異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

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終わりが近づいている世界で

 

 

 

 世界が昏く澱んでいくのが分かる。

 

 あらゆる所で血が噴き出し、肉が弾け、誰かがしに、誰かが壊れ、何かが生まれ、そして消えていく。

 

 幼い頃には考えもしなかった想いがよぎる。

 

 どうして俺を産んだのか

 

 こんな地獄にどうして産み落としてくれたのか

 

 今はもういない、優しかった父と母にそう叫びたくなるほどには、今の世界に希望が見えない。

 

 邪神軍は世界を壊し続けている。世界の4割は奴等に奪われてしまった。だがまだ6割は人間が堪えている。沢山の英雄や、邪神を討伐するだろう勇者もいる。

 

 民はそれを信じ、今を必死に生きている。

 

 そんな分かりやすい嘘もばれない程に、世界はどうしようもなくなってきている。それだけではない。日々、世界に絶望した者達が、奪う存在になり、堕ちて窶れになり、モンスターは活発化し、天候は日々荒れ狂い始めている。

 

 邪神は居るのに、どうして我等には神が居ないのだろうか、そう嘆いてしまいそうになるくらい、我々人類は窮地に追いやられている。

 

 4割なんて話ではない、既に魔術都市は半壊し、最前線はじりじりと押され、英雄達は毎日の様に死に絶え、勇者の姿も見えない。

 

 あちこちで散発的に行われている虐殺、世の中に絶望し好き勝手にやっている山賊や海賊たち。このような状況でも自分の権力と安全のみに力と金を注ぐ元英雄と呼ばれた老害達。

 

 緩やかに、だが確実に、世界は終わりに近づいている。

 

 いや、違う。世界はこのままあるのだろう。闇に染まったとしても世界はある。ただ、我々人の世界が、時代が終わりを告げるのだ。

 

 その様な状況ですら、我等人間は、お互いに力を合わせる事も出来ず・・・こうなるのは当然の帰結だろう。

 

 私も数ある英雄の一人ではあるが、もう既にこの悲惨な状況に心が折れかけている。仲間達は死に、壊れ、窶れ、援軍はほぼやってこず、協力を頼んでも彼等は自分達を護る事しか考えておらず、最低限の支援しかしない。

 

 食料と物資、最低限の育ってもいない兵士を寄こされてもただ奴等に殺されていくだけなのも理解していないのだろうか。いや・・・もう、自分達だけ安全ならそれでいいのだろう。

 

 そんな下郎の為だけに、命を懸けて死んでいく戦士たちのなんと哀れな事か。それを考えれば邪神軍の方がまだ統制が整っている。これでは何方がまっとうなのか。

 

 ここに残っている兵士はあと2000人。

 

 うち英雄は私を含めて10人。

 

 勇者は居ない。

 

 ここが破られれば魔術都市に奴等は流れ込むだろう。そしてそれはあと数年もしないうちに確定するだろう。このままならば。

 

 既に兵士たちの士気は殆どなく、英雄達も大半が半死半生。その内の一人はもう既に心が壊れかけている。窶れになる前に処分しなくてはならないだろう・・・また一人、英雄が無意味に散っていく。

 

 ここを護った所で・・・等という考えがよぎる。私も少しずつ窶れに変わりかけているのだろうか。いや、違う。もうここを護る意義を感じられないのだ。

 

 私達は何のために――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術都市が半壊したらしい。

 

 この最前線以外からの襲撃で、モンスター達の集団が攻めてきたそうだ。そして目を疑う様な情報が入ってきた。

 

 彼等は・・・いや、奴等は民を見捨て自分達だけを護る事を選んだそうだ。そして、モンスター達はその守りに入った貴族や元英雄達だけを狙い撃ちにし、多くの大魔導士や貴族たちを殺しまわり、最後には壊滅したらしい。

 

 膝から崩れ落ちそうになった。

 

 魔術都市は世界の要。貴族は、魔導士は、力のない民の為に立つ。そんなお題目すら既に風化していたのだから。聞けば聞く程、何かしらの手が回った様な襲撃方法だが、もはやどうでもいい。

 

 家族の為に戦い死んだ兵士が、世界の為とその身を砕いた英雄が、今もなお戦い続ける我等が守っていたものは、何だったのだろう。

 

 いや、民は変わらず護り続けなくてはならない物だ。だが・・・これはあまりにも、あまりにもひどすぎるではないか。

 

 世界が、いや、あまりにも人間という種族が、加速度的に壊れかけている気がする。最早我々に義すらないのだろう。既にここを護り続けるのも難しくなってきた。これ以上は守り切る事は出来ず、押しつぶされて終わるだろう。

 

 ならばどうするか・・・すでに魔術都市に対する信頼は消えた。今も尚、いつ来るか分からないモンスターの恐怖に怯え結界を張り続け出てこないという愚か者たちを護る義理などない。ならば、ここを護る理由もない。

 

 私達は、私達が護りたい存在だけを護る事にしよう。

 

 私は生き残っている残りの兵士たちに問う。

 

 答えは全員同じだった。

 

 最早人間が生き延びる可能性はほぼない。ならば最後の最後は、大切な誰かの傍に。そしてその誰かを最後まで護り・・・ともに。

 

 こうしてまた一つ、世界は闇に飲まれていく。

 

 だが私はもう後悔していない。

 

 後悔などするはずがない。

 

 私達はすでに、絶望しているのだから。

 

 後悔なんてすでに通り過ぎているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後で聞いた話だが・・・魔術都市は、あれから1年持たずに滅んだという―――

 

 




【愚か者の王冠】
装備者の魔力を大きく増加させるが
魔力消費が通常の2倍になる。

最後まで彼等は傲慢であり続けた
殺される直前に使命を思い出したが、すでに遅かった。
それが愚かでなくてなんだというのだ
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