異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

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腐れ堕ちても、英雄だと認めてくれた少女が居た2

 

 

 

 言うが早いか魔術師が言葉を紡ぐ、魔術は確かに強いが発動するまでに僅かな時間がある以上、ここから突き進めば魔術が発動する前に制圧も可能だ。

 

 義足に魔力を込め大地を蹴る。既に慣れた物だ。大地が魔力と義足の重さによって抉れ、衝撃が全身を駆け抜ける。同時に感じる接続部の激痛など痛みにすらならない。

 

 大剣を振りかぶり斬り殺す勢いで上段から叩き込もうとした瞬間、腹部に痛みが走り横っ飛びに吹き飛ばされた。

 

 直ぐに制御し情けない格好ではあるが倒れずに立ち上がるが、そこめがけて幾つもの青い光が襲い掛かって来た。

 

 あれを全部は防ぎ切れないと瞬時に判断し、致命傷になるだろう光の一撃を剣で受け止め、返す刃で受け流し、残りは容赦なく俺の肉体を貫いて行く。

 

 許容できるダメージを超えた肉体が軋み、血を吐くがまだ問題なく戦える。直ぐに回復の魔術を継続的に発動させ攻撃された方を見るが・・・

 

「おいおい、冗談だろう」

 

 子供が居た。同じようなローブを纏う姿は幼さを感じさせない。両手に変わった形の短剣を握り、死んだような表情で此方を見ている。

 

 すぐ後ろで息を飲む音が聞こえた。

 

 グレイハルトが後ろで戦闘準備を整えていたのだろうが、信じられないという顔でその子供を見つめているようだ。

 

「知ってる奴か?」

 

「つい先日、オイシミに食べ物が美味しい屋台を教えていた子ですよ」

 

 確かオイシミがあの町で楽しい子が居たと喜んでいたのを思い出す。

 

 この様子では、昨日今日こうなったとは考えづらい、まるで昔からオイシミを知っていて関わってきたという事か。宗教の偶像として扱われてるとは聞いた事もないが。恐らくオイシミ自身知らないだろう。

 

 あの女はオイシミを【いとし子】【姫】と呼んでいた。

 

 前者に聞き覚えはないが、姫の方は何度か聞いた事がある。可能性として高いのはいくつかあるが、今はそれを考えている余裕はない。

 

 覚悟を試すとか言っていた以上、俺達がオイシミを護れるかどうかを見極めたいといった所だろうか。ならば――

 

 魔力を解放させ全身を包む。肉体が軋み、視覚が一気に広がる吐き気と怖気を感じながら、再び駆ける。

 

 狙うはリーダーだろうあの女魔術師、手加減などする余裕はない。後ろはグレイハルトに任せ、殺すつもりで大剣を叩きつける。

 

 振り下ろされた一撃を全力で回避する魔術師、どうやらオイシミが呼ぶような理不尽な存在でも、その辺りのモンスターとも違うようだ。攻撃が入れば倒すか殺せると言った所だろう。

 

 覚悟を―と言っていたな?

 

「しているに決まってるだろうが――」

 

 叩きつけた大剣を持ち上げ、手首と腕の力だけで鋼鉄の塊とも言える大剣を横薙ぎに払う、攻撃は回避され地面を削る音が鳴るが、それだけで終わる訳がない。

 

 魔術で強化された肉体は普段以上の筋力とスタミナを俺に付与する。おたけびを上げながらそこからさらに持ち上げ全力で斬り下ろした。

 

 逃げ遅れた魔術師の右手を切断する。

 

 殺る事は出来なかったが、かなりのダメージは与えられただろう。そもそも殺すつもりもなかったが。

 

 女魔術師は吹き飛び切断された部分から血が溢れる事に恐怖も発狂もせず、たんたんと魔術を唱え、先端部分を焼き焦がした。あれならもう血は流れないだろうが力技過ぎる。

 

 後ろで聞こえていた音もどうやら止まったようで、気配からしてグレイハルトが子供を押さえつけていた。

 

 他の信者たちは全く動かずにこちらを見ているのみ。全員で襲われたら流石に数の問題でやられている可能性が高かったが、覚悟を見るというのはどうやら事実だったようだ。

 

 目の前の魔術師、初めに見た時はこんなに超然としている様子はなかった。どちらかと言えば俗っぽい感じの普通の魔術師であったし、オイシミが呼び出した存在に対しても崇拝の念などは無く、恐怖で止まっていたのを思い出す。

 

 あれが演技だとすれば凄まじい技術だろうが、色々と解せない所は多い。

 

 そもそも、俺達はオイシミと出会う前から色々な場所を巡ってきたが、天使教と邪神教はあれど、【天廻りの使徒達】なんて宗教はあの町で初めて見たほどだ。

 

 あれだけ大々的に動いているならそこかしこに信者がいる筈、ここで出来た新興宗教と言う訳でもない。ならば可能性として残っているのは・・・オイシミが呼び出した何かに魅了された存在・・・か?

 

 目の前にいる前の時とは全てが違う魔術師の女の様に。

 

「で? 覚悟ってのはどうだったかね?」 

 

 動く事もせずこちらを見ているその女の目は、暗く澱んでいながら、青空の様な色を讃えている。

 

 少なくとももう純正な人間ではないのかもしれんな。

 

【結構。最低限は力を持っている様子。そちらは合格です】

 

「そりゃあどうも」

 

【あの方のいとし子は、最後まで誰かの為に動き、最後は誰かの為に果てる運命を持っています】

 

 鈴が鳴る様な声で女はうんたらかんたら話し続けていく。

 

 大体が俺でも知ってるような事だ。世俗に興味がなく、どこまでも自由で、どこまでも優しく、誰かのために、誰かのために、自らを傷つけて迄、自分の事には無頓着で、誰かは自分にとって助ける存在なのに、自分自身はその枠には入っていない。

 

 傍で見てきたんだよ。少なくとも、ここでいとし子云々と意味の分からん宗教やっているお前等よりもな。

 

 覚悟ならとっくの昔に出来ている。

 

 あいつが呼んでくれたような素晴らしい英雄にはなれないかもしれないが。

 

 ならばせめて、あいつだけを護る小さな英雄になってやろうじゃねぇか。分相応ってのがあるんだ。俺とグレイハルトでは、世界の大英雄になんかなれないがな。

 

 

 

 

 

 それを伝え、ここから出せ――と言おうとした矢先、そこはすでに結界もなにもないただの街道で、周りには誰も居なかった。

 

 グレイハルトが抑えていただろう子供もいつの間にか消え、ただ夢ではなかったようで、あの女が居た先には、巨大な大剣が突き刺さっていた

 

 まるで俺に使えとでも言っているかのように。

 

 あいつらの思惑通りに動かされている気はするが関係ない。直ぐにオイシミを探しに行かねば。あんな奴等に捕まってみろ、碌な事がないだろう。

 

 待っていろ、オイシミ。

 

 子供の癇癪はわらって許すのが大人なんだよ。

 

 

 




【邪竜殺しのグレートソード】
凄まじい重さのグレートソード。
その歴史ゆえに竜に対し絶大な効果を持つ。

英雄になれなかった男が、小さな少女を護る為に振るった大剣。
何も守れなかった男が初めて、竜から少女を救えたのだ。

  
 
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