々に私に向かって言葉を放つ。

 

【邪魔者】

 

【新しい信者?】

 

【空を見ろ】

 

【裏を見ろ】

 

【さぁ、共に】

 

【祈りを捧げよ】

 

【祈りを捧げよ】

 

【かのいとし子に祈りを】

 

【惜しみなき賞賛を】

 

【永遠の隷属を】

 

【恒久の愛情を】 

 

【祈りを捧げよ】

 

【魔の者?】

 

【関係ない、あの方のいとし子を愛するのならば】

 

【それは全て同志である】

 

【ともに参ろう、裏の空へ】

 

 

 

 全員の首を魔術で叩き潰した。

 

 あれはすでに私が魅了した人間ではない、いや【人間】ですらない。あれはもう別のなにかに成り果てている。

 

 闇とは違う、全く異質の何かに、魔の存在である私が恐怖で有無を言わさず殺し切るほどに。

 

 だが―――

 

 悪夢とはこれを言うのだろう、これが悪夢ではなくて何だというのか。

 

 頭部を潰したはずの肉体は、崩れ落ちる事なく何ら変わらず祈りを捧げている。ぼこりぼこりとあふれ出した血が逆流し肉が蠢き、数瞬もせずに先ほどの様に戻った。

 

 目が、人間の目が青く、黒い、何かに変わっている以外は――

 

【敵か】

 

【敵である】

 

【魔将】

 

【我等が気づくまで我等を虜にしていたもの】

 

【愚かな】

 

【哀れな】

 

【たかが闇程度が】

 

【真に愛するものを見つけられずに】

 

【空の裏すら知らない愚か者】

 

【さぁ】

 

【さぁ】

 

【さぁ】     

 

【【【【【【【【【【ともにいとし子を愛そう】】】】】】】】】

 

 そう言って襲い掛かる元人間共を殺しつくすのにどれだけかかっただろうか。

 

 何の力もない筈の人間が、いくら最弱に近いとはいえ魔将である私を少しずつ削っていく。殺しても元に戻る人間だったものに恐怖し、何度でも殺し、殺し、殺し、殺し、諦めて逃げた。

 

 あれは違う。

 

 あれはこの世界にあっていいものではない。

 

 世界のルールが全く違う。

 

 今は逃げるしかない、逃げて少しでも回復させ、数を揃えて・・・あれらを殺し切れるのだろうか? 恐らくあれはただの信徒・・・私が扱っていた駒の様なものだ。

 

 その駒程度に私が逃げを打つしか出来ない存在に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げて逃げて逃げた先、漸く解放された私は地面に倒れ込んだ。

 

 どうやらもう追ってくる事はなさそうだった。

 

 ドクンドクンと鳴り続けている心臓が痛い。

 

 今は落ち着いて回復したら新しい駒を作るしかないだろう。私は疲れていた、どうしようもないほどに疲弊していた。だからあんな真似をしてしまったのだろう。

 

 ガサガサと何かが茂みを掻き分けここに近づいてくる。直ぐに逃げようとしたが、あの悍ましさは感じない。恐らくはただの動物か人間だろう、何にせよそれらを虜にして動くしかない。

 

 現れたのは人間の子供だった。

 

 そして同時に計り知れない恐怖を感じた。これはどんな手段を用いても取り込むか殺すしかないと。何の力も感じないような子供な筈、倒れている私を心配そうに触って生きているかを確認しているだけの幼子。

 

 直ぐに私は普段使わない魔術すら使い目の前の幼子を洗脳しようとした――

 

 何の効果もなかった。

 

 抵抗したとかそういう次元の話ではない、そもそもの時点で目の前のこれに魔術が通らない上に、魅了という力が通じていない。

 

 危険だ、この幼子は危険だ。

 

 もしかしなくても、あれらが言っていた【いとし子】とは。

 

 私が立ち上がったのをみてほっとしていた幼子はそのまま立ち去ろうとしていたが、これを生かしておく訳にはいかない。きっと必ず、これは我等闇の存在すらを侵すナニカになる。

 

 ほぼ使い切っていた力を用いて物理的に目の前の化け物を殺そうと魔力の刃を放つ。

 

 この幼子自体には何の力も感じない、寧ろ放置しておけば死にそうな儚さすら感じるが、だからといってこれを見逃すわけにはいかない。

 

