異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

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腐れ堕ちても、英雄だと認めてくれた少女が居た

 

 

 

 その日いつもの様に起きた俺とグレイハルトが1枚の紙きれを見て背中から冷水をかけられたような状態になった。

 

 たどたどしい文字で、慣れない文字列を綴ってあるそれは、俺達への別れの言葉だった。

 

―迷惑 かける 私長くいると 二人にも 迷惑かける だから、一人でいく

 

―大丈夫 おいしい ごはん 探すだけ いままで ありがと

 

―たいせつな 人達へ

 

 

 部屋には既にオイシミの姿は無く、最低限の着の身着のままで出て行ってしまったのだろう。昨日まではいつも通りだった筈だ。何故こんな事に。

 

 いや、考えている暇などない。

 

 あの子一人で旅など出来る訳がない。確かに力はある、俺達や邪神軍を遥かに超越した英雄すら霞んで見えてしまう様な力を持っている。

 

 だが、持っているだけだ。自らの意志で戦う事などあの子には出来ないのだ。自らを傷つけ、それを触媒として呼び出す存在達。敵は倒されるだろう、だが・・・その後はどうなる。あの子だけでは旅など出来ない。

 

 小さな少女の足では町を出たとしてもそんなに離れてはいない筈だ。

 

 何故、どうして、今更になって・・・俺達に嫌気がさした・・・いや、あのような手紙を残してくれた以上、オイシミはそうするべきだと判断したのだろう。

 

 紙には、あの子が流したのだろう涙の痕がいくつも残っていた。

 

 見た目通りの子供。何も知らない筈なのに、俺達が知らないような知識を持っていたり、時々癇癪の様なものを起こしてまとわりついてきたり、抱き着いてきたり、少しずつではあるが、仲良くやれていた・・・だからこそ、あの子が抱えている何かに気付く事が出来なかった。

 

 直ぐに町の人間に話を付けて町を出る。送別会をしたかったみたいだがそんな事をしている時間はない。

 

 一応グレイハルトがあの子の為に用意していた魔道具を使えば魔力を探知して直ぐに追いかける事が出来る筈だ。子供の足ならすぐに追いつける。

 

 いつでも出られるように準備だけは整えておいた。グレイハルトもこの際細かいものは町に譲る事にしたようだ。急いで町を出て行き、魔導水筒の魔力波を追う事にする。やはりというかなんというか、そこまで離れていないようだ、これならばすぐに追いつける―――

 

 そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見つけたらなんというか。怒る・・・いや、逆効果にしかなりそうにない。ちゃんと説得する。恐らくオイシミは、自分が長く滞在したから面倒な事になったと考えているのだろう。

 

 いやな事実だが、確かにあの子が街や都市に来た後暫くしないうちに面倒ごとが重なり続けていた。モンスターの襲撃、邪神軍の襲撃、行く先々でモンスターに襲われ、山賊にも出会い、正直ここまで戦いの毎日になるとは思っても居なかった。

 

 だが、今更だろう。今更なんだよオイシミ。

 

 だからといってお前を見捨てる程、置いて行くほど、俺達は・・・

 

 そう言った考え事をしながら進んでいた俺達の足を止める奴等が居た。

 

 初めは山賊かと思ったが、どうにも身に纏っている服装が目に悪そうな色のローブばかりだ。山賊と言うには派手すぎる。そしてこの姿は見た事がある。

 

 ほんの少し前に先ほど出て行った町で宗教論争やっていた、天使教とも邪神教とも違うもう一派だった筈だ。

 

 その総数はおよそ20人ほど。武器を携帯している様には見えないが、明らかに俺達の足を止める様に立っている。

 

 中には子供だろう存在もその不可思議なローブを身に着けていた。

 

「何の用だ? 俺達は急いでいる」

 

 俺の問いに奴等は誰一人として答えない。殺気などは感じないが、あからさまに此方に対し警戒を強めているのは確かだ。

 

 最悪気絶させて先に進もうかと考えた矢先、周囲に怖気の走る魔力が溢れ始めた。俺もグレイハルトも直ぐに異変に気付きそこから離れようとするが、それよりも早く、魔力は虹色の空間となって俺達を閉じ込めている。

 

 試しに結界になったそれを触ってみるがどうやら力づくでは破壊出来そうにないようだ。かなり強力な結界魔術だろうが、こんな術式は見た事がない。

 

 これだけの強力な魔術結界をこのスピードで張れる人間など、最前線の魔術師にも早々いないだろう。

 

 何故奴等が俺達をこの場に留めたのか・・・いつでも剣を振れる様に意識を切り替える。この時点ですら奴等の誰にも俺達に対する敵意も害意も感じる事はない。恐らくは敵ではないようだが、だが、味方でもない事だけは確かだろうか。

 

 グレイハルトに目配せし、最悪は全員切り捨てる覚悟を宿す。

 

 何の目的かは分からないが、こうしている間にもオイシミは1人になろうとしている。あの子を一人にしてはいけない。死んだあいつと約束したし、あの子は俺みたいな半端者を、たった一度だけだが、「英雄」だと言ってくれたのだから。

 

「何のつもりかしらねぇが、これ以上は・・・」

 

『貴方達には我等が姫の傍に立つ、護る、覚悟はありますか?』

 

 恐らくは指導者だろうか、ひと際目立つローブを纏った宗教家が此方に歩いてくる。そして歩きながら頭部のフードを剥ぎ取った。

 

「・・・何のつもりだ、お前――」

 

『あの方のいとし子を、護る権利が、強さが、覚悟があるか、見せてもらいましょう』

 

 あの時、最初にオイシミと出会った時にグレイハルトの乗合馬車に乗っていた、魔術師の女性が、人とは思えない声色と魔力を放出させて、此方を睨みつけていた。

 

 

 

 

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