 しかし――両断する筈の刃は何かに弾かれ、だが運よく幼子の片方の足を切断する事に成功した。

 

 予想通りというか、幼子は切られた事に何の反応も示さず、恐怖で怯える事も、泣き叫ぶ事もなく、きょとんとした表情で倒れた身体を動かしてこちらを見ている。止めを刺さなければ、どうやら意識を失い倒れたようだが、失血死を待つほど私は愚かではない。

 

 ――私はここで全力で逃げていれば・・・何か変わっていたのだろうか。

 

 

 それは現れた。

 

 同時に私の中で何かが塗りつぶされていく。

 

 自我、尊厳、個人、ありとあらゆる私という個が塗りつぶされていく。それを恐怖とすら感じさせず、寧ろ感動と喜びを感じていく。

 

 美しさという力を持っていた私の肉体が変わっていく。

 

 変わっていく

 

 変わっていく

 

 変わっていく

 

 意識がはっきりとしていく

 

 私はなんだ?

 

 私は魔将

 

 闇の化身であり

 

 フェルメライザ

 

 侵略者フェルメライザであり、闇の化身であり、魔将であり、我が同胞を護り、愛し、彼の敵を滅ぼすもの。

 

 裏の空は勝手にやっているようだが、このままでは同胞が余計な迷惑をこうむってしまう。あれは行いが過ぎる。そういう存在なのだから仕方ないが。

 

 あぁ、なんて恐ろしい。私はこの瞬間、【私】でありながら【フェルメライザ】の一部に成り果てた。

 

 見てはいけないもの

 

 存在を認知してはいけないもの

 

 あらゆるものの侵略者

 

 滅ぼし取り込むもの

 

 私はフェルメライザ。

 

 私を【見ても】個人を保つ、我等が同胞。 愛しき同胞。

 

 あぁ、私は・・・躬はなんてことをしてしまったのか。また同胞を無意味に傷つけてしまった。直ぐに癒し直していく。安心してほしい修繕は得意とする。

 

 躬が私だった頃は魅了の力しかなかったが、躬になった事で一部を手に入れた。さてどうするか。躬がついて行く訳には行かないだろう。何故ならそこで躬を殺そうとしている裏切り者であり、今は仲間である闇がいるのだから。

 

 躬を見ても【変わらなく】する方法は同胞を見て知った。

 

 成程、同胞は1人を選んだのか。だがそれはだめだ、また同じ道をたどってしまう。何らかの理由を付けて、結局は1人を選んでしまう。躬はそれが悲しい。

 

 だからこそリオネィルも敵対者も神殺しも、英雄も聖女も、何もかもが、度を越して同胞を守ろうとするのだ。躬も同じではあるが。

 

 すまぬな同胞よ。今世ばかりは汝の思い通りにはさせぬ。

 

 汝はこの世界でこそ、前世ですら得られなかった幸福の終わりを享受する必要があるのだ。たとえ先の永遠があろうとも、我等が永遠に見守ろうとも。

 

 永遠の闇よ、同志よ。同胞ではないものよ。我等の可愛い我儘娘を彼等に――

 

 

 

 

 

 さぁ、躬・・・いや、私は戻るか。その前にリオネィルの信徒共に話にいくか、やり過ぎぬようにと。下手すれば同胞が敵対者にまた認定されるぞ、と。

 

 あれは愛が過ぎる、母として重すぎる。

 

 躬の様に、一歩引いて同胞と認識する事をお勧めさせようか。

 

 

 あぁ・・・私はやはり逃げるべきだったのだ、変わっていく事を当たり前の様に認識し、だがそれが幸福であり、当然であり、躬であることにここまでの快楽を感じるのだから。

 

 闇よ

 

 この世界の始まりよ

 

 あなたは、関わるべきではない

 

 いいえ、関わって躬に加わるがいい

 

 愛しき、愛しき同胞の為に

 




【星の侵略者:フェルメライザ】
見ること能わず、見てしまえば全てを変えられる
染まれ、染まれ、総て染まれ。愛しき同胞の為に躬になるといい

星を取り込み続けた巨大な惑星は、初めて自身を見て
自身にならない存在を得た。愛しくか弱い同胞を。
それがフェルメライザを根本から変えてしまった事に、誰もが理解できなかった

たった一人の少女が何もせずに星を救ったなど、笑い話でしょう?


